皮膚と化粧品~ナノ粒子の安全性と表示問題~

投稿者: | 2006年7月5日

第12回講座 ナノテク化粧品は安全か?
2006年7月22日(土) 於:アカデミー茗台学習室
発表者:ナノテクリスクプロジェクトメンバー 
上田昌文(市民科学研究室)
■ナノ化粧品の何が問題か
 ナノ化粧品の生体影響をみる際に検討すべきこととして次の5点が挙げられるだろう。
1)ナノ粒子が皮膚自体を痛めることはないのか。
2)バリアである皮膚を通過して体内に浸透することはないのか。
3)これまでの毒性試験によって懸念すべき結果がナノ化粧品について検出された事例はあるか(これまでの毒性試験の限界や欠陥をふまえたうえで)。
4)これまでの毒性試験ではナノ粒子の影響は検出できないのではないか。
5)現状で影響が不確定である場合に、情報公開(表示)をはじめとする対策やリスク研究をどうすすめるべきか。
 以上はいずれも現在研究中で確定的な結果が得られていないか、明確な対応指針が打ち出されていないかであることを、初めに確認しておきたい。
■バリアゾーンとしての皮膚
 化粧品の人体影響を大きく関係するのが、バリアとしての皮膚の働きだ。皮膚は人体最大の臓器であり(大きさは1.6m2(畳約1畳)、厚さ1.5~4mm、重さ約3kg)、体を守るバリアとしての働きは多彩である(水分の保持(主に角質層)、有害物質やウイルスやバクテリアへの防壁(主に角質層)、免疫システムに関連した生体防御(表皮細胞はサイトカインなどの細胞間情報伝達物質も随時合成して対応)など)。また体温調節(発汗、血流調整)やセンサー(触感、温感、痛みなどを感じる神経末端装置)としての重要な働きもある。わずか100分の2~3mm程度(ラップを2枚重ねたくらい)の角質層には、その中に角質細胞間脂質(スフィンゴ脂質=セラミド)が水をサンドイッチしてできた平たい層が15~20層ぐらい存在し(ラメラ構造)、これが皮膚の構造的な支えとなっている。皮膚表面の皮脂とこのスフィンゴ脂質、そして角質層のすぐ下にあって大量の脂質分を含む顆粒層が、皮膚の壁となるバリアゾーンを形成している。皮膚は、外側から表皮、真皮、皮下組織の3つに分けられる。
★表皮……新しい細胞が古い細胞を表面に押し上げるようにして常に新陳代謝(ターンオーバー)を繰り返している。厚さはほんの0.1~0.3mm程度。表皮細胞(ケラチノサイト)、メラニンを作る色素細胞(メラノサイト)、アレルギーに関係するランゲルハンス細胞の3つの細胞がぎっしり詰まっている。表皮はさらに、外側から角質層(角層)、顆粒層、有棘層、基底層の4つに分けられる。
★角質層……表皮細胞が角化して死んだ細胞が15~20層に重なったもの。ほぼ2週間で「垢」としてはがれ落ちる。角質層の上を覆うのが皮脂膜で、毛孔にある皮脂腺から分泌される皮脂と汗が混じり合った天然のクリームとなって、角質層のバリア機能を助けている(毛のない手のひらや足の裏には皮脂腺がないため、手が荒れたり乾燥しやすい)。
★真皮……厚さは約2~3mm程度で表皮の約10倍の厚みがある。コラーゲン(鉄骨のように組織の形を保つ線維)と、エラスチン(ゴムのように弾性を与える線維)とでできている。その隙間を水分をたっぷりと含んだヒアルロン酸などのムコ多糖類が埋めて、肌の張りや弾力を与えている。
★皮下組織……皮下脂肪などを含む。体を守るクッションや体温を維持する役目を果たす。
■経皮吸収の問題
 皮膚表面上の物質がこの角質層を経て真皮の中に張り巡らされている毛細血管に入ったり皮下組織に浸透したりするのが経皮吸収だが、私たちはたとえば虫刺され薬を肌に塗ることなどでそれを日常的に経験している。経皮吸収される物質は、分子量が小さいこと(一般に分子量が500以上の物質は通さないといわれている)と脂溶性(脂肪に溶けやすいこと)が条件となる。そこで軟膏や化粧品などでは、分子量の小さな有効成分を界面活性剤や乳化剤と混ぜ合わせることで経皮性をもたせることになる。その場合、有効成分は基本的に皮膚の細胞と細胞の間の隙間を通って浸透するが、その細胞間の間隙は40~60nm(健康な肌の場合)ぐらいである。化粧品で用いるナノカプセルはちょうどこの程度の大きさである。また、酸化チタン・酸化亜鉛の透過性が問題になるのも、ナノテクノロジーでその粒子のサイズを50nmどころか5nmにさえもできるようになったからだ。
■界面活性剤の有害性の問題
 乳液やクリームには乳化するために、化粧水には香料や油や薬品などを溶かしこむために、ファンデーション類には粉末を均一に分散させるために、それぞれの目的に合った合成界面活性剤(乳化剤)が利用されている。合成界面活性剤は、これまでも皮膚へのダメージ(手荒れ・湿疹・かぶれ他)、種々のたんぱく質の変成作用、体内に吸収された場合の肝臓障害、発ガン、赤血球の破壊などをもたらす恐れがあると、その危険性が指摘されてきた(一般的に界面活性剤の刺激は、リンスに使われる陽イオン系界面活性剤が一番大きく、次にシャンプーに使われる陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤そして非イオン界面活性剤の順に弱くなる)。
 シャンプーやリンスに使われる界面活性剤は洗い流すのが前提だが、クリームは洗い流さずにつけておくため安全性がより問題となる。通常の乳化したオイル粒子の大きさは1~10μm(1000nm~10000nm)だが、これをナノサイズにすると透明感とサラサラ感が増す。しかし、乳化するためのオイルの粒子が小さくなればなるほど、粒子の表面積は増えるためそのぶん乳化剤(界面活性剤)が必要となる。配合するナノ化オイルの量によっては、シャンプーやクレンジング剤と同じくらい合成界面活性剤の濃度が高いものもある。
■コーティングの問題
 酸化チタンや酸化亜鉛は紫外線が当たると吸収して表面に電子が生成する性質を持ち、出来た電子を周りの酸素に与えて活性酸素に、水やアルコールからは逆に電子を奪ってフリーラジカルという反応性の高い物質に変化させる。酸化チタンの表面についた物質は酸化されてどんどん別な物質に変化する(工業的にはこの性質を利用して”光触媒”として難分解性の物質を分解させるのに使用する)。皮膚の表面でこうした反応性の高い状態が生じては危険なので(活性酸素は発ガンとも深い関係がある)、化粧品ではこれを避けるために、酸化チタンの表面をコーティングして活性酸素の生成を抑えることが重要となる。しかし、ナノ化粧品の安全性にとって見逃せない要素であるはずのこのコーティング技術は、現在のところかなり高度な技術であるため、メーカーによって出来不出来の差が出るともいわれている。安全性確認の方法が確立していないだけに気がかりだ。
■化粧品がみたすべき条件とは
 そもそも化粧品は、第一に「連用しても安全」でなければならないし、第二に「連用して皮膚にメリットがある」ことが必要だ。そのために製品は、安全性を確認するに足る適正なチェックを経なければならないし、効用の確認ができる適切な情報が提示されることも必要だ。消費者が製品を購入するために参照する「表示」はそのためのものでなければならない。
 化粧品は、薬事法において「医薬品」とも「医薬部外品」とも違う類別になっている。医薬品は臨床試験を経て市場に出るが、化粧品と医薬部外品はそうではない。ではその2つはどう違うか?囲みにみるような定義ではあるものの、調べた限りではその境界線は曖昧だ。しかしいったん「医薬部外品」の認可をとれば、表示の点では「化粧品」と大きく異なることになる。すなわち、化粧品では全成分表示が義務づけられているのに対して、医薬部外品では、全成分表示の義務づけはなく、「表示指定成分」の表示のみでよい(「表示指定成分」とは、「肌に刺激を与える可能性がある」成分102種のこと)。ただし、2006年4月より業界の自主的対応で医薬部外品も全成分表示が始まることになった。2年後には全成分表示にすべて切り替わる予定となっている。
【化粧品】人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの。
【医薬部外品】次の各号に掲げることが目的とされており、かつ、人体に対する作用が緩和なものであって器具器械でないもの及びこれらに準ずる物で厚生労働大臣の指定するものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、前項(医薬品の定義)第二号又は第三号に規定する用途に使用されることもあわせて目的とされている物を除く。
1.吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止
2.あせも、ただれ等の防止
3.脱毛の防止、育毛又は除毛
4.人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみ等駆除又は防止
■全成分表示であればよいのか?
 では、「全成分表示」でありさえすれば問題はないかというと、じつはそうではない。その事情を知るには、化粧品規制緩和と薬事法改正(2001年4月)を振り返る必要がある。
 厚生省(当時)が化粧品の規制緩和を打ち出したのは1998年の「今後の化粧品規制の在り方について」においてだった。それによれば、「化粧品は人体に対する作用が穏やかで、最近では重大な健康被害をもたらすおそれが少ない」ことをふまえて、「企業の自己責任を前提として欧米との規制制度の調和(ハーモナイゼーション)を実現する」ためと説明している。薬事法の改正点は、次のとおりである。
(1)化粧品の製造・輸入にあたり必要であった品目毎の承認・許可制が廃止され、届け出制となった。
(2)化粧品原料については配合してよい成分を規定した種別許可制度から、ネガティブリスト(配合禁止及び制限成分)・ポジティブリスト(防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素について使用可能な成分とその上限)方式に変更され、それ以外の成分の選択と配合量はメーカーの自由となった。
(3)法律により定められた成分のみを表示する方式に代わり、製品に配合された全成分を表示する全成分表示が義務付けられた。
 だが、これには問題点がいくつかある。
 第一に、現在は化粧品に入っている成分すべてを、パッケージなどに記載する。配合量の多い順に全ての成分が書いてある(従来は化粧品の成分を消費者に公開しなくてよく、「表示指定成分」のみをパッケージに記載していた)。しかし例外があり、認定された企業秘密製品と香料成分、原料を品質を保つための極微量の成分は表示しなくてよいことになっている。
 第二に、「ネガティブリスト」以外は企業責任で何でも使ってよいことになった。改正前は、「配合してもいいリスト」を定め、そのリストにない成分の配合に際し、安全性テスト(動物実験)のデータの提出が求められていた。しかし改正後は、ネガティブリストの成分を含まない限り、新規成分を含めて承認許可が不要となった。
 第三に、品質基準の廃止で、成分の品質が必ずしも保証されない可能性がある。
 第四に、「キャリーオーバー成分」(原料を守る防腐剤や酸化防止剤など)はパッケージに表示しなくてもよい(ただし、「商品全体の防腐のために」加えられた場合は表示が義務となる)。
 第五に、「成分」になる前の原料に何が行われているかは、企業秘密がからむこともあり、法改正後も公開されていない(例えば原料臭を消したり、良い香りをつけたりする香料)。たとえば、「ナノ化」をうたっていても実際のところどうなっているかは確認できない。
■求められる「ナノ表示」
 ナノ粒子は、法律上では、「リスト」に載っている成分ではないし、しかも、原料メーカーに属する情報でもあるため、安全性確認は「企業の自己責任」に委ねられることになるし、表示の義務はない。しかし、これで本当によいのか?消費者への適切な対応と言えるのか?「ナノ」の効用を謳っている製品(たとえばコーセー)でも何がそれに相当するのかを明示していないか、使用しているけれどそのことに一切言及していない(たとえば資生堂)かがほとんどである。安全性への確認が十分とは言えない段階ですでに市場に出回っている以上、最低限消費者に「どのようなナノテクノロジーを使っているのか、どのようなナノ粒子を使っているのか」を表示する必要があるだろう。
 筆者(上田)は、この必要を痛感し、日本消費者連盟発行の『消費者リポート』1343号(2006年9月17日)に「ナノテク化粧品は安全か?」という論説を書いた。それも一つの契機となり、日本消費者連盟は経済産業省と厚生労働省にナノテクの安全性についての質問状を出した(流通しているナノテク商品を具体的に把握しているかどうか、安全性が未確立であるナノテク商品の市場からの引き上げ要請、ナノ表示の義務化もしくは行政指導を考えているかどうか)。また、日本化粧品工業連合会に対しても安全性評価をどう行っているか、表示義務はないとはいえ消費者の知る権利に配慮した対応(表示)を行う予定はないのか、などを問う質問状を送った(『消費者リポート』1345号より)。
 その回答を注視し、今後も必要な対策を考え、メーカーや行政にその実施を求めていきたいと思う。

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