ナノテク化粧品とは何か? どこが問題なのか?

投稿者: | 2006年7月5日

第12回講座 ナノテク化粧品は安全か?
2006年7月22日(土) 於:アカデミー茗台学習室
発表者:ナノテクリスクプロジェクトメンバー
白石靖
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■ナノテク製品の普及
 最近、ナノテク化粧品という言葉をよく耳にするようになった。そのナノテクとはいったい何であろうか。ナノ(nano)とは、単位につける接頭語で10-9を意味する。この場合はナノメートル(nm)のことで、10-8~10-9m(10~100nm)のサイズの微小な物質を扱う技術を総称して、ナノテクノロジー(以下、ナノテク)と呼んでいる。ナノテクには、ナノサイズの微小粒子(ナノ粒子)を取り扱う技術や、物質の表面にナノサイズの加工を行うような技術があり、いずれも、ナノサイズ特有の性質や機能を得ることを目的とした最先端技術である。
 ナノ粒子がどのくらい小さいかというと、それはもう人間の感覚を越えてしまい、実感するのは難しい。例えば、地球をサッカーボール程度まで小さくするとする。同じ比率でサッカーボールを小さくすると、ちょうどナノ粒子と同じくらいの大きさ(小ささ)になる。それはウィルス(50nm)と同じくらいで、DNAの直径(2nm)よりも大きく、バクテリア(500nm=0.5μm)よりも小さい。人間の赤血球が直径9000nm(=9μm)程度であるから、とにかく小さいということはよくわかる。電子顕微鏡でも、かなり高性能のものでないとその姿をはっきりと捉えることはできない。
 ナノテクは、その言葉が生まれてからしばらくは大学の研究室などで用いられる言葉であったが、最近では、かなり身近な製品に使われるようになってきた。最近注目されるのはナノ粒子を利用した製品である。代表的なナノ粒子にフラーレンというカーボン(炭素)原子
が60個集まってできたサーカーボール状の分子がある。それがゴルフクラブやテニスラケットなどに用いられるようになってきた。使われる量はごくわずかであるが、シャフトなどに使われているカーボン繊維に添加すると、繊維同士の引き合う力が強まり、剛性が増すことによって高反発が生まれるのだそうだ。ボウリングのボールにも使われている。こちらは、表面の素材に添加することにより、レーン表面の油に影響されず、安定した曲がりとコントロール性能を発揮するのだそうだ。
■ナノテク化粧品とは
 ナノテク製品がいろいろ開発されているが、まだそれほど世の中に普及してきたとは言いがたい。そのような中で、唯一、急速に普及しつつあるのがナノ粒子を使った「ナノテク化粧品」ではないだろうか。もちろん、ナノテクを謳わないメーカーも多いが、大手メーカーも含めて、かなり幅広くナノ粒子が使われているようだ。ナノテク化粧品は、使われるナノ粒子の種類によって大きく二つに分けることができる。まずは、美容成分である有機成分(油分)をナノサイズ化やナノ加工した美容液などである。もうひとつが無機成分をナノサイズ化やナノ加工した日焼け止めやファンデーションなどである。
 有機成分のナノサイズ化には、高圧乳化という技術が用いられる。有機成分が細かい管を超高圧で通過する際に強い衝撃を受けることにより微細化する。これにより成分粒子を30~100nmの範囲で制御することが可能となる。人間の肌の細胞と細胞の間には約250nmの隙間があり、ナノサイズ化した美容成分がその隙間を通り抜けできるようになる。そのため、美容成分が皮膚の奥まで浸透しやすくなる。ナノテクを謳い、インターネットなどで販売されている美容液の多くがこのタイプのようである。
 有機成分をナノサイズのカプセルに閉じ込めるという高度な技術が用いられている化粧品もある。リン脂質などで作られたナノサイズのカプセルに有効成分を配合すると、時間と共にリン脂質が肌になじんでいき、少しずつ有効成分がしみ出る(タイム・アンド・デリバリー・システム)。それにより、美肌効果を長く維持することができる。このようなナノカプセルを用いれば、空気に触れると破壊される成分でも安定した形で配合できる。コーセーの「ルティーナ」や「ナノホワイト・ナノフォース」、ホソカワミクロン化粧品の「ナノクリスフェア」などが、このナノカプセルの技術を使っている。詳しくは、各メーカーのホームページ(HP)を参照されたい。ちなみに、ここで紹介する商品は過去2年ほどの間に発売されたものであるが、大手メーカーでは年に3回も新製品が発売されるように商品の移り変わりが速いため、すでに販売されていなかったり、販売されていてもHPに掲載されていなかったりする場合も多いので、ご了承いただきたい。
■日焼け止めなどに使われるナノ粒子
 今まで紹介してきたような有機成分をナノ化した場合は、最終的には溶けて皮膚に浸透していくため、安全性については従来の大きなサイズの場合と大差ないと考えられる。最近問題になっているのは、皮膚上で溶けることのない無機成分の場合である。無機成分をナノ化やナノ加工・コーティングすることにより、光の反射をコントロールでき、また混合の困難な材料でもナノレベルでの組み合わせが可能になることから、かなり広く普及していると考えられる。ただし、技術内容をHPなどで公表していないメーカーも多く、普及の度合いについての情報がほとんどないのが現状である。
 最初に、化粧品に用いられるナノ原料の定義を明確にしておく必要がある。日本化粧品工業連合会が2005年に公表した「ナノ粒子を使用した化粧品の安全性評価システムに関する調査」報告書(以下、粧工連報告書※1)では、「一般的な化粧品基材(水、油分、アルコール界面活性剤等)に溶解せず、製剤中に非溶解状態で配合されているもので、一次粒系の平均の大きさが100nm以下のもの」と定義している。粧工連報告書によると、ナノ原料の種類としては、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ系、酸化鉄、白金、酸化ジルコニウム、カーボンブラックなどの無機成分が中心である。その他、ナイロン繊維、ビタミン類、水添レシチンなどの難溶性成分を意図的に微粉末化した有機成分も含まれるようであるが、その実例が不明のため、ここでは取り上げない。
 ナノ粒子を用いる効果として、化粧品メーカーのHPにはさまざまな謳い文句が並んでいる。それによると、光の干渉作用や拡散作用などの「仕上がり」をコントロールすることにより、彩度の向上、質感の調整、凹凸隠蔽性などの効果が得られる。紫外線はカットするが可視光には透明であり、光の乱反射を防いで透明感が高まる。また感触も滑らかになり、つけ心地が向上するようである。
■ナノテク化粧品の実例
 次に実際の商品をいくつか紹介する。まずは日焼け止めであるが、単なるナノサイズ化だけでなく、紫外線散乱材を肌の上で広がりやすい構造に変えたり、立体的に配置したりするなど、さまざまな工夫がなされている。「ナノ」を商品名にしたコーセーの「ナノウェア」は、HPのよると、「ナノサイズのUVカット粉体を使用し、肌への伸びもよく細かなキメにもしなやかにフィット。密着性よく、汗にも皮脂にも崩れにくい薄い薄い透明ヴェールで、紫外線を強力にカットし続ける。」とある。
 また、花王の「ソフィーナライズUVカットミルク」は、「UV-Aをカットする酸化亜鉛を、柔らかい透明球状ポリマーの中に立体的に配合した3D-UVカットポリマーにより、サラサラの使用感と透明度を実現しているのにもかかわらず、高いUVカット効果が得られる。」カネボウ化粧品の「アリィーEXカット」は、「成分が散逸しやすい超微粒子酸化チタン素材とより小さな『超微粒子ナノバリアパウダー』を組み合わせて製品化。(ナノシールド処方)透明なのに水や汗に濡れても強力な紫外線カット機能を保持。」粒子の表面をナノ加工した化粧品としては、資生堂「アネッサネオサンスクーンEX」などがあり、「日焼け止め効果のある酸化亜鉛をナノテクで花びらのような形に結晶化。肌の上で均一になめらかに広がり、高い透明度が得られる。」とある。
 次に、メーキャップ化粧品であるが、今まで組み合わせるのが難しかった素材をナノレベルで組み合わせた化粧品として、コーセーの「ルティーナライトオンパクトSF」があげられる。「透明度が高く、UV効果は高いが、キシキシしたり、白浮きしたりしやすいという欠点をもつ酸化チタンと、安定性が高く、肌に柔らかくなじむシリコンを、ナノレベルで均一に複合化した『スーパーモレキュラーハイブリットパウダー』を配合。このパウダーはたくさん穴が開いたような構造となっていて、皮脂吸収効果も高い。」
 資生堂「プラウディアクリアクオリティーパクトUV」および「プラウディアリアルフィットパウダリー」は、酸化チタンを厚さ90~100nmの薄膜状に生成した雲母チタン粉末の表面に酸化亜鉛を直径30~70nmでファイバー状に結晶成長させ、細かな羽毛状に被覆している。このような表面加工により肌に入射する光を拡散反射特性させ、透明感のある自然なつやが得られる。また皮脂を表面にパウダー状に固めることにより、皮脂がべたつかず、サラッとして効果が持続する。
 従来成分のナノ化やナノ加工とは全く異なった技術を用いたナノテク化粧品もある。ビタミンC60バイオリサーチが開発した美白化粧品は、フラーレン(C60)を配合し、紫外線などによって発生する活性酸素の活動を皮膚から浸透した水溶性フラーレンが抑制する。そのた
めアンチエイジング効果があり、また皮膚がんの転移・拡大も防止する効果も期待される。
 また、CMなどでよく目にするファンケル化粧品の「マイルドクレンジングオイル」は、「ナノテクだから、こすらないでも、するんと落ちる」を謳い文句にしているが、ナノ粒子を使った化粧品ではない。水で洗い流す時、一瞬でオイルをナノサイズまでに分散させ、流しやすくする技術が使われており、また、濡れた手で使っても、水をナノサイズにしてオイルの中に閉じ込めるように設計されていて、水が入ってもクレンジング力が低下しないそうである。
■ナノテクに対する懸念
 大手化粧品メーカーには「ナノテク」を宣伝文句にしていないところもあるが、日焼け止めやファンデーションには効果が大きいため、ナノテク化粧品はかなり広まっていると考えられる。そのような中、ナノテクに対する懸念が高まってきた。数年前から、「遺伝子組み換え食品(GMO)やロボットと同様に、人類の存在を脅かす技術になる」と警告する識者が現れ始め、2、3年前からは『サイエンス』や『ネイチャー』などの著名雑誌にも記事が載るようになってきた。やはり「GMOの二の舞になるな」という論調が目立つ。昨年くらいからは、朝日新聞や毎日新聞など大手メディアも取り上げるようになったが、論点は「ナノ粒子の安全性が確認されていない」ことに絞られており、日本では「安全性の確認を急げ」という論調に落ち着きつつあるように思われる。ナノ粒子の安全性に対する懸念の広がりには、欧米の環境保護団体が大きな役割を果たしている。たとえば、カナダのETCgroupは、最も早い時期にナノ粒子に対する懸念を表明したグループのひとつで、その報告書の中で、主に人とじかに触れるものにナノ物質を含む製品を問題視し、ナノ材料の商業生産のモラトリアム(一時停止)や透明性のある国際評価体制の構築を提案している。また、著名な環境保護団体グリーンピースは、ナノ粒子の危険性が明確になり理解されるまで猶予期間を要求し、また科学及び政策コミュニティー内での議論及び市民との討議の促進を提言している。今年5月、グリーンピースを含む8つの環境保護団体が、ナノ粒子を用いた日焼け止めの市場からの引き上げを米国食品医薬品局(FDA)に要求した。今後の動きが注目される。
 ここで注意しなければならないのは、ナノ粒子といってもその材質は酸化チタンや酸化亜鉛など従来から使われていた物質が多く、サイズが大きい場合の安全性はすでに確認されているという点である。しかし、ナノサイズになるといろいろ特異な性質が現れてくる。まず、その体積や重さに対して、表面積の割合が非常に大きいということである。そのため表面での反応性が高くなり、フリーラジカルなども生成しやすくなる。したがって、大きな粒子よりも毒性がより強い可能性もある。また、毒性の強い金属や炭化水素などが表面に吸着しやすく、さらに毒性が強まる可能性もある。また、ナノ粒子は空気中に浮遊しやすく、肺に吸入された場合は、肺の一番奥にある肺胞まで達して血中にまで入る可能性がある。実際に国立環境研究所では、気管から入ったナノ粒子が、肝臓や腎臓などに移行することをマウスでの実験で確認している。
 しかし、ナノ粒子の安全性評価においては、通常サイズの物質とは異なる性質が問題となる。ナノ粒子は通常水に溶解せず、また凝集しやすいため、どのように暴露させるかが問題となる。形状や粒径もさまざまである。また製造方法によっては金属などの不純物が含まれており、精製方法によって純度が変わることもある。そのため特性評価や毒性試験方法の確立から行う必要がある。化粧品に使われるナノ粒子が皮膚で吸収され、体内に取り込まれるという明確な証拠は見つかっていない。しかし、荒れた肌や傷がある場合には、体内に入る可能性は十分にあると推定される。化粧品においては、薬事法で配合禁止成分が定められているものの、含有成分の大きさや形状までは規制されていないのが現状である。
■ディーゼル排ガス粒子とアスベスト問題
 ナノ粒子は、必ずしも人工的に合成されたものばかりではなく、例えばものの燃焼に伴っても発生する。人間の活動に伴って、さまざまな「非意図的」に生成したナノ粒子が身の回りにあると考えられるが、その代表がディーゼル排気粒子(DEP)であろう。DEPには、ミク
ロンオーダーの大きな粒子からより小さな粒子までさまざまな粒子が含まれるが、大量のナノ粒子が含まれ、それがしばらく空気中に浮遊していることが最近の研究でわかってきた。
 ナノ粒子の成分はカーボンなどであるが、燃料やオイルの不完全燃焼によって生成した様々な化合物がその表面に吸着していると考えられる。その中には発がん性物質も含まれている。それらの化学物質は、ナノ粒子の表面に吸着したまま肺を通って体内に入る可能性がある。実際に東京理科大などのグループは、ディーゼル排ガスを妊娠中に吸わせたマウスの胎児の脳や精巣組織に、排ガスに含まれるナノ粒子が母体から移行して沈着、周囲の細胞に変性を起こしている可能性が高いこと報告している。DEPの安全性評価は、ナノ粒子関連でもっとも研究の進んだ分野であると思われるが、現段階ではサイズの効果よりも、含まれる様々な化学物質に関する安全性評価が中心のように思われる。
 ナノ粒子の安全性問題と関連付けて最近よく語られるのがアスベスト問題である。今後、建築物の解体の増加に伴って被害が拡大し、今以上に大きな「公害問題」となっていくと推定される。日本だけの問題ではなく、例えばEUにおいては、発症後1年以内に死亡する中皮腫患者は、今後35年間に約25万人と推定され、肺がんを含めたアスベスト疾患による死亡件数の総合計は、最大40万人と推定されている。アスベスト繊維の形状であるが、最も細いクリソタイル(白石綿)の単繊維は、太さが約10~30nmで、長さが約1~20μmの中空管状をなしている。代表的なナノ物質であるカーボンナノチューブは、太さが1nm前後で長さは数μであり、アスベスト繊維と形状が似ているため、安全性議論の標的となりやすい物質である。
 アスベストが引き起こす健康障害としては、悪性胸膜中皮腫・悪性腹膜中皮種などの悪性中皮腫、アスベスト肺、アスベスト肺癌、胸膜肥厚斑、良性石綿胸水(胸膜炎)及び慢性胸膜肥厚などがある。肺に吸引された長い繊維はマクロファージに貪食されず、肺内に残留し、元素組成的にも形状的にも変化を受けないため、肺がんの発生に関与すると推定される。短い繊維はマクロファージに貪食され、リンパ流によって胸腹膜に到達して、中皮腫の発生に関与すると考えることが可能である。
 中皮腫の発生には沈着するアスベストの種類が大きく関与すると考えられる。クロシドライト(青石綿)は鉄の含有量がもっとも大きく、2価の鉄が3価の鉄に変
換される際に活性酸素を生じ、この活性酸素が細胞のDNA損傷をもたらし、遺伝子レベルの異常が中皮細胞のがん化に結びつくと考えられる。また、アスベストは強い吸着性を示すため、たばこ中のベンツピレン等の発がん物質を吸収してその担体となり、これらの発がん物質による発がんを助長すると考えられる。ナノ粒子においても、不純物として含まれる金属や吸着している化学物質などが、毒性に大きく影響していると考えられる。
■安全性評価への取り組み
 最近のナノテク・ナノ粒子の安全性やリスクを巡る動きを表1~3にまとめた。国内外において、さまざまな報告書が出されている。その詳細については別の機会に譲るが、ほとんどの報告書がホームページからダウンロードできるので、ぜひご覧いただきたい。その中で、ナノテクのリスクについて広い分野にわたって詳細に検討された報告書※2が英国王立協会と王立工学アカデミーから発表されている。その中で21の勧告がなされているが、ナノ粒子に関連する3つの勧告を抜粋して掲載しておく。
【勧告4】合成ナノ粒子とナノチューブの環境影響がより詳しくわかるまでは、それらの環境中への排出をできる限り避けるべきである。
【勧告5】合成ナノ粒子とナノチューブの主な排出源である製造工場や研究機関は、それらを有害なものと仮定して取り扱い、廃棄物中への混入を減らすかゼロにすべきである。また、基板などに固定されていない孤立した合成ナノ粒子を土壌浄化のように環境中で使用することは、潜在的な利益が潜在的なリスクよりも大きいことが確認されるまでは禁止すべきである。
【勧告6】ナノ粒子やナノチューブを含む製品や素材の開発や設計プロセスにおいて、産業界は、それらの成分の排出リスクを製品のライフサイクルを通して評価すべきであり、関係規制当局がその情報を入手できるようにすべきである。
■日本における動向
 日本におけるナノテク安全性研究は、欧米に比べて出遅れているように思われたが、ようやく昨年からいくつかの国家プロジェクトなどがスタートしている。そのいくつかを簡単に紹介する。
 文部科学省では、2005年7月~2006年3月の期間、ナノ粒子が健康に与える影響について、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、国立環境研究所、国立医薬品食品衛生研究所の4公的研究機関の研究者約70人を集め、国内外の研究データの収集・評価などの毒性の検
証を実施した。ナノテクノロジーの社会的な受け入れ促進に関する提言を3月にまとめている。それによると、公的研究機関の役割については、人や生物への暴露の可能性のあるナノ粒子の評価方法について、早急な研究開発を推進すべきだと指摘。政官民の各役割を明確化した上で、情報共有化と設備の共同利用を図り、連携した研究体制を確立すべきだと結論づけている。
 経済産業省では、産業技術総合研究所が中心となり、ナノ粒子の安全性の評価方法を2006年7月から5年間かけて研究を行う。対象は、炭素系のカーボンナノチューブ、フラーレン、金属系の酸化チタン、酸化亜鉛の4種類である。まずナノ材料のキャラクタリゼーション(濃度、粒径、形状などの特性評価)技術を確立し、これをベースに有害性などの評価手法を開発。製造工程での労働者や商品を使用した消費者の暴露量についても検証する。
 厚生労働省では、ナノ物質の安全性を調べる本格的な研究に着手する。国立医薬品食品衛生研究所などにおいて、評価手法を開発し、動物実験などで体内への吸収状況や病原性を2006年7月から3年計画で検証する。主にフラーレンや多層CNTにおいて、体に蓄積した場合の計測法や有害性の評価手法を開発。肺や腸、皮膚からの吸収性や、体外への排出状況を調べる。脳や胎児への移行のほか、製品の製造や使用の際の暴露についても検討する。
 また、業界団体である日本化粧品工業連合会においても、ナノテク化粧品について独自試験などでその安全性の検証を行う計画があり、ナノ粒子が皮膚を透過するかどうかを動物の皮膚などで調べる予定である。
 メーカーが独自に安全性を評価し報告している場合もある。ビタミンC60バイオリサーチは、美白化粧品に使われている水溶性フラーレン「ラジカルスポンジ」において、有害性は認められなかったことをHPで報告している。フラーレンについては、共立薬科大学の増野匡彦教授らにより安全性が評価されており、有害な活性酸素を作り出さないことを報告している。さらには、ビタミンCなど別の抗酸化物質と比べ、化粧品材料としての安全性がより高い可能性もあるとのことである。
■日本化粧品工業連合会の調査報告書
 先に触れた日本化粧品工業連合会の調査内容を簡単に紹介する。詳しくは報告書※1を参照されたい。この調査は会員企業の化粧品メーカーおよび原料メーカー741社に対して実施され、478社が回答した。その中で120社がナノ原料を使用と回答している。ナノ原料は酸化チタンや酸化亜鉛等の無機成分が中心で、平均粒径50nm以下の球状粒子が主流であるが、20nm以下も約3割のメーカーで使用されている。
 化粧品メーカーにおいては、局所刺激性、単回投与毒性など、多くの安全性試験が行われているが、いずれも回答企業の4割以下であった。また、その試験についても自社で行っているかどうか、製品での試験かどうかは不明である。国内外の安全性に関する文献調査を行った結果では、現時点ではナノ粒子(酸化チタン)が経皮吸収されると結論された文献報告はない。この調査結果を踏まえて、粧工連としては現時点では安全性に問題ないとの立場にあると思われる。
■大手化粧品メーカーへのアンケート結果
 最後に、ナノテクリスクプロジェクトで大手化粧品メーカー(2004年度売上高上位30社)に対して実施したアンケートについて報告する。実施期間は2006年6月22日~7月7日で、各社広報部などへ質問状を郵送し、返信用封筒にて回答を返却してもらうようにした。質問事項は以下の通りである。
◇ナノ粒子使用化粧品の市場への広がりについて
(1)貴社の製品で、ナノ粒子を含む化粧品があるか。
(2)ナノ粒子を使用した化粧品の種類(日焼け止め/ファウンデーションなど)とナノ粒子の成分および平均サイズは?
(3)上述の種類の化粧品で、ナノ粒子を含有せず、より大きなサイズ(通常サイズ)の粒子のみを使用した製品と、ナノ粒子使用製品との生産量の比率は?
(4)今後、ナノ粒子使用製品の比率は、増加するか。
◇ナノ粒子使用製品の安全性について
(1)ナノ粒子使用製品の開発にあたり、粒子のサイズが小さいことに特化した安全性評価を実施しているか。
(2)その製品の開発にあたり、安全性に配慮された点はあるか。
(3)ナノ粒子を扱っている製造現場などで、ナノ粒子吸引などに対する安全対策として実施されていることはあるか。
◇ナノ粒子に関する情報公開について
(1)消費者が、個々の製品におけるナノ粒子含有の有無についての情報を得ることが可能か。
 結果は、数社から回答が届いたが、残念ながらほとんどの企業が「研究・生産のノウハウに関わるため公表できない。粧工連に問い合わせてほしい」との回答であった。後日、粧工連からの回答が、何度かの催促のあとに届いたが、以下のような簡単な内容であった。「アンケートを受け取った企業から照会があり、ノウハウに関わる質問もあるため個別企業としては回答できない旨を回答するよう指導した。ナノテク化粧品の現状および課題については、NEDOからの平成16年度委託調査研究によりほぼ把握できたと考えている。詳しくは報告書※1を参考にしてほしい。なお今後の対応としては、現在NEDO委託事業として産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センターにて実施されている『ナノ材料の特性評価』の動向を注視した上で、改めて検討したい。」今後、粧工連に対して直接取材を行うことを検討している。
■まとめ
 最近ナノテク化粧品が普及しており、特に酸化チタンなどの無機系ナノ粒子は、高い透明感が得られるなどの優れた特性から、広く日焼け止めやファンデーションに使われていると思われる。しかし、ナノテクを謳ったいくつかの製品を除いて、メーカーから原料のサイズに関する情報提供はなく、消費者はナノ粒子の含有の有無などで商品を選択することは困難である。
 そのようなナノ粒子の安全性評価への取り組みについては、日本では、経済産業省、厚生労働省、日本化粧品工業連合会などのプロジェクトがようやく始まった段階である。評価の対象となるのは、主として、フラーレン、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化亜鉛などであり、ナノ粒子の標準化、評価手法の確立からスタートする。現段階においては、国内外において、危険性を示す決定的な結果はまだ得られていない。
 ナノテクリスクプロジェクトにおいても、大手化粧品メーカーに対してアンケート調査を行ったが、研究開発、生産のノウハウに関わる問題として回答不可とするメーカーがほとんどであった。
※1 日本化粧品工業連合会「ナノ粒子を使用した化粧品の安全性評価システムに関する調査」,2005年(NEDO平成16年度委託調査研究、NEDOのHPよりダウンロード可能)
※2 “Nanoscience and Nanotechnologies:Opportunities andUncertainties”,
The Royal Society & The Royal Academy of Engineering,UK,2004
(次のURLよりダウンロード可能http://www.nanotec.org.uk/finalReport.htm)

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