福島の国際会議からみえること
上田昌文(市民研・代表)
先ごろ開催された「放射線健康リスク管理福島国際学術会議」(福島県立医大主催、2月25日~27日)では、同大学内に設置された「県民健康管理調査」の主だった研究者を中心とした国内の放射線医療関係者、そしてICRP、IAEA、WHOなどを含む、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、米、英、独、仏など9カ国から総勢20名ほどの海外の研究者が発表した(発表者すべて英語だが、you-streamで見ることができる)。
この会議は、「外部被曝線量では県民の99.3%が3mSv未満、内部被曝でも飯舘村など11町村の住民1万人弱でみて99.8%が1mSv未満、ヨウ素131の甲状腺等価線量も推計では98.8%は15mSv以下で50mSvを超えるものは一人もいない」といった県民健康管理調査やJAEA(日本原子力研究開発機構)の調査・推計データをもとに、「福島はチェルノブイリとは違う」「福島での放射線影響はきわめてわずかしか出ないだろう」との見解が、参加した国内外の機関での合意事項になっていることを印象づけた。むろん、ヨウ素131の内部被曝実測データが欠落したままであることを本当に推計で補えるのか、「どの程度の除染がすすめば帰還が認められるべきなのか」についてまっとうな評価はできているのか、県民健康管理調査への参加率が20%程度と低調なことに対して本当に「答えやすいアンケートに改善すること」で対処できるのか……など疑問は尽きない。
会議でも示されたチェルノブイリのデータの中には、従来の低線量被曝のリスク評価に修正を迫る部分が含まれているように思われるが(ウクライナの調査など)、その修正が行われたとして、それに即してみても福島は「影響なし」の中に納まるのかどうか、福島での甲状腺調査が継続されて仮に”リスクの増加”を示す結果が現れた場合に、チェルノブイリの結果とそれとをつなげて整合性のある解釈にしていけるかどうか、重大な問題が残されたままだ。
しかしこの会議でもいよいよ明白になったように、「福島での重要なのは、被曝や避難がもたらしている心理・精神的不安(とそのことが原因しての疲弊や疾病)へのケアである」との見解が国際的にも一般化しようとしている。そのケアの主たる中身は「住民と(コミュニケーションや心理学や精神医療などの)専門家との対話」である。この「対話」は、例えば、避難・帰還・除染といった政策的対応に関わって各地域や各家庭に生じている困難や問題点をふまえての、住民の主体性や自主性を尊重したきちんとした支援システムの構築につなげることができるものなのだろうか。■