「脱クルマ社会」と東京の自動車公害裁判

投稿者: | 1999年3月27日

「脱クルマ社会」と東京の自動車公害裁判

国府田諭(青空の会)

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昨年10月の研究発表「脱クルマ社会を目指して」で初めて土曜講座に参加した、国府田(こうだ)と申します。当日、講師の上岡直見さんが用意されたレジュメの中に、「やさしい交通」に関係するいろいろな団体のリストがありました。そのうちの一つ「青空の会」で、私は、事務局員のようなことをしています(職員ではなく、無給のボランティアです)。
上岡さんの研究発表のあと、私は、ごく短いものですが「週刊金曜日」に青空の会の紹介を書くことができました。今回、それを少しふくらませて原稿を・・・と話をいただき、ありがたくお引き受けした次第です。以下、青空の会と、東京の自動車公害裁判のことなどを簡単に紹介したいと思います。

昨年8月5日、「川崎公害裁判」で原告勝訴の判決が下され、当日の各紙夕刊やテレビニュースでも大きく報道されました。この判決は、日本で初めて、自動車の排出ガスに含まれる大気汚染物質が喘息など呼吸器系疾患の原因となること、その健康被害が現在でも続いていることを明確に認めたものです。そして被告である国・首都高速道路公団に対し、自動車公害をまねくような道路の建設を重ねる一方、被害の補償・防止については基本的に無策であったとしてその法的責任を厳しく指摘し、約1億5000万円の損害賠償を求めました。この判決の報道で、自動車排出ガス汚染による健康被害が現在まで続く深刻な問題であること、川崎では「公害裁判」というかたちでこの問題の克服をめざす住民運動が続けられてきたことを、初めて知った方もいると思います。実は、東京でも同じように自動車公害裁判による運動が続けられており、この裁判を支援する個人の集まりが「青空の会」です。

川崎の裁判は、82年の第1次提訴から15年以上も続く長いものですが、東京の方は、3年前(96年5月)に第1次提訴をした新しい運動です。一昨年6月と昨年10月にも追加提訴を行ない、現在では320人あまりの喘息患者・遺族が原告となって、東京地方裁判所の法廷で裁判が進行しています(地裁民事6部に係属)。
川崎の裁判では国と首都高速道路公団が被告でしたが、東京では、それらに加え、東京都と自動車メーカー7社も被告にしています(7社とは、トヨタ、日産、三菱、いすゞ、マツダ、日産ディーゼル、日野)。被害を受けた住民が、自動車メーカーも被告にして裁判を起こすというのは国内初のことで、現在のところ海外でも同様の例があるとは聞いていません。
この点をはじめ、東京の裁判には、これまでの自動車公害裁判にない特徴と意義が多くあります。紙数の都合上、以下では、上岡さんの研究発表のテーマ「脱クルマ社会」に関連することを少しだけ紹介します。

そもそも、私が東京の裁判や「青空の会」の活動に直接かかわるようになったきっかけは、日本環境学会が97年6月に開催したシンポジウム「東京自動車公害裁判をめぐって」でした。そこで、弁護団の中心である原希世巳(はら・きよみ)弁護士が述べたこと??「この裁判で勝つためには、東京という巨大都市のあり方にまでさかのぼった検討が不可欠だと思う。そうでなければ、自動車問題の解決の方向を明確に示すことはできない」「現在の東京の道路や交通体系が、クルマ中心で完全に行きづまっているのは誰の目にも明らかであり、それを裁判官に納得させること自体はそう難しくないだろう。しかし、”解決の方向はこれだ”と、裁判官の胸にもストンと落ちるような議論を私たち原告側が展開できなければ、本当にこの裁判で勝つことは難しいと思っている」という趣旨の発言が、私は非常に印象に残りました。

「裁判官の胸にもストンと落ちるような」解決の方向、つまり、行きづまったクルマ社会に対する転換の方向と方策を分かりやすく示すことが、東京の裁判での重要な課題として追求されているわけです。この流れにそって原告側は、昨年5月から、都市計画や道路政策・自動車交通抑制策などの専門家に対する証人尋問を行なっています。環境政策や地球温暖化問題で多くの業績がある水谷洋一氏(静岡大学助教授)も、原告側証人の1人です。

この「脱クルマ社会」の方向と方策を分かりやすく示すという課題は、もちろん法廷内だけのものではありません。法廷をとりまく世論が、「脱クルマ社会」は当然の課題であり、そのための現実的な方策も多く存在すると認識するような状況をいかにつくっていくか、が非常に重要だと思います。青空の会としても、裁判傍聴や、裁判のことを多くの人に知ってもらう活動などと合わせて、この「脱クルマ社会」にむけた世論づくりに貢献していきたいと私は考えています。

昨年、青空の会では、8月をのぞいて毎月、学習会またはシンポジウムを開いてきましたが、以上のような問題意識から、その内容も海外の交通政策などを含む幅広いものとなりました。今年も引き続き、いろいろな角度から「脱クルマ社会」にむけた学習・議論ができる場を、つくっていきたいと思います。

 

【青空の会の所在地・連絡先】
東京都文京区千石2?1?6氷川下セツルメント
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