ファシリテーターの重要性について ~東工大ワークショップ活動報告~

投稿者: | 2004年4月20日

ファシリテーターの重要性について
~東工大ワークショップ活動報告~
小寺昭彦(市民科学研究室・ワークショップ「科学技術と社会」)
doyou81_kodera.pdf
ワークショップは参加型?
 「ワークショップ」という言葉をきいたとき、皆さんはどのような印象を持つだろうか?
 一般的に考えられているワークショップの定義で、最も重要なのは「参加型」という要素であろう。ワークショップという形態をとる時には、通常は単に受け手の側の受講者を場に参加させて、広い意味での活性化をはかることを狙っている事が多い。
 しかし、私たちの行ったワークショップを参観していただいた勝木氏の言を引用すれば、「私はこれまで、『ワークショップ』という授業形式にある種のいかがわしさを感じていた。(中略)私はそれをしばしば形式的なおざなりの儀式のように感じていた。それはなにか一種の井戸端会議でしかなく、そのことを通じて参加者の認識の深化が現実に起ころうとはとても思えなかったからである。」(「科学・社会・人間」9 0 号)とある。ここにあるように、学会やシンポジウム、セミナーや講座などの中でワークショップと称して行われる場の中には、ややもすると単なる意見交換会の域を出ないため、一部の特に積極的に発言する出たがりな人と、そうした場をつくったという満足感を得たい主催者側には参加型であっても、それ以外の人には決して有意義ではない事も多いのではないだろうか?
 私は、市民科学研究室も含め様々なワークショップのファシリテーター(広い意味での進行役、詳細は後述)を務めてきたが、そうした中で特に意識していることは、「どのようにしてその場に来た参加者の一人ひとりの満足度の合計を大きくするか」ということである。一部の人を満足させることが目的であれば何もワークショップという手間のかかる形態をとる必要はない。できるだけ多く、理想的には全ての人に、その人なりの参加体験と何らかの学びを持ち帰っていただく場づくりをすることを、常に心がけている。そういう意味では、今回行われた東工大のワークショップは、なかなか挑戦的な場であった。
「携帯電話政策論争」というワークショップ
 今回の東工大で行ったワークショップは、「携帯電話政策論争」というものである。既に何回か実施した経験もあり、電磁波プロジェクト・科学館プロジェクトなどとの連携もとれる、いわば市民科学研究室の看板ともいうべきワークショップである。参加者には5つのグループに分かれてもらい、そのグループを携帯電話の政策決定に関わる省庁(経済産業省、文部科学省、国土交通省、厚生労働省、総務省)に割り振る。その上で各グループのメンバーにはその省庁の官僚となったと仮定してもらい、自分達の省庁のミッションを理解した上で携帯電話に関わる政策を考えて発表し合うというワークショップである。
 私はこのワークショップの面白さと難しさを、要求される専門性の高さにあると考えている。シミュレーションとはいえ、日本を実質的に動かしているキャリアと同じ作業を要求するのだ。携帯電話に関する技術的動向、社会的動向からはじまって、各省庁の縄張りに関する知識、政策立案のセンス、さらには交渉能力や他の省庁からの突っ込みに答弁する言い訳の巧みさまで、幅広い能力が必要となる。もちろん、どんなに優秀でもそんな難しい要求に応える学生はまずいないので、適切な情報提供を交え順次作業をこなすことで、全く予備知識がなくてもそれなりの結果が出てくるような進行にしてはある。この進行がうまくいくと、突拍子もない、しかし時として無垢な素人だからこそある面で本質をついてしまうようなユニークな政策が立案されることがある。こうなると我々も含め参加者の多くが面白がることができる。さらに終わった後で訊ねると技術的な面でも社会的な意味でも幅広い知識の必要性を感じ学習意欲を高める学生が多い。しめたものである。これぞワークショップの醍醐味と言えよう。
ファシリテーターの役割
 これまで既に実績があるにもかかわらず、今回のワークショップが挑戦的と書いたのは大きく二つの理由がある。それは、人数が約1 0 0 人と多いことと、一つのワークショップを一週間空けて二回にわたって行うことである。いずれも多くの人を参加型にするにはマイナス要因である。参加者の数についていえば、人が増えるほど参加の機会が減るという原則がある。5つの省庁にグループ分けして意見交換する際に、1グループに2 0 人いては発言する機会、ニアリーイコール参加する機会は2 0分の1しか得られない。そこで今回は各省庁を二つずつつくることにした。これで各グループは約1 0人。これでも多すぎるくらいだが、それでも一人当たりの時間は倍になる。
二週間にわたって行うことについていえば、十分な時間が必要なためこちらからお願いしたことである。とはいえ、二週続けて履修しない学生もいるかもしれないことも含め、一週毎に起承転結をつけないと行けない。そこで進行を見直し、携帯電話の課題の整理と省庁のミッションの理解を併せて行う予備知識を習得する週と、実際の政策立案を行う週に分けた。さらに、連続性を損なわないよう二週目の頭で一週目の復習をするようにすることにした。また全体が間延びしないように政策立案を行う際には、いきなり政策を話し合うのではなく、省庁毎に解決すべき課題を整理させ、その解決策としての政策を考えさせるというふうに、進行を細やかにして段階を踏ませることにした。
 こうした改善策により直接的な問題点はクリアーできることにはなったが、まだ課題は残っている。グループの数が多くなったことで、各グループに対してわれわれ進行側の目が届かないという問題が発生しやすくなったのである。加えて全体時間が長くなり進行を細かくしたので、ただでさえ高い専門性を要求していることも相まって、参加している学生にとって全体の流れと個別の作業のつながりが理解しにくくなってしまったのである。目が届かないところで訳が分からない参加者により作業が進むと、良い結果は望めないのはいうまでもないだろう。
 この課題を最終的に解決する方法はファシリテーターの増員しかない。前述した勝木氏の評でもそうであるが、ワークショップの要素の中で一般的にまだまだ認識されていないことにファシリテーターの重要性がある。本当に参加型にするためには、各グループや参加者に対するその場の状況に応じた適切な「促し」が必要である。これをファシリテーションという。プログラム全体の進行や、単位作業ごとの狙いを良く理解し、グループのメンバー全員に満足感を与えるように、アドバイスを与え、発言を促し、場合によっては発言を遮り、時として突き放す。こうしたことを行う黒子役として、各グループに一人ずつファシリテーターがつけると、ワークショップがうまく行く確率は大きくなる。また勝木氏は事前準備の重要性を言及しているが、実はそれもファシリテーションの重要な要素である。今回は科学館プロジェクトメンバーのサポートにより、全体で6人(ほぼ二つのグループに一人)ではあったが従来の倍のファシリテーターが確保できたことで、ずいぶんスムーズに進行することができた。これについては、彼らが事前にこのワークショップ自体を経験したり、打ち合わせに参加したり、ファシリテーションに関する事前学習をしたりして本番に望んでくれたことが大きく寄与している。ワークショップという参加型の学びの場の広がりと共に、ファシリテーターの重要性の理解とそうした役割を担う人が増えることを望みたい。(ワークショップチームの活動を推進するためにも(笑)。)

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