【翻訳】 不確かな遺伝-環境的曝露の継世代的効果

投稿者: | 2013年11月10日

【翻訳】
『環境健康展望』第121巻10号2013年10月
Environmental Health Perspectives vol.121, number 10, October 2013
不確かな遺伝-環境的曝露の継世代的効果
Uncertain Inheritance:
Transgenerational Effects of Environmental Exposures

チャールズ・W・シュミット(Charles W. Schmidt)
(チャールズ・W・シュミットは科学修士号を持つ、メイン州ポートランド出身の、受賞歴のある著述家。Discover Magazine, ScienceおよびNature Medicineに寄稿している。)

PDFはこちらから→csijnewsletter_021_2013_epigenetics.pdf

アンドレア・カップ(Andrea Cupp)は、ワシントン州立大学のポスドク研究員であったときに、思いがけない発見をした。動物胎児の性決定に対する化学物質の影響を調査するため、メトキシクロールという殺虫剤を投与された雌ラットの子孫たちを、彼女は繁殖させていた。その系統の雄たちが成年に達したとき、彼らの精子数は減少し、死亡率は上昇していたのだ。子宮内でメトキシクロールに曝露していた彼らの父親たちにも、カップは同様の異常を見出していた。だがその最後世代はそのようにして曝露したわけではなく、そのことはメトキシクロールの毒性が世代をこえて影響するものであることを示唆していた。「はじめは信じられませんでした」と、カップの指導教官であった同大学の生化学教授、マイケル・スキナー(Michael Skinner)はいう。「しかし我々は繁殖実験をくりかえし、その結果が支持されることを確認したのです。」

スキナーと、現在はネブラスカ大学リンカーン校の教授であるカップは、その発見を2005年に発表した(文献1)。メトキシクロールだけでなく、殺真菌剤ビンコルゾリンの継世代的効果も、少なくとも4世代は持続することをこの論文が示して以来、同様の効果を確認したとする論文は着実に増加していった。「過去1年半のあいだに、広範な環境ストレス源への曝露による継世代的効果を示唆した研究は、爆発的に増加しました」と、国立環境保健研究所(NIEHS)のプログラム管理者であるリサ・チャドウィック(Lisa Chadwick)はいう。「この領域は本当に、いまにも離陸しようとしています。」

チャドウィックによると、このような新発見によって科学者たちは、環境保健上の脅威に対する認識の再考せざるを得なくなっている。「私たちは、日々曝露している化学物質の影響について、より長期的に考えなくてはなりません。この種の新発見が示唆しているのは、化学物質が健康に影響をおよぼしうるのは、私たちやその子供たちに対してだけではなく、来るべき世代に対してでもあるということです。」

NIEHSは先日、哺乳類における継世代的効果に関する研究に対して、総額300万ドルの拠出を要求した(文献2)。チャドウィックによると、継世代的変化をもたらす可能性があるメカニズムは何かという点と、そうした効果を発揮しうる化学物質は何種類くらいあるのかという点の2点で基本的なデータが必要となっているが、この研究はそれに応えようとするものである。これらの研究はF3世代、すなわち最初に曝露した動物のひ孫にまで拡張されるであろう。それというのも、妊娠した雌(F0世代)に投与された化学物質は、胎児である子(F1世代)のみならず、F2世代の誕生に関与する、その子たちが生成する生殖細胞にまで、影響しうるからである。いいかえればF3が、最初の化学物質に全然曝露していない、最初の世代ということになる。F2世代におよぶ効果を「多世代的」と称するのに対して、F3世代にまでおよぶ効果のことは「継世代的」という(文献3)。

継世代的効果が現在報告されている化学物質は、ペルメトリン、ジエチルメチルベンズアミド、ビスフェノールA、ある種のフタル酸塩、ダイオキシン、ジェット混合燃料、ニコチン、トリブチル錫(すず)その他である。これらの発見の大部分は、齧歯類を使用した研究に由来する(文献4,5,6,7)。しかしヒトにおいても化学物質の効果が世代をこえるという予備的な証拠は、F3世代でのデータはまだ公表されていないものの、すでに出現している。複数人の一生にわたって効果を追跡することになる点を考えると、その証拠の解釈は一層困難であり、どのようなメカニズムが働いていそうかに関してはとりわけ難しいだろう、とオランダ・アムステルダム医学学術センターの早期発達保健学教授、テッサ・ローズブーム(Tessa Roseboom)はいう。それでも一部の報告が、飢餓による栄養失調および、1940年代から70年代にかけて早産防止に使用された非ステロイド系女性ホルモンであるジエチルスチルベストロールへの曝露と、曝露女性の孫にまでおよぶ効果とを関連づけている(文献8,9,10,11,12,13)。
(翻訳:杉野実+上田昌文)

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