ナノリスクの展望 光触媒:有用性の暗転など

投稿者: | 2014年4月30日

ナノリスクの展望:光触媒:有用性の暗転など
小林 剛*
*Takeshi KOBAYASHI, M.D. 医学博士 小林 剛 環境医学情報機構
東京理科大学ナノ粒子健康科学研究センター元客員教授
カリフォルニア大学環境毒性学部元客員教授

pdfファイルはこちらから→csijnewsletter_024_kobayashi_20140331.pdf

ナノテクノロジーは、その開発初期から、リスクの不安に包まれていた。その端緒は微小粒子の吸入によるディーゼル排気の呼吸器毒性(発ガン性)に由来する長年にわたる医学研究者らの実体験からの警告であった。その後、早くも約10年以上が経過した。

しかし、これらの切実な警告は、ナノマテリアルの開発研究者や製造企業の軽視もしくは無視と行政の不作為とが相俟って、今日に至るまで、人間の健康と環境への有害影響に対する対策は極めて不十分で、無為無策のまま貴重な時間を浪費してきた。

かくして、ナノリスクについての多くの課題は、未解決のまま越年し、その速やかな解明に対する有識者や世論からの重圧は日々高まるばかりである。ここでは、昨年秋に強化された米国国立労働安全衛生研究所 (NIOSH)のナノマテリアルのリスクコントロール強化措置をふまえて、その周辺に蝟集している多くのナノ毒性問題について、その現況の俯瞰と将来に対する展望を述べ、各位のご理解と強いご支持を要請する。

1.米国国立労働安全衛生研究所 (NIOSH) のコントロール強化

NIOSHは、ナノマテリアルの製造加工段階におけるナノ二酸化チタンに対する職業暴露限界値 (Occupational Exposure Levels:OEL) 0.3mg/m3を勧告し、衛生工学的対策(エンジニアリング・コントロール)の最新戦略を示した(付属資料 1~2)。この強化措置の周囲には、以下に述べるような重要な課題が山積している。

2.ナノ作業実態の改善

日本におけるナノマテリアル作業環境の実態は、厚い企業秘密の壁に遮られ不明確であるが、作業場(大学研究室を含む)での安全対策は不十分であると推定できる。
欧米各国においても、必ずしも万全の体制とは言い難いが、官民の努力には見るべきものがある点は、万事に消極的な我が国とは大きく異なっている。

一般的に、我が国のナノ企業にはナノテクノロジーの労働安全衛生の専門家が不在であり、実際にどのように対応していいかに困惑している。この場合には、都道府県の労働安全監督署の指導を仰ぐため、速やかに、専門官の相談窓口の利用をお勧めする。彼らは、そのような要請に対応する義務を有しており、親切に応対してくれる筈である。

一方、労働基準監督署は、その名の通り、すべてのナノ作業所の実態を精査し、立入り検査と指導に徹すべきである。座して待つのではなく、現在大きく問題視されている有害なナノ作業に対して、労働者の健康保護のため積極的に打って出るべきである。
特に、大学のラボにおいては、ナノテクノロジーの研究開発の第一線で活躍する研究者や学生自身のナノマテリアルに対する危険意識が乏しく、ナノ作業責任者(ナノオフィサー)の不在や、作業規範の欠如など基本的な労働安全衛生管理でさえ極めて不十分であるため、大学当局は虚心坦懐に労働基準監督署の協力を求めるべきである。大学全体としての安全確保のためには、旧来の無意味な大学の独立性 (治外法権)に固執してはならない。(因みに、米国の大学の研究環境に対する労働安全衛生局 (OSHA)の監督は厳しいが、大学側は非常に協力的である。

【続きは上記PDFファイルにてお読み下さい】

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