【講義録】市民科学講座Bコース<第2回> 霜田求さんとともに考える 遺伝子検査ってどこが問題なんですか?(講義編)

投稿者: | 2015年12月16日

市民科学講座Bコース第2回(2015年8月7日)@光塾

霜田求さんとともに考える
遺伝子検査って どこが問題なんですか?

その1:講義編  質疑応答篇は次号34号に掲載)

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遺伝学的検査(genetic test)をご存知だろうか? 検査・診断および遺伝カウンセリングと合わせて「遺伝子診療」として医療機関で実施されるばかりでなく、インターネットで消費者に直販するもの(綿棒による口腔粘膜採取試料や容器に入れた唾液の郵送と結果通知の返送)も出てきている。がんや高血圧、心臓疾患、肥満や糖尿病など「予防」への役立ちを謳った「健康診断」や「体質検査」であり、サプリメントの販売促進がくっついていたりする。また、医療目的以外にも、欧米諸国での「祖先検査」やアジア諸国の一部でも拡大しつつある「子ども才能検査」や「スポーツ能力検査」もある。こうした検査は科学的・臨床的に妥当なものなのか? また個人情報保護やサービスの品質保証で問題は生じていないのか? 差別や親子関係への不当な介入とならないのか? ……倫理的・法的な問題が山積しているように思える。この問題にお詳しい霜田さんに、現状と問題点を整理していただいた上で、参加者と議論した。


はじめに

霜田:
私は哲学・倫理学を専門にしており、とくにヘーゲルをずっと研究してきました。その後、生命倫理、環境倫理など、いわゆる応用倫理に取り組んでいます。2001年から大阪大学医学系研究科・医の倫理学教室のスタッフとして、医学生・看護学生に生命倫理関連の授業や大学院生の指導を担当し、治験、臨床研究、ゲノム・遺伝子解析研究などの倫理審査をしてきました。2004年から附属病院の遺伝子診療部の運営委員として、遺伝カウンセリングへの対応についてのディスカッションに参加し、遺伝子診断、遺伝子検査に関わる医療の問題に接する機会がありました。それと並行して、遺伝カウンセリングを取り巻く社会文化的な側面に焦点を当ててヨーロッパの研究者たちと共同研究をしたり、遺伝子検査のインターネット・ビジネスの調査や保険加入と差別の可能性に関する調査にも関わってきました。

遺伝子検査やカウンセリングを中心とする遺伝子診療部門は、大学病院や多くの基幹病院に設置されていますが、臨床遺伝専門医、遺伝カウンセラー、遺伝専門看護師などがその担い手です。そこでは、医療行為として妊娠前・出生前の段階から胎児・新生児・乳幼児や子ども・大人が将来遺伝性疾患に発症するかどうかを調べ、カウンセリングや検査・診断が実施されます。乳がん関連で遺伝子(BRCA)検査などはすでに確立したものですが、そのように制度化された医療としての遺伝子検査というのが一方にあります。もう一方で、インターネットを通して行われている遺伝子検査ビジネスがあり、その中間領域として普通のクリニックが行っているものもあります。そういういくつかのタイプが混在している状況です。

遺伝子検査とは

まず、遺伝子検査について簡単に説明しておきます。遺伝子診療という部門は、信州大学、京都大学、北里大学、東京女子医科大学などの医師が中心になって普及が進み、2000年以降に全国の大学病院に続々と設置されました。主に神経内科、小児科、産科の医師が、遺伝学や遺伝性疾患についての知識を得た上で、臨床現場での経験を積みながら、臨床遺伝専門医として活動しています。近年、特定の疾患を発症させる遺伝子が解明されてきて、事前に調べることができるようになってきた結果、とくに子どもについてさまざまな選択が可能になりました。例えば、ある病気の子どもを持っている親にとって、次の子どもは健康な子どもであってほしいという願いがあるので、遺伝子を調べてみたら次の子にも同じ病気が発症するリスクが分かることもある、といったことです。病院の遺伝子診療担当に予約をしてカウンセリングを受け、疾患のことや検査の内容などについて説明を受け、希望すれば採血をして検査をしてもらい、その診断結果を聞くことができます。

遺伝子検査は専門的・学術的なレベルでは「遺伝学的検査」といいますが、それは遺伝子だけではなくてDNA、染色体、RNA、タンパク質なども調べるからです。親子鑑定検査や祖先検査では、遺伝子ではなくDNAを調べます。世間一般では遺伝子検査という表現が普及してしまっているので、ここでは遺伝子検査という言葉を使います。英語ではジェネティック・テスト(genetic test)といいますが、そこには「遺伝子の」という意味と「遺伝学的な=遺伝するかどうかを含めた生物学的なことについての包括的な」という意味が含まれています。

【続きは上記PDFファイルにてお読みください】

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