土の科学の基礎 その1 土はなにからできている?

投稿者: | 2004年6月4日

石橋夏江  
pdf版はwatersoil_015.pdf
 わたし達の衣食住というのは本来、土がなくては成り立たないのに、土はいつしか遠い存在になっています。火星にいるかもしれない地球外生物に思いをはせて空を見つめるのも楽しいですが、ちょっと足の下の世界に目を向けてみませんか?とても不思議で奥深い世界です。
土はなにからできているのでしょう?  
 土を構成する要素は物理的な形態から3つに分類できます。3つそれぞれを固相、液相、気相といい、土の三相と呼ばれています。固相は固体からできた物質、液相は液体からできた物質、気相は気体からできた物質です。(図1)  
 固相にはいわゆる土の粒などの鉱物やいろいろな有機物が含まれます。有機物はほとんど生物由来の物質と言ってよいでしょう。液相とは主に水です。そして土のなかにあるいろいろなものがイオンの形で溶け込んでいます。土の中の水といっても地下水のことではありません。土に含まれた水分のことです。土の水分は雨水を連想されるかもしれませんが、なかなかこれが複雑で地下水が沁み上がったものや河川から沁み込んでくる場合もあって、その土地の気候の他に地形や地層の状態などと深く関わってきます。気相はだいたい大気と同じ成分が含まれますがその組成は土の深さによって違ってきます。地表に近ければほぼ大気と同じものですが、地下深くなると酸素が少なくなり、二酸化炭素が増えてきます。
 さあ、でもここでちょっと考えてみましょう。土は乾燥したり、大雨でたっぷりの水に浸ることもありますが、それでも土が土であることに変わりがないのは土の正体は固相と考えられなくもありません。そう考えると土とは固相と呼ばれる物質に水や空気が混じっているというだけのことのような気がしませんか?なんだか固相のことが分かれば土のことが理解できそうですね。
土の固相について 
 土の固相は大きく分けると鉱物と有機物と生物に分かれます(図2)。土における鉱物はいわゆる土粒と言っていいでしょう。この鉱物はどこから来たかというと地上にある岩石が風化してできたものです。風が吹き付け、雨が穿ち、岩自体が寒暖によって膨張収縮を繰り返すことで長い年月をかけて粉々になっていきます。また、亀裂などに水が入ると水は温度によって体積の変動が比較的大きいので強力な粉砕機能を発揮し岩石を風化させます。このように物理的な作用で生成された土粒となる鉱物は一次鉱物と呼びます。この土粒の生みの親である石は母岩と呼ばれます。もともと地表にある一般的な岩石だったため、一次鉱物の成分は母岩と同じくケイ酸(SiO 2)が主な成分です。
 火山の活動がさかんな日本では火成岩という火山活動で出来た岩石(長石、カンラン石、石英、雲母など)が母岩になることが多いようです。
 また、日本では岩石以外にも土に含まれる鉱物の元になるものとして火山灰が挙げられます。火山灰が土粒として土のなかにそのままあるのです。
 東京出身のわたしにとって、もっとも聞き覚えのある土のひとつである関東ローム層の土(赤い固相の多い土)などは火山灰が化学的に変化してできた土です。関東平野は南西に大きな富士山(静岡県・山梨県)があるだけでなく浅間山(群馬県)男体山(栃木県)の山々など火山にぐるり囲まれています。関東ローム層といってもよく調べるといろいろな山から飛んできた火山灰が元になっているようです。
 では、化学的な変化を起こす土の鉱物は火山灰だけなのでしょうか?実は岩石の風化によって生成した一次鉱物も同じように化学的な作用が働きます。土のなかの鉱物が受ける化学的な作用とはどんなものがあるのでしょう。雨は降ってくるときに空気中の二酸化炭素が溶け込んで弱酸性になります。この弱い酸がわずかに母岩や一次鉱物を溶かすこともあります。また母岩や一次鉱物にはケイ酸のほかにいろいろな成分が含まれます。これら岩石自身の成分が水に溶けだし、一次鉱物をとりまくほかの物質と反応した結果、一次鉱物自身も化学的に変化することもあります。化学反応には一定以上の温度がないと起こりにくい化学反応もあります。そのため地熱の影響で進む化学反応もあります。また化学反応は瞬時に進むものばかりでなく長い年月をかけて次第に変化、変質していくこともあります。地下では地下水が水脈にそって流れたり、温泉が湧いていたりします。水は多くの物質にとって溶媒として働くので地下水も土の粒の化学変化に深く関与しています。このように地中の様々な環境の影響を受けて化学的な変成を経てできた鉱物を二次鉱物と言います。二次鉱物の代表的なものは粘土です。粘土は粘土鉱物と呼ばれ実は土の中で重要な働きをしています。
鉱物の大きさと性質
 岩石が物理的、化学的に風化してできた土粒を大きさによって分類すると面白いことに特性が異なります。(図2)をご覧ください。礫の特徴は水をほとんど保持できません。その代わり水はけはとてもよいです。粗砂・細砂はこの大きさの粒だけで構成されていると土というより海岸の砂のような感じになるでしょう。特性は、水はけがよく若干砂と砂の間に水を保持できます。土の固相の体積の多くを占めています。シルトというのは砂と土の中間の大きさで、よく水を含み肥料も保持できます。シルトの粒同士は凝集して土塊を形成できます。砂、礫は粒同士が独立してしまい土塊になりません。粘土は粒の大きさが大変小さく主に粘土鉱物からできています。砂に比べて表面積が大きくなり、このため高い保水性を持っています。以上のように土粒は大きさによっていろいろな性質がありますが特に粒の細かい粘土は植物が育つような土にとってはとても重要な役割を担っています。次は粘土について少し細かくお話します。
土のなかの粘土
 粘土は化学的に変成を経てできた二次鉱物です。一次鉱物と同様に主成分はケイ酸です。特徴としては先に取り上げたように粒の細かさが挙げられます。粒が細かいということは同じ体積で比べると砂より粘土のほうが表面積が大きいことになり、このため粒と粒の間に水を含みやすいことになります。また水を含むと粘性と可塑性がでます。これは粘土に触ったことのある方はよくわかると思います。この粘性があるため、土の中で枯れた植物の根やシルトのような粘土より大きな土粒などをまとめて土という状態にまとめている一因となっていると考えられています。また、可塑性があるため陶芸に使用できるように様々な形にすることができます。粘土の特徴として表面がマイナスに帯電しています。これには2つの原因があります。
 ひとつは粒が非常に細かいこと。もうひとつは粘土鉱物が結晶構造をもつ鉱物だということです。1つ目の理由の粒が非常に細かいことがなぜ電気的な性質と関係があるかというと、水分に触れたときにコロイドとしての性質を持つからです。コロイドとは重力の影響をほとんど受けないほど微細な物質が別の物質に混じった状態を指します。例えば牛乳のなかのたんぱく質や脂肪などは分離したり沈殿しないでだいたい均一に牛乳のなかにあります。コロイドはその多くがマイナスに帯電していて、粘土も水分に触れるとコロイドとしての性質が現れます。このためマイナスに電気を帯びています。
 そして2つ目の理由のとして、粘土という鉱物は結晶構造を持っていますが、完全な構造になっていないことが多いのです。結晶構造とは決まった原子が規則正しく並んでいるものです。ところが粘土鉱物は本来あるべき原子が他の原子に置き換わっていることが多々見られます。この混入した原子はもともと収まるべきだった原子よりも電子を多く持っていることが多いため、マイナスの電気を帯びます。また、結晶の構造上、表面に水酸基というマイナスの電荷を持つ分子が並んでいることからもマイナスの電気を帯びます。この性質は後で詳しくお話しますがイオン交換という働きをすることになり、土の大きな働きの一部でもあります。このように粘土は微細な土粒だというだけでなく、土の様々な機能の一端を担っています。
土の中の有機物について 
 土の中にはたくさんの生き物が住んでいます。これらの命を支えているのが、土の中の新鮮有機物です。新鮮有機物とは動物の排泄物や死体や枯れた植物などがこれにあたります。これらは土の中の生き物の糧になっています。腐葉土ぐらいの朽ちかたではまだ新鮮有機物のなかに含まれます。例えばミミズなどは土を食べて土に含まれる有機物を消化しています。このためほとんど、土を食べて糞として土を排出しているようなものですが、それでも彼らが十分栄養が摂れているのは土に微細なたくさんの新鮮有機物が含まれているからです。その糞として排出された土の中にもまだ微生物が栄養素として利用可能な新鮮有機物が含まれています。新鮮有機物の分解は土中の生き物の多様さによって進みます。また、土にはいろいろな成分が存在するので化学反応を起こして有機物を分解する反応もあります。わたしはこの機会を得て勉強を始めるまでは土中の有機物が分解されると完全に水と二酸化炭素になるまで分解されるのだと思っていました。ところがそこまでいくには相当の時間が要るらしいのです。たとえば一枚の葉っぱが均一に分解されていくわけではありません。葉肉より葉脈の方が分解は遅いのです。これは葉肉の細胞壁より導管を構成する細胞壁の方がリグニンという非常に分解しにくい物質を多く含んでいるからです。このリグニンという物質はキノコの仲間の限られた菌類にしか分解できない物質で、リグニンを多く含む植物片は分解するのに時間がものすごくかかります。
 このように、比較的分解されやすい物質(たんぱく質や炭水化物など)と植物のリグニンなど比較的分解しにくい物質が土のなかの新鮮有機物にはあります。それぞれが分解の速度や過程が異なりながらも、それぞれ分解されてどんどん小さな分子の有機化合物になっていきます。やがて小さくなった化合物が凝集して高分子の有機化合物になってできたと考えられているのが腐植です。腐植という物質については、最近になって研究されるようになったものなので、その生成についても確定的な説があると言うわけではありません。また、その働きについても十分な研究がなされているわけではありません。ですが、現在わかっている点に注目すると、腐植は土に含まれている物質というよりも、土という物質の有り様を支えている物質という気がしてきます。
(どよう便り 77号 2004年6月)

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