市民科学研究室の会員である以下の4名の方々に「サイエンスアゴラ2011」に参加しての報告を寄稿していただきました。
PDFファイルはこちらから→csijnewsletter_010_agora.pdf
●榎木英介 (サイエンス・サポート・アソシエーション代表)
サイエンスアゴラは初年度から参加していますが、今年も最終日だけ参加しました。ただ、2年前までは自分たちの団体(NPO法人サイエンス・コミュニケーション)で企画を出していたのですが、NPOを退会したので、この2年はほかの企画への参加だけです。
一参加者として出たのは、「科学コミュニケーション研究会」と、林衛さんの「原発報道検証」のセッションです。どちらも大いに刺激をうけました。
また、パネリストとしてサイエンスアゴラ2011総括セッション「新たな科学のタネのまき方」
に参加しました。
被災もしておらず、震災以降目立った行動もしていない私が話すのもおこがましいと思ったのですが、以下のようなことをお話させていただきました。
震災以降科学コミュニケーションが各方面から批判されていますが、それを真摯に受け止めなければなりません。そういう要求を受け止めるには、独立したNPOのようなものが必要だと思っていますが、論争がある領域に取り組む人を増やすのは簡単ではないのは事実です。しかし、やっていかなければならないと思います。ただ、科学コミュニケーションがなんでも引き受けるというのは、ある種おこがましく、当事者の人達が動き出していて、そういう人達の力になることを考えるべきかもしれないのではないでしょうか。私としては、憂慮する科学者同盟のような、独立した科学者組織を作りたいと思っています。
これらに参加して思ったことは、震災以来科学コミュニケーションへの切実な要求があり、それを考えないで科学コミュニケーションはありえないということです。
そのためには、サイエンスアゴラが科学コミュニケーターのためのお祭りであってはならず、今後も社会のための、人々のためのアゴラであってほしいと願っています。
そして、私自身もさらに行動を続けていきたいと思っています。
残念ながら、科学技術を考える独立したNPOを作る試みは、いまのところ頓挫したままです。市民科学研究室をロールモデルにしてきましたが、市民研ははるか先を行っており、とても追いつけそうにありません。震災以降にたいしたことができていない自分が情けなく思います。
しかし、自らのできることを出来る範囲で、諦めず続けていきます。
わずか一日の参加ではありましたが、今年もサイエンスアゴラに参加できてよかったと思っています。
●横山雅俊 (NPO法人市民科学研究室・理事)
今年も、科学コミュニケーションの祭典「サイエンスアゴラ 2011」が開催され、今年も自前の公募出展と、企画委員としての本部企画への関与をしました。
<自前企画>
ワークショップ『本音で語る”夢の薬”-2010年問題をぶっ飛ばせ-』
<本部企画>
トークセッション『危ないってどういうこと?―生活の中のリスクと科学リテラシー』
自前企画に関しては、当日の模様を twitter で生中継しました(同じ試みを、3年前からやっています)。その模様は
http://togetter.com/li/216370
..で御覧いただけます。
前半は、薬作り職人さん(製薬関係者)と岩堀禎廣さん(医療系コンサルタント)をゲストに迎えたトークセッション、後半は全脳思考法という特殊な方法を用いたワークセッションにしました。荒天の厳しい条件下でしたが、約 30 人の方にご来場いただき、一体感のある雰囲気が醸成されて、大変盛り上がりました。
当日のまとめを含む速報版の開催報告は、大急ぎで
http://t.co/6qoX5siR
…に書きました。詳しくはそちらを御覧下さい。
本部企画に関しては、企画の基本的な着想や流れ、理念に関して情報や行けんの提供を行いました。
当日の模様は、サイエンスメディアセンターによる Ustream 中継録画の
http://www.ustream.tv/recorded/18608203
…で、御覧戴けます(動作重いため、閲覧注意)。
サイエンスアゴラにまつわる思いの丈は色々とありますが、
http://t.co/ueDm8Emk
…に色々書きました。御覧戴ければ幸いです。
他の URL をご参照頂くばかりの内容で恐縮ですが、ご笑覧戴ければ幸いです。
●三輪佳子(科学技術ライター)
子どもの心をつかんだ計測原理
私は、組込み機器を主な守備範囲として、長く技術媒体の世界で活動してきました。日本のものづくり界の厳しい状況は、組込み機器の世界も容赦なく襲っています。厳しい状況が続くと、技術者が育たなくなります。そこで、組込み機器開発の基本であるセンシングと制御に関して、一般の方々の経験値とスキルと知識を楽しく底上げすべく、仲間たちとユニット「センス・オブ・センシング」を結成しました。
私たちは、今回のサイエンスアゴラ2011に、展示者としては初めて参加しました。演目は11/19のワークショップ「回して測ろう! はじめてのデジタル計測」。独自開発の教材「まわすくん」を使用します。
(動画:「まわすくん」の動作のようす
https://picasaweb.google.com/lh/photo/IZeEe7j15dt3CjhaFBzuSQ
https://picasaweb.google.com/lh/photo/iHTahYreP-KBBHThNEJxZA )
最大の問題は、お客様が来てくださるかどうかです。私たちに割り当てられた会場は、メイン会
場から離れており、自然な人の流れからの来場は期待できません。そこで、お昼からのワークショップの前に、メイン会場でチラシを配布しましたが、当日(11/19)は大雨。チラシを配布するだけで一苦労でした。
「誰も来なかったらどうしよう?」と危惧しながら、ワークショップの開始準備をしていたところ、「あの、入ってよろしいですか?」と男性の声。若いご夫妻と女の子二人(小学二年生・二歳)のご一家でした。
早速「まわすくん」について簡単な説明をし、カウントできる回転数の制限について話したところ、小学二年生のお子さんが自発的に、カウントできるギリギリまで速く回転させてみるという実験を開始。計測にとって、計測限界を知ることは非常に重要な課題なのですが、その計測の基本が、小学二年生のハートをつかんでしまったようです。
(写真:ワークショップのようす
https://picasaweb.google.com/lh/photo/Xy1R4y4H39hmQsNnLQeXyYMVqop-9KoDzPJ-5keFysg
https://picasaweb.google.com/lh/photo/YI0ZOpyjJZ4YAJOgHU2qm4MVqop-9KoDzPJ-5keFysg?feat=directlink)
「まわすくん」の回転数カウントには、通常のLEDを二個用いています。レーザダイオードやCdS光センサを使用すると、取り扱いや廃棄の安全性が確保できなくなるからです。さらに「どういう場合に、LEDでLEDの光を検出できるのか」「どのLEDの組み合わせなら良いのか」といった実験が出来るように、私たちは若干の簡単な道具を用意していました。これら計測原理にかかわる実験もまた、小学二年生のハートをつかんでしまいました。実験に夢中のお子さんを見守りながら、お父様に発光半導体素子の動作原理を説明しました。知的な満足感を得ていただけたようでした。
私たちは、自分たちが開発した「まわすくん」が子どもも大人も満足させている様子を見て、いささか驚いていました。「まわすくん」は、一般の方々の使用を想定した配慮がを除いて、一般的な回転カウンタに過ぎません。見た目が美しいわけでも、面白おかしい動作をするわけでもありません。それなのに? ……きっと「回転数を数える」というデジタル計測の原理とその計測に関わるさまざまな部品やデバイスの動作そのものが、知的関心と知的興奮を呼び起こしたので、子どもも大人も楽しめたのでしょう。
「科学には本当は、子ども向けも大人向けもないのだろう」と実感した貴重なひとときでした。
●石塚隆記 (NPO法人市民科学研究室・理事)
サイエンスアゴラ2011参加報告
今年、はじめて、サイエンスアゴラに参加した。企画委員でもなく、パネリストでもなく、ただ単に、牧野さんの講演を聞いてみたいという理由で参加した。この報告では、参加しようと思った背景、牧野さんの講演の概要、それと参加して感じたことを書きならべてみようと思う。
参加しようと思った背景
1年か2年くらい前に、市民研の理事の横山さんが、サイエンスアゴラで何かの企画をするのだけど、市民研の名前で参加しようと思っている、といったことを言っていて、その時に、初めてサイエンスアゴラという集まりがあることを知ったように思う。当時は、あまり自分とは関係ない集まりかな、という程度で受け流していて、サイエンスアゴラのホームページもチェックしなかったし、参加もしなかった。
ところが、2011年3月11日に東日本大震災が起こって、地震、津波、それと原発事故という、自然災害と人的災害を体験した。特に、原発事故については、自分が経験するなんてことを想像もしたことなかったから、とても慌てた。また、科学技術を勉強してきていながら、地震列島の日本に原発が五十数基も建設されているという状況に注意を払わなかったということに、自分の無力さと無知を感じた。
そんな中、2011年3月21日に、市民研のメーリングリストで、市民研の監事の林さんが、当時国立天文台の牧野さんのホームページを紹介してくれた。牧野さんのホームページでは、福島原発の事故がかなり深刻なものであるという旨のことが、定量的に述べられていた。一方、当時、政府は、今回の原発事故の深刻さはスリーマイル島事故と同程度(INESレベル5)であって、チェルノブイリ事故のようにはなっていない、という見解であった。
それから定期的に、牧野さんのホームページを見るようになった(牧野さんは、ほぼ毎日「牧野の公開用日誌」というホームページをアップデートしている)。実際にご本人にお会いしたことはなかったけれど、原発事故を分析する視点と原子力政策を批判する視点に説得力があった。
牧野さんのホームページで、牧野さんが今年のサイエンスアゴラでお話になるということを知った。テーマは、「スーパーコンピュータは銀河形成の夢を見るか?」というものであった。私は宇宙物理学なんて学問をほとんど勉強したこともなかったし、強い興味すら持ったことがない分野だったけれど、牧野さんご本人を見ることができるいい機会だと思って、参加することにした。
牧野さんの講演の概要
2011年11月20日(日)12時45分から14時15分にかけて、お台場の産総研の会議室で、牧野さんの講演は行われた。ほとんどが宇宙の話だった。終わりから20分くらいが、福島原発事故のお話だった。
宇宙の話は、わかりやすかった。牧野さんは、宇宙研究の歴史、それと現在の研究における問題点、その問題点に対する研究のアプローチを、丁寧に説明してくれた。例えば、宇宙の中心に太陽は存在していないということ、宇宙そのものが膨張しているということ、そういったことを主張している論文の元データやその根拠を説明してくれた。科学を説明する際には、観測結果と仮説の区別、仮説の前提条件、こういったことをはっきり示すことが重要なのだろう。
近年牧野さんを含む研究者のコンピューターシミュにレーションの成果により、銀河の渦巻き構造に対する理解が一歩進んだかもしれないということを、宇宙の話の最後の方でされていた。渦巻き構造を構成する個々の星は一定方向に動いているのではなくて、個々の星はランダムに動いていて、でも全体として見ると渦巻き構造を構成している、それが渦巻き構造についての理解なのだ、と主張するものであった。
原発の話はあまり時間がとれなかったせいか、原発事故が起こった時のシミュレーションの動画を見てほとんど終わりだった。この動画は、福島原発事故前に政府機関が作成したものらしく、ほとんど福島原発事故の事故シーケンスを予言しているものであった。ナレーションの女の人は、たんたんと、「冷却在喪失後1時間で燃料の溶融が始まります、、、ここで溶けた燃料が格納容器を突き破り落下します、、、」と語っていた。
参加して感じたこと
近年、インターネットで情報の発信と受信が行われるのがあたりまえになってきた。視点がオリジナルで、文章の論理が通っていれば、多くの人に有用な情報を提供できるようになってきた。実際に、牧野さんのホームページにより、私は多少なりとも放射線ばく露や日本の原子力政策の歪みについて意識するようになった。
ただ、ネットの世界と現実の世界は違う。目の前で牧野さんが話してくれたから、宇宙についての興味もわいたし、疑問を持つこともできた。サイエンスアゴラというのは、専門家と一般市民を橋渡しする、いい機会を提供するものだと思う。
(2011年11月26日)