~はじめに
私たちの身の回りの電磁波は、周波数の違いによって「低周波」と「高周波」に区別するのが一般的ですが、その高周波はいわゆる「電波」の帯域を含みます。人体への影響を考慮して世界各国でその規制値が設けられています。ただし、全世界で統一した規制が採用されているわけではなく、各国ごとに、強制力のある規制であるもの、自主規制にまかされた「勧告値」、ある領域や対象については規定がないといった場合まで、じつに様々な規制の様態がみられます。規制値の厳しさでみても、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインをそのまま導入するか準拠するかする国が多いとはいえ、その基準値よりもはるかに厳しい規制値を定めている国も少なくはありません。
このような状況のもと、「世界でも最も厳しい規制を持つ地域」として、しばしば言及
されてきたのが、オーストリアのザルツブルグ州です。
ザルツブルグ州のGSMならびにUMTS(ともにヨーロッパを含む約200カ国・地域で
利用されている携帯通信の規格)での予防的な勧告値として、
●1998年にはGSM規格に対して屋外で1.0μW/cm2
●2002 年にはGSM / UM TS規格に対して屋外で 0.001μW/cm2、
屋内で 0.0001μW/cm2
という厳しい規制が提案され、法的拘束力こそないものの、その結果、2002年から2003年頃にはザルツブルグではUMTSの携帯基地局の建設が見送られてきたようです。
しかし、2005年には以下に訳出した文書にみるように、その規制そのものは廃止され、曝露強度を低く抑えるよう最適化をはかりながら携帯通信サービスを全域に網羅する方向で動いています。(例えば2002年の時点で、市内各所でこの勧告値を超える値が計測されていた事実もあり、こうした実態は三浦正悦氏の報告に詳しい。)
規制値の決め方・生かし方を考える上で、この翻訳文書は参考になると思われます。ザルツブルグ市のこの広報文書の存在を知らせてくださった三浦氏、そして翻訳の労をとってくださった永瀬ライマー桂子氏に感謝いたします。(市民研・上田昌文)