食品ナノテクノロジー

投稿者: | 2009年1月3日

写図表あり
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食品ナノテクノロジー
1 食品ナノテクの必要性は?

1-1 (安全でありさえすれば)安くて、手間のかからない、それなりに美味しい食を大量に生み出す技術は、現在の世の中では受け入れられている。つまり、多くの人が加工食を利用している。

1-2 食品加工のどこまでを必要とするかは、なかなか決めがたい。ジャンクフード、ファーストフード、レトルトパウチ等々を”必要””不必要”で線引きするのは難しい。

1-3 食品素材のナノサイズ化は食品のナノテク加工の一部にすぎない。ひょっとすると利用価値が必ずしも大きくない一部かもしれない。「製造工程や保存流通過程での劣化の防止」「食品加工の効率化や管理の向上、コストの低減」「味や食感の調整、特定部位での吸収の調整、添加物機能の拡大、健康食品化」など様々な面が考えられる。『フードナノテクノロジー検討会報告書』(平成20年1月30日開催、JST研究開発戦略センター)では、次の図でその広がりを提示している。

1-4 基本的には、小腸上皮細胞から取り込まれる栄養素はすべてナノサイズにまで分解・分散されて吸収されるので、これまで摂取してきた食品成分[従来成分]に関しては、ナノサイズ化して大きな問題が生じるとは考えにくい。

1-5 従来成分のナノサイズ化は、次の2つのパターンがある。 (1)消化・吸収以外の目的でナノ化している
(2)自然の状態では消化吸収されない・されにくいものを、吸収される・されやすいようにする

1-6 これまで口にしたことがなかったものをナノ化によって”食品化”することも考えられなくはない。例えば、食物繊維を吸収可能な栄養素に変えることができれば、食糧危機への対応策になるとみなされるかもしれない。

1-7 消化吸収のメカニズムはすべてわかっているわけではない。それでも私たちは食べている。ナノ化した食品でも、その効用はある程度はっきり証明することができても、作用メカニズムは解明しきれない点が残るものが多いと思われる。

「必要ない」と言い切るには加工食に対する基本的スタンスの転換が必要なのではないか。

2 食品ナノテクのメリットは?

2-1 メリットは一概には言えない。様々な面があり、しかも消費者・利用者側の価値観と関わる面もある。基本的には、1-3 で示したようなことだと思われる。加工の行き過ぎは、安全面を別にしても、メリットがデメリットに転ずる可能性を持っていないとは言えない。

2-2 消費者の嗜好に合う色彩・香りづけや制御、栄養素への転換や調整や生体吸収性の制御、高効率の乳化(ナノエマルジョン)、高安定性、食品中の危険な病原体を除去する添加物、製造工程での栄養成分やナノ粒子の安定性保持、食品保存用包装の強度やバリアー性の向上、生分解性、腐食や雑菌などを検出するパッケージ技術•センサー技術(味、匂い、毒素検出)、トレーサビリティ技術……などが想定されている。多岐にわたる技術を見渡しながら、「機能強化食品」「栄養補助剤(サプリメント)」「食品添加物」「食品接触器材」(銀のナノ粒子を抗菌剤に使ったまな板など)「包装材」……といった類別を整合性のあるものにしていく必要がある。

2-3 そのためにも、inventory of consumer products(The Project on Emerging Nanotechnologies: Woodrow Wilson International Center for Scholars and the Pew Charitable Trusts)のようなナノテク消費財の総覧目録が求められる。このサイトでは、2008年8月時点で803品目(うち食品関連は80品目)を載せている。日本では、産業技術総合研究所のナノテクノロジー消費者製品一覧があるが、網羅的ではない。

2-4 ある機能についてみればメリットであるけれど、場合によっては全然別の面でデメリットやリスクを生じることがある、という点をどうとらえるかが問題になる。例えば、腐敗を検出するセンサー機能を持たせたパッケージなどは歓迎すべき技術にみえるかもしれないが、包装材中のナノ粒子が食品へ移行して何らかの健康被害を生じる恐れがないとは言えない。

(安全面を確保できれば)メリットはいろいろあるだろう。ただそれが多くの人が受け入れるものになるかどうかは、ケースバイケースで判断するしかないだろう。

3 食品ナノテクのデメリットは?

3-1 様々なナノ粒子の検出・計測技術が確立しないことにはリスクの定量化(安全性試験の十全化)は難しい。

3-2 原則論として、「細胞内に取り込まれることは決してない」ことが確認されない限り、ナノ化された添加剤の類(従来成分をナノ化した食品以外のもの)の使用が拡大すれば、それだけ一層そうした人工な成分に曝露し、取り込んでしまうチャンスも増加する。

3-3 現在、欧米の食品産業で商業的に使用されているナノ物質のうち、たとえば、ナノサイズの二酸化チタン(食品添加物、食品包装の抗菌剤、紫外線保護剤)、銀(包装・容器、まな板、冷蔵庫の抗菌剤、健康食品)、亜鉛(栄養添加物、容器の抗菌剤)、二酸化シリコン(容器包装)などでは、毒性が示されるた動物実験データが存在する。しかしそれらに、実際にヒトがどれだけ曝露し、取り込まれ、毒性を発揮するかは十分に明らかになってはいない。

3-4 製品化やその普及の度合いに違いはあれ、欧米でも日本で現時点で総じて言えることは
(1)工業的に作られたナノ物質が食品、食品添加物、健康食品、食品容器包装として使用される前に求められる、ナノに特化した安全性テストは今のところ存在しない
(2)したがって、現在流通している製品に関しては、安全性について科学的不確実性がある
(3)それを気にする人の中には食べることを望まない人もいるだろう
(4)しかし、食品中及び容器包装中のナノ成分や使用ナノ技術の表示を定めた法律はないので、ナノフリー食品(ナノ粒子を含まないもの、ナノ技術を使っていないもの)を食べるための選択を十分にはなしえない状況に、消費者は置かれている

3-5 (食品関連ではないが)ノーベル賞級の発明で非常に広範な応用が見込まれるナノ物質であるカーボンナノチューブが、アスベストと似た毒性(肺の中皮腫など)を発揮しかねないこと示すデータが最近相次いでいて、その動向が注目される。

3-6 安全面の不確実性に加えて、有効性の面でも、場合によっては十分な検証がないまま商品として流通する恐れがある。いわゆる健康食品やサプリメントの氾濫に見るように、医薬品でないものに対する厳格な法規制は難しく、表示も曖昧なものが多い。無害ではあるものの「ナノ」を謳っていながら実際は何の効用もない、といった商品にどう対処するかを考えておくことも必要であろう。

次のような事態が、デメリットの最たるものだろう。ナノ食品関連商品の無秩序な氾濫が災いして中に健康被害事件を引き起こす粗悪品があり、ナノ食品全体への拒絶感が強まること。安全性が十分に確認されないまま(検査法が確立しないまま)、摂取されるナノ物質が多くなり、その中には深刻な慢性疾患をもたらすものが含まれていることが被害が出てから判明すること。こうしたことをいかにして回避するかがナノテク食品の課題だろう。

4 各国の動向は?

4-1 <国際機関>国連のFAOとWHOがこの問題に関わっている。現在までに規制勧告などを出しているわけではないが、
「生産→加工→流通→消費」のfood chain でナノテクがどう使われるかを整理しつつ、特にその食の安全面への寄与の検討に焦点をあてて、国際的な専門家会議を2009年6月1日~5日に開く(ローマのFAO本部にて)。

4-2 <米国の動向>FDAナノテクノロジー・タスクフォース(TF)の報告書(Nanotechnology:A Report of the U.S. Food and Drug Administration Nanotechnology Task Force, 2007年7月)によれば、FDAは上市前に承認が課されているもの(医薬品、生物製剤、食品添加物、着色料)については規制の権限を持つが、上市前の承認が課されていないもの(一般食品、安全可食成分、サプリメント、化粧品)については、監督をするに十分な権限を持ち合わせていない。(1)現行法の枠内で、(2)科学的知見を蓄積しながら、(3)事業者の自発的取り組みを重視し、(4)ケースバイケースで、対応する傾向が強い。

4-3 <EUにおける動向>EUでは新規食品規則(Regulation (EC) No 258/97 (the ‘Novel Foods Regulation’))の改定案が検討中であり、新規食品の「定義」の中の「新しい生産プロセス」にナノテクが対象となる形で採択される可能性が高そうである。そうなると、ナノテク食品が事前承認(および場合によっては販売後のモニタリング)の対象となる。

4-3 <業界等における自主規制の動き>
・英国土壌協会が自らが認証する有機製品で、ナノ材料の使用を禁止する方針を打ち出した(2008年1月)。  
・スイスの2大生協であるMigrosとCoopが「行為規範(Code of Conduct)」を採択し、食料品ならびに包装の製造業者にナノ製品に関する詳細な情報を提供することを義務づけた(2008年4月)。

4-4 <市民団体などの動向>
・環境団体の「地球の友」は報告書Out of the laboratory and onto our plates: nanotechnology in food and agriculture(2008、翻訳は化学物質問題市民研究会のホームページに掲載)において、(1)表示を義務化、インフォームドチョイスの必要性、企業の透明性の向上の必要性、(2)法制度の見直し(既存の法体系では管理できない、ナノ材料は新たな物質として規制するべき、ナノの定義を300nmにするべき等)、(3)持続可能な食と農の観点の必要性、(4)意思決定には公衆参加が必須、といったことを主張。こうしたことが実現されるまで、ナノ製品市場化の一時的禁止を求めている。
・日本では、ナノトライ実行委員会+北大科学技術コミュニケーター養成ユニットの主催で開かれた「ナノテクノロジーの食品への応用についてのミニコンセンサス会議」によって、参加した一般市民10名による「未来の食への注文」が提言としてまとめられた(2008年10月)。研究開発する側、食品産業への建設的な提言を含んでいて、注目される。

もし「一律の禁止や市場からの引き上げは合理的ではない」とするなら、「不確定要素を残しながら市場化を部分的に許容する」ことになるが、であれば、企業からの情報の開示や商品表示、被害・事故の防止策を含めた、市民の納得のできる、食品へのナノテク応用の推進ならびに規制に関する合理的方針・方策が求められるだろう。

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