「まち歩き」を中核にした総合イベントの可能性(その2)

投稿者: | 2017年2月18日

連載「健康まちづくりとは何か?」 第 2 回

「まち歩き」を中核にした総合イベントの可能性(その2)

上田昌文(NPO 法人市民科学研究室・代表)

●ブラタモリの人気の秘密

NHKの番組「ブラタモリ」が人気だ。この番組の影響で、古地図を買い求める人が増えたとの噂も聞く。いろいろな魅力的な散歩・旅番組があるなかで―筆者も日テレ「ぶらり途中下車の旅」を欠かさず観ている者の一人だ―、この番組が特別な魅力を放っているとすれば、それはどうしてか。

いくつかの理由があると思われるが、おそらく大きいものの一つは、いわば「観光者」としてではなく、「探偵」としてまちを巡るという、探求的な姿勢で番組が作られていることだろう。むろん観光の場合も、名所旧跡や名店など、その来歴を詳しく調べれば興味深い事実がいくらでも掘り起こせるのだが、観光という一過性の体験においては、(ガイドブックに記されたような)定番の情報を自分が表層をなぞるようにして追体験するというのが、主だったスタイルとなりがちだ。「まちのあり様」について、解くべき「謎」ではなく、確認すべき「答」が先に与えられる形となり、それも関係して、「観てきました/行ってきました」という事実を他人と共有することに比重が置かれることにもなる。

もう一つは、古地図を活用して地形や今の街並みから「まちの成り立ち」を読み解く術を伝授しているからだろう。普段私たちは「地図」を街の中の特定の建物や場所を探し当てるための平面の情報として利用しているわけだが、特定のまちに着目して、古く遡った地図を重ねてみると、そのまちを形成するのに与った地形の条件、人口の動態と居住域の変化、それらと関連して成立しただろう産業の様相、都市計画的な政策の影響、宗教や文化の関わり……等々、「なぜここはこうなったの」と古地図を指差してその変化のワケを問うことで、いくつもの「謎」が立ち現れる。それを解く手段はまったく一様ではないが、まちの古老や郷土史家らを訪ね、様々な文献にあたり、推理を働かせながら現地を巡り歩くことで、その「解」に至ることがある。ブラタモリは、おそらく事前の綿密な下調べをふまえてなお、撮影当日にライブ感覚が出るようにしながら、「謎解き」をいくつも織り込んでいる点が、画期的と言えるのだろう。

●「防災まち歩き」からみえること

じつは、「ブラタモリ」の探索的姿勢を保ちつつ、「名所旧跡巡り」の観光でもなく、主軸を歴史の読み解きに置くのでもない、まち歩きが、私はあると考えている。それは「まちを知る」ことのさらにその先の何かを目指したものとなるだろう。

例えば、今各地でいろいろなやり方で試みられている「防災まち歩き」。

ハザードマップも活用して、広域避難所や一避難所、まちの様々な地点に配された防災設備、自治会・町会の消防団の所在地を巡りながら、一旦大きな災害が生じた場合の避難ルートや救助・救援対策を想像してみる。その際に、歩きながら目に入ってくる、住宅や道路・路地、様々な建築物やインフラ施設などを「これは地震や津波に耐え得るのか」「火事が起きたらどうなるのか」「避難路は確保できるのか」……といった視点からとらえてみる。チェックすべき事物を写真に撮り、防災に関わる行政の担当部署の役人や消防団などの話を聞く。そうした多岐にわたる観察と要所要所での聞き取りをふまえて、まち歩きに参加した者が一緒にまちの防災のあり方について議論し、防災意識の向上と防災対策の具体的な改善につなげる。

ここには、「まち歩き」が持っている総合的な機能性が端的に現れているように思える。すなわち、第一に「机上の知識(例えば行政の「防災計画・対策」や災害の科学的知見)」を「具体的な行動」に展開させるために、どうしても必要となる、「本気で備えなければこれはまずいぞ」という切迫感が生まれる。また第二に、「計画・対策」の不備や運用の難しさを自覚することで、行政へのおまかせから脱却した住民と行政、あるいは住民どうし(地元の企業や事業所なども含まれることがあるだろう)の「共助」の姿を思い描くきっかっけになる。そして第三に、1 回のまち歩きはせいぜい長くて3 時間程度で終わらざるを得ないだろうから、「エリアやルートを変えて何度も実施する」という継続性が求められることになり、そのことで、より多くの住民が参加していくことになる。別の言葉でこれらを整理するなら、「住民自身の防災意識」が高まり、「防災における住民の主体性」が強まり、「防災活動への住民の参加」が広がる、ということになるだろう。

そしてこれを敷衍するなら、まち歩きは、やりようによっては、“我がまちに住まう意識”(=「自分のまちはこの先どうなってしまうのだろうか」)を高め、住民どうしがつながりながら事にあたることの可能性を感知させ、またそうなる人を次第に増やしていく、という「まちづくり」には欠かせないだろう効用を持つ、と言えそうなのだ。

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