フェアトレードタウンに何を学ぶか

投稿者: | 2021年11月3日
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フェアトレードタウンに何を学ぶか

杉野実  (市民科学研究室・理事)

 

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「フェアトレード」とは、「主として発展途上国の物産生産者との公正な取引をめざす運動」のことである。「科学技術と社会の関係を考える」市民科学研究室においても、「食と農の市民談話会」などに触発されたのか、このフェアトレードに関心を示す会員が(いまのところ一部にかぎられているが)いるようだ。フェアトレードを熱心にすすめ、「フェアトレードタウン」を名乗っている地方自治体が世界にある。それに認定される基準は相当きびしいのではないかと思う方が多いかもしれない。だが「日本フェアトレードフォーラム」のホームページによると、6か条からなる基準はゆるやかともいえるものであり、少なくとも量的にきちんとした指標は採用されていない(1)。いまいった基準のなかに「自治体による支持と普及」というのがあって、たとえば名古屋ではニカラグアの「フェアトレード認証」ゴマが学校給食に採用されたりしている(2)が、そういった関係者の積極的な姿勢が実際にみられると「認定」されることが重要なようである。日本最初の「フェアトレードタウン」熊本で、地元社会福祉法人も参画してフィリピン・ネグロス島の砂糖を用いたクッキーが製造販売されている(3)ように、(障碍者等)福祉団体が関与している例も多い。筆者が特におもしろいと思ったのは札幌の例で、そこでは札幌学院大学の学生サークルが地元企業「エシカル・タイム」と共同して、スリランカのシナモン・ガーナのカカオ・アルゼンチンの蜂蜜にくわえて、地元北海道産の黒米・もちきびを用いた菓子を開発したという(4)。まだフェアトレードタウンに認証されていない千葉市でも、注目すべき活動がおこなわれている。同市でペルー生産者の「顔が見えるコーヒー」を販売しているのは、喫茶店「れたす」・NPO「はあもにい」・「軒先珈琲まちライブラリー」にくわえ、「千葉大学グローバルボランティア」という「授業」(に参加する学生)なのである(5)。

冒頭でフェアトレードを、「発展途上国との公正な取引をめざす運動」と定義した。それが正しいなら発展途上国はもっぱら助けられる側であることになり、実際フェアトレードタウンは先進国に圧倒的に多い。だがちがう例もある。アジアで認証フェアトレードタウンをもつ、日韓以外の2カ国のうちのひとつレバノン(あと1国はインド)のメンジェスは、以前から環境保全に熱心にとりくんできたが、いまでは地元の協同組合が砂漠化をふせぐために、ココアに類似したイナゴマメの栽培と製品開発をすすめているという(6)。「共産圏」から「市場移行経済諸国」と名が変わった東欧は、いまでも先進国といえるかどうか微妙であろうか。実際この地域にフェアトレードタウンは多くはないが、チェコのリトムジーチェでは、ポズナニ(ポーランド)やハノーバー(ドイツ、いずれもフェアトレードタウン)とも提携して、「フェアな朝食」などの住民行事をおこない、また地元NGO「シャインビーンズ」とも提携して、ケニアでの小学校建設を支援している(7)。同じチェコのヴェセティンでは多くの小学校がフェアトレード運動に参加している(8)が、学校の参加を特に強調する例はエクアドルのリオバンバ(9)などでもみられる。フェアトレードタウンにはそれ以外の社会活動もさかんな例が少なくない。たとえば「フェアトレードコーヒー協同組合」をもつカナダのウルフヴィルは、反核運動やスローフード運動もさかんで、映画製作などの文化活動もおこなわれていると紹介されている(10)。

「市民科学研究室」ということを多分に意識して、普通とはかなりちがうであろうしかたで、「日本と世界の」フェアトレード運動をかけ足で紹介してみた。この運動から市民科学研究室が学べることは、とりあえず二点あると筆者は思う。まず最近ではSDGs(持続可能な開発目標)などが注目され、「開発は途上国の問題か」・「環境は先進国の問題か」などと議論すること自体が無意味とされつつあるが、フェアトレード運動もまたその流れの中にある。レバノン・メンジェスの環境保全「自助努力」なども無論貴重なこころみであるが、筆者としてはそれと同時に、アジア・アフリカ・ラテンアメリカと地元北海道の産品を用いた札幌の「合作」菓子などの例にも注目したいのである。フェアトレードそのものにどこまでふみこむかについては議論もあろうが、「地域の特性に合った食糧(や他の物品)生産」という方向は、市民科学研究室にも適合するところがあると考える。そしてもうひとつ学ぶべきことがあるとすれば、それは「フェアトレード運動の参加者は非常に多様である」という点であろう。「反核とスローフードと映画の」ウルフヴィルなどとても楽しそうであるが、筆者がそれ以上に(地元贔屓ではなく)注目したいのが、普通なら団体と認識されることさえない大学の「授業」が、商店やNPOとならんで活動に参加した千葉市の例である。フェアトレードといえば障壁が高そうだが、実際には参入は容易である。退出も容易である、ともあえていっておこうか。あとは自発性を重んじる市民科学研究室らしく、この運動にどうかかわるかは、会員のみなさまにそれぞれに考えていただければいいと思う。

1. https://fairtrade-forum-japan.org/fairtradetown/standard
2. https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/nagoya
3. https://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details/kumamoto
4. https://www.u-presscenter.jp/article/post-44012.html
5. https://ftchiba.net/chibacoffee/
6. https://www.fairtradelebanon.org/en/stores/north-lebanon/menjez-cooperative
7. https://www.fairtradeovamesta.cz/litomerice (和訳して参照)
8. https://www.fairtradeovamesta.cz/vsetin (和訳して参照)
9. http://www.fairtradetowns.org/resources/goals-action-guides/307-asfd-z
10. https://www.virarail.ca/sites/all/files/media/pdfs/via_destinations/2008/vol5n2/via_destinations_200804_p28b.pdf

 

 

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