「食と農の市民談話会」を振り返って

投稿者: | 2022年9月12日

「食と農の市民談話会」を振り返って

中田哲也 
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」主宰 https://food-mileage.jp/

全文のPDFはこちらから

 

現在の日本の食と農は、国内供給力のぜい弱化や食品ロスの大量発生など多くの深刻な課題を抱えている。

これらの背景には、食(食卓)と農(生産現場)との間の距離が離れてしまっていることがある。産地や生産者の姿が見えなくなった消費者にとって、今や食べものは単にお金を出せば買える「商品」に成り下がってしまった結果、食べものを大切にし、生産者を敬い、さらには食べものをもたらしてくれる自然や環境を畏敬する気持ちが失われつつある。

課題解決のためには、今や圧倒的大多数となった都市に住む消費者が、食や農に関わる問題を「自分ゴト」として捉えられるようになることが必要である。つまり離れてしまった食と農の間の距離を再び縮めることが必要であり、そのためには、消費者と生産者相互の「顔の見える関係づくり」(信頼関係の醸成)が有効であると考えられる。

「食と農の市民談話会」(以下、「談話会」という。)の開催は、そのきっかけづくりのための一つの試みであった。以下、その概要について、反省点も含めて整理しておきたい。

なお、必ずしも市民科学とはそぐわない面もある食と農を取り上げたことについては、市民研会員である私個人の思いもあった。それは、市民研の活動の幅を広げることによって、市民研に対する認知度の向上につなげられないかというものであった。毎回、私から知人に積極的に声を掛け、今まで市民研という名前も知らなかった多くの方に参加頂いたし、会員になって下さった方もいた。誠にささやかではあるが、市民研に貢献できた面もあったのではないかと自負している。

 

1 開催の概要

談話会は、2021年6月から22年3月の間、毎月1回(火曜日の19時から)、全9回にわたって開催した(なお、2022年12月には番外編として「放談会」を開催)。毎回、ボランティアでお願いした講師の方から話題提供を頂き、それをもとに参加者との間で質疑応答・意見交換を行った。

開催はオンライン(zoom)により行い、市民研正会員を除いて有料(500円/回)であったが、講師が魅力的な方ばかりであったこともあり、毎回、20名を超える方に参加頂いた。

 

2 各回の内容

各回のテーマ及び講師、並びに講師からの主なメッセージは以下の通りであった(肩書は当時。文責・中田)。

[第1回]2021年6月8日(火)「1億農ライフ~都市のわたし達による食の革命」

小谷あゆみさん(農ジャーナリスト、ベジアナ)

(写真は当日の講師による資料による。以下同じ。)

世界中の都市でも「耕す」動きが拡がっている。私たちの健康は地球の健康にもつながる。
都市農業は地方の産地のことを知る玄関口。
自分で農を体験し感動すること(農ライフ)で、食や農のことを自分ゴトにすることができる。みんなが農に携わる『ニュー農マル』の時代が来た。都市に住む私たちから食や農を変えていこう。
(詳細)https://food-mileage.jp/2021/06/12/blog-320/

[第2回]7月13日(火)「私が帰還困難区域で牛を飼う理由」

谷さつきさん(もーもーガーデン、(一社)ふるさとと心を守る友の会、福島・大熊町)

大震災と原発事故を奇跡的に乗り越えた牛たちが草を食む力で、農地や環境が再生されている。飼料を自給すると同時に、海外を含む環境を保護することにつながっている。
最も困難な場所(課題先進地)で実現できている取組みを、『未来のモデル』として国内外に向けて発信していきたい。

(詳細)https://food-mileage.jp/2021/07/18/blog-326/

 

[第3回]8月10日(火)「現場から見える日本の食、農の課題」

榊田みどりさん(農業ジャーナリスト)

対立ではなく理解・共生を目指し、都市農家のなかから農業体験農園など新しいスタイルが生まれ、全国に拡がりつつある。人口減少時代に入り、都市農地は、防災面も含めて多様な役割を果たしているものとして見直されつつあり、都市計画にも積極的に位置づけられるようになっている。
都市と農村の心地よい関係について、もう一度考えたい。

(詳細)https://food-mileage.jp/2021/08/14/blog-328/

 

[第4回]9月7日(火)「農山村に誘われた10年~「世界農業遺産」認定地域の魅力~」

大和田順子さん(同志社大学ソーシャル・イノベーションコース教授)


世界/日本各地の農業遺産地区には、それぞれ固有の技術や知恵がある。
農村には、生きものの賑わいや環境と共生する農があり、人の生活と自然が共鳴している。精神性、生き方も美しく感じられる。
そのような価値を可視化し伝えていく活動を、これからも続けていきたい。

(詳細)https://food-mileage.jp/2021/09/12/blog-333/

 

[第5回]10月5日(火)「私が巻き寿司に巻き込んでいるもの」

八幡名子さん(巻き寿司やさん、東京・八王子)


以前は食べものの産地等には関心がなかったが、『東北食べる通信』をきっかけに、食べものは人が作っているという当たり前のことを知り衝撃を受けた。消費者は生産者をもっと知るべき。

2021年1月にオープンした『巻き寿司やさん』では、地元の伝統野菜など生産者からお預かりした大切な食材を巻き寿司にして、多くの人に農家さんの思いを伝えていきたい。

(詳細)https://food-mileage.jp/2021/10/11/blog-339/

 

[第6回]11月 9日(火)「食と資本主義の歴史ー人も自然も壊さない経済とは?」

平賀 緑さん(京都橘大学准教授)

資本主義的食料システムが歴史的にどのように形成されてきたかを理解し、食料システムを地域に根差したものに変えていくことが必要。
「経世済民」という言葉が、自然の恵みである農と生命の糧である食と、それを支える地域社会経済とを取り戻すきっかけになればと願っている。

(詳細)https://food-mileage.jp/2021/11/22/blog-347/

 

[第7回]2022年1月18日(火)「有機農業の意義と可能性」

浅見彰宏さん(福島・喜多方市山都、福島県有機農業ネットワーク理事長)


山間地で小規模な有機農業を行っている。山間地農業は、生物多様性の維持、保水や水源の涵養など多くの社会的役割があり、世界的にも家族農業や小農が再評価されている。
ボランティア導入により関係人口が増加している。安全だけを重視しない自立・利他の消費者を増やしていくことが課題。

(詳細)https://food-mileage.jp/2022/01/25/blog-360/

 

[第8回]2月15日(火)「四季の移り変わりが美しい新潟で暮らしながら働くこと」

赤木(谷内)美名子さん(新潟・上越市大賀、農業、もんぺ製作所)


山間部に移住して、大雪など不便で思い通りにならない生活が格好いいと思うようになった。生きていく術を学ぶことができる。主食のお米を始め自分が食べるものを自分で作ることの幸せも感じている。
ぜひ、大賀に足を運んで頂きたい。

(詳細)https://food-mileage.jp/2022/02/21/blog-365/

 

[第9回]3月15日(火)「川湊の暮らし・港町の仕事」

森 歩(あゆみ)さん(兵庫・豊岡市、但馬漁業協同組合(JF但馬)勤務)

兵庫県の日本海側に移住して、改めて東京の新しい良さも見えてきた。
交流することで消費者も変わるが、農家や漁師さんなど作る側の人も変わっていく。つながることで双方が誠実になれる。これからも消費者と生産者・産地をつなげていくという視点を大切にして活動していきたい。

(詳細)https://food-mileage.jp/2022/03/21/blog-368/

 

【続きは上記PDFでお読みください】

 

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