21世紀にふさわしい経済学を求めて 第2回

投稿者: | 2018年5月19日

連載 
21世紀にふさわしい経済学を求めて
第2回

桑垣 豊
(NPO法人市民科学研究室・特任研究員)

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1-3 経済学批判よりも新しい経済学の構築を

 既存経済学の問題点をいくつかあげた。これらは、あくまでも私がそのように評価するということであって、既存経済学の延長でうまく行く道があるなら、むしろその完成を願っている。私は、その可能性が低いと考えているだけであって、不可能であると判断しているわけではない。私は、もともと環境問題を解決するのに、実用に耐える経済学を使いたいと考えていた。私がやらなくても、既存経済学の延長でそのような経済学ができるなら、それを使いたい。

 一方、新しい経済学をめざす人は少なからずいるが、目的論、精神論に終わりがちではないか、と述べた。

 この連載の目的は批判ではなくて、新しい経済学を提案することである。今の経済学をどう思うか、この連載を趣旨をあきらかにするために、批判的なことを述べた。批判せずに本論に入ると、経済学にくわしくない方には、常識的なことを書いているだけに見えるかも知れない。それをさけるために、批判的なことを述べさせていただいた。以下に述べることは、経済学以外の各分野の基礎的な知識を組み合わせただけで、独自の知識はほとんどない。独創性があるとすれば、その組み合わせ方であろう。

 批判的なことを書くと、今までの経緯や立場から、この連載を冷静に読んでいただけない可能性が高い。ここから先は、批判はやめて、望ましい経済学はどうあるべきか、どのようなものかを論じたい。有名経済学者の名前を出すと、学説史として正しいのかどうかに終始することになるので、それもなるべくさける。有名経済学者の名前を出さなくても、新しい経済学について論じるのに、なぜかあまり困らない。

1-4 経済学の方法論を提案する

 まず、一国単位のマクロ経済学を考える。マクロ経済学という言い方には問題があるが、ここは既存経済学にしたがっておく。直接、経済政策につながる経済学である。

 人口に比べて生産力が足りなければ、貧しくなる。「供給不足」による不況である。ただし、不況というのは、景気がいいときと比べて経済が落ち込んだときのことをいうのであって、ただ貧しいのは不況ではないのかも知れない。しかし、不況と呼ぶかどうは別として、供給不足が経済を悪くするのは、常識的な考えである。これも不況の一種と考えることにする。主流派経済学の新古典派経済学は、不況の原因を供給不足に求める。

 それに対して、生産関連の設備投資が多すぎて、工場やビルなどの稼動率が下がり不況になることがある。これが、「需要不足」による不況である。ケインズ経済学の立場である。常識には反する考えなので、今でも新古典派経済学は基本的には認めていない。ただし、近代以前から「豊作貧乏」という概念はあったので、過剰生産というとらえ方はあった。

 これらを総合して、総需要と総供給の大小で不況の型をわけて、それぞれに対策の候補をあげることができる。どちらが正しいか、とは考えない。これを、「需給ギャップの経済学」と呼ぼう。

第2章 需給ギャップの経済学 保存則と因果律

2-1 需給ギャップの算出方法

 総需要と総供給の差を、「需給ギャップ」とか「GDPギャップ」と言う。日本全体でどのくらいになるか、内閣府や日本銀行、民間研究機関がそれぞれ算出している。内閣府はGDPなどの詳しい統計を、国民経済計算として毎年発表している。国民経済計算は、だれでもホームページで見ることができる。日銀の統計は、金融政策の基礎とするために整えているもので、これもホームページで見られる。

 計算方法は、まず、日本中の生産設備を稼動率100%でフル稼働させ、就業率100%(失業率0%)で生産すると、どれくらいになるかを算出する。これが潜在GDPである。この潜在GDPで、実際のGDPと潜在GDPの差を割り算して、%であらわしたものが需給ギャップ率である。需要不足のときに、プラスになるよう計算する。

 需給ギャップ率=(潜在GDP-現実のGDP)÷潜在GDP

 既存統計にはなく新たに計算が必要なのは、「潜在GDP」である。潜在GDPを求めるには、生産設備の稼動率と、就業率を求める必要がある。これらは、すでに統計がある。実際には、分野別の統計などを使って細かい計算をする。失業率では人数単位しかわからないので、労働時間を使う。過去10年や20年の、最大稼動率・最大総労働時間を上限として、潜在GDPを求める。稼動率や就業率の元データは、相対値なので100のときが最大であるとは限らない。それで、何年かの間の最大値を100%として産出する。

 ところで、需給ギャップがマイナスのときは、稼動率や就業率が上限の100%にはりついてしまうので上記の方法では計算ができない。物価や賃金の上昇、設備投資の増大などを参照して産出する。

 需給ギャップのプラスが大きければ、需要不足が深刻であることを示す。判断は割合(%)でするが、対策を考えるときは金額(潜在GDP-現実のGDP)でとらえる。もっとも直接的な対策は国の財政出動で、歳出を何兆円増やすかが問題なので金額表示が重要となる。需給ギャップと同額をそのまま財政出動するわけではないが、大きな目安になる。もっとも新しい例では、2009年民主党政権で亀井静金融担当大臣が第3次補正予算で9兆円の財政出動した例がある。これが、リーマンショック後の日本経済が崩壊するのを防いだ。亀井氏は、珍しく生きた経済を理解する政治家だった。予算の内容は、生活道路や橋の補修費だったので、中小企業に恩恵があるものであった。

 ただし、9兆円2%の需給ギャップは過小評価ではないかと思える。これには、2000年前後に計算方法を変えた影響である。需給ギャップが決して大きな値にならない計算方法に、変えてしまったのである。それでも+2%を示したのだから、リーマンショックの大きさがわかる。くわしくはコラムにゆずる。

【続きは上記PDFで】

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