JR北海道の事故・不祥事多発を考える
上村光弘(市民研・理事)
図表入りのpdfファイルはこちらから→csijnewsletter_022_koumura.pdf
このところJR北海道で事故・不祥事が多発している(表1)。特急北斗のエンジントラブルについては過去3回も連続しており、半年以上の期間があったにもかかわらず十分な対策が講じられていないことを示している。また、2013年9月以降、鉄道の安全にとってあってはならないはずのレール幅異常が多数見つかった。さらに11月には、長年のレール幅検査値の改ざんが発覚した。改ざんは以前から日常的であったと報じられている。
これらの事故・不祥事に対する安全対策として、とうとうJR北海道は特急列車の減便減速に踏み切らざるを得なくなってしまった。鉄道離れが加速し、JR北海道は大幅な減益になるだろうと予測されている。また、北海道観光や物流に多大な影響が出ることも懸念されている。
厳しい経営基盤
1987年の国鉄分割民営化によるJR北海道発足以来、鉄道事業は赤字である。採算の取れる輸送密度は8千人/日とされているが、JR北海道の路線長約2500kmのうち、この採算ライン以上の区間は札幌-小樽など13%のみである。また、国鉄時代であれば廃止対象になった輸送密度4千人/日未満の路線が66%を占める。2007年~2012年にわたるJR北海道の経営成績を図1に示した。「単体営業損益」がほぼ鉄道事業の利益を表わしていると考えてよい。各年ともほぼ300億円の赤字である。
この赤字を埋めるのが、JR北海道発足時に用意された経営安定化基金6822億円の運用益と、2011年に受けた鉄道・運輸機構の特別債権2200億円の利息である。この基金等の穴埋めの結果が「単体経常利益」にほぼ相当する(図1)。しかし、この穴埋めをした後でも平均してほぼ10億円弱の赤字になっている。物販等を含めたグループ全体の連結決算でようやく黒字となる。
JR北海道は三大都市圏のような大きな収益基盤を持たない。さらに路線は長い上に雪などの自然条件が厳しく設備の痛みも激しい。修繕費は鉄道収入の8~10%にもなり、JR全社平均の約2倍である。また、北海道の人口は1995年の約570万人をピークとしてすでに減少に転じている。さらに移動距離が長いことから高速道路や旅客機との競争も厳しい。今後とも鉄道輸送について黒字化は望めそうにない。
保守の現場で起きていること
厳しい経営状況は保守の人員にも影響している。JR北海道発足時に採用を抑制したため、40代の社員が極端に少ない。このことが技術の伝承を妨げる要因になっている。加えて経費削減を目的とした外注化が進んでいるため、細部にまで目配りができていない。鉄道事業での収益増加が見込めないことから副業重視の経営となっており、鉄道現場の声が中央に届きにくくなっている。
野島誠社長は否定したが、保守作業員の人数も足りていないようだ。表2によれば、現在、保線担当者数は約780人であり、JR四国よりも路線長あたりの保線担当者は多い。しかし、報道によれば、厳しい自然条件に加え、出勤日数の少ない社員や新人も増えているとの社員の声もあり(「北海道新聞」2013年9月27付朝刊)、十分であるとは言えないようである。
さらに、資材の供給も滞り勝ちとの指摘もある。枕木は狂いやすい木製が他のJR各社より多く使用されている。コンクリート枕木の比率はJR四国で54%、JR北海道で41%となっている(「北海道新聞」2013年11月10日付朝刊)。自然条件を考えれば逆であってもおかしくないはずだ。また予算の制約から、交換用の本数も十分届かないという状況もあるようだ。
資材も届かず人員も足りない状況が、日常的な線路幅の改ざんで自転車操業的なつじつま合わせを保線の現場に強いている可能性もありそうだ。
解決策はあるか?
先述したように、発足当初からJR北海道は不採算であることが前提だった。このため経営安定化基金という支援の枠組みが国によって用意された。しかし、低金利時代で現在の運用益は当初の半額ほどに過ぎなくなっている。副業重視で収益をあげることを目指したが、今回の一連の事故・不祥事は、このこと自体が本業の鉄道事業の軽視につながっている可能性すら示しているようだ。また、図1からわかるように、単体の利益と連結の利益は相関がある。鉄道事業の落ち込みは、グループ全体の落ち込みにつながっている。
単純に採算性を重視すれば赤字路線は切り捨てるという選択になる。しかし、公共交通という使命がある以上、誰が負担するかという問題は残るが、何らかの支援を考えざるを得ないと思われる。
もっとも、同じく経営の厳しいJR四国との対比をしてみると、興味深いことがわかる。例えば前述したように狂いの出にくいコンクリート枕木の採用率はJR四国の方が高い。2005年の尼崎JR脱線事故を受けて2016年半ばまでに設置が義務化されたATSの設置率を見ても、JR四国が96%なのに対してJR北海道は未だ33%である(「北海道新聞」2013年10月11日付朝刊)。維持費のかさむ旧国鉄型車両の保有率も、JR四国が19.9%に対してJR北海道は28.3%である。経営が厳しい中でも、JR四国は保守作業の軽減に寄与する設備投資や安全面にお金をかけている。自然環境が厳しいからこそ、この点はJR四国を見習うべきではないだろうか。
この問題の解決には、まず、トップの意識改革が必要だろう。しかし国や自治体の支援なしには立ちゆかないこともまた事実である。支援を仰ぎつつ、設備の改良と作業の合理化を進める方策が求められる。また長年の間に低下しているだろう現場の志気を高めることも必須である。
※以上の文章は、主として北海道新聞 2013年7月~11月を参考にしました。
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