文献紹介と解説 「チェルノブイリ 今も続く惨事」

投稿者: | 2014年1月21日

チェルノブイリの文献紹介と解説
~『チェルノブイリ-今も続く惨事』(国連人道問題調整事務所、2000年)~
吉田由布子(「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク)

pdfファイルはこちらから→csijnewsletter_022_yoshida_01.pdf

今回紹介するのは、2000年に国連人道問題調整事務所(UN-OCHA)がまとめた報告書(冊子)『チェルノブイリ-今も続く惨事』を訳したものです(別紙参照)。それまでも、チェルノブイリ原発事故による健康影響をめぐって国際的に評価が一致しているわけではありませんでしたが、この報告書をめぐっても「事件」が生じました。フクシマ後の日本と重ね合わせて、当時の状況について若干の説明をしたいと思います。

OCHAのこの報告書は、チェルノブイリ原発事故に関連した国連内での支援が漸減している状況の中で、「チェルノブイリにスポットライトを取り戻し、人々にこの悲劇的事故の被害者がどれほど人々の助けを必要としているかを思い出させることを目的として」(p3)、事故14周年を期して、国連加盟国やNGO などに今ひとたびの援助を訴えたものです。当時の国連事務総長コフィ・アナン氏が序文を寄せ、国際社会が「人生を破壊されたり乱されたりしている人々を助けるという人道的な義務感を心に抱いて核の事故に対する対応を再考するよう」訴えています(p2)。

また、”チェルノブイリの被害者への援助は、将来起こる災害から人々を守ることにつながる”(p14)という項では、その前年に起きた日本の東海村JCO事故についても触れ、「将来の核事故を防ぎ、また万一事故が起こったとき、それに有効に対処するためにチェルノブイリ事故から学ぶべきことは膨大にある」と述べられています。

OCHA報告に対するUNSCEARの批判、UNSCEAR報告に対するベラルーシ・ウクライナの批判が飛び交う
この報告書が発表されると、イギリスの科学誌ランセットは5月号で「国連の報告書は、チェルノブイリの影響は悪化していると述べている」と概要を紹介しました。(”Chernobyl effects worsening, says UN report”, Lancet 2000,355:p1625)。

この直後の6月6日、国連原子放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)は国連総会へ提出する2000年報告書の内容概略についてプレス発表しました。住民の健康に関しては、「小児甲状腺癌を除けば、放射線被曝を原因とした一般住民への目立った健康影響を示す証拠はない。放射線被曝に関連したすべての癌の発生率/死亡率、あるいは非悪性の病気の増加を示す科学的証拠はない」というものでした。そして発表と同時に、同委員会委員長であるLars-Erik Holm氏は、国連事務総長に対し「『チェルノブイリ-今も続く惨事』と題するOCHAの報告書は、科学的評価を受けていない、根拠のない主張である」こと、そしてUNSCEARがまもなく国連総会に提出する報告書(UNSCEAR2000, Source, effects and risks of ionizing radiation. 付属書Annex J: Exposures and effects of the Chernobyl accident)の内容に注目すべきであるというアピールの文書を出しています。またHolm氏はランセット誌に対してもほぼ同様の批判を投稿し、同誌7月号に掲載されました。ただしこのときの肩書きはUNSCEAR委員長ではなく、スウェーデン放射線防護機関事務局長としてでした(”Chernobyl effects”, Lancet 2000,356:p344)。

IAEA(国際原子力機関)も1週間後の6月13日にプレス発表を行い、UNSCEARの結論はIAEAがチェルノブイリ事故10周年のときに出した結論と同様であると述べています。
一方、ベラルーシとウクライナからは、「UNSCAERは当事国の科学者のロシア語やウクライナ語による膨大な報告を無視したり、解釈を歪曲したりしている」というUNSCEARの報告書に対する強い批判がなされました(市民研通信 2013年9月号でベラルーシからのアピールを紹介 )。(UNSCEARは基本的に英語論文しか評価していません)

【続きは上記pdfファイルをお読みください】

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