土のバーチャル博物館 その2 金沢21世紀美術館

投稿者: | 2005年1月4日

森 元之
pdf版はwatersoil_005.pdf
 2004年10月に開館したばかりの金沢21世紀美術館(注1)は、巨大な円形の建物で、それ自体が未来美術品という印象です(写真①)。内部もガラスや白い壁によって大小の展示室に分割されており、迷路のようです。今回の旅では、開館記念展「21世紀の出会いー共鳴、ここ・から」を訪ねました。
21世紀はボーダーレス
 まず全体として感じたのは、「21世紀は博物館・美術館・科学館などがボーダーレスになる時代なんだな」という印象です。というのも今回の展覧会では、旧来の平面絵画や彫刻、写真、金沢という土地柄による伝統工芸の技法を生かした作品のほか、いくつもの「インスタレーション」作品(注2)があり、さらには音響や映像との組み合わせ、コンピュータ・グラフィックス、生きた植物を利用した展示などもありました。
 一番驚いたのは「光造形樹脂」で作られた「全置換型人工心臓」(川崎和男)が展示されていたことです(川崎氏はデザインディレクターであり医学博士の経歴を持っています)。人工心臓の模型が医療器具の展示場ではなくアートの文脈に置かれているのは、一見場違いですが、しかしその純粋なまでの機能美と技術の高さから判断すると、至極当然のことのように感じられました。
 中には、エネルギー問題やエコロジーへの志向を秘めている作品、あるいは日本のアニメ・オタク文化から影響を受けた作品もありました。ジャンルも展示スタイルも、そしてハード・ソフト両面の器である博物館、美術館、科学館という旧来の枠組みも、すでに区分けすることがいかに無意味な時代になっているかを強く感じました。「土のバーチャル博物館」はまさしくボーダーレスにならざるを得ない企画ですから、時代の追い風を感じます。トイレルームの中にまで小さな作品が展示されているアイデアなどは、最初は驚き、その後微笑んでしまいましたが、きっとどこかで使えそうです。
「土のプラネタリウム」のヒント 
 展示してある作品はどれも魅力あるものでしたが、誌面の関係で2つの作品を紹介しましょう。1つは「ブレインフォレスト」(ゲルダ・シュタイナー&ユルグ・レンツリンガー)です(写真②)。「天井高12mの展示室一体を覆うこの『森』は、脳内の神経系ネットワークシステムと生態系の多様性の融合をテーマとしたインスタレーション」です。脳内の神経網のように、自然の植物(様々な樹木の枝、流木やつた類)、電気コード、プラスチックのおもちゃ、人形などの人工物が糸・針金・接着剤・紐などで結び付けられています。確かにその展示室にいると、誰かの脳内に入り込んで、その人の思考や思い出の断片がどのように配置され、つながっているのかを垣間見ているような印象を受けました。
 もう1つは「スイミング・プール」(レアンドロ・エルリッヒ)という恒久設置作品です(写真③)。前述の「ブレインフォレスト」の出口から階段を降りて地下通路を抜けた先にプールがあり、そこが中庭に造られたプールになっています。表面には水が波打つ仕掛けがしてあります。つまり、プールにもぐって水面を通して空を見上げる体験を、服を着たまま体を濡らすことなく、誰もができる仕組みになっているのです。
 この二つの作品から、土の中を疑似体験できる仕掛けができないかと考えました。それが、ちょうどメンバーの一人である後藤高暁さんから提案のあった「土のプラネタリウム」という考えと結びつきます。宇宙の星を見るプラネタリウム、人間の神経網を体感できる「ブレインフォレスト」、そして水に濡れないで水中からの視点が得られる「スイミング・プール」。これらのアイデアを組み合わせれば「土のプラネタリウム」も実現可能なことの射程範囲に入っていると感じました。
 次回は青森の三内丸山遺跡の訪問記です。
※本記事掲載の写真を快くご提供くださいました金沢21世紀美術館様に、心から感謝申し上げます(編集部)
(注1) http://kanazawa21.jp/
(注2)「インスタレーション」とは、1970年代以降アート分野に出現した動き・概念。展示空間に応じて作品を作ったり構成したりするスタイルで、時には作品に触れることもできる。また、作品内部に入ることができる大きな仕掛けの場合もあり、そのため同じ状態のものは1回しか作れないこともある。
【参考文献】金沢21世紀美術館『21世紀の出会いー共鳴、ここ・から 展覧会ガイド』
▲写真②「ブレインフォレスト」(ゲルダ・シュタイナー&ユルグ・レンツリンガー)
 (写真提供:金沢21世紀美術館)
▼写真③「スイミング・プール」
  (レアンドロ・エルリッヒ)   (写真提供:金沢21世紀美術館)
(どよう便り 83号 2005年1月)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA