名古屋大学 第3回環境学創造ワークショップ「市民と大学の連携を探る」メモ

投稿者: | 2001年4月1日

高野雅夫

3月2日(金)の午後、名古屋大学工学部4号館建築学専攻輪講室にて、上記のシンポジウムが開かれました。名古屋大学では大学改革の柱の一つとして、今年4月から文・理・工融合型の大学院環境学研究科が創設され、そこでの研究体制作りをすすめるにあたって、これまでの学問研究と大学のあり方を根本的に見直すという問題意識のもとに、「環境学」とはいかなる学問であり、あるべきかを学外の人々を交えて探っていく試みが始まりました。これは、土曜講座の企画「市民がすすめる大学改革」の趣旨とも合致するものであり、今回上田がシンポジウムの話題提供者として招かれたのもそれ故でしょう。学外話題提供者としては私、萩原喜之氏、日比野理恵氏の3名、コーデイネーターは高野雅夫助教授、広瀬幸雄教授、有賀隆助教授の3名、学内話題提供者として清水裕之教授、柳下正治教授の2名、総勢は環境学研究科参加教官及び学生ら約30名でした。以下の高野さんのメモからもうかがえるように、有意義で刺激的な集いでした。このシンポジウムを手がかりに、土曜講座では市民と大学とに連携の具体的な形を模索していくことになるでしょう。では、話題提供者の話の要点をご覧ください。(上田)

●上田昌文氏(「科学と社会を考える土曜講座」主宰、(財)政策科学研究所客員研究員)

1.上田氏はフリーの科学者として、1992年より「科学と社会を考える土曜講座」を主宰し、昨年、市民の目から見た大学改革への評価や提言をまとめた。この提言の中で、これまでの大学にける自然科学教育・研究の問題点について、以下の指摘をしている。

1)社会問題や個人の生き方を語り合うことへの拒絶の雰囲気

2)ノーベル賞を取るようながんばりこそが何より大切、という不文律

3)重層的な競争体制(学生間、研究室間、大学間:細分化とそれに伴うわずかな差異における優位への強迫)

4) 実験系学生に課せられる長期トレーニングと徒弟奉公の重圧

5) 大学が社会に開かれていないことが原因となる、学生の閉じこもり傾向(多様な社会のあり方に気づかない)

6) 社会に対する閉じこもりと内部の人間への囲い込み体質 こうした問題に対し、自然科学の知識、科学技術を社会に活かしていくためには、専門家とは違う市民の価値観で問題解決のためにそれを利用したり、知的探究としての科学のおもしろさを社会形成に活用する工夫をすることが重要と提言している。

 

2.こうした提言に基づき、自然科学分野における大学と市民社会との新しい関係の創造に向けて、幾つかの提案が行われた。

1)「市民リスク論」の確立:専門家による問題認識の欠落をうめる。科学の限界をふまえた、開かれた政策的対応の必要。

2)科学技術プロジェクト外部評価の実施:専門家による研究推進の情報公開と、(市民を加えた)外部評価を実施できるように足固めをする。

3)地域ローテク(伝統技術)の研究や「科学館プロジェクト」などの試み:地域ニーズや問題解決に見合った知的探究の場の確立 そこで地域社会に開かれた大学をつくるためのポイントとして、 ①一般市民が大学を利用できる仕組みをつくってみる。
例:図書館などの開放、研究会や社会問題に関するイベントの開催、大学公開講座・市民講座の市民との共同企画・運営、NPOに所属する市民研究員による講議の開催、大学教員による定期的な公開講議の開催など。 ②インターネットを活用した、市民に向けた情報発信、交信。例:講議記録の公開、研究に対するパブリックコメントの募集など。 ③ 地域市民やNPOとの連携を実現するために、米国などで盛んなCBR(Community Based Research)制度をつくる。CBRから大学が調査受託できるようなしくみをつくる。 ④欧州の「サイエンスショップ」など、地域問題やニーズに対応できる大学側の「窓口」をつくる。これは大学院生の実地教育にもなる。 ⑤自治体、地元経済団体からの研究助成寄付ルートの確立。これは大学の地域シンクタンク的機能の強化して地域貢献することによって誘導できる。 ⑥大学の「地域社会貢献目標」を明文化する。これは研究科単位でも効果があるだろう。 ⑦大学システム運営のための雑務の整理統合が必要。大学教員の職務多忙の見直し(例:学生の自主運営、アウトソーシング、電子ネットの活用など)、事務官、技官の役割の再評価と必要要員の確保、給与待遇の改善など(欧米大学の事務・サポート業務の詳細調査が必要)。

 

3.出席者との意見交換では、フリーの科学者としての活動内容や生計の立て方などについて質問が出された。

●萩原 喜之氏(NPO中部リサイクル運動市民の会理事長)

1.萩原氏は、環境問題へのとりくみは「五味一体」で(市民グループ、市民、行政、企業、マスメディアの協力・協働のもとに)と主張しているが、残念ながらこれに大学は入っていない。大学がこれまでそのような関心をもたなかったためである。大学も含めた「六味一体」で環境問題に取り組むためには、大学にどのような改革が必要なのか、そのための提言が行われた。

1)最初に、市民(市民活動家としての)は、現在の大学には何も期待していないとの認識を示される。

2)その上で大学改革の実現に関して、ゴミを堆肥化し資源としてリサイクルさせる細菌効果を引き合いに出して解説(細菌の法則を例に上げて → 腐敗菌 15% VS 無目的菌70% VS 発酵菌 15%)。一般的に、全体の15%が良い発酵菌、別の15%が悪い腐食菌、そして残り70%がどちらでも無い無目的菌で、これは大学改革にもあてはまることだ。つまり、名古屋大学全体を100とした場合、本気で改革するグループ15%が必要で、これが環境学研究科ならば期待できる。但し、環境学研究科の中にもさらに本気でやる人達15%と、足を引っ張る人たち15%、そして中間層70%がいることを自覚すべきである。

3)こうした15%理論に基づくと、市民が大学と連携するというのは、組織として連携するのではなく、大学内にいる15%の良い教官と連携することであり、現在はこの方が可能性が高いのではないかとの考えを提示される。

4)市民グループ、NPOと大学との連携を考えた場合、例えば、大学教官がNPOからの研究受託を受けられるような制度が必要であり、同時に、NPOが大学の共同研究者に成れるような仕組みをつくることが重要である。 → お金の仕組みも含めて、地域の市民ベースの活動法人との共同研究推進の仕組の必要性。(TLOなどは、必ずしもNPOには対応しないのでは?)

2.出席者との意見交換では、市民活動ベースのNPOと地域大企業(例:中部電力など)とのプロジェクト連携について、企業側のNPO活動に対する理解不足や、そのことが原因となっている誤解などの問題点が指摘された。グリーン電力の事業化実現に向けて、中部電力などと連携のためのテーブルづくりを進めているとの説明があった。

●日比野 理恵氏((株)NHK中部ブレーンズ 制作本部デイレクター)

1.日比野氏が制作を担当した番組(宮城県田尻町での流域湿地再生の活動)を事例に、農業と都市型観光、農家と自然環境活動グループ、市民と大学と行政という連携をつくりながら、人の循環を中心にした地域連携と大学の役割について提言された。特に、農村地域の経済再生を都市部との連携で図り、そのために地元大学、地域行政が共同で取り組んだ点が画期的。

1)地域の流域湿地の再生が、地球規模の渡り鳥の生態系保全に繋がっていくという、ローカルアクションが、グローバルに貢献する構図を分りやすく解説。

2)湿地再生の取り組みに向けて、主導的な役割を果たした自然環境活動グループと地元農家との連携は人を通した活動の連携であり、こうした「人の循環」が重要であるとの提言をされた。

3)「人の循環」は農村と都市、農家と市民、農家と大学と行政、という異分野を越えたネットワークになり、これが地域の新しいあり方になり得るとの考えを示される。

4)具体的には湿地再生の取り組みへの大学の参加はもとより、再生した湿地をフィールドに、大学による継続的な生態調査の実施、大学カリキュラムによる学生達の研究活動、などが行われている。 → 地域のフィールドをもとに、大学、市民、農家が共通目的を持つ。

5)こうした取り組みから、地域の問題解決や取り組みには、”よそもの”、”わかもの”、そして”ばかもの”、の参加が欠かせないとの意見を提示される。つまり、直接の利害者ではない外部の人からみた問題認識と解決方法の検討、活動自体に集中的、継続的に取り組める若い層の参加、そして、立場や仕事と無縁の市民活動に面白さを感じ、没頭できる人の参加、が連携のカギを握っているということである。 2.出席者との意見交換では、メデイアそのものが環境問題へ取り組む姿勢について、地域社会や市民活動へ与える影響力の大きさを認識し、主導的な活動を取ることが重要では無いかとの意見が出された。

●清水 裕之教授

1.大学が協力をしている市民参加型の公共建築計画(可児市文化センター)の事例について紹介され、市民の意見やニーズを把握し、専門的な建築計画に反映させていくための新たな参加型公共建築計画手法の開発を行っている模様が報告された。

1)事例のビデオでは、学生達が独自の建物計画案を策定し、公開ワークショップにおいて自治体側に提案しながら、市民にも情報公開していく様子が紹介され、学内での教育にとどまらない、実際のフィールドにおける実践教育の効果(学生達のやる気と能力の向上)についても報告された。

2)大学と地方自治体の連携として、今後、建築のような分野では専門的な提案力に加え、市民参加の仕組みをつくっていくコーディネートの役割もあるのではないかとの提言がなされた。

2.出席者との意見交換では、地域社会や自治体に対する大学の役割の一つとして、高く評価できるとの意見が出され、こうした取り組みがより普遍化できることが望ましいとの考えが示された。 ・今後の課題として、現状では国立大学が地域の自治体から直接研究受託を受けることはできないため、あくまで教官個人の参加という範囲に止まっており、今後、大学として継続的な地域参加を行うためには、こうした地域自治体、市民団体、企業との協働を可能にする、大学側の仕組みづくりが必要であるとの意見が出された。

 

●柳下 正治教授

1.日本の環境行政、とりわけ地方自治体レベルにおける環境行政の特徴と問題点を、全国の都道府県へのアンケート結果をもとに分析され、特に現状職員構成の高齢化、専門分野の遍在、そして今後求められる人材像(大学がどのような人材を輩出すればよいのか)、という視点から報告された。

1)都道府県において環境行政に専門として携わっている職員構成の問題点として、高齢化(45歳以上の職員割り合いが約5割以上)、専門分野の遍在(化学、薬学、農学など、化学物質、化学式に対応できる分野の構成が7割近く)があげられる。これは、昭和40年代の公害問題と行政訴訟の経緯により、物質の排出規制などを中心とする規制型環境行政の結果と言える。

2)こうした現状の職員構成問題は、自治体における環境行政分野の新たな人材採用の際にも”くり返される”可能性が非常に高く(つまり化学、薬学、農学中心の同じ分野の人材が採用されることになってしまう)、将来本当に必要な環境分野の人材がどのような能力を持つべきかなどの議論が行われなくなってしまう危険がある。

3)こうした現在の日本の環境行政分野の問題を認識し、環境学研究科として、将来の人材育成の具体像と、カリキュラムを構築することが重要である。

 

 

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