博多湾人工島建設に関する環境アセスメント ~人工島裁判でどのように評価されたか?~

投稿者: | 1999年4月16日

博多湾人工島建設に関する環境アセスメント
~人工島裁判でどのように評価されたか?~

田中浩朗

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土曜講座では長期企画の一つとして「環境アセスメント」について取り組んでいくとのことですが,そのための話題提供として,今年の夏合宿では博多湾人工島建設の際の環境アセスメントについて報告させていただきました。

●博多湾人工島訴訟
博多湾東部の401haの海域を埋め立てて人工島を建設する工事が1994年7月に始まりました(工期は10年)。事業主体の福岡市は,着工前の1992年から93年にかけて環境アセスメントを行ない,「環境への影響はないか,あっても小さい」として,事業を進めました。一方,その人工島は,野鳥の宝庫として知られる和白干潟の前をふさぐような形で建設されるため,和白干潟への影響を心配する市民によって人工島建設反対運動が展開されていました。そして,着工直前の1994年4~5月,市民団体およびそのメンバーが福岡市を相手どって3つの訴訟を福岡地裁に提訴しました。

これらの裁判は一括して扱われ,1998年3月31日,判決が下されました。人工島建設公金支出差止などの訴えは棄却され,原告敗訴の結果に終わりましたが,環境アセスメントに対する原告の批判は裁判所によってほとんど認められました。実質勝訴と判断した原告は控訴しなかったため,この判決が司法による最終的な判断として確定しました。
今回の発表では,この判決を受けて発表された「15号事件原告ら弁護団」作成の「博多湾人工島埋立事業公金支出差止訴訟の評価について」という文書をもとに,福岡市が行なった環境アセスメントが裁判所によってどのように評価されたかということを中心に報告しました。

●環境アセスメントのあり方に対する批判
長くなるので細かい点は省略しますが,環境アセスメントに関する下記の問題点について裁判所は原告の主張を認めました。

イ リンの高度処理だけを問題としていることについて
ロ 下水の高度処理の導入を前提としていることについて
ハ 過去の環境影響評価について
ニ データの意図的操作について
ホ 各生物への影響について

簡単に補足すると,イに関しては,水質について予測するときはリンだけでなく窒素についても考慮しなければならないのに,していないということ,ロに関しては,下水の高度処理についてありもしない県の計画を前提に予測していること,ハに関しては,博多湾で以前に行なわれた埋立の際の予測がすべてはずれているのにまた同じような手法で予測を行なっていること,ニとホに関しては,異なった年度のデータで地域間の比較をするなど,調査やデータの扱いがずさんであるということ--がその主な内容です。
そして裁判所は,福岡市の環境アセスメントについて次のような言葉で評価を下しました。「その内容において決して軽視することができない問題点があるものといわざるを得ない」「厳しい批判を免れない」「環境影響評価として本来備えていなければならない筈の科学的で客観的な性格とはやや異質なものを感じさせさえする」「博多湾の東部海域が400ヘクタールも埋め立てられてしまうことによる自然環境への重大かつ深刻な影響を軽視している嫌いがありはしないかということが懸念される」。

●手続きの進め方に対する批判
また裁判所は,環境アセスメントの内容のみならず,その手続きの進め方に関しても批判をしています。すなわち,人工島建設計画に対する内外からの批判への福岡市の対応に関して,「同市(福岡市)は,本県整備事業の推進に急な余り、反対意見に真摯に耳を傾ける姿勢に欠けるところがあったものと見ないわけにはいかない」と述べています。

●厳しい批判にもかかわらず,なぜ差止の結論が出せないのか
このように,福岡市の環境アセスメントが非常に問題を含むものであることが裁判所によって認められました。にもかかわらず,公金支出差止の訴えは退けられました。これはなぜかというと,現在の日本の法律の枠組では,差止が認められるためには「埋立免許が著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵」があるという非常に厳しい基準をクリアしなければならないからであす。これは行政の側からすると,非常に低い基準をクリアしていればそれでOKということです。環境アセスメントに関しては,閣議決定による「実施要項」に定められた手続きを実行していさえすれば,内容はいかにずさんであろうとアセスメントとして認められてしまうのです。

以上の例から,現在の日本では,ずさんな環境アセスメントを認めないようにチェックする制度と,もし環境に影響が出るようならそれを事業の変更や中止に結びつける制度が存在しないということが分かります。この制度的欠陥は,環境影響評価法ができた現在においても基本的に変わっていないと思います。手続きが多少複雑になっただけだとも言えるでしょう。

●おわりに
さて最後に,環境アセスメントが事業推進のための単なる免罪符ではなく,本当の役割を果たすために必要なことをまとめておきたいと思います。まず,環境への影響を評価することは,できるだけ科学的に,客観的に行なう必要がある(福岡市の例のようなずさんなものは許されない)のですが,それは本質的に不確実なものであることを踏まえて,事業計画評価のための一つの判断材料であると考えるべきです。その判断は,環境への影響以外にも様々な影響・可能性を総合的に勘案して行なうべきであり,本質的に大切なことは,その判断に多くの市民が参加し,納得できることだと思います。

博多湾人工島の例で言えば,和白干潟の前をふさぐ形で建設する巨大な人工島が環境に何らかの影響を与えるというのは科学的な予測をするまでもなく,常識的に考えて自明のことです。これは,地図を見れば子どもでも分かるでしょう。したがって,本質的に重要なことは,科学的な環境アセスメントを行なうことではなく,環境破壊を免れないこのような事業が市民にとって本当に必要かどうか,あらゆるデータを公開した上で市民の多くが納得できるまで十分議論することだと思います。

(付記)人工島裁判関係の資料は,博多湾市民の会のホームページに掲載されています。
http://www.sam.hi-ho.ne.jp/m-hana-owl/trial.htm

 

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