春の連続講座 「お金と楽しく付き合うために」
第1回 お金の調達と地域のネットワーク
女性・市民信用組合(WCC) 設立準備会 向田映子
私は女性・市民信用組合(WCC)の設立準備会の代表とWCBという貸金業をしています。貸金業のほうは、いわゆる「商工ローン」とか「日栄」さんの仲間ということになるわけですが、あちらが高利貸なら、こちらは低利貸と言っております。
●女性・市民信用組合(WCC)設立準備会の概要
WCC設立準備会を立ちあげたのは1998年1月です。現在、事務所は横浜市中区の関内にあります。趣旨に賛同して信用組合を作るために出資をしているのは、女性市民、勤労市民、NPO、ワーカーズコレクティブ、小規模事業主などで、個人(1口10万円以上)で356名、団体(3口30万円以上)で31団体、それに名前を連ねている人が211名います。団体の中にはかなり大きな規模のものもありますので、潜在的な賛同者はもっと多いと思います。それらの方の出資金が2000年3月31日現在で、7,147万円になっています。半端な数字になっているのは、1口10万円が1度に出せない人は分割払いにしているからです。目標は1億円を集めること。会員数は1000名をめざしています。
●貸金業(WCB)とWCCとの関係
WCC設立準備会の出資金を元手にして、会員に融資をするのがWCBの仕事です。会員であるワーカーズコレクティブやNPOが、何か事業を始めたい、現在やっている事業をもっと拡大したい、今借りているローンをもっと低利のものに借り替えたい時などには、貸金業WCBに融資を申し込みます。すると、WCBはWCC設立準備会の融資審査委員会に委託をして、その事業が融資するのに適当かどうかを審査してもらい、その答申に従って融資をします。こういう形を取っているのは、法律上、NPOであるWCC設立準備会は貸金業ができないからで、それでは、しかたがないと言うので、貸金業WCBという個人事業を興しました。ですから、私はWCBの個人事業主というわけです。このように、WCCで集めたお金はWCBが融資の窓口となって貸し付けます。
●WCBの融資実績
WCBがこれまで融資をしたのは次の7つの団体です。(表1) まず最初に融資したのが、ワーカーズコレクティブ「さくらんぼ」というNPOです。これはWCBが出来る前から活動をしていました。横浜は保育所がとても少ないところで、じゃあ自分達で保育所をやろうということになりました。場所を確保して、そこを改装して保育所を作ったのですが、それらの資金はどうしたかというと、銀行も国民金融公庫も貸してくれなかった。そこで、彼女達は1口5万円くらいの債券を発行して、友達に買ってもらって、そのお金で保育事業を出発させたんです。ただ、買ってもらった債券は、できるだけ早く返したいというので、WCBが出来た直後に、彼女達から話しがありまして、第1号として融資をしました。融資の金額が350万円、利率は1.8%で5年間で償還ということになっています。元利均等返済方式です。
次に融資したのが、NPO「WE21ジャパン」という、アジアの女性自立支援のリサイクルショップです。神奈川ネットワーク運動という地域政党や生活クラブのメンバー達が数年前にイギリスに視察に行った時に、商店街の中にいくつもリサイクルショップがあり、ボランティアで運営されている。それぞれの収益は、例えばある店はエイズの方達の支援のためであったり、アフリカやバングラディッシュの支援、あるいは癌患者の支援のため、というように目的別に使われるということを知ったのです。そこで、視察に行ったメンバーが「私達もアジアの女性の自立の為の識字教育や職業訓練を支援するリサイクルショップを開こう」と神奈川県内に100店舗を目標に、1年に10箇所ほどオープンさせています。自分達で出資金を集めて開こうとしていますが、1店舗開くのに300万円ほどかかりますので、なかなかそれを集めるのが大変で、不足分を貸してほしい、ということで融資しました。融資金額520万円、年利2.5%で3年償還です。
その他ワーカーズ・コレクティブ「We」というレストランとサロンのお店や、「ももの木」というお弁当配送サービスをしているお店などに貸していまして、総融資金額3,630万円となっています。先日、それぞれのお店に調査に行きましたが、みなさまWCC設立準備会の審査に通ったことをとても誇りに思って、生き生きと活動しておられました。
●市民資本の形成の必要性
WCCやWCBは生活クラブ生協や神奈川ネットワーク運動の活動から生まれました。それらはそもそも「どういう社会が望ましいか」という社会理念が基本となって出来た組織です。
日本の社会には、企業が中心になって利益を目的とする産業セクター、税金が資本となって運営されている公的な行政セクター、市民がお金を出して経営をしている市民セクターという3つのセクターがあります。ところが、これまでの日本の社会構成は産業セクターと公的税金セクターの2つが肥大化しすぎて、いわゆる箱もの作りに力が注がれ、国債をばんばん発行し、必要のないものにまでお金を使ってきました。いっぽう、市民セクターと言われる非営利のセクター、あるいは個人事業主のセクターは、とても小さいセクターです。協同組合、労働組合、生協、農協、森林組合、NPOなどはあまりお互いに連携していない。農協など本来は市民セクターで非営利であるはずなのですが、明治政府によって作られたという歴史的背景があって、自民党とか産業資本セクターのほうに取り込まれている。農協は金融ができるのですが、それが生協と連携するということは少ない。1つには監督官庁が、農協は農水省、生協は厚生省というように、行政の縦割り機構の中で分断されていることも一因なのですが。
市民セクターをもう少しバランスよく拡大できれば、産業セクターや公的税金セクターが今のように肥大しないで、私達の身の丈にあった暮らし方ができると思いますし、社会のゆがみも改善できるのではないのかと思います。産業セクターや公的セクターはいわばプロがやる請け負いのセクターですが、市民セクターは参加型であり、自分達ができるところは自分達でやりたい、自分達の生活を自治したいという人たちが、自分の責任で事業を行い、街作りをしていくということです。
●生活クラブ生協の理念
そのような理念を持った人たちが、今から30年前に東京で生協を立ちあげました。これは300本の牛乳協同購入運動から始まりました。生産と流通のあり方、廃棄のあり方、民主的な運営のあり方を考えて、作られたのが、基本的にお店を持たないで、地域で何人かが班を作って、そこに品物を届けて、そこから先はみんなで分け合うという共同購入のやり方です。
東京で生協が出来てすぐに、神奈川でも「みどり生協」(後に「生活クラブ生協」と改名)が横浜市青葉区たまプラーザというところから発祥しました。その後、今から18年前に、コミュニティークラブ生協というものが出来ました。これは、地域の中にデポーと呼ばれる荷さばき所を作り、そこにみんなが取りに行くというシステムで、それが町作りの1つの拠点となればいいということで、だいたい半径700メートルくらいに1つのデポーを作りました。
次に福祉クラブ生協というのが出来ました。だんだん社会が高齢化していくと、1人暮らしの人が増えてきたり、物を取りに行くのがやっかいになったりします。そこで、班を作って取りに行くのではなくて、こちらから物を届けに行く、いわば御用聞き生協のような生協を作ったらどうか、ということで作りました。このように今3つの形態の生協があり、それぞれの町に合ったもの、暮らし向きに合ったものを選択できるようになっています。扱っているものはほとんど同じです。
生協の基本的な理念は、生活の自治であり、市民の自治領域の拡大であり、主体的に問題解決することであり、そのためには参加と責任、そしてリスクも自分達が負いたいということ。そういう理念を持った人たちの集団が協同購入をすることによって、生産の現場を変え、流通の現場を変え、廃棄の現場を変えてゆこうという運動です。
●ワーカーズコレクティブ・神奈川ネットワーク運動
次にワーカーズ・コレクティブが生協の活動から生まれました。組合員自身が生協の業務を請け負ったり、印刷屋さん、パン屋さん、レストラン、お年寄りの介護やデイサービスなど、地域に必要な事業を、生活者の立場でやっていこうというものです。現在、神奈川県内で4200人、134団体あります。その半分は福祉関係の仕事で、例えば、お年寄りのお宅に訪問して家事を手伝ったり、お花見に行きたいとか病院に行きたいというお年寄りを車で送り迎えする移動サービスなどがあります。神奈川全体の総事業高は27億円です。事業を始めるにあたって、組合員は出資しますが、その出資金の額はそれぞれのワーカーズによって異なります。神奈川全体の総出資金高は2億8千万円です。
神奈川ネットワーク運動も生活クラブ生協から生まれたものです。例えば、ゴミの収集にしても、横浜は6年前まで全国でも珍しいほどの混合収集で、生ゴミからマットレスまで全部一緒に焼却してしまうというすさまじいことをやっていた自治体なんです。そこで、自分達でビンを回収してそれをガラス工場に持って行こうということをやりました。また、合成洗剤を使わず普通のせっけんを使おうという運動をやったりする中で、自治体に自分達の生活要求を実現するために、自分達の中から議員を出そうということで政党を作りました。これも18年前に出来ました。現在、神奈川県で議員が41名、会員は約5千人います。
生活クラブ生協とワーカーズコレクティブと神奈川ネットワーク運動をまとめて「生活クラブ運動グループ」と呼んでお互いに連携しています。全体では会員は7万9千人です。ただ、生活クラブ生協に入りながらワーカーズをやったりとかいうふうに、かなり重なりあっていますので、だいたいは6、7万人くらいだと思います。そういう基盤となる人たちがこの30年くらいの間に、神奈川という地で多様なネットワークを張っています。神奈川県の人口が約800万人ですので、その中の7万人というのはほんのわずかな数字にしか過ぎないのですが、それでも、自分で考えて、自分で決めて、自分でやるという基本的な理念であり行動規範として活動している人がそれだけいるということは、大きなことではないかと思います。
●女性と資本
ワーカーズコレクティブを立ち上げる時に、事務所を借りたり、配達の車を買ったりするのにお金が必要になってきます。ところが、生活クラブ関連グループのほとんどが専業主婦、兼業主婦なのです。アンペイドワークにかなりの時間と労力を費やしてきた人たちです。子育てをし、親の介護をし、地域の仕事や自治体の仕事、PTAの仕事をし、というわけで、支払われない、あまり評価されない仕事に関わってきた。そのために資本の蓄積ができなかった。貯金もあまりない、家や土地もだいたい夫名義という人が圧倒的に多いのです。何か事業を始めようという時に、知恵と時間と労力はあってもお金がないという状況です。
例えばパン屋さんを始める場合には1500万くらいかかります。ところが、自分達の手持ちのお金といっても、せいぜい30万円くらいしか出せない。そこでどうしたかというと、まず自分達で債券を発行して小口のお金をいっぱい集めたというのが1つの方法です。もう1つは、生活クラブ生協からお金を借りました。ただ、これは短期で返さなければいけません。生活クラブもいくつものワーカーズに貸してもいられないということがあって、そこで橋渡しをしたのが、労金(労働金庫)だったのです。労金では「生活クラブ生協が裏書きしてくれるのなら貸す」ということでした。しかし、それは個人の信用で貸してくれるということではありません。「私達を信用してお金を貸してくれる金融機関があったらいいわね」という思いが、ここ10数年の経過の中で募っていきました。
もう1つは、ここ7、8年の間に金融機関の不祥事が噴出してきたということがあります。私もその時、自分のささやかな貯金を全部銀行から引き上げようかと思いました。郵便貯金というのは、国家がやっているのだから、倒れることはないだろうということで、いろんな銀行が倒れた時にかなり郵便貯金に流れたということを聞きましたけれど、郵便貯金がどういうふうに使われているのかということを調べたら、ODAの途上国の乱開発や原発や諌早の干拓というように、自分達が反対しているものに使われているということが分かりました。じゃあ、引き上げてタンス貯金にしておくのがいいのか、自分のお金をいったいどうやったらいいのか困ってしまうと言う人が出てきたんですね。
お金を貸してくれないと困っている人がいる一方では、自分のお金をどうしたらいいのか困っている人がいる。では、この2つをドッキングさせたらいいのではないか、というのが、私達の試みのきっかけでした。「じゃあ、自分達で銀行を作っちゃおう」と言う事になったのです。
たぶん明治政府以来だと思うのですが、私達は「貯蓄は美徳だ」と思いこまされてきたのではないでしょうか。子供たちもお年玉をもらって貯金すると、「えらい、えらい」と誉められる。どうも私達は貯金をするのがくせになっちゃっている。本当はそのお金をどうやって有効に活かすのか、という活かし方を考えなくちゃいけない。教わらなくてはいけないのに、これまではその使い方、投資した先はプロにお任せしていたわけです。銀行におまかせ、郵便局におまかせ、政府におまかせ。その責任はだれも取らない。それは結局、私達にまわって来て、60兆円ものお金が金融業界に流れる。私達はブラックボックスにお金を投げ込んでいたのです。私達自身がこういう態度を反省し、改めなくてはいけないと思っています。
●信用組合設立準備会の背景
こういうことがきっかけになって、4年前からどうしたら銀行が作れるのだろうかと考え始めました。大規模でなくていい、地域の中で自分のお金の行き先が見えるような規模のものがいい。
しかも儲けが目的でなくていい、非営利のものでいい、それは何かというと信用組合だ、ということで、信用組合を作ろうということになったのです。
まず、労金さんのところに行って、「信用組合はどうやって作るんですか?」って尋ねました。そしたら、「いやあ、それは絶対に無理ですよ」と言われました。ここ28年間、地域の信用組合では40年間、信用組合はできていない。どうしてかというと、大蔵省から「信用組合の設立は当分の間認めない」という通達が出ていたんです。それがよく効いていて設立しようなどと思う人たちもいなかった。外国系の信用組合が特例として出来ていましたが、それでも設立まで15年以上かかっているという話も聞きました。
県のほうに「どうやったら信用組合が作れるんですか?」と聞きに行ったり、大蔵省に「信用組合の作り方を教えてください」と聞きに行きましたが、やはり「本当のところ無理だと思いますよ。今、こんなに金融業界が厳しい中で、どうやって安定的な経営をはかっていくのですか?」と言われました。
では、当分出来ないのであるのなら、あきらめちゃうのか。あきらめないで何か良い知恵はないのかと考えた時、昔の「無尽」や「頼母子講」のように、みんながお金を出し合って必要としている人に廻していったらどうかということになり、1口10万円集めだしました。信用組合を作りたいのだけれど、その設立までの間にやれることがあるのならやっていこう、ということで、2段構えでやることになりました。
神奈川県や大蔵省に聞きましたら、不特定多数の者からお金を集め、それを廻すのは出資法違反である。ところが、特定かつ多数の者からお金を集め、それを融資しあうのは、「法律では何も言っていない」とのことでした。私達はそれを聞いて「ああ、これは出来るんだ。法律で何も言ってないのなら、やっちゃおう」と思いました。また、私達より2年前に東京で「未来バンク」というところが、太陽光パネル発電のつなぎ融資という形でやってらしたのが一つの大きな励みになりました。
そこで、貸金業協会を通して県に申請を出しました。ただし「NPOでは認可できない」ということでので、代表は個人でやって、そこにお金を融資して、その個人の貸金業を通して貸すということにして、私が事業主になりました。こうして登録が出来たのは1998年8月でした。その段階で出資額は4500万円くらいでした。出資金は元本を保障してはいけない。配当金もあらかじめ約束してはいけないことになっていますので、出資金を募る時には「これは返らないかもしれませんよ」と言っていますが、みんな「ドブに捨てるんではなくて、天に放り投げる」と言っています。普通の銀行には預けたくないし、誰かのために私のお金が役立つんだったら使ってほしい、と出資してくださっています。
私達の市民セクターはほんのささやかなものですが、それを少しでも広げていかないと、産業セクターや公的セクターに影響を与えて行けないし、相互けん制して行けないと思っています。何もこの市民セクターだけがあればいいということではなく、これがあることによって、他のセクターにも影響を与えていけるのだと思います。
●WCC設立準備会の仕事
こういうふうに私は何の経験もないのに、信用組合の設立をめざし、貸金業を始めました。そこで、実際に仕事をやっていくために、銀行の経験者が必要で、募集をかけました。現在3名の方が、WCC設立準備会のスタッフとして少しの報酬で参加していただいています。1人は73歳の男性で、銀行を退職された方です。あとの2人は神奈川ネットや生活クラブのメンバーの女性で、やはり銀行勤務経験者です。この3人に参加していただいたお蔭で、実務や県との折衝などがかなりスピードアップしてやれるようになりました。
信用組合を作るには、まず発起人が4人以上いること、賛同者が300人以上いること、2000万円以上の出資金があること、銀行勤務経験が豊富な常任理事がいること、安定した事業経営ができること、3年分の事業計画を出して、それが単年度で黒字になることが条件なのです。3年分の事業計画を出すということは、膨大な作業なのですが、やっと昨年の9月に仕上がりまして、県のほうに提出しました。県のほうからは「そもそもこの数字の根拠となったのは何なのか?」と言われ、生活クラブ関連グループのメンバーの1%である680人にアンケートを取った結果を参考にしたと言うと、「アンケートの取り方がおかしい」とか、「数字が実態に合っていない」と言われました。そこで、「では、どのようにアンケートを取ったら実態に即したものになるのか教えてほしい。そしたら、アンケートを取り直しますから……」と言いましたら、教えてくれない。挙げ句の果てに「アンケートはひとつの参考にしか過ぎないんですよ。」と。結局、彼ら自身がこの40年間信用組合の設立に関わらなかったので、何も分からないのです。今年の4月1日からそれは金融監督庁の管轄になりますから、それまでの間、時間を稼いでいるというわけです。私達は4月1日から今度は国とまた一から同じことをやらなくてはいけません。定款はだいたい仕上がっていますので、それをもとに折衝していきたいと思いますが、その定款を作る時も、国のモデル定款に極力近づけさせられました。例えば、「市民」と言う言葉が入っていると、「こういう広い概念の言葉が入ると、これから参加しようとする人が路頭に迷うので削ったほうがいい」と言われました。こんなふうにして、どんどん削られてゆくのです。官僚というものが、いかに前例主義であるかがよく分かりました。
たしかに今の社会情勢で信用組合をやることは大変に厳しいことです。ですから、私達がこれまで4年間県との折衝をやってきたように、これからまた国との折衝を続けていくのがいいのか、そこまでして本当に信用組合を作ったほうがいいのかは、状況を見極めながら判断していきたいと思っています。
●WCBの融資制度
では、私達が現実にやっているほうのWCBの融資制度や基準の話に戻します。
WCBの目的は、資金を市民が出し合って、運営も市民、使う人も市民という、市民同士のつながりをもった市民バンク(貸金業)を作りたいということです。融資はWCBが行い、融資審査はWCC設立準備会の融資審査委員会がします。融資の対象となるのは1口10万円以上の出資者(団体は3口以上)で、神奈川県内に在住あるいは勤務する女性・市民、小規模事業者、ワーカーズ・コレクティブ、NPOです。顔の見える関係でやっていきたいということです。融資限度額は1件あたり1000万円。金利は1.8から2.5%で、どこよりも安くしています。立ち上げの当初は1.8%、軌道に乗ってきたら2.5%という具合に、その団体の状況に即した金利の設定をしています。融資期間は5年が限度です。担保は要りません。そのかわり連帯保証人を必要としています。団体の場合は運営委員や理事の方々になっていただいています。
WCCの融資審査委員会は申請書類を元にして審査しています。メンバーは今6人いますが銀行のプロはいません。ワーカーズ・コレクティブを10年やってきた人とか、神奈川ネットをやってきた人など事業現場のことをよく知っている人たちです。私はオブザーバーとして参加していますので、決定権はありません。申請書類というのは、借入申込書、事業内容説明書、収支計算書、貸借対照表、団体の場合は定款、規約類、法人登記簿謄本、印鑑証明書、などです。
審査は一回で済むこともありますが、書類を見て「ちょっと危ない」と判断したところは、それについての返事を求めています。例えば、先ほど紹介した「ももの木」さんはお弁当の配送サービスをしているのですが、1食分のコストが1100円かかるお弁当を、お年寄りに800円や900円で配ります。お年寄りに安全でおいしいお弁当を安く供給したいという気持ちはよく分かるのですが、これでは受注が増えれば増えるほど赤字になります。「この赤字はどのようにして埋めるのか」と尋ねたら、「お年寄りにはこの価格で配送するが、企業への仕出しや店売りの惣菜はもっと高い価格設定をして、それで相殺する」と言う返事でした。それならば分かると融資しました。
きちっとした経営が出来て、市場もちゃんと開拓していけるのか、起業への思いがどれくらいあるのか、コミュニティーワークとして地域に役に立つ事業であるのか、と言った点が評価の基準となります。
●ネットワークから生まれた信頼関係
今、問い合わせは2日に1件くらいありますが、「連帯保証人が必要だ」と言うと、「連帯保証人は頼みたくない。人に頭を下げたくない」と言う人が多くて、「それでは無理です」ということになります。私達はお金の担保は求めないけれど、人の担保は必要で、「人が保障できないようなところには融資できません」とお断りしています。無担保で保証人がいないとなれば、商工ローンや丸井のクレジットのように20%以上取らないとリスクが高いのです。私達の場合は、運営委員や理事の方々が連帯保証人となって、みんなで保障しあうというなら、それだけ起業意欲が高いという証拠ですからお貸ししています。通常なら、お金を貸す前に連帯保証人の資産状況を調べるものですが、それもしていません。そのかわり、お貸しした後で調べるということをやっています。
貸した後すぐに「あなたの資産を調べたい」と手紙を出しまして、資産状況を尋ねますが、まあ、よくこれで連帯保証人になるなあと感心するくらい、みなさんお金を持ってないですね。(笑)働いていけばなんとか返せると言う思いがあるのでしょう。私達自身も、その人たちは利益を上げたら、まずWCBに返してくれるという信頼があるから貸しているわけです。立ち上げたばかりのワーカーズの中には、WCBへの返済を支払ったら、自分達の時給は300円のところもあります。それでもWCBへの返済をまずはじめに行う。
そういう人たちであるという信頼が、これまで30年間のネットワークの中で築かれてきたのです。また、ワーカーズコレクティブに関しては、神奈川ワーカーズコレクティブ連合会があって、立ち上げのための指導や、出来た後には3ヶ月毎に部門の会議を開いています。保育のグループ、パン屋さんのグループというふうにあって、それぞれの悩みを相談しあったり情報交換しあったりして、経営がちゃんといくようにお互いに勉強しあっています。
融資をした団体からは年に1回の総会の資料は提出してもらっていますし、こちらからも年に1度は融資をした全部の団体を見てまわっています。融資した現場が実際にみんないきいきと働いているか、閑古鳥が鳴いていないか、などを見てまわっていますが、書類だけでは見えない実態も見えています。例えば、レストランだと昼間の1時間半はかなり人が入っているのだけれど、2時からぱったり人が入らないのはどうにかできないかとか。それらの問題をお互いに考えながら、私達自身も学ばせていただいています。
お蔭さまで現在出資額が7000万円を越しまして、このこと自体は神奈川県も認めざるを得ない事実で、「これはすごいことです」と言われます。これらは、これまで築かれたネットワークや信頼があってこそできたことだと思っています。ですから、いきなりやるのは無理でしょうが、ある程度信頼関係があるところでは、同じことが出来るのじゃないでしょうか。
2年前に東京のパソコンソフト会社の方がいらして、「パソコンソフトの会社がバタバタ潰れている。1ヶ月間だけ銀行が融資をすれば継続できたのに、それが受けられないために潰れている。パソコンソフトの会社同志で貸金業のシステムを作れないだろうか」と相談に見えました。まさに現代版の「無尽」ですね。こういう会員制の貸金業は十分出来るだろうと思います。
<向田映子さんの経歴>生活クラブ理事を経て、横浜市のごみ問題解決のために横浜市議会議員に立候補、1978年から同市議を2期8年、1995年から神奈川県議を3年務める。1998年から現職。