『市民科学』が完全無償に移行します

投稿者: | 2008年9月1日

●巻頭言
『市民科学』が完全無償に移行します
上田昌文(市民科学研究室・代表)
市民科学研究室の機関誌が現在の4ページ版の『市民科学』に形を変えてから、約2年が経過しました。ご存知のように、4ページの紙媒体で、毎月新しく発行する記事や論文の導入部分を示し、全文は会員のみがIDとパスワード(PW)を使ってホームページからダウンロードする、というやり方を用いています。こうした「有料購読契約者だけが全文をウェブサイトで入手できる」という方式は、現在かなり多くのNPOやメディアなどが採用しており、紙媒体の雑誌を郵送・配達する定期購読システムが徐々に廃れつつあることを感じさせます。しかし依然として、紙媒体の雑誌・ニューズレターをどこへでも簡単に持ち歩けて読めることのメリットは大きく、そのことは、『市民科学』のホームページ上のアクセス記録を見る限りでの、会員によるIDとPWを使ってのダウンロード率がかなり低いことにも反映しているように思われます。しかし、現在の4ページ版の一つ前の『どよう便り』(後に『市民科学』と改称)は40ページ内の手軽な雑誌でしたが、1部200円という低額だったにもかかわらず、定期購読以外の形で売れることはかなりまれでした。ホームページ自体へのアクセス数が1日数千件にも及ぶ日があることを思うと、毎月労力をかけて作る記事論文が限られた人にしか読んでもらえないのは、市民活動として辛いところです。
選択肢はおそらく、(1)今の方式を維持する、(2)再度、紙媒体の月刊もしくは隔月の雑誌を発行する、(3)記事論文は無料で全文をウェブサイトで公開する、の3つです。 (1)では、ホームページに掲載した記事論文があまり読まれないままになる可能性が高く、(2)は会員数が少ないと編集・印刷・郵送コストで赤字は確実であり、(3)は実質的に「情報はタダで提供」となるので会員への特典を設けることができない、というデメリットをそれぞれ抱えることになります。ただ、(3)が(1)(2)と大きく異なるのは、「質の高い情報を出すよう努力するが、その情報自体に対価をいただくのではなく、そうした情報を生み出す活動全体に対して支援をいただく」との考え方に基づいている点です。
 先の理事会では、今後適切な時期に(3)の方針に切り替えていくことが打ち出されました。2009年においておよそ以下のような改革を実施していきたいと、私は考えています。
・低コストの紙媒体の通信(ニューズレター)を毎月発行する(本体は無料)。これは会員に郵送するとともに、現在の『市民科学』同様、広報チラシがわりに各地の各所に置いてもらうようにする。A4サイズ1枚の裏表で、市民科学研究室の毎月の活動状況、注目すべき内外の動きをピックアップしての論評、イベントや文献の紹介を主とする。代表・上田の個人執筆の色合いを強め、市民研のスタッフたちの顔が見える親しみやすいメディアとする。
・記事論文(書評や翻訳を含む)はこれまで同様、平均して毎月数本発行するが、これらはすべてホームページで全文を公開する(無料)。図版や写真の入ったPDFファイルとテキスト中心のブログ形式の「市民研アーカイブス」の両方に掲載する。
・年1回、記事論文を精選した『市民科学セレクション』、市民研の活動を振り返った『年次報告書』を発行する。会員には両者を無償で郵送、非会員には前者のみ有償とする。
・会員は、現在レイチェル、ファーブル、ダーウィンの3種あるものを、正会員(総会での議決権あり)と賛助会員で統一する。会費以外に支援カンパ枠を設け、支援を求める。
現在、市民科学研究室は「子ども料理科学教室・実験プログラム」(単独)、「先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会への定着」(共同)、「当事者主体によるフリー・モビリティ社会の実現をめざして」(共同)など数件のテーマでの助成研究を含めて、活発な調査研究をすすめています(今号の「料理に塩が…」やカーボンナノチューブに関する翻訳はそれらに関連しています)。その成果を広く伝え、社会を動かす力に変えていくのに、より多くの方々からの支援を必要としています。2009年からの新しい取り組みにおいても、皆さんからのいっそうのお力添えをいただけるよう、がんばりたいと思います。

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