第150 回土曜講座 宇宙開発を再考する・報告(中編) 宇宙開発は「人類の夢」か?

投稿者: | 2003年4月9日

第150 回土曜講座 宇宙開発を再考する・報告(中編)
宇宙開発は「人類の夢」か?
藤田康元
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 ここで私に与えられた役割は、これからの全体討論の呼び水として、河野、上田、尾内の3 氏の発表を踏まえた、宇宙開発についての自分なりの考えを述べることである。私の主張をあらかじめ明確にしておく。第一の主張は、「宇宙開発は非軍事利用に限定すべき」、そして、第二は「現在進行中の有人宇宙計画はすべて凍結すべき」というものである。
この2 点について説明するまえに、背景として、宇宙開発における軍事と「人類の夢」の共犯の歴史について、少し述べたい。ロケット開発は、その歴史の初めから軍とは切っても切れない関係にある。とりわけ、ナチス政権下で、初の近代ロケット兵器、つまり中距離弾道ミサイルのV2 を完成させ、戦後はアメリカの宇宙開発に協力し、アポロ計画の成功に尽力したフォン・ブラウンの人生は、その共犯性を露骨に示している。彼は初め、宇宙旅行を夢見る学生たちが組織した宇宙旅行協会に参加し、宇宙ロケットの開発を進めたが、ナチス政権下ではロケット兵器開発に尽力した。敗戦後かれは月に人類を送るという若いときからの夢を実現させたが、それは冷戦下、ソ連との熾烈な宇宙競争の中でのことであった。
宇宙ロケットと弾道ミサイルが同じ根を持つことは比較的知られていることであるが、冷戦下において大陸間弾道弾という長距離ミサイルが登場し、開発・配備競争が進んで以降、それらは一層区別がなくなった。つまり、現在までアメリカの商用ロケットとして使われているデルタ、アトラス、タイタンの各シリーズは、退役した弾道ミサイルをバージョンアップしたものにすぎない。また、アポロ以後、アメリカは宇宙の覇権のために、スペース・シャトルを不可欠の一部とする宇宙基地計画を推進してきたが、そこに参加する企業もまた軍需産業である。このことは、宇宙と軍事がほとんど重なっていることを意味している(注1)。この宇宙と軍事の一体性については、いまさらとりたてて指摘するまでもない─そして、望ましくなくても変えがたい─事実であると思う方も多いかもしれない。しかし、少なくとも、ここで注意すべきは、現在、「宇宙の軍事化」が拡大しつつあることである。つまり、ブッシュ政権が推進しているミサイル防衛計画により、宇宙空間に攻撃的兵器が配備され、宇宙空間が戦場となる危険が増している。日本政府が打ち上げた偵察衛星も、この政治的軍事的文脈においてなされたことに注意しなければならない。
 私の主張する「宇宙開発は非軍事利用に限定すべき」の意味には、宇宙空間に攻撃兵器を配備してはいけないというだけでなく、軍事偵察衛星の規制も含んでいる。ところが、実は、宇宙空間利用に関する国際的取り決めであり、一部平和利用の規定もある宇宙条約は、宇宙空間への大量破壊兵器以外の攻撃的兵器の配備は禁じていない(注2)。そこで、最近中国やロシア、平和NGO などはそれぞれの立場から宇宙条約の規定を厳しくする方向を提案している。この情況においては、つい最近まで法的縛りのもとで曲がりなりにも宇宙の平和利用に徹してきた日本の存在は重要であった。国際的な「宇宙の非軍事化」の取り組みにおいてイニシアティブをとるべきところであった。日本が性能も高くない偵察衛星を所持したところで軍事大国化ともいえずたいした問題はないと思う向きは、このような「宇宙の軍事化」拡大をどう食い止めるのか、という観点から考え直してもらいたい。
 それでは、仮に平和利用に限れば宇宙開発は積極的に進めるべき人類の共通の夢と言えるのか?
 特に、リスクもコストも莫大な有人計画を続けることは果たして正当化されうるのか?
 この点に関して考えてみよう。私自身はいまだ推進側から説得力のある説明を聞いたことがない。人口爆発・資源難・食糧難等の進行が地球外脱出を必然化する、絶えずフロンティアを求めるのが人類の本質、といった典型的な言い方─しかし分別のありそうな立派な学者すら口にする言葉─は誤った思い込みにすぎず、いうなればイデオロギーである。まだ大規模展開していない宇宙開発自体が環境負荷的で危険だというのに。これでは一部の宇宙ファンを引き付けても、冷静な市民や現実主義的な政策担当者を納得させることはできない。そこで、有人宇宙計画は、やはり軍事計画と共犯せざるをえなくなる。
 また、スペース・シャトルに代表される有人宇宙技術は、あまりに未成熟である。実際に飛ばしてはいるが、不確定要因を無数に抱えた実験段階が相応であり、真に実用可能な水準まで達する見込みが果たしてあるのか、疑問である。以上のようなことから、私は、宇宙の非軍事化に加え、すべての有人宇宙計画の凍結を主張したい。もちろん、こう主張しただけで世界の趨勢はすぐには変わらないであろうし、変わるとしたら、資源や資金といった「物質的」要因が強く働くときだろう。が、少なくともいま、日本政府にそのような道を政策的にとらせる努力をすることはできるだろう。
 最後に、私は宇宙開発の全否定はしていないので誤解しないで欲しい。小規模の科学探査計画、生活上必要度の高い実利的な人工衛星の開発等は進めてもいいだろう。ただし、極力宇宙ごみ(海底のごみも)を増やさずに、すでにあるごみ問題の解決と矛盾しないかたちでつつましくやらねばならない。日本の宇宙三機関統合は、本来ならば、この方向で進めねばならないのである。
(注1)表1参照。
(注2)宇宙条約(「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」1967 年発効)の第4条に次のようにある。「条約の当事国は、核兵器及び他の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置させないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に設置しないことを約束する。
 月その他の天体は、もっぱら平和的目的のために、条約のすべての当事国によって利用されるものとする。天体上においては、軍事基地、軍事施設及び防備設備の設置、あらゆる型の兵器の実験ならびに軍事演習の実施は、禁止する。」

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