リレー連載「住環境革命のために」第1回 「長期優良住宅マンション」のすすめ

投稿者: | 2010年7月20日

「長期優良住宅マンション」は資産をつくるマンション

日本の住宅政策を大きく転換する「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が平成21年6月に施行されました。弊社福永博建築研究所は15年以上にわたりマンションの長寿命化の設計・開発を行ってきました。昨年度には、そうした一連の提案が「長期優良住宅先導的モデル事業」に採択を受け、現在プロジェクトに着手しています。ここでは、マンションで当該制度の認定を受けたものを「長期優良住宅マンション」と呼び、研究所のこれまでの経験から、その求められる背景と意義をご紹介します。
日本のマンションが一般化したのは戦後のことです。人口も、経済も、所得も右肩上がり、都市に人が集まるので土地の値段が上がり続ける、まさに土地神話時代です。こうした右肩上がり時代につくられた従来型のマンションはそもそも、一戸建てへの足掛けであり、仮の宿であり、誰も一生住むことは考えていませんでした。今のマンションに「あと何年住めるのか」はっきり答えられる人はいません。寿命の分からない商品…これでは資産にはなりません。今まで資産だと思っていたマンションの価値も、建物は使えなくなってしまうため実際は土地の値段にすぎませんでした。しかし今や、その土地の値段さえ下がり続けています…。
この時代に、どうすれば資産をつくるマンションをつくれるのでしょうか?

土地ではなく建物で資産をつくる時代

人口減少。日本では2006年をピークに人口が減り始めています。このことは言葉以上に深刻です。人口が減ることは経済の減速、地価の下落へと波及します。バブルが崩壊し土地神話が成り立たなくなって以降、大きく経済の原理が変わったのです。
1990年代、2000年代は地価が下落しても人口がまだ延びていたので、従来型のマンションがつくられ続けました。しかし今や人口も減少に転じ、いよいよ土地ではなく建物で資産をつくらなければならない時代になりました。それでは、建物で資産形成するとは具体的にどういうことなのでしょうか?

資産価値が維持できる=修理がしやすい

鉄筋コンクリートそれ自体の耐久性は通常でも100年は超えるといわれています。けれども、実際にはマンションの寿命はそれよりずっと短い…。その差は設備が古くなって使えなくなることにあります。電気やガス、水道、排水などの設備は毎日使うものです。当然、痛みます。永遠ではありません。なので、いずれは新しくしなければなりません。しかし今までのマンションは、長く住み続けるという視点をもたずに設計されてきました。従来型のマンションでは、皆で使う共用部分と家族だけが使える専有部分とが混じり合って配置されてしまっています。問題は、上下階を竪に貫く共用の排水管が、専有部内を通っていることです。トイレの裏や、ユニットバスの脇などにあるパイプスペース(PS)です。新しいものに取り換えるには、各個人の所有物である専有部分の壁や床を壊す必要があり、非常に困難なことです。部屋に入ることを拒まれたり、壁や床の改修費は誰が出すか決めるなど、手間も時間もかかります。どうすればいいのでしょうか?

LCC(ライフ・サイクル・コスト)評価が環境時代のスタンダード

マンションを長く使う視点からいえば、そのような専有部内に配管のある内配管ではなく部屋の外側の共用部分から交換のしやすいような外配管方式が必要です。日本では戦後、配管など傷みやすい部分を取り替えやすい仕組みにすることを考えずにつくってきました。修理することをはじめから考えてつくられている例としては、イタリア・フィレンツェのドォーモ(大聖堂)があります。外壁に穴があり、補修の際に地面から足場をかけなくて良いような修理のしやすい仕組みで設計がされています。このように、建設時だけの安さでなく長い期間使っていくなかでかかるコストも含めて評価することは環境問題では当たり前のアプローチです。人口減少で、地価デフレで、住宅余りの中で、マンションをこれからせっかくつくるのなら、それは、ライフ・サイクル・コスト(LCC)視点でつくることが、長い目で見れば資産となります。右肩上がり時代から人口減少時代へ、時代が変わりました。その中でのマンション選びはどうすべきでしょうか?

環境のため、地域のため、次世代のため。それが自分のため

まとめます。地球環境時代、建設業は環境負荷の大きい業界です。これまでのようなスクラップ&ビルドはもはや許されません。
「良いものを建てて永く大切に使うストック社会」が時代の必然です。人の住まないマンションはスラム化の恐れもあります。そうならないため、しないためにも、少ないコストで維持・管理・取替ができて人が住み続けられることが、地域のためにもなります。ヨーロッパの格言に「親が家を建て、子供が家具を揃え、孫が食器を整える」というものがあります。30年かけてローンを組んだマンションが、支払い終わる頃に取り壊されるのでは余りにもモッタイナイ。次の世代へ住居負担の少ない、自由で文化的な生活を贈るためにもマンションを長い間使えることが必要です。そして結局はそうしたことが自身の資産価値をつくるという、自分のためにもなるのです。

生命も資産も守る頑丈な躯体

次に「長期優良住宅マンション」のつくり方を紹介します。ポイントは「長期使用による資産形成」という視点です。
住宅を購入するということは、二つの安全を守ることを意味します。「生命」と「資産」です。大地震から命を守ることが第一です。
けれども、建物の構造にヒビが入ってしまえば、残っている当初のローンに加え、復旧のための二重ローンとなります。これでは現実的な生活が成り立たなくなってしまいます。一般的な造りでも、数十年に一度の中規模地震には生命も資産も守れますが、百年に一度の大規模地震に対しては、命を守ることだけで資産の保証までは考えられていません。「長期優良住宅マンション」では、大地震にあっても使い続けられる構造でつくります。長期使用による資産形成視点からは、大地震による復旧リスクを余分にとることは保険のようなものともいえます。

あと何年住めるか分かる。共用配管の取替

長期使用による資産形成視点からは、消耗品である配管が取替できるかどうかが最大のポイントです。そのために設備設計は、共用部から作業のできる外配管とし、素早くできて大きな音をたてない簡単な工事で取替できるようにします。修理の運営は、たとえば50年毎に取替することをあらかじめ計画することで合意形成が整わず交換できないという事態を避けます。何よりもこうした計画が最初に決まっていることが重要です。あと何年住めるか誰もわかっていない従来型のマンションとの最大の違いです。

メンテナンス工事中も暮らせます

長期使用による資産形成視点は、工事中の仮住居費まで心配します。もし住戸内に共用配管が通っていれば、工事の際は部屋の壁や床を壊さなければなりません。その間は住めなくなるので近くにホテルを借りると、お金が余分にかかります。「長期優良住宅マンション」では、可能な限り住みながら取替工事が進められるような設計になっています。共用配管を住戸の外に出して、共用廊下側から工事できるようにすれば、生活が続けられます。当たり前のことのようですが、現実的に必要になることをあらかじめ計画することが本当の資産形成につながるのです。

住空間の自由、それは人生の自由

子供が生まれると家を買うというのは、今も昔も変わらぬ購入動機です。しかし、長期使用による資産形成視点からは、先々のこともしっかりと考えておきます。10年後、20年後、そして50年後…。長い期間では家族構成も変わり,所有者さえ変わるかもしれません。その時、天井が低く余裕がなく、配管が部屋を上下に貫いていたら、変えたいように間取りも変えられません。50年後は高齢社会。ファミリー世帯の割合は減少するでしょう。ファミリー向け3LDKがシニア夫婦向けの1LDKに変えられれば、市場需要に合致します。住み続けることも、貸し出すことも、売りに出すことも容易になります。住空間が自由だと、人生の選択肢も自由になります。

買った後も安心。修繕積立金内で収めます

ローンの支払いが終わった、これで老後も安心だ…と思ってた頃に来る修繕費の値上げ。従来型のマンションの多くは毎月の修繕積立金が不足し、修理内容に応じて値上げしているのが現状です。将来の修繕費が予測できず不安定では、安心した生活はおくれません。「長期優良住宅マンション」は、はじめから修理しやすい改修計画を決めています。従来型のマンションのように対症療法的に繕い、積立金不足と値上げを繰り返すのではなく、長期使用による資産形成視点により従来の考え方を転換して現実的にかかるメンテナンスをあらかじめ計画し積立金内で収めることで生活の安定を得ます。
以上のポイントすべてに共通するのは「長期使用による資産形成」の視点です。あと何年住めるか分からず資産にならない従来型マンションとどちらを選びますか?「長期優良住宅マンション」によりマンション選びが変わります。■
鎌田功
(福永博建築研究所/市民研・住環境研究会メンバー)

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