土の科学の基礎 その2 不思議な腐植の働き

投稿者: | 2004年7月4日

石橋夏江  
pdf版はwatersoil_001.pdf
  地中の有機物が分解されると、その一部は腐植となります。腐植は暗褐色の物質です、土の暗い色はこの物質の色によるものだと言われています。腐植の大きさは1nm(10mm)~100nm(10mm)です。このように非常に小さいため、粘土と同じようにコロイドとしての性質を持つのでマイナスの電気を帯びています。したがって腐植も粘土と同じように土の中でイオン交換体として働きます。また、多少の粘性があることが多いようです。腐植は酸やアルカリにより腐植酸、フルボ酸、ヒューミンという3種類の物質に分けることができます。腐植酸は褐色で土壌改良剤として利用できます。フルボ酸は透明な液体、酸は金属化合物と結びつく性質があります。そして、土のミネラルの中にはフルボ酸と結びつくことで河川を通り海までたどりつくものもあるのです。
 
 腐植を構成するこれらの物質はまるでブドウ糖とかクエン酸のように化学式で単純に表現できる物質のように感じるかもしれませんが、実際は場所によって成分や組成は異なります。腐植は植物の難分解性の繊維質をはじめ多くの物質が様々な過程を経て分解されたのち再集積した物質と考えられています。分解される過程、再集積する条件(気温・湿度・再集積する物質の種類・地圧の強弱など)は一定ではないため、腐植のイオン交換体としての能力など性質にもばらつきがあります。
イオン交換体
 粘土も腐植も大変細かい粒子でできているためコロイドの性質を持っています。また粘土は結晶の特徴からマイナスの電気を帯びています。マイナスに帯電しているということはプラスの電気をひきつけます。イオンを引き付ける力は強固でないため割合簡単にその表面を離れます。(図3)粘土や腐植はプラスのイオンを引き付けるので陽イオン交換体と言います。植物の成長に必要な物質の多くがプラスイオンの形で土の中に存在しています。たとえばカリウム(K)やマグネシウム(Mg)などです。
 土の能力を表す1つの目安に「保肥性」があります。肥料を保持する性質のことです。この能力は粘土や腐食のイオン交換能によってもたらされます。腐食や粘土のイオン交換の働きで保持されたプラスイオンが土の中の水に流れ出すと植物の根がそれを吸収することができます。プラスイオンが離れていってしまった場合、粘土は表面が電気的にマイナスに傾くため新たなプラスイオンを吸着します。周りの土にプラスイオンがないときは水分中の水素イオン(H)が吸着されます。このようにして過剰な養分は貯蔵し、植物が必要なときに供給する貯蔵庫の役割を果たしているのです。 
 陽イオン交換体がひきつけるのは肥料分になるものばかりではありません。金属はイオンになると必ずプラスイオンになります。金属は過剰に体内に入ると中毒を起こすので金属で汚染された水は危険です。量が少なければ土が金属イオンを吸着して水を浄化してくれますが、たくさんの金属を土のなかに蓄えてしまうと徐々に地下水や河川などに金属を再流出させ、汚染し続けるという大変始末の悪い事態になってしまいます。足尾銅山事件や、イタイイタイ病(カドミウム中毒)などでは河川や魚介類の汚染だけでなく土壌の汚染も深刻でした。汚染された土をきれいにすることは今のところ難しく、土を丸々取り除いてどこかへ埋めるなどして処理するのが一般的です。
 公害の話といえば酸性雨も土に影響を与えます。池や湖などの閉鎖系の水域に酸性の雨がどんどん降るとその水は短期間で酸性に傾きます。一方、土は酸性物質(= プラスイオンがその性質を持っている)をひきつける腐植や粘土の働きですぐに影響が現れにくいとされています。これを土の化学的緩衝能といいます。
 しかしこの化学的緩衝能も無限に酸性を中和しきれるわけではないので陽イオン交換容量の大きな土でも強い酸性の雨に何年もさらされれば、プラスイオンを吸着しきれなくなって土そのものが酸性になります。すると土中の微生物のバランスも崩れ、酸によって地中の通常は溶け出さないような成分も溶け出します。当然植生に大きな影響がでると思われます。
 今まで腐植と粘土は同じようにイオン交換体として働くというお話をしてきましたが、やはり、その能力には違いがあります(図4)。このグラフは 100gあたり何ミリグラムのイオンを交換する能力があるかを示したものです。左から三つは粘土鉱物の種類です。右の二つは日本でよく見られる土の種類で黄色土は一般的な畑の土、黒ぼく土は有機物を大量に含んでいる土です。ご覧になると分かるように腐植の陽イオン交換量はダントツであることがわかります。もちろん腐植の性質は均一なものではないので陽イオン交換量が資料によって数値に若干違いがあります。それでも粘土鉱物や土本体と比べると群を抜いています。
 腐植の研究はまだ十分にされていません。今後、更なる研究の結果、もっとすごい力も発見されるかもしれません。
土の三相のバランス
 土のことを知るために土の固相について注目してみました。これで本当に土について理解することができたかというと、どうもこれだけでは不十分なようです。固相の割合は変えずに気相と液相のバランスを変えるだけで植物の生育が全然違ってきます。液相が多い場合、根が十分に成長できずにやがて植物全体が枯れてしまいます。逆に気相が多い場合は水分を求めて根が地下深くへ縦に伸びますが、十分な水分が得られないとやがて植物は枯死します。では固相が多いとどうなるでしょうか? 気相も液相も少ないということは土の粒の間に隙間が少ないということで、極端に言えば踏み固められた道の土などです。
 このように土にどんなに腐植や粘土や植物の養分になる物質が含まれていても、三相がバランスを欠いた状態だと植物は成長できないのです。
土の粒と団粒構造 
森林やよく手入れされた庭などの土をよく見ると土が塊になっているのを見かけます。いわゆる「土くれ」というものです。あのような人間の手でつまめる大きさの塊とは別にもっと微細な塊が土の中に存在しています。土の一粒一粒がくっついて塊を形成しています。これを土の団粒構造といいます。団粒同士がさらにくっついて更に大きな(といってもシルトや粘土粒からみればの話ですが)団粒を構成していきます。このように団粒構造が発達せず土の粒が独立して存在する土とを図で表したものが図5です。団粒構造が発達していないほうの土はギュウギュウで隙間が少なく、一方、団粒構造が発達した土のほうは粒と粒がくっついているところもあり、隙間もあります。ここが三相のバランスという点で、ポイントになりす。粒と粒がくっついているところに水は溜まることができます。隙間が空いたところでは水が入ってきても流れてしまい空気が入り込んできます。つまり液相と気相、両方がバランスよく存在できるのです。
団粒構造の役割
 土の通気性がよいということは水はけがよいということです。保水性と水はけを両立するというのは難しそうですが見事に両立する団粒構造というのは非常に優れた自然のメカニズムだと思います。
 団粒構造が発達していない土は耕して粒と粒の間が離れるようにすると、粒が独立しているので風が吹いたときにはさらさらと吹き飛ばされてしまいます。雨が降ると水が土にしみ込む際に土の粒と粒を引き寄せ、空間をつぶしてしまいます。雨が降る度に土の粒と粒の間隔が狭くなり、固相の多い固い土になってしまいます。こういう土では植物の育ちが悪くなります。一方、団粒構造が発達した土というのは隙間が適度にあるので柔らかです。団粒構造が発達しているところには多様な生き物が生存できます。これはとても土にとって重要なことです。ミミズ、昆虫、藻類、菌類、原生動物など土の中にはわたしたちの想像を超えた多くの生物が生きています。特に微生物は小さな団粒構造の中で棲み分けができます。乾燥したところが好きなものや嫌いなもの、酸素が必要なものや逆に嫌いなものなど様々だからです。住環境の好みだけでなく土の中で担っている役割もそれぞれ違います。こうした生き物の多様性を維持する機能も団粒構造にはあります。
団粒構造はどうしてできるの?  
 団粒構造は土の粒同士がくっついてできています。どのようにして土の粒はくっつくのか、実は説がいろいろあります。その中から3つ紹介したいと思います。
 
一.粘土や腐植は水分を含むと粘性を持ちます。そのため周りにある植物の繊維質などを絡めこんで団粒になるという説。
二.微生物自身が粘土や腐植などの粒に引っ付いてしまい土粒を引き寄せている。
または微生物の出す分泌物などで土粒同士を引っ付けるのではなかという説。
三.土壌動物の働きで土粒同士がくっついているという説。ミミズはお尻だけを地表にだして糞を排出し、それが小さな塚のような形状になります。この塚は比較的雨の浸食にも強い土塊です。その他肉眼で見られる生き物は土の中の自分の棲み処が土に埋まらないように粘液や糞などで棲み処の壁をめたりしています。このような働きが団粒の形成に一役買っているのではないかというのです。
 
 ここに挙げた説は一般的なものですが3つの説には共通点があります。どの説も生物が関与してくるという点です。もうひとつはあまり乾燥していてはだめだということです。粘土や腐植は水分があってはじめて粘性という性質がでてきます。微生物や土壌動物も乾燥したところを好むものもいますが、ある程度の水分はなくては生きていけません。
団粒が壊れるとき
 団粒構造はそれほど堅牢な構造物というわけではありません。自然界では、壊れてもまた独立した土の粒が団粒構造に取り込まれているようです。しかし、回復が難しいほど団粒構造が壊れてしまうことが観察されています。ひとつは砂漠化した土地の土、もうひとつは省力化された大規模農場の土です。砂漠化した土は過度に乾燥しています。そこでは、団粒はばらばらになり風が吹くと容易に運ばれてしまいます。その例が毎年中国から飛来する黄砂です。土と一言で言いますが、植物が育つもっとも養分に富んだ表土は地球の薄皮のような存在です。それが吹き飛ばされてしまった後に、人間がいくら灌漑し、植林などして土地を再生しようとしても、なかなか難しいものです。 
 
 団粒構造は押しつぶされると壊れます。アメリカなどの大規模農場で使用するトラクターは巨大です。マンモストラクターで耕運するのは団粒構造を押しつぶして破壊し、機械で土を耕しながら壊れた団粒をばらばらに砕いているようなものなのです。そのうえ化学肥料や農薬を大量に散布します。病気を防ぐため土壌消毒剤も散布します。そうした土にミミズやいろいろな微生物などの生き物が生息できるでしょうか?
 こうした農法を続けた土の団粒構造は破壊され、団粒構造を再構築するメカニズムも奪われて、サラサラした砂のような土になってしまうそうです。土というのは複雑なシステムなので壊されてしまうと元に戻すのは難しくなります。
(どよう便り 78号 2004年7月)

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