「発酵であそび、発酵で学ぶ」第1回 ~微生物が教えてくれたこと~

投稿者: | 2004年7月4日

大塚典子(グラフィックデザイナー)
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 皆さん、初めまして!初めて…じゃない方もいらっしゃいますね。自家製酵母でパンを作る発酵好き、大塚典子と申します。去年、市民科学研究室のクリスマスパーティで「自家製酵母のパン作り講座」を担当させて頂いてからのご縁で、今回からこの「どよう便り」に執筆させて頂くことになりました。どうぞよろしくお願いします。私は2年くらい前から環境問題に興味を持って、それほど知識がないのにも関わらず「酵母から身近な生き物や、自然とのつながりを考える」というような活動を細々とやっています。どうして「酵母・微生物」に辿り着いたのか、そのへんを今回は自己紹介がてらお話しようと思います。
 私がなぜ環境問題に興味を持ったのかというと、2年くらい前に知人から「家庭菜園を作るので手伝って」と要請を受けて、ざっくざっくと土を掘りまくったのがきっかけでした。久し振りに土に触れて汗をかいたら、何ともいえない爽快感と懐かしさがこみあげてきて…。この汗の感じは何だろう?と記憶を辿ってみて思い出したのは、子供の頃夕方までかけずりまわって遊んだ、汗の匂いでした。東京に戻ってきても、あの時の気持ち良さを忘れられなかった私は畑をやってみたくなって「無農薬野菜の作り方」の本を手に取り、その本の「土の微生物のはたらき」の欄を読んだのです。そして、そこには農薬による環境汚染について書かれていました。
 生態系って、小学校で習いましたよね。土の中にはたくさんの微生物や生き物が住んでいて、それらが良い土を作り、野菜を育てる。私たちはその野菜を食べて、出た生ゴミは微生物の働きでたい肥になり土に還る。生まれて循環しながら最後は土に還り、そこからまた新しい命がうまれる、ムダのない流れ。それを読んで、ハッ、と気付かされるものがありました。その時、自分も自然の一部だったんだ、ということに、今さらながら気付いたんです。
 そのことに気付いたら、何だか不思議な安心感がわいてきました。ちょうど2 0 代も後半で、これからの生き方について悩んでもいた時でもありました。自分は大自然のなかの一つで、全てのつながりの中で生かされている。女としてずっと輝いていたいとかキレイでいたいとかそんなことより、人間としてシンプルだけど確かで、ずっと変わらない生き方がある。そんなあたりまえのことを忘れていた自分に気付いた時に、スコーンと目の前が開けていくのを感じました。そして、その私たちを育む自然環境が農薬や化学汚染によって壊されているというのです。
 無縁だと思っていた環境問題の中に自分がいる、という姿を認識して、遅い出発ではありましたがNGO で活動をするようになりました。環境問題は「みんなが変わらないと何も変わらない」という思いがあって、誰にでも身近なことで気付きを与えられることが私のテーマになりました。誰にでも身近なこと、それは「食・農業」が一番近いと考えました。でも、安全な食と言い過ぎて変にヒステリックになりすぎてもいけないし、自然食品店は比較的高価だし、どこにでもあるわけではありません。農業は野菜を育て食べることで「命を頂く」ということ、自然とのつながりを体感できる一番の方法です。でも、土地が必要な農業は誰もが経験できるチャンスがあるわけではありません。
 そんな時でした。ひょんなことから「酵母」と出会ったのは。
 酵母は空気中どこにでもいて、パンやワインは発酵した酵母が作り上げた代表的な食べ物です。甘いものが好きで、適した環境にするとブクブクと発酵します。発酵した液を小麦粉と水と塩でこねると、生き物みたいにむくむく脹らんで美味しいパンができる。身近な酵母(微生物)を、自分で育て食べる「発酵」…これならきっと、誰にでもできる!
 それから私にとって酵母は、会う人に生き物とのつながりを伝える、大事なパートナーになりました。身近な微生物の存在を知り、自分と自然とのつながりを実感し、自分自身の生活や環境、そしてもっと広い世界へ目を向け行動できるようになったら、何かが変わっていくかもしれません。そんな可能性が、酵母・微生物にはあると信じているのです。
 はじめは一緒に発酵食を楽しみましょう。パンやお味噌、身近な食にまつわる不思議なことや面白い話を勉強しながらお伝えできたらいいなと思います。そして少しずつ、広い微生物の世界を一緒に知ることができたら、みんなと面白いことができるかな?と目論んでいます。それは、もっと先のお楽しみ。素人がどこまでできるか分かりませんが、どうぞおつき合いのほど、よろしくお願いします。連載が終わったら、みんなで発酵食パーティをするのが今の目標です(^^)

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