環境エッセイ 第4回  エコポイントは本当に「エコ」か?

投稿者: | 2010年5月21日

上田昌文
 先月から「エコポイント」が始まった。その要点は次のとおり。
○省エネ基準(統一省エネラベル4つ星以上)を満たす家電(エアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビ)を購入すると、主にサイズ別に一定のポイントが付与される。
○対象商品であればどこで購入してもどんな価格でも一律のポイントが得られる。
○必要な書類(領収書、保証書、下取り時は家電リサイクル券の控え)をしっかり保管しておかないとポイントの申請ができない。
○2009年5月15日から2010年3月末日までに購入した分が対象となる。
 上記の家電を購入してエコポイントをためている人もすでに多数いる段階ではあるが、私はこの制度は国民を欺く一種の「エコ偽装」だと思っている。この制度は、今の政府が補正予算でまかなうことにしている「定額給付金」「1,000円高速」と並ぶ3点セットであることからわかるように、エコを装った景気対策、さらにはっきりいうなら、政権の人気とり施策である。私たちは、時と場合によって「エコ」がいかにいい加減に扱われるかを、この拙速でずさんな制度を通して学ぶことができるだろう。
 まず何よりも奇妙なのは、地デジ対応TVが対象になっている点だ。百歩譲って、エアコンと冷蔵庫での「エコ」促進を認めるとしても、「地デジ」はどう考えても「エコ」とは無縁だろう。そもそも、今ある、そして今後も相当長く使えるであろう各家庭のアナログTVを2011年までに全廃させるという政策が、反「エコ」である。膨大な廃棄物と化すアナログTVをどう処理するのか? 「家電リサイクル法」に従うなら、メーカー側の処理設備の増強が消費者の負担としてはねかえってくるのは必至だろう。
 この3品目はすでに省エネ技術の投入がかなり進んでいて、いってみれば、放っておいても、徐々に省エネタイプへの買い替えが進むことがみえている品だ。2,900億円という税金を投入し、エコの社会的波及を狙う対象としては、いかにも貧しい。例えば、自家用車から公共交通や自転車にシフトした人やそれを促進するシステムに、あるいは山林の購入・維持管理をすることに、エコポイントを与えたりする方がずっと「エコ」ではないかと私は想像するが、そうした比較検討を行った上での、家電3品目の選定だとは、とても思えない。
 買い替えを促進するというのなら、今使っている製品をしっかり点検して、なるべく長く使い、どの時期に買い換えなくてはいけないかを見定める、というのが筋だし、そのことを消費者自身に促すのが環境意識を高める本来のやり方であろう。「ごちゃごちゃ考えずに、とにかく1年以内に買い換えないと損をするぞ」と言わんばかりの政策は、無駄な買い替えを促進させる恐れもあるし、まじめにエコを考える姿勢をないがしろにするものではないだろうか。
 3品目に関する規定をみると、エコポイントのつけ方が家電のサイズや容量に比例して大きくなっているのも納得がいかない(たとえば、テレビで最も高いポイントが付与されるのは、46型以上の3万6,000点(1点は1円換算)。37型は1万7,000点、32型は1万2,000点)。大型になるからといって省エネ効率が大きくなるとは限らないのは、誰が考えても明らかで、下手をすると、小型から大型に買い換えることでかえってエネルギー消費が大きくなる家庭が続出することになる。もし仮に、エコポイントによる買い替え促進で、将来、この家電3品目でのトータルなエネルギー消費の減少はみられないと判明すれば、誰がその責任をとるのだろうか?
 買い替え需要のある人にしかメリットがない仕掛けであることや、「エコ」を言うなら本体価格以外のコスト(リサイクル料金、年間の電気代など)を含めたトータルなコストで考えなければならないのではないかといった点など、疑問は尽きない。ためたエコポイントが何に使えるのかも決めないで見切り発車したことも、唖然とする他ない。
 しかし最大の難点は、もうお気づきであろうが、そもそも「省エネ家電への買い替えを促せばエコになる」という単純な前提にある。暑い夏にエアコンをガンガン使えば、それが省エネタイプであろうが、エネルギー消費とCO2 排出は大きくなり、「エコ」ではなくなる。一人当たりの消費電力量が少ない世帯にエコポイントを付与するのが、一番まっとうなやり方なのだが、決してそんな具合に話をもっていかないところに、この制度のいかがわしさが見てとれる。■

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