米粉:それは日本の食の改善の切り札になるだろうか?
第1回 米粉調理を試してみた
市民研・食の総合科学研究会
10年ほど前から、米粉が徐々に食の話題の一つとして語られるようになり、一般の市場でも米粉製品をちらほらと目にするようになってきた。日本の低い食糧自給率が問題視されるなかで、国内消費でみると、輸入依存が8割を超える小麦の消費が伸びる一方、自給率がほぼ100%のコメは減少傾向にある。コメの生産を日本の農業政策の主軸に据えてきた農水省にとっても、自給率向上や環境負荷低減の面からも、コメの消費をどう拡大させるかは重要な課題であり、民間ともタッグを組んで米粉の普及をはかろうとしているのもそのためだ(2008年開始の「フード・アクション・ニッポン」の取り組みのひとつとして「米粉倶楽部」、2017年に「日本米粉協会」を創設、「NPO法人国内米粉促進ネットワーク」との連携、など)。
追い風となる要素は確かにある。
(1) 製粉技術の向上で、小麦粉とあまり変わらない粒子サイズでの、しかもデンプン粒の損傷が少ない粉砕が可能となったこと。これでパンやケーキや麺などにも用途が広がることになった。
(2) 小麦に比べて油の吸収率が小さく、アミノ酸バランスもよい。ヘルシー志向への訴求力がある。(ただしカロリーについては、米粉と小麦粉では、粉末自体のカロリーの差はほぼないけれど、調理内容によって多い少ないは入れ替わる。)
(3) 米粉はグルテンフリーであり、セリアック病や小麦アレルギーなどグルテンを摂取することで引き起こされる病気を患う人(あるいはそれを避けたい人)にとっては、小麦の代替になる。グルテンフリーの食事法が欧米で流行しているので、輸出拡大の機運がある。
しかし、一方で
(4) 製粉のコストが高く、小麦粉に比べて市販の米粉は同量の袋でみて2倍から3倍ほどの値段になっているのが普通である。
(5) 料理をする時にダマにならない、固まりにくい、ふるう必要がないなどの利点があり、もちもち、あるいは、サクサクした食感が出せる場合もあり、好まれるはずなのだが、米粉パン作りで“膨らみ”をもたせるのが難しいように、調理法に意外な難しさがあったりする。
(6) 例えば米粉パンでみると、小麦のパンに比べて日持ちがしない。
といった事情があって、加工食品には米粉を使ったものが徐々に増えてきてはいるけれど、一般の家庭で米粉料理を手がけるのはまだかなり珍しい、という段階にあるように思われる。
米粉がどう普及していくか、していかないかは、日本の食事情のいろいろな面がそこに反映する、なかなか興味深い問題であろう。
そこで、市民研・食の総合科学研究会では、2回に分けて、米粉の現状をレポートしてみることにした。第1回は、研究会のメンバーがそれぞれ試してみた様々な米粉料理の報告をする。米粉は山口県の有機農家(エコファーム認定農家)である有馬輝夫様から寄贈していただいた、非常に粒度の細かなコシヒカリを用いている。第2回はそうした調理の経験をふまえて、米粉が普及するには何が鍵になるかを、日本の食の事情のいくつかの側面にメスを入れつつ論じてみたい。