保育園児を対象とした午睡見守りWi-Fiシステムの電磁波測定

投稿者: | 2019年9月20日

上記写真はhugsafetyのホームページより

保育園児を対象とした午睡見守りWi-Fiシステムの電磁波測定

上田昌文(NPO法人市民科学研究室)

▶ 本文(PDF) 質問状(PDF) 電磁波測定報告書(PDF)

「見守りシステム」で見落とされている電磁波曝露

近年になって増加してきた電波の新たな用途して、「ICTを活用した見守りシステム」がある。対象は主として、通学時などに“危険”にさらされる恐れのある学童と、そして認知症を患っていて徘徊の恐れがあったり、一人暮らしであったりする高齢者、である。

例えば、大阪府伊丹市では、市内の電柱などにビーコン受信器を配備し、子どもや徘徊する認知症高齢者などの位置情報を保護者・近親者などに24時間体制で知らせる仕組み(「まちなかミマモルメ」)が導入されている(阪神電鉄との連携事業)。これは、ビーコン発信機を持った子どもや高齢者が設置された受信機に近づくと、通過履歴がサーバーに送られ、保護者や市民ボランティアのスマホで受信する。これを導入して以降、街頭犯罪・侵入犯罪の抑止効果があったとされる(※1)。

※1 電信柱から小学生を見守り、防犯カメラとビーコンを併用――伊丹市

こうした自治体での導入事例は、総務省の後押しもあって(※2)、実証実験段階のものも含めて、徐々に増加しているものと思われる。例えば東京都・墨田区でも、区が(株)アサヒ飲料と情報通信研究機構(NICT)と共同で、区内の電柱やアサヒ飲料の自動販売機(のうち約100台)に無線ルーターを搭載し、近隣を通過したビーコンの履歴を家族のスマートフォンやパソコンに伝える、という実証実験を進めている。

※2 『児童見守りシステム 導入の手引書』(総務省情報流通行政局)

ただし、このような広域の導入は費用がかなり高額となり、予算化が必ずしもうまくいくとは限らない。そこで、例えば養護施設や学校や保育園などに、行政が補助金を出しつつ、各施設や保護者らに負担を求めていく、ということになる。施設関係者や保護者らが、「それで安全をより確かなものにできるのなら、多少の負担はやむを得ない」という気持ちに傾きさえすれば、ICTならびに通信事業者にとっては、相当な利益が長期に渡って確保できることになる。

こうした「見守りシステム」を導入する際には、当然のことながら、対象となる本人たち(子どもや高齢者)もしくはその保護者の同意が必要とされるが、はたして、そのメリット(効果)とデメリット(使用に伴う何らかのリスク)そして負担することになる費用の合理性などが、事業者からきちんと説明されているのだろうか。

じつは、私の見る限り、説明されていないどころか、そうした問題があること自体が忘れられがちなのが、「そのシステムを使うことで、どのような電波をどれだけ浴びることになるのか」という電磁波曝露の問題である。

安曇野市に陳情書が出された経緯

このたび、市民科学研究室が長野県安曇野市在住の女性(Iさん、「電磁波過敏症問題の会」メンバー)から相談を受けて調査することになったのは、まさにこの問題であった。

安曇野市にある保育園のうち二箇所(「アルプス認定こども園」「有明の森認定こども園」)において、ソフトバンクの子会社「ハグモー社」が開発した「午睡センサーマット」を試験的に導入することとなった(7月26日に各園から保護者への通知がなされた)。これは、長野県が実施している「保育士業務に関するICT活用の検討」事業の一環であり、ソフトバンクと長野県はこの件で包括連携協定を結んでいる。ハグモー社が導入を持ちかけているのは、大別して二つのシステムがあり、両システムともWi-Fiを用いる。一つが今述べたセンサーマットであり、これは3歳児未満のお昼寝布団にセンサー付きマットを敷き、心拍数、呼吸数、体温などのデータを可視化して把握できるようにして、突然死の防止や保育士の労働軽減につなげるというもの(「hugsafety」と名付けられている)。もう一つは、専用のタブレット端末(「hugnote」と名付けられている)を用いて、園児の登園・降園をチェックし、延長保育の時間を管理し、そうした情報を含めて保護者への連絡をデジタルで保護者のスマホに配信するものである(hugsafetyでもこのhugnote端末を用いる)。松本市ではすでに2018年からこうしたタブレットを用いたICTシステムの試験的導入が始まっており、2019年度から2年がかりで公立保育園(43園)への本格導入を目指している。

2019年に塩尻市と安曇野市で試験的導入が決まった時点で、Wi-Fiの電波を幼児が曝露することで健康に影響が出るのではないかと懸念したIさんならびに同じく「電磁波過敏症問題の会」のOさんの2名が、安曇野市に陳情書を提出した(5月27日)。その要点は以下のとおりで、きわめてまっとうなものである。

1) Wi-Fi(無線LAN)の導入については慎重に検討してください。
2)センサー付きマットレスの使用は、保護者に説明し同意を得た場合に限るようにしてください。
3)実験運用に際しては、園内の電磁波測定や健康調査を行ってください。

6月21日の安曇野市福祉教育委員会で陳情の趣旨説明がなされたが、継続審議となり、そのことを受けて、Iさんから筆者に「次回の審議の場に参考人として来てもらえないか」との打診をいただき、筆者は正式にその福祉教育委員会協議会で意見を述べることとなった(8月9日)。

参考人として招致された際の陳述

筆者は、Iさんから事前に受け取っていた種々の新聞記事や経過報告やハグモー社の資料をもとに、この試験的導入が以下の3点の問題をかかえていることを指摘した。以下の文書に詳細を記している。

【hugsafetyの試験運用に関する質問状(検討すべき事項)】(PDF)参照

hugsafetyの電磁波計測とその結果

じつはこの参考人陳述がなされた日は、安曇野市の2つの保育園で導入試験がなされている日と重なっていたので、その2つの園のうちの一つ、「アルプス認定こども園」で、実際に園児が午睡している時間に電磁波測定が行えるように、事前にIさんらや安曇野市議の小林じゅん子さんらに取り計らっていただいたのだった。測定にあたっては、同園の主任保育士のKさんに全面的にご協力いただき、また「電磁波過敏症問題の会」のOさんには測定の助手を務めていただいた。

次に示すのは、この8月9日の測定結果をふまえて、安曇野市議会福祉教育委員会で、陳情を採択するか否かを決める審議に資するように、筆者は以下の報告書をまとめた。

【hugsafety 試験使用時における電磁波計測 報告書(PDF)参照

陳情の採択へ

筆者がこの報告書を送ってから約1ヶ月後、9月12日に安曇野市議会福祉教育委員会において、市立認定こども園のICTによる業務効率化についてのIさんらの陳情が採択された。そこでは、

1) Wi-Fi(無線LAN)の導入については慎重に検討する
2)センサー付きマットレスの使用にあたっては、保護者に説明し同意を得るようにする

ことが確認された。今回の試験導入では業者の説明チラシと園側の「案内」による告知のみだったことを思うと、これは明らかな前進と言えるだろう。

また、Iさんらの

3)実験運用に際しては、園内の電磁波測定や健康調査を行ってください

という陳情項目に関しては、筆者による測定の実施を受け入れたこと、また、園側からの「試験期間中に園児に体調の変化は見られなかった」との報告を受けたことで、まずは対応したことになる。むろん、数日間(午睡時の合計時間で10数時間未満)のWi-Fiの電波の曝露で急性的な体調の変化がみられたら、それこそ驚くべきことになってしまうが、上記『報告書』のなかで述べたように、高い感受性を持つ幼児期に恒常的にそれなりに高いレベルのWi-Fiの電磁波を曝露することは、将来において慢性的影響をもたらすかもしれないことに留意しておかねばならない。

全国的に展開されていく可能性の高い、この保育園児を対象とした午睡時の「見守りシステム」hugsafetyは、はやり、対象が幼児であるだけに、安易に導入してはならないものであろう。導入を検討している自治体や保育園に再考を求めたい。(了)

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