日本におけるデジタル・シチズンサイエンスの事例紹介

投稿者: | 2021年8月4日
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日本におけるデジタル・シチズンサイエンスの事例紹介

永田健雄(市民科学研究室会員)

 

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【概要】

 現在日本国内で継続中の3つのデジタル・シチズンサイエンス活動―「みんなで翻刻」、「関東雪結晶プロジェクト」、「GALAXY CRUISE」―を分析した。

シチズンサイエンスのメリットとして、研究の透明性や参加者からの信頼感が挙げられた。その中で、デジタル・シチズンサイエンスは、ウェブ上で直接取り組める形態やSNSの活用により、その特長がより強調される。

 一方、各々のプロジェクトは参加者が多い反面企画主催は個人依存であり、また参加者育成・動機付けの観点から事業の継続性に課題がある。

 また、ウェブサイトやSNSの活用においては適切な媒体選択が必要である。また、情報を効率的に発信しフィードバックを獲得するための対話設計も欠かせない。

 

【導入】

 市民科学研究室(市民研)が行ったシチズンサイエンスの19の事例調査(注1)を、ここではデジタル技術を重用したものを分析する。調査結果を利用しつつ、日本におけるデジタル媒体を利用したシチズンサイエンス活動の現状とその可能性について論じたい。

 今回は、いくつかの英語文献(1)(2)で用いられる、「digital citizen science」の定義に倣い、デジタル技術を活用したシチズンサイエンスの実践を「デジタル・シチズンサイエンス」と呼称し、本論での分析対象とする。一応日本でも、「オンライン・シチズンサイエンス」とか、「オープン・サイエンス」や「インターネット時代」といった言葉が踊る中でシチズンサイエンスが使われる文献(3)(4)が見られる。

 ただし活動の線引きとして、機能をオフライン媒体で代替可能な部分についてデジタル機器を用いるものはデジタル・シチズンサイエンスの対象としなかった。具体的には、メールでデータを送信するだけのものは省いた。なぜなら、基本的に1対1で、速度はともかくとして、インタラクションの本質としては手紙で代替可能だからである。これにより、一片井(3)が定義する「オンライン・シチズンサイエンス」と分類が異なることに注意されたい。一方、ウェブアプリ上で参加するものは、デジタル媒体・オンラインのインターフェースに強く依存している。SNSなど、不特定多数が共時的に閲覧できる中で投稿される形態も上記に該当すると言えよう。これにより、19の事例のうち、「みんなで翻刻」「関東雪結晶プロジェクト」「GALAXY CRUISE」の3事例をデジタル・シチズンサイエンスに該当するものとし、以下に議論する。

 

【事例紹介】

表1に、各々の事例を簡単にまとめた。今回デジタル・シチズンサイエンスに該当しないが、参考として「花まるマルハナバチ国勢調査」も掲載した。これは参加登録や機材発送のためにパソコンを使うなのでデジタル・シチズンサイエンスと呼び難いが、ウェブサイトが整備されていたためである。

表1  各種プロジェクトの分類(5)(6)(7)(8)(9)(10)

 

分野

主催

宣伝方法

参加方法

発信

みんなで翻刻

社会系、地学系

大学系

ウェブサイト・ニコニコチャンネル・ツイッター

ウェブサイト

ウェブサイト・ニコ生等

関東雪結晶プロジェクト

地学系

行政系(個人)

ウェブサイト・ツイッター

写真/場所/日時、ツイッター(ハッシュタグ管理)

ウェブサイト・論文・報道・ツイッター等

GALAXY CRUISE

地学系

行政系

ウェブサイト・SNS(自発的)

ウェブサイト

ウェブサイト・報道・論文(年内予定)

(参考) 花まるマルハナバチ国勢調査

生物系

大学系

ウェブサイト・呼びかけ

写真/場所/日時、メール送信

論文・ウェブサイト

「みんなで翻刻」は京都大学の中西一郎氏を中心として2012年に発足した京都大学古地震研究会(11)を母体として2017年1月に立ち上げられた。発起人は、先述の中西氏に加え、国立歴史民俗博物館の橋本雄太氏、東京大学地震研究所の加藤靖之氏である(12)。多数の市民が協力して史料の翻刻を行って、歴史資料の解読を進めることを活動目的としている(5)。研究プロセスとしては、研究者が提供した資料を市民が翻刻し、その信頼性は相互添削やAIの活用で担保する。結果はウェブサイトを通じて全面公開される。専門性のない市民でも気軽に活動できるよう、わかりやすい説明をつけ、ホームページのレイアウトを工夫している。また、SNSやニコニコを通した配信も行っている。なお、翻刻作業に参加するには、グーグル、ツイッター、もしくはフェイスブックのアカウントを必要とする(13)。ウェブサイト上には翻刻の進捗がリアルタイムで表示される。

 「関東雪結晶プロジェクト」は、首都圏の降雪現象の実態解明、特に、降雪をもたらす雪の物理特性解明を研究目的とする(7)。ここで、地上での雪結晶観測を市民に行ってもらうこととしている。参加者には道具としてスマホ(カメラ)、物差し・硬貨、濃い色の生地、スマホ用マクロレンズ(100均で入手可)を使うよう推奨している。情報提供ではメールも利用可能だが、特徴としてツイッター投稿が挙げられる。関東雪結晶プロジェクトは、「#関東雪結晶」としてツイッターのハッシュタグにもなっている。季節限定だがツイッターでトレンドになることもある。将来展望として、高精度に雨雪判別する手法の確立や、降雪現象の予測精度向上を挙げている(7)。

 「GALAXY CRUISE」は2019年秋に始まった新進気鋭のシチズンサイエンスプロジェクトである。日本語と英語でサービスを提供し、クルーズをイメージしたレイアウトのウェブサイトである(9)。こちらもみんなで翻刻同様、ウェブサイト上のアプリでシチズンサイエンスに参加可能である。「船長」から「乗船許可証」を手に入れるためのテストを受けてから参加する。テストは3ステップのトレーニングからなり、公式ホームページから2クリックで参加できる。実際に取り組んでみたが、比較的簡単で5分程度で完了する。参加者は天文台から与えられた画像をもとに、ゲームフォーマットの中で実際の銀河の類別を行う。これ自体も、ゲームにログイン後出てくる舵輪のアイコンをクリックすると即座に開始できる。「News」欄中の記事によれば研究発表は「船長」と称される代表者一人で行っているようだが、ツイッター上では若手研究者が発信しているとのことだ(14)。「よくある質問」ページによれば、国立天文台ハワイ観測所の観測プロジェクト一環である。2018年度日本科学未来館市民参加型実験「オープンラボ」事業の協力があり(15)、行政側の要請も見受けられる。

【続きは上記PDFでお読みください】

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