5G時代への備えとしての電磁波計測と観察記録
上田昌文(NPO法人市民科学研究室・代表理事)
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5G(第5世代移動通信)システムへの不安
5Gという言葉をしばしば耳にするようになりました。これは携帯電話の新しい規格である「第5世代(Generation)移動通信システム」を指します。2020年から都庁周辺や都内の大きなスタジアム、各県の大きな駅などで導入が始まっています。現在主に用いられている第4世代(4G)の約10倍から100倍の通信速度が得られ、例えば、2時間の映画をわずか3秒で端末にダウンロードできる、と言われています。
「そんなに高速のものが本当に必要なの?」と思われるかもしれませんが、5Gの最大のねらいは、電波の通り道の「道幅」をうんと拡張することにあります。すでに3Gや4Gで使ってきた周波数帯(700メガヘルツから3.5ギガヘルツ)では、これから電波をもっといろいろなところで使おうとすると、その「幅」では足りなくなります。そこで5Gでは、3.7、4.5、28ギガヘルツという3つのより高い帯域を新たに使えるようにしています。ただ、周波数が高いほどその電波が届く距離が短くなるという性質があるため、5Gでは、場所によって基地局を約100メートルおきにたくさん設置しなければなりません(いちいち地権者の許可をとるのが大変なので、電柱や信号機への設置や、マンホール型のものの敷設も計画されています)。
いま「基地局」と言いましたが、携帯電話で通信する場合、それぞれの端末から発信された電波が直接相手方の端末に届くわけではなくて、まず発信者の一番近くにある基地局に届き、それが地下にある光ケーブルを介して、相手の端末に一番近い別の基地局に送られ、そこから相手の端末に向けて電波が送り届けられる、という仕組みになっています。すでに3Gと4Gの基地局は全国で90万基近く設置されていて(ビルやマンションの屋上に建っているものをよく目にしますね)、全国どこにいても電波が途切れることがないのは、この高密度の基地局があるからなのです。
5Gでは、基地局はこれまでと比べて飛躍的に数が増えるだけではなく、1つの基地局から違った位置にある多数の端末(最大128)をそれぞれビームで狙い打ちするように電波を出すこともできます。総務省が公開した、5G基地局で用いられるだろういつくかのアンテナの型に関するデータを用いて、市民科学研究室で計算したところ、ある一つの5G基地局の近辺を人が通る場合、現在と比べて、少なくとも10倍から100倍ほど強い電波を浴びるだろうことがわかりました(※1)。また、フランス国家周波数庁が世界で初めて複数の5G基地局を精密に測った値をみても、やはり100倍から1000倍になっています(※2)。
※1 https://www.goojii.info/page-35/
これまで、基地局からの電波が健康になんらかの影響をもたらしているのではないか、との心配が周囲の住民から出されると、携帯電話事業者は、「あなた浴びているのは、総務省が決めている日本の基準値の何千分の1の強さの電波にすぎませんから」と一蹴してきたのですが、5G基地局が林立するようになると、基準値は超えないまでも、かなりそれに迫るような強さにさらされる場所が、相当たくさん出てきそうです。
いま述べた「日本の基準値」は、じつは強い電波がモノを加熱する作用がある―電子レンジはまさに2.45ギガヘルツという周波数の電波を使った加熱装置です―ことをふまえて、人体に悪影響が出ない範囲の熱作用にとどめるための基準です。それなら、基準値を超えさえしなければ、どんなに電波を浴びても大丈夫、ということになるはずですが、じつは、通話時に耳にくっつけるようにして使用する携帯電話端末では―さすがにそこまで人体に近接して使用するので、基準値すれすれの強さを浴びることも起こります―、若い頃から長期間、累積で長時間の通話に及んだ人では、脳腫瘍などのリスクが高まる傾向にあることがわかってきています。5Gの電波であっても、これまで同様の基準値で健康影響は出ないようにすることができる、と総務省は結論づけていますが(※3)、本当にそうなのでしょうか。
※3 https://www.goojii.info/page-37/
すでに携帯電話の過剰使用が関係していると世界各所で報告されている、脳腫瘍や精子への影響(数の減少、運動能力の低下など)、それに、失明を含めて将来的に大きな問題になりそうな、子供・若者の眼への悪影響(スマホ老眼や急性斜視の急増、加齢黄斑変性のリスクの増加など)や、これまた子供・若者の夜ふかしから来る体調不良(就寝前にスマホを凝視することでのホルモン分泌の異常が原因)など、今の時点でも、すでにケータイ・スマホは多くの問題を引き起こしています。周波数の高い電波ほど、そのエネルギがー皮膚のより表面部分にホットスポット的に吸収されるという性質がありますから、5Gの電波はこれまでと異なる健康影響を発生する恐れもあるのです。
こうした懸念を受け止めて、5Gの導入を一時的に見合わること(あるいはその検討)を決めた自治体や、安全性の調査に乗り出した国も少なくありません(ナイジェリア、スロヴェニア、ギリシャ、スイス、ベルギー、ドイツ、イタリア、英国、オランダ、オーストラリア、米国など、各国で検討状況はいろいろ)。また、子どもへの影響を特に重視して、学校・幼稚園・保育園などでのWiFiの禁止または撤去を決めた所も出てきました(スペイン、オーストラリア、イタリア、フランス、ベルギー、キプロス、イスラエル、カナダなどで)。
これらの動きと真逆なのが日本です。東京都の「DATA HIGHWAY」構想(※4)、文科省の「GIGAスクール構想」構想(※5)、内閣府の提起を受けて各自治体が名乗りを上げている「スーパーシティ構想」(※6)……まさに5G礼賛一色の「官(国・自治体)と民(携帯電話事業者)がタッグを組む」動きが加速しています。
※4 https://www.senryaku.metro.tokyo.lg.jp/tokyodatahighway/pdf/tdh_ver01.pdf
※5 https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_401.pdf
※6 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/supercity.pdf
あなたはこうした日本の動きに、本当に希望を託せるでしょうか? 子たちの健康への懸念にきちんと応えようとしない、「官民タッグ」の推進体制を容認できるでしょうか? 「もっと便利になりますよ」との謳い文句に惑わされることなく、何を守り抜いていくべきなのか、私たちは自身にしっかり問いかけ、そして外に向けて声をあげていかねばならないと思います。
自ら計測し、観察することで把握する「自分が置かれた環境」
こうした官民を挙げての推進の動きに流されるままにならないために大切になってくるのが、自ら測定器を用いて自分の周囲の電磁波の強さを測り、5Gのアンテナを含めて携帯電話基地局がどこに設置されているのかを自分の目で確かめ、そのような計測や観察によって自分がどのような電磁環境に置かれているのかを知った上で、具体的な対策なり合意のための手続きなり、そして場合によっては自治体の条例なりの制定を求めていくことです。
環境や健康の問題を改善していくためになされる市民による計測活動は、それなりに長い歴史を持っています。
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