不要になったPCが海外で引き起こしていること
上田昌文 (NPO法人市民科学研究室)
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食料品価格や電気料金などの急騰に多くの人が困り、追い詰められています。賢く買い控え、無駄をしないことが重要な対処になるはずですが、そのことの目安の一つは、ゴミをどれだけ減らせるか、ではないでしょうか。近年、デジタル化の推進があたかも無駄を省く決め手であるかのように語られることが多いのですが、じつは「ゴミ」の観点からみると、意外な落とし穴があることをお伝えしたいと思います。
あなたは、使い古しの家電やPCを回収業者に出すとそれがどこでどうリサイクルされているか、ご存じでしょうか。個々の部品がすべて細かく分別されて、燃やすべきものは燃やし、再回収・再利用すべきものはそうする―先進国においてこのことが本当に徹底していれば、次に述べる「廃棄物の越境移動」は起こらないはずです。
たとえば廃プラスチックでみると、2017年末に中国が廃プラスチック類の輸入禁止を決めたことが大きく影響して、日本は、マレーシア・タイ・ベトナムを主な輸出先としてきました。しかしこうした東南アジア諸国でも、段階的な輸入規制が開始されています。有害廃棄物の越境移動を禁じているバーゼル条約(現在187カ国が締約)においても、2021年から「リサイクルに適さない廃プラスチック」を輸出する際は事前に相手国に通告して、同意を得ることが必要になりました。日本のプラゴミはいよいよ行き場を失いそうなのです。
ここで知っておかねばならないのは、日本で出た不要物が中古品または金属スクラップとみなされれば、たとえ有害な物質を含んでいようがそれらは廃棄物ではなくなる、という点です。そうした「中古」が、輸入された国で「中古」として使用されるのではなく、その中の「有価物」だけを取り出すために、壊され、燃やされ、溶かされ……そして不要物が無造作に捨てられる、あるいは別の法整備が整わない国に輸出される、という現実があるのです。
電子廃棄物(バッテリーや電気・電子回路を搭載している電気製品や電子機器のごみ)についての次の統計はこの現実を裏付けています。
『Global E-waste Monitor 2020』によると、世界のその発生量は2019年では5,360万トンで、5年間で21%増加しました(世界平均でみると1人あたり7.3kgで、先進国都市部では10kgを超えるところが多い)。そのうち回収とリサイクルの対象となったのはわずか17.4%でした(残りの82.6%は記録が残っておらず、おそらく不適切なルートで処分されたと推定されます)。非正規ルートで処分されている電子廃棄物には水銀が推計50トン含まれ、またそれらの筐体などに使われている、臭素系難燃剤を含んだプラスチックは約71,000トンにも達しています。
社会経済的、文化的、生理的な要因によって、女性(女児を含む)は化学物質や廃棄物による汚染の有害な影響を受けやすい、と考えられます。
インドネシアでの調査によると(※1)、多くの国で、家庭から出るプラスチックやその他の家庭ゴミを、居住地周辺で野外焼却を含む処分にあたるのは主として女性であり、その慣習が越境移動してきた廃棄物処分の労働にも反映されことになります。たとえば電子廃棄物は、部品の分解、洗浄、選別など、本来、危険な溶剤の処理を含む管理された工程(たとえば保護具を付けるなど)が求められる仕事であり、素人に委ねるべきものではありません。しかし現実は、手解体、野焼き、そして金・銅・その他の有価金属の回収のための酸浸出など、ローテクな方法で(汚染や曝露への規制もないなかで)、一般の女性や子どもによって担われることが多いのです(手が小さくて器用、という物理的な理由もあるのでしょう)。中国、インド、パキスタン、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ガーナ、ナイジェリアなどでは、この電子廃棄物リサイクル業者として雇用されている人も多くいます。管理された工場での作業でない場合は、多種類の有害物質に慢性的にさらされるだろうことは容易に想像できます。
そうした作業で、毒性の強い残留性有機物質や重金属にさらされると、自身の健康のみならず妊娠・出産、そして化学物質の胎児への移行を通じて、(発達障害などをもたらす可能性もあるため)子育てにも、様々なリスクを自身では気づかぬまま負うことになります。女性を所得、教育、技能・知識の低いレベルとめ置く状況があれば、廃棄物処理労働はさらに女性を不利に追い込むことになるのです。
電子廃棄物処理サイトに近い家庭では、収集された米とほこりのサンプルには、最大許容濃度のほぼ 2 倍の濃度の鉛、カドミウム、および銅が含まれていたこと(Zheng et al. 2013 )、母親の母乳にはダイオキシンなどの有毒物質への曝露が高いこと(Asante et al. 2011)といった報告も後を絶ちません。「子どもを含む 1500 万人の人々が環境を汚染する廃棄物から生計を立てる以外に選択肢がほとんどない」と『New Internationalist』誌の写真エッセイは指摘しています(K.Farrington,2018年12月号)(※2)。
先進国の「ごみ」が、途上国では経済的には「有価物」として流通し、回収業者を通じて小規模の(法令がないか、あっても違法に営業できている)リサイクル業者に至っている、という現状がある限り、このような劣悪な条件のもとでの労働は途上国からはなくならないでしょう。そして環境汚染ととりわけ女性・女児への健康被害は拡大するでしょう。
有害物の漏出や曝露を生じ得ると判断できるのなら、いかなる廃棄物に対してもその有害性に相応した厳格な輸出入規制をかけていくことが必要です。電子廃棄物でみると、2014年以降、国内で関連する政策や法令を整備した国は、61カ国から78カ国に増えてはいます。日本国内でも電子機器などを安易に買い替え、不用品を増やすような慣習を大いに改めていかねばなりません。
※1:関連する貴重なビデオが公開されている。
What has gender got to do with chemicals – Full documentary
※2:DIRTY WORK: A PHOTO ESSAY
https://newint.org/features/2018/11/01/living-from-waste
<私たちにできること>
・「粗大ゴミ」として出すものや家電販売店などに回収のために出すものを、事前にもう一度チェックして、自分の手で再使用できないかを考えてみましょう。
・電子機器に限らず、買い替えをできるだけ控え、選ぶのならできるだけ長持ちするものを、事前にしっかり調べて買いましょう。長持ちするように使い方を工夫することも大事です。
・気になるゴミについては、市役所や区役所そして回収業者に、その行先や処分方法をしっかり確認し、場合によっては説明文書を求めるようにしましょう。
この原稿は「NPO地球元気塾」の求めに応じて2023年の同団体機関誌(紙版、年頭に発刊)に寄稿した原稿を転載したものです。
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