ICRPの新勧告に福島県の原発事故被災者らの声を反映させる国際キャンペーン活動を始めます

投稿者: | 2020年5月18日

市民科学研究室では、「一食(いちじき)福島復興・被災者支援」事業の助成プログラムとして、2020年4月から2021年3月において、「国際放射線防護委員会(ICRP)の新勧告に福島県の原発事故被災者らの声を反映させるための国際キャンペーン活動」をすすめます。

●その目的

福島原発事故から10年目を迎え、福島県では「帰還困難」と指定されてきた区域の一部で避難解除も始まりました。しかし依然3万人を超える県民が県内外で避難生活を続けており、そのなかには「故郷には戻らない(戻れない)」との意を固めた人も少なくありません。避難するかしないか、帰還するかしないか、のどちらを選択したのか(これからするのか)の選択が常に住民にのしかかり、その選択の結果をめぐって住民が分断される、という理不尽な状況は今も変わりがありません。

この状況をもたらしていることの根底に、放射線リスクのとらえ方とそれへの防護のあり方の問題があります。そして原発事故直後から国、福島県、県内の各自治体などが実施してきた一連の、避難、除染、食品規制、甲状腺検査などの対策は、事故前から定めていた、国際放射線防護委員会(ICRP)(★注1)の諸勧告に準拠した防護指針を基づいてなされるはずのものでした。しかし現実は、初期の汚染・被曝の広域モニタリングが不十分だったことも関係して、放射線に関連する多くの施策が、整合的でないまま、また住民の納得も十分に得られないまま、次々と実行に移されました。ICRPが示してきた防護の原則に照らして、こうした施策とその施策がもたらしたものをどう評価するかの検証は、未だ日本政府からはなされていません。言い換えれば、今後の放射線防護のあるべき姿を明確にするのに、福島事故という無類の経験が生かされずにいる、と言えるのではないでしょうか。

★注1:国際放射線防護委員会(ICRP)は放射線防護の専門家による一種の国際NPOで、現在までに142の「勧告」を出してきた。それらは核開発や原子力発電が始まった時代から、国連などの国際機関が出す指針などに反映され、日本を含め多くの国で法制度に取り入れられている。

この検証の貴重な機会となり得るのが、ICRPによる新勧告の発刊です。

ICRPは2019年6月に、勧告の大幅改訂のための報告書草案「大規模な原子力事故における人と環境の放射線防護」(Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident)(★注2)を公開し、10月25日締切で意見(パブコメ)募集を行いました。8月から市民科学研究室が中心になって、翻訳、ICRP委員との交渉や公開討論、学習会などを集中的にすすめ、多くの市民団体や一般市民にパブコメの投稿を呼びかけました(★注3)。その結果、多くの福島県出身者をも含む、総数309通に達する異例の大量のパブコメが集まり、その大半が、今後の放射線防護のあり方に福島事故の経験を生かすための何らかの提案を含むものとなっています(★注4)。

★注2:ICRPの原文、ならびに市民科学研究室らが作成した日本語訳はそれぞれ次のサイトを参照のこと。
★注3:当初は9月20日だった締め切りを市民らの要望で10月25日延期させ、パブコメを書いてもらうための広報・啓発活動、草案(英文92頁)の翻訳、専門的な事柄の学習会、ICRP委員を招いての直接の討論集会、ICRP委員と各運動団体の代表者や一部の研究者らとの議論のための会合などを、締め切りを迎える前に急ピッチで進めた。
★注4:309通のうち、9割近くが非専門家や市民からのものであり、ICRP史上かつてないパブコメの反応となった。その一覧はこちらのサイトに掲載されている。

ICRPは、パブコメの内容を反映した勧告書の発刊を2021年には発刊すると推測されますが―その時期をICRPは明言していません―、パブコメがどう反映されるのかについてICRP側から説明がなされることはないのがこれまでの通例です。したがって、新勧告発刊までに、パブコメに見られる種々の論点を生かして、福島原発事故の経験をしっかりと分析・総括がなされるように、国内外を問わず今一度市民の側からICRPに働きかけることが極めて重要になります。

この国際キャンペーンは、今後の放射線防護のあり方を見据えての福島事故の検証を、国際的な発信による反響も生かして、市民の立場から行うものであり、ICRPの新勧告という世界的影響力を持つ文書に、福島県民をはじめとする原発事故被災者の声を反映させようとするものです。

●すすめ方

以下に示した「要約書」「要望書」「提案書」「報告書」をすべて日本語と英語の両方で作成し、市民科学研究室のホームページに掲載します。そしてそれらを、適時海外の主だった団体や研究者らに発信して告知し、必要な場合は意見募集を行います。

1)できるだけ早い段階で、300通のパブコメで述べられている多種多様な見解(批判や提案など)を通覧して、それらのテキストが扱っている論点を整理して、ドラフトの改定に何をどう反映されるべきなのかを、一般の市民にも明確に伝わる形で構造化し、文章化します(「パブコメ要約書」の作成)。そして、その要約書の内容を、この先に開催される関連した国際会議やイベントなどに向けて、解説を付した英文ブックレットにまとめ、配布するようにします。
→2020年5月中にパブコメの全文の解析を終了し、6月中に「要約書(及びその解説)」を完成させることにしています。

2)1) のパブコメ要約書から最重要の事項を選び、それをどう勧告書に反映させるべきかについて市民側の議論を「要望書」としてまとめ、ICRP委員に送付します。

3)「要望書」の内容を少しでも勧告書に反映させるべく、市民が直接にICRP委員と議論・交渉する「対話集会」を企画し、東京都と福島県で実施します。

4)「対話集会」での議論をふまえて、より広く市民への関心喚起をはかり、また、5)の国際会議に参加することになるだろう各国の放射防護の専門家や行政関係者らに向けて、「よりよい放射線防護に向けた、市民による福島事故の総括と提案」(「市民提案書」)をまとめ、事前に関係者らに送付します。

5)2020年11月30日から12月4日にいわき市において開催される、ICRP主催の「原子力事故後の復旧に関する国際会議」に参加し、4)の「市民提案書」をアピールし、さらに議論を深めます。

6)2019年からのパブコメ参加呼びかけから5)の国際会議までの経緯、そして上記の「要約書」「要望書」「対話集会」「提案書」「国際会議」での成果を要約して、PDFで「ICRPへの市民提案活動・報告書」を作成し、公開します。

この活動は市民科学研究室の「低線量被曝研究会」のメンバーらが、この問題に強い関心を持ついくつかの市民団体のメンバーや研究者らの協力を得ながらすすめるものです。
多くの方々にご関心を寄せていただけるよう努めてまいります。ご意見やご要望はこちらからお寄せください。

ICRPの新勧告に福島県の原発事故被災者らの声を反映させる国際キャンペーン活動を始めます」への1件のフィードバック

  1. 山口一郎

    (初期の広域モニタリング)
    ・初期の広域モニタリングで機能しなかったのは何故か?
    ・初期の広域モニタリングで機能したものは何か?

    (除染)
    ・事故前から定められていたか?
    ・初期から実施された自治体の特性とは何か?
    ・少なくない自治体では初期の段階で進められなかったのは何故か?

    (食品規制)
    ・「放射線に関連する多くの施策が、整合的でないまま、また住民の納得も十分に得られないまま、次々と実行に移されました」とは何を指しているか?

    (甲状腺検査など)
    ・長崎大学などのWBCが初期から機能していたにも関わらず、その他に準備されていたものが初期には機能しなかったのは何故だったのか?

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