科学技術予測の市民的活用

投稿者: | 2009年11月2日

写図表あり
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1 ワークショップ「百年の愚行」
 一番最初に開発したワークショップは、2002年に出された本で『百年の愚行』という写真集(発行元:Think the Earthプロジェクト)を使ったものだ。これは、20世紀の、言ってみれば人間がなしてきた巨大な愚かな行いというものを1枚の写真で一つの事象を映し出していくということでつくられた写真集だ。例えば、広島・長崎の原爆があり、愚行と言えるかどうかは措くとして、クローン羊のドリーがいて、その横にはクローン稲がある、という具合になっている。例えば、参加者にこの中の1枚を見せると、この1枚だけでは何なのかよくわからない。あるいは、ひょっとしたらこの写真が何であるか、パッと見抜ける人もいるかもしれない。低レベル放射性廃棄物の処分場の写真や、ベトナムで枯れ葉剤を空中から散布しているなどはわかる人もいるだろうが、狂牛病にかかわる肉骨粉が入った、北海道のある倉庫に積み上げられた飼料の写真や、対戦車地雷の写真など、一見ではわからないものもたくさんある。
 
 やり方は、10数人から20数人くらいの人を集めて、グループに分けて、写真をどんどん見せていく。ブレーンストーミングをしてもらって、この写真が一体何なのかということを考えてもらう。十分議論をした後に、写真に関して短い説明をこちらからする。そして、また各班で写真から拾えるキーワードを抽出してもらい、「自分にとっての20世紀の科学技術を語るときに、この言葉は落とせない」というものを抜き出してもらう。それを班の中で、自分にとっては何が重要か優先度をつけてもらって発表する。そして、最終的には個々人が20世紀の科学技術への思いをまとめる。
2 ワークショップ「携帯電話政策論争!」
 もう一つは、これはいろいろな大学で実施したもので「携帯電話政策論争!」というワークショップだ。市民科学研究室は電磁波問題のことで携帯電話のことで相当詳しく調べているので、そのことを生かしている。いうまでもなく、携帯というのはただ単に電話というふうにとらえるのは間違っている。社会とのかかわりの非常に深い、多面的な存在なので、そのことに何とかうまく意識を喚起するワークショップができないかということで考えた。私たちは「携帯電話を考える10の視点」を整理した。
 それをどういうふうにワークショップにするかというと、今言った10の視点というの参加者に最初に解説する。それを頭に入れてもらった後に、それぞれのグループに経済産業省、環境省、厚生労働省、国土交通省、文部科学省、総務省の役人になってもらい、政策をつくってもらう。10個の問題があるけれども、それをそれぞれの省庁の立場から考えて、どういう政策を打ち出したら社会の問題をある程度解決できるかを考えてもらう。そのために、この10の視点を上から1、2、3、4層に分けて、優先順位づけをする。それぞれの省庁の人が前に出て発表して、「うちの省庁ではこれを優先した、なぜならば……」と説明をする。そうすると、他の省庁から異論が出てくる。そこで議論を交して、最終的に政策をまとめていく。通常、かなり活発なやりとりができ、時には相当奇抜な政策アイデアが出てきたりもする。
3 ワークショップ「二十一世紀の預言」
 それからもう一つ、これは実際に科学技術予測にかかわるもので、「二十一世紀の預言」がある。20世紀の一番初めの年に、報知新聞が「二十世紀の預言」というのを出した。そこには、無線電話通信のこととか、空中軍艦のこととか、蚊とかノミの滅亡だとか、いろいろな予測が23種類書かれている。非常に内容的におもしろいので、これを何か生かせないかなということで考えたワークショップだ。
 やり方は次のとおり。参加者にこの「二十世紀の預言」という昔の報知新聞のコピーを渡して、それをまねて「21世紀の預言」を書いてもらう。その後に、今度は「二十世紀の預言」のさっきの個々の項目を、達成度別に並べてみる。預言がどれぐらい当たったか、達成したか、それはなぜなのかを議論してもらいながら。調べてみるとたちどころにわかるが、無線・情報・通信関係はほとんど実現できている。ところが、生物とか生態にかかわることとか、大きな気象のこととかは非常に達成度が低い。そして次に、先ほどNISTEPの資料を紹介したが、その中から代表的な予測事例を幾つか紹介して、現在の科学者たちはこんなふうに将来を予測しているのだというデータを紹介した後に、自分たち自身で、先に行ったものに追加する形でさらに21世紀の預言をカードに書いてもらう。それらのカードを、「それが望ましい技術」という縦の軸と「達成できるのか」という横の軸になっているグラフの中に置いてもらう。そうやって自分たちで分類して議論していく。
4 ワークショップ「科学技術の地平線」
 最後に紹介するワークショップは、去年のサイエンスアゴラ2008でやった一番新しい「科学技術の地平線~市民からのイノベーション発案」だ。これは、日本を救う、日本を元気にするこれからの技術を市民自身が大胆に発想するということを目標にしている。そのための助走として、技術評価を丁寧にやってみようという試みだ。
 実施にあたってはまず前提となることを紹介する。「今の日本はどんな問題を抱えてしまっているのだろうか」ということを私たちなりに整理して提示する。これをいつもカードとして横に置いておく形になる。次に、これは先ほど述べたJSTの「バーチャル科学館」に載っている「未来技術年表」の中に「科学者たちが選んだ重要課題トップ100」というのがあるが、その中から30個選んで科学技術予測のデータとして30枚のカードにして利用する。すなわち、この30枚を「問題解決への貢献度(縦軸)」と「技術の実現可能性(横軸)」ということでマッピングする。そうしながらこの技術は本当に社会にどれぐらい役に立つだろうみたいなことを議論していく。専門的な内容で中身がわからないものも当然ある。聞いたこともないような技術も出てくる。そのときは私たちの方からサポートを出したり、資料を見せたりするということで理解を深めていく。
そして最終的に、自分たちの班でこの技術がベストだというのを三つ選んでもらう。なぜその三つを選んだのかということを発表した後に、議論をする。そのときに、先ほど言った「生活者にとっての6つの価値観」のことをちゃんと考慮してくださいと注意を促し、今度いよいよ自分たちで技術を発案しようということになったときに「生活と科学技術の18分類」を使う。
どういうふうに使うかと言うと、実は、水・大気にかかわる技術を考えてくれといったら比較的易しいが、全然関連が見えないような二つを両方満たすような技術をつくってくれというと難しい。難しいけれど、何かアイデアが刺激されるということがある。例えば「衣服」と「情報・通信」、両方にかかわる、これから日本を元気にする技術を考えてくださいというと、何かちょっと頭が刺激される感じがあるだろう。任意に箱の中からパッと二つ選んで、その2つの両方に関連する技術を考え書いてもらう。そうやってお互い出し合ってまとめていく。これは、非常におもしろいアイデアが出てくることが多い。30人ぐらいで2時間ぐらいかかるが、やってみて、びっくりするぐらい、一般の人から奇抜なおもしろいアイデア、そういう発想もあったかみたいなことが出てくる。
 なお、サイエンスアゴラ2009において実施した「最新技術から社会を考えるロールプレイ」も以上のような未来技術予測のワークショップの経験をふまえて、よりテクノロジーアセスメントの要素を強く意識して設計されたものだ。
5 「ナノテク未来地図」
 最後に、「ナノテク未来地図」(現在、改訂中で2010年1月に市民科学研究室のホームページで改訂版を公開予定)。これはちょっと性格が違う。基本的な問題として、技術予測において、冒頭に言ったように市民の存在が見えにくい。それから、市民参加、市民参加と言うけれども、そのとき、実際に専門家がどうやってかかわってくれるかということも見えにくい。何とかいい形でかかわれる、対話していけるようなものが必要だ。そこで、こんな方法もあるかな、と考えてつくった一つの方法だ(◆注1)。
 まず、基本的に未来地図といったときに、技術の予測だけではだめだ。(1)将来の社会像と価値観がどんなふうにかかわっているか、そして、(2)それがナノテクの応用分野とどんなふうなところに位置づけられるのか、そして、(3)個々の技術の要素があって、それがどのようないろいろな社会影響を生んでいくのか、といったシナリオを書かなければいけない。
 
 この(1)から(3)の3層構造にしているというのが私たちのマップの特徴だ。実際はこんなふうになる。まず、例えば価値観で言うと、「多様化社会」とか「豊かな社会」とか「環境に調和した社会」、「地域が活性化した社会」、「伝統重視社会」。これは、実は全部いろいろな白書から選んできて、私たちなりに整理したものだ。そして次に、これに関連するようなこれからの価値観の方向性というか、そういうものを当てはめていく。例えばフロンティアの追求、モビリティ、利便性、経済的負担の軽減、エコロジー志向、人とのつながり、暮らしの安全・安心、健康……など。ここにナノテクの分野を当てはめるとナノテクノ分野は結構広くて、交通とか建築にかかわるものもあれば、医療福祉にかかわるものもあれば環境にかかわるものもあるみたいなことになってくる。これが一番下地になる層だ。
 シナリオとしては、大体15年とか25年ぐらい先までを想定して、願望を入れるのではなくて、実際に今、言われているいろいろな論文とかいろいろな記事からとってきた予測というのを当てはめていく。シナリオの発展経過を描いて、実際にそれが出てきたら社会にどういう影響を及ぼすかということを描き込んでいく。
 具体例を述べる。例えば、食品とか医療・福祉にかかわる領域のナノテクだが、その中で、「テーラーメード医療」「ドラッグデリバリーシステム」「DNAチップ」などが実際今、出てきつつある。これに関して、例えばこの斜め上、地図上の上向きの矢印というのは、社会によい影響を及ぼすだろうと想定できるもの。それから、ダメージを与えるのはこの下向きの矢印で描いている。途中で色が変わっているのは、専門家と対話して、あるいはインタビューしたりして、そこで教えてもらったことを追加したり、修正を加えている。そういうことを加えながらどんどん更新していくという、そういうシステムになっている。
 情報提供とそれをふまえての対話の促進という面では、例えば、「エネルギー」のところをクリックすると、エレクトロニクスなどの関連する部分がくっきり色分けされて浮き出てきて、地図が見えるようになる。それを見ながら個々の項目をクリックすると、個々の項目ごとの短い解説が現れると同時に、別のページが開いて、自分の意見が書き込めるようになっている。そこへ意見を書き込んで、お互い情報交換をしていくというシステムになっている。この時、書込まれた意見を地図に落し込んでいくのはファシリテータ(あるいはメディエーター)が担うことにしている(◆注2)。
6 科学技術予測の市民的活用の課題
 これらを実践してきて課題として見えてきたことを述べる。
 一つは、専門家自身にも入ってもらう対話型のワークショップというのを作ることが必要だということ。専門家も言ってみれば一市民だ。だからその立場から入るということも可能ではあるが、専門知を生かしつつも何か市民と直接やり取りできるワークショップというはできないものかと、今考えている。
 もう一つは、ナノテク未来地図のようなウェブの仕組みというのは、つくる側は大変で、更新にも手間がかかる。これをだれでも無料で使えて簡単に更新できるシステムに改変して普及させていきたい、というのがある。ナノテクに限らず。
 あとは、例えばテレビ会議のワークショップみたいなことも想定して、遠隔からもリアルタイムの参加を可能にする道具やシステムを打立てていけないか、という気持ちもある。
 それから、教育現場でもっと今言ったような未来技術にかかわるようなワークショップなどを活用してほしい。なぜかと言うと、科学技術にそれほど関心のない人でも、将来こうなるよと言われたら、それに対して急に目を向けたりするからだ。そのためにはワークショップの手法に対して理解を深めなければいけないので、研修をしたりとか、例えば携帯電話のことでふれたが、基礎となるデータとか解説をパッケージ化して提供するとか、そのようなものも必要かと思う。
 あとは、信頼度が高く利用しやすい、未来技術に関するデータベースを、やはり持っておく必要があるだろうということ。生活者の視点を入れた構造化は、これからの課題だが、様々な領域の専門家の協力も得て、私たちのようなNPOが主体となってもっとすすめていかねばならないと思う。■
  
 注1◆ 具体的な例で言うと、ナノテクで例えば新しいタイプの健康食品ができたとする。ある人たちにとっては非常にいいということになったとする。例えばそれをイベントとして未来地図の中に書き込んだとする。しかし実は、専門家によってもそのことへの評価が分かれたりする。そこで、まず意見の書込み欄に書いてもらう。これをいきなり地図に反映させるのではなくて、ここはすごく難しいところだが、いわばこの中間にファシリテーターみたいな存在が介在させるようにする。つまり、いろいろな相矛盾する対立するような意見が出た場合に、どういうふうにこれを反映させたらいいかということはかなり難しい問題だったりするので、そういうときには専門家と相談しながら、こういうのはどうですかということで一応暫定案として、実は私たち(市民科学研究室)が作る。そしてそれを地図に書込む。さらに一般の人もそれに対してまた反応するという形をとる。そういうことを繰り返していく形をとっている。
 注2◆ たとえば原子力のように既存の技術ですでに推進と反対の立場の対立が引続いているような問題に対しては、このようなアプローチでは”対話”を引出すことは難しいと思われる。ナノテクの場合、これはあくまで未来地図であり、これから出てくるだろう技術に関して予測を立てて、それに対して評価を加えていくというやり方だ。原子力にみるような対立を解きほぐす道具としては、「未来地図」的アプローチは成り立ち得ないというふうに、基本的には私は考えている。また別のやり方が必要だろう。
【本稿は2009年6月20日立教大学池袋キャンパス10号館で行われた「新日本未来学会第2回未来学フォーラム」での上田昌文の発表を加筆・修正したものです】

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