科学技術予測の市民的活用 市民研のワークショップ活動から
上田昌文
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サイエンスアゴラ2009の会期が終った。私はその中で3つの企画に関わったこともあって、この間サイエンスコミュニケーションについて考えさせられることが多かった。市民科学研究室ではこの9月17日にも「科学コミュニケーションに何が求められているか ~科学への共感と批判のはざまで~」と題した市民科学講座を開いたが、そこでも20人ほどの参加者とともに「サイエンスコミュニケーションとはいかなる活動なのか、何を目指すものなのか」を熱心に論じた。そこでの議論の詳細は次号に譲るとして、ここでは、市民科学研究室がここ数年にわたる取組み一つとして行ってきた、”市民参加型の技術の未来予測作業”とでもいうべきものの中身とそうしたアプローチの意義を述べてみたい。私は、このアプローチは、科学技術の動向に対して市民がいかにして理解を深めるかという点や、特定の問題領域において必要とされる専門家と市民の対話を引出すという局面において、相当有効な方法となり得るものだと考えている。
よく知られた代表的な技術予測調査としては、科学技術政策研究所(NISTEP)が5年ごとにやっている、いわゆるデルファイ調査というのがある(文部科学省『2035年の科学技術』)。これが最も規模が大きくて、専門家をたくさん使った調査になっている。科学技術振興機構(JST)がつくっている「バーチャル科学館」の「未来技術年表」というのがあるが、これはNISTEPのこの報告書をもとにつくられた一般向けの年表だというふうに理解することができる。それからもう一つ、博報堂がやっている生活総合研究所の「未来年表」というのも大変よくできていて、何年にこういう技術の出現が予想される、こういうことが起こるだろうということを、NISTEPの資料も含めて非常にたくさんの資料から、年代を並べて、ジャンルに分けて検索できるようになっている。
こういうものは誰がどういうふうに考えてつくったのかというあたりは、もちろんこれらのサイトを見れば大体わかるのだけれど、これらは一体どういうふうに使われているのだろうか。基本的には科学技術政策に生かすということが基本の狙いだろうが、私たちのようなNPOからすると、「何らかの形で市民とか生活者がこういう未来技術予測みたいなことにかかわる方法がないのか」「かかわることで、何かいいことが生まれてくるのではないか」――そういう観点があると思う。
そこでの問題は、私が思うに大きく三つある。一つは、技術を将来的に予測するというときには、まず科学技術の専門家にたくさんインタビューをして、この技術は将来的にどうなりますかということを聞くわけだが、科学技術に内在する展開要因は科学者自身はある程度述べることができるが、外在的な要因というものを述べることは普通できない。そこで、社会科学の専門家に頼っていろいろ考えてもらったりヒントをもらったてりするということで大体構成していく。ところが、こうしたやり方をとると、市民・生活者の価値観とか声とか希望というのがどういうところから入り、反映する余地があるのだろうか、という方法論的な問題がある。
2番目に、技術予測の前提となる社会像とか社会の動向というものは、社会全体での価値観と関わる部分が必ずあるので、そういうものは、生活者抜きには本来は語れないはずだろう。したがって、そもそも生活者と科学技術というのはどういうふうにかかわっているんだろうかとか、将来の社会像と生活者の価値のかかわりというのはどういうふうになっているんだろうかという、あたりをもっと理論的に究明していかなければ本来はいけないはずだ。ところが、そういう関係性というものをすっとばした形で予測作業が進んでいるという問題があるように思う。
それから、一方生活者の側にしてみれば、生活者というのはいろいろな科学技術が生活に入り込んできているから、ある意味では専門領域によって分けられないような総合性みたいなものを持っている。そういうものと科学技術の全体像というのを重ねてみることによって、いろいろわかってくること、言及しなければならないことがあると思う。
したがって、「生活者自身が科学技術の全体像に関心をどういうふうに持てるか」という問題と、「生活者自身で科学技術の予測の作業に何らかの形で加わってくることができないだろうか」という2点が重要になってくるのではないか。
私たちは当初から今言ったような問題意識があったわけではないのだが、今までを振り返ってみると、次の4種類がまさにこうした科学技術予測作業に関わる活動だったことがわかる。
一つは理論的な作業ということで、生活者と科学技術がどういうかかわりを持っているかということを可能な限り系統的に調べるということをJST社会技術研究開発センターの助成を受けた研究「生活者の視点に立った科学知の編集と実践的活用」の中でやった。
次に、科学技術の全体像を意識した2種類のワークショップを実施してきた。一つは、ワークショップの「百年の愚行」というもので、もう一つは「携帯電話政策論争!」というものだ。
さらに、生活者自身が科学技術の将来どうなるかということの予測作業に加わってみるというタイプのワークショップもやった。一つが「21世紀の預言」というものと、もう一つがつい最近開発した「科学技術の地平線~市民からのイノベーション発案」というものだ。
そして、技術予測データを踏まえて、専門家と市民との実際の対話型のシナリオ構築作業というのを織り込んだウェブのシステムというものも作った。「ナノテク未来地図」と私たちが呼んでいるものがそれにあたる。
PDFファイルでそれらを詳しく取上げてみる。