写図表あり
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さまざまな科学コミュニケーションに関わって
古屋 絢子
(東京大学公共政策大学院)
昨年11月、JST主催の「サイエンスアゴラ2009」に初めて出展しました。「サイエンスアゴラ」は2006年から始まった、科学コミュニケーションのイベントです。会場では、子供向けの理科実験教室から映画上映、専門性の高いシンポジウムまで、実に多様な活動を目の当たりにしました。私はこの「多様性」に驚きつつも、普段はなかなか接することのできない同業・他領域の諸氏とひとつの場に集えたことに、喜びを感じました。
さて、科学コミュニケーションには多様な活動がある、と書きましたが、具体的には「とのような分野」で「どのような活動の形態・手法」があるのでしょうか。昨年9月、私は市民科学研究室代表の上田昌文氏、市民研理事の吉澤剛氏とともに、科学コミュニケーションに関するアンケートを実施いたしました。(詳細は吉澤氏からの報告を参照ください。)アンケートの結果から、これまでまとまりがないと感じられていた多様な諸活動は、分類し、整理できることに気づきました。同時に、私がこれまで取り組んできた活動は、複数の分野、活動形態・手法をまたいでいることに気づきました。
図1は、これまでの活動で関わった分野・領域をまとめ、3つに分類したものです。
「食と教育」「医療福祉」「リスク」、これらはすべて、人の生活に関わりの深いテーマです。生活の様々な場面において、良質なコミュニケーションに対する需要が高いことが表れていると考えられます。
図2は、活動の形態・手法をまとめ、4つに分類したものです。
「a.場づくり」「b.主体としての発信」「c.問題解決」「d.媒体としての発信」
幸運なことに、私は上記のうち「食」以外の各分野、およびすべての活動の形態・手法の経験があります。そこで、各活動の例と、その活動において科学コミュニケーターに求められる資質について簡単に述べたいと思います。
a.場づくり
サイエンスカフェ、ワークショップほかのイベントにおいて最も大切なのは、つなげる力とまわす力です。場の構築に必要となる人・物・金のマネジメント、さらに場を盛り上げ、一見関係ないものをつないでいくファシリテーションの能力が大切だと思います。
b.主体としての発信
執筆、講演、授業などを行う際、最も大切なのは、表現力と緻密さです。豊かな語彙や表現方法を、状況に応じて使い分けをすることが求められます。また、一度作り上げたものに満足せず、何度も遂行や試行を重ね、より良いものに磨き上げていくことが大切です。
c.問題解決
研究開発、政策立案、各種調査活動、ロビーイングなどの活動で大切なのは、論理的思考と行動力です。問題の発見、仮説の立て方から実行まで、各過程を吟味しながら、タイミングを計って行動できるかどうかが、問題解決の鍵となります。
d.媒体としての発信
展示の作成、実演・解説の実施、広報、翻訳などの活動では、好奇心、素直さと情熱の3つが重要です。未知の問題に積極的にアプローチし、本質をつかみ、さらにそれを伝えるには、これらの能力が欠かせません。
冒頭にも書きましたが、現在の科学コミュニケーションは実に他分野にひろがり、多様な活動形態・手法が存在します。そして、そこに携わる人の興味関心や目的も、ひとりひとり異なります。科学コミュニケーションの今後の展開が語られるとき、しばしばこの多様性ゆえに、明確なビジョンを示しにくいとの声を耳にします。しかし私は、この多様性こそが、科学コミュニケーションの可能性の大きさであり、懐の深さの象徴であると感じています。むしろ、ひとりひとりが今後の明確なビジョンを持ち、自らの道を開拓していくことが大切であると、私は考えます。
最後に、私は今後、特に「媒体としての発信」を極めていきたいと考えています。文系出身の私が科学コミュニケーションの分野に入ったきっかけは、日本科学未来館での勤務でした。当時は科学コミュニケーターとして、来館者を対象とした展示の解説、実演やイベントの考案から実施を主に担当していましたが、私のようなコミュニケーターが、文化を伝える媒体として機能していることに、とても興味を持ちました。そして、情報を伝えた相手(来館者)の反応が、直接即時にわかる点に、やりがいを感じていました。
現在、私は「通訳案内士」という資格を取るべく勉強中です。海外からのゲストに、日本の科学技術を中心とした文化を伝えたい、私という媒体を通じて、ゲストに日本をもっと好きになってもらえるような仕事をしたいと、夢をふくらませています。
まだまだ道半ばの科学コミュニケーターですが、どうか今後の活動にご期待ください。