子ども料理科学教室 お米をおいしく炊く秘訣

投稿者: | 2006年3月4日

食の総合科学プロジェクト
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 「 毎日食べているお米を、炊飯器に頼らず自分たちの手で鍋を使って炊けたらすごいことだと思わない?」「鍋で子供たちは炊いたことがあるのかしら?」「鍋で炊くとなぜかおいしい。おいしいご飯の炊き方は?」―そんな疑問の言葉から生まれたのが、第2 回子ども料理科学教室「お米をおいしく炊くひけつ」です。目的は、ご飯を炊くということを通じ、科学を学び、自宅でも子供たちの手でご飯を炊ける技術を身につけてもらおうというものでした。
 ところで、料理の際に調味料を入れる順番を「さ(砂糖)・し(塩)・す(酢)・せ(醤油)・そ(味噌)」と言いますが、これには科学的根拠があります。その中で砂糖と塩に注目して分子の大きさを比べてみると、塩のほうが砂糖より小さいのです。食品の味付けに最初に塩を入れると、塩が食品に入り込み、後からでは砂糖は入り込めなくなってしまうのです。だから砂糖と塩の順番が「さ(砂糖)・し(塩)」となっているのです。このように料理に関する「どうして?」「どのように?」といった多くの疑問に対して、実は科学的根拠を示すことができます。
 ならば、おいしくご飯を炊くのにも科学的根拠があり、それを確立できたらきっとおいしいご飯が炊けるはずだ…… そう考えて意気揚々と始めたプログラム作りでしたが、単にご飯を炊くとは言え、人それぞれにさまざまな信条があり、おいしさにも好みがあることにまず気づかされました。さらに、ご飯を炊く技術だけを教えるのは簡単ですが、さまざまな実験を通してご飯を炊くのに必要とされるポイント(たとえば沸騰とはどのような状態なのかなど)を深く理解し、どのように活用するのかを考える姿勢を保ち、疑問に感じたことにも興味を持つなどの探究心が芽生えるようなプログラム作りをしていかなければ、おいしさを味わいながら学べる教室にはなりません。
 そこでまず、ご飯を炊くのに最低限何が必要であるのかを検討し、それらをどのように教えるべきかを、子供たち側に立って考えることにしました。「こうしたら子供たちは喜ぶだろう」「こんなことをしたら楽しんでもらえるかも」というアイデアを実際に実験してみました。
ご飯をビーカーで炊いたときや、木片を入れた水を加熱して対流を自分の目で見ることができたときなどは、プログラムを作る側の私たちが体を乗り出すほど、興味を抱き、実験を楽しみました。そうやって、これは子どもたちに見せてあげたい、きっと子供たちも喜んでくれるだろうと思う実験を、プログラムに組み入れたのです。
 また、やってはいけないようなことも実験に取り入れました。失敗につながること、やってはいけないことにも、やはりその理由があります。失敗の理由を見つけられるように比較対象できる実験をすることで、子供たちが理由を考えるきっかけと、成功するためのヒントを得ることが出来ると思いました。そこで、水加減を変える、吸水をさせない、蒸らさないなど、作業の一部をわざと変更させて炊くことで、ご飯にどのような変化が見られるのかを発見したもらうことにし、また出来上がりを比較するにはどの条件を組み合わせるのが効果的かを検討するため、実験と試食を繰り返しました。このときほど、毎日食べているご飯がなんておいしいのだろうと感じたことはありません。
 料理教室では、水の量を3 つの条件に変えて炊いたご飯を用意しました。食べたことのないであろう炊き方のご飯に対する子供たちの興味は強く、おいしいご飯を想像してうれしそうに口に運ぶと、次の瞬間少々怒り気味に「まずい!」「私が作ったほうがおいしい」などと意見があり、他の条件のご飯を勧めると「それもおいしくないのでしょ?」と疑いながらいやいや食べていた様子はおもしろかったです。しかし、それだけではなく嬉しいことに、「もっと水が必要」「もっと加熱が必要だ」「ご飯を洗っていないから」など、与えられた結果を分析し、理由を子供たちなりに追究するきっかけをつくることにも成功したのです。
 今回、子供たちに理解を深めて欲しいものとして取り上げたのは、沸騰、対流、デンプンの糊化、吸水、苗から米までの成長、米からできる加工食品さらに浸水や器具の使い方などでした。これらを説明し、子供たちの炊飯に対する理解を深めた上で、ご飯を実際に炊いてもらうまでを合わせると、3 時間のプログラムでした。丁寧に教えたいという気持ちが強すぎて説明する時間が長くなり、内容が多すぎてしまったことや、子供たちが話を聞くだけの時間が長かったなど、反省点は多々あります。もっとポイントを絞ることや、最初からポイントや質問項目を伝えて、実験中にそれに気づき、意識して知ってもらうという方法など、プログラムにまだまだ開発・提案の余地がありそうです。
 ところで、このプログラムに参加してご飯を実際に家でも炊いている子は何人いるでしょうか。ご飯を炊かなくても少しくらい料理や食に興味をもってくれた子は何人いてくれたでしょうか。お金を出せばいつでも食べ物を口に出来る便利な社会になるにつれ、肥満傾向や極端に痩せている、精神的にいらいらしている、といった子どもが増えています。これらの傾向を見ると、食は生活や体に大きな影響を与えていると気づかされます。料理を通じて科学を学ぶことで、科学がぐっと身近になり、そこから新しい興味が広がることを願いつつ、体も心も元気でいられるように自分で食事を選択できる力が育って欲しい、生活習慣の基礎作りの時期に望ましい生活習慣を身につけて欲しいとも願い、そんなプログラムを今後も考えていけたらと思います。
 以下、プログラムに即して、当日の様子をリポートします。
炊飯器の中で起こっていることを知る実験から
 「お米」という、私たち日本人にとって最も身近な食材にスポットを当てた教室ですが、果たして今の子どもたちは毎日お米を食べているのだろうか、ごはんを鍋で炊いたことはあるだろうか、米と水と火の関係について、どこまでどうやって伝えたらいいのだろうか… などなどスタッフはいろいろな思いを抱えつつ、まずは進行役の松井さんによる、火や温度計の使い方の説明からスタートしました。
 最初の実験は、1 リットルのビーカーを用い、水分量を変えて米を炊くというもの。水分量は米1 に対して、0.8/1.2/1.8 の3 パターンを用意しました。スタッフがタイマー片手に温度を測りながら、子どもたちに気づいたことをどんどん発言してもらいます。
 水が沸騰し、米が踊り出す様子をじっと眺める子どもたち。あらかじめ「対流」や「沸騰」について説明してありましたが、その知識と目の前で起こっていることが結びついていない低学年の子もいます。しかし、小さい子ほど観察力は鋭いもの。米粒の間から泡がわきだすのをまず発見し、吹き上がって泡がだんだんと細かくなると、「ビールみたい!」。一方、高学年の子たちは、どのビーカーがいちばん先に沸騰するか、そして、いちばんおいしく炊けそうなのはどの水分量かを、自分たちなりに予測していました。
 途中、米がどんな状態にあるのかを知ってもらうために、米の断面を切って観察し、試食してもらいました。中にお米の芯が残っていること、そしてその芯はじゃりじゃりとしていることなどを知り、驚いた子どももいたようです。
 火を止めるタイミングは、子どもたちに声がけしてもらい、炊き上がった米を試食。「いちばんおいしく炊き上がりそう」と子どもたちが予測した「1:1.2」のごはんも実はまだ硬いことがわかり、「火が強かったのかな」「お米を洗ったほうがよかったんじゃない?」などと鋭いことを言っている子もいました。
 この実験は、子どもたちだけではなく一緒に参加した保護者の方々にも好評で、「炊飯ジャーの中でどんなことが起こっているかがわかり、勉強になった」といった意見が出ていました。
二班に分かれての炊飯実験で、子どもたちは…
 ビーカーの実験からさまざまな疑問が出てきたところで、次は、吸水した米の観察です。
 浸水時間5 分~ 60 分まで7 パターン用意した米の「太り方」を見てもらいながら、米の重さを測ったグラフを使い、最初の5 分で米はかなりの水を吸うこと、20 分以降はほとんど吸水量が増えないことなどを説明し、浸水の大切さと時間の関係について考えてもらいました。
 ここまでの実験で、予定よりかなり時間がオーバーし、残念ながら、米の「糊化」を理解してもらうためのライスペーパー作りは断念。各班に分かれての炊飯実験に移ることになりました。
 この日集まった子どもたちは、1 年生から6 年生まで総勢10 人で、最初は、友だちと別の班になってしまって硬い表情をしている子、大きい子に囲まれて緊張している小さな子などがいたのですが、5 人という少人数の班に分かれて炊飯実験を始めるころになると、徐々に子どもたちの表情が変わってきました。
 一回目の班行動(水の加熱実験)のときには、スタッフがそれぞれの子どもたちのメモをのぞきこみ、「こういう意見の子がいるけど、みんなはどう思う?」などと誘導していたのですが、炊飯実験になると、高学年の女の子たちが班を引っ張りはじめ、メモ係の子、グラフを作っている子、意見を積極的に出す子など、自然に役割分担ができてきたのです。そして、「どうしたらいいと思う?」と意見を交わし、スタッフが口を挟まなくても、自然に進むような状態に。子どもたちの力というのはすごいものです。
 もちろん、消極的な子や、部分的な参加しかできない低学年の子がいたのも確か。どの学年を中心的なターゲットにするのか、小さい子にどうやって興味をもたせるかは、今後の課題といえるでしょう。また、今回、お母さん方のフォローにずいぶん助けられたところがあり、「一緒に実験をしてみたかった。そうすれば、体験や知識の差を個別に埋めることができたかもしれない」という意見が、お母さんたちからも出ていました。親参加型の実験というのもひとつの方法かもしれません。
 さて、炊飯実験では、子どもたちの取り決めで、A 班は1:1.2、B 班は1:1 という水分量に決定。炊き上がりのタイミングを「フタを一度とってみて、水滴がついてなかったら、水が飛んで炊き上がったってことじゃない?」というユニークな意見が出たり、「炊き上がってからすぐにフタをとらないほうが、おいしくなるんでしょ?」「最後は水分をとばすために強火にしてから止めよう」といった知識を披露する子もいて、とても楽しく有意義な実験となりました。スタッフが考えていた以上に、子どもたちが炊飯に関する知識をもっていることに驚かされましたが、これは、今回参加した子どもたちの親に、食」への意識の高い人が多かったことと関係しているかもしれません。
 そして、子どもたちが待ちに待った試食タイム。味は1:1.2 のA 班に軍配が上がり、「炊飯器で炊いたうちのごはんよりおいしい!」という声も。1:1 のB 班の子たちは、水分量は多めのほうがおいしいということを理解しながらも、自分たちの作ったごはんを「こっちだって、おこげが出来てておいしいよ!」と、もりもり食べていたのが印象的でした。
 最後は、植物としての米を知ってもらうために、スライドを使っての説明。米の加工品であるせんべい、ライスペーパー、ビーフン、ポン菓子、アルファ米なども見せ、一部試食もしてもらいながら、2 時間半にわたる公開実験を終えました。
 かなり盛りだくさんの内容で、不消化に終わった部分もありましたが、今回の実験を経験したことで、その日、帰ってから食べた「いつものごはん」にも、子どもたちは、何かしら感じるところがあったのではないかと思っています。

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