住まいのエコロジーを考える―自然住宅からみた環境問題

投稿者: | 2000年3月5日

住まいのエコロジーを考える――自然住宅からみた環境問題
第109回土曜講座

講師:田久保美重子

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★森の役割、木の役割
家の話をする前に、木の話、森の話をしましょう。
植物は光合成によって二酸化炭素を吸収し、酸素を排出します。成長の旺盛な若い森林は二酸化炭素を吸収する能力が大きく、成熟した森林は炭素を貯蔵する(固定する)能力が大きいのです。これはもちろん地球温暖化の防止に役立っています。木材の能力で換算してみると、たとえば標準的な木造住宅1軒あたりの炭素埋蔵量は、人間1人あたり1年間の二酸化炭素排出量の約2年分に相当するのです。また、森林は水を吸収して成長しますが、これが洪水や渇水を緩和するなど環境保護に役立っています。
さらに木炭は、多孔質で内部の表面積が非常に大きいので、保水性や通気性に優れ、空気汚染物質などを吸着する能力が高いのです。環境浄化に役立つというわけです。また、木材は、これまた多孔質であるため、熱を伝えにくい空気を内部に多く含んでいます。このため、高い断熱性があり、それを住宅に用いた場合、消費エネルギーを大きく削減できるのです。これまた温暖化防止に役立つのです。また木材製品は、製造・加工時の消費エネルギーが鉄を製造・加工する時の消費エネルギーと比べて非常に少ない。たとえば1㎡の人工乾燥木材を製造するのに必要なエネルギーは1㎡のアルミニウムを製造するのに必要なエネルギーの約340分の1なのです。だから自然住宅ではアルミサッシを使わず、木製のサッシを使用しています。
光合成によって生育する樹木は、環境に対する負荷の少ない環境保全型素材、つまりエコマテリアルなのです。木材は再生可能な循環型の資源であり、それを使用することはリサイクル社会に大きく貢献するのです。
では、それぞれの木はどんな特徴があるのでしょうか。それを詳しくみてみましょう。

★木の持つエネルギー
マツには殺菌効果があります。高齢になるとペットを飼ったりすることも多いですが、マツで犬小屋を作ったらノミとかダニが寄りにくいと言われています。公団住宅などでダニや虫の問題がたくさん出た時があります。1992年から1994年くらい、新聞誌上などで騒がれました。そういう時に、家の中の絨毯をはがして、塩ビシートに変えるのではなく、マツの床材に替えれば、それらの問題は結構なくなったという気がします。
コナラは、最近は食器棚や家具などでナラ系の物がたくさん出ています。高血圧を防いだり、乾燥肌のかゆみを止める働きをしています。
クリは、例えば倉庫などにクリをいっぱい積んでおくと、倉庫を開けた時に、お酢の匂いがします。クリは酸性のものですから、虫を寄せつけないのではないかという気がします。
クスは中枢神経を興奮させるという効果があります。これは、事務所なんかに使ったりすると、要するに血が騒いで一生懸命働く、どんどんエネルギッシュになってゆくという効果があります。
トチは、ダニなどを殺す殺菌効果があり、殺虫剤の原料になります。トチは家具にも使いますし、仏壇にも使います。つまり殺虫効果を期待して家具を作る時に使われます。
エゾマツもマツやトチと同じように殺菌効果があります。
クロモジは今日本では使う大工さんがいなくなってきておりますけれども、水虫の薬になりますので、床にこういったものを使うと水虫の予防策になるのではないかと思います。
最近、ブナが非常に注目されております。ブナというのは削って作っている間にずいぶんゆがんでくるので、大工さんはブナを使いたがらないのです。しかし、最近では利尿効果があるというので、フロアでもブナのものが結構出ております。
ユーカリは、強壮剤と言われますが、今、日本に続々と入ってきています。殺菌剤とか抗菌剤とかにもなり、夏など水にユーカリのエキスをたらして、ろうそくで蒸発させると蚊が寄らない。アロマテラピーの世界ではユーカリのエキスはかなり多用されています。これは青酸カリに近いものですので、そのままで使うと殺傷効果があります。それほど強いものです。
マキは、腐りにくく、風呂桶や洗面器に昔から使われていました。今はマキの木がなかなか手に入りにくいので、風呂桶にマキはあまり使われなくなりました。
ヒバは、日本では青森ヒバなどのヒバ科の中から、ヒノキチオールという油が取れます。ヒノキチオールは殺菌効果が非常に強いのと、精神を安定させる働きがあります。ただし、ヒバの精油分が釘にあまりよくないということで、ヒバで家を作る時には、釘を使わない伝統工法が必要です。
スギで作った家は、見た目にもよく、さわっても柔らかいので、最近ではアトピーとかで精神的に落ち込んでいる子供の部屋などにスギを使うといいよと言われています。
このように、木には地球の大気の酸素を作ってくれる、集中豪雨になっても根っこから水を吸い上げてくれて洪水を防いでくれるなど、使い方を間違わないで使うと、いろいろな予防効果がある住宅作りが出来るわけです。

★健康住宅からも化学物質が出る
木の家を作る中で、現実にはどれくらいの化学物質が空気の中から検出されるかという分析をしてみますと、いま問題になっているホルムアルデヒドなどアレルギーや喘息をひきおこすと言われているものが出てきます。最近では、キシレンとかトルエンというものが、ホルムアルデヒドに替わって異常値になってきています。昔、シンナー遊びが問題になりましたが、キシレンやトルエンはシンナーよりももっと強い溶剤です。
化学物質をほとんど排除して家を作っているにもかかわらず、トルエンが出てきたりします。どうしてこんなものが出てくるのだろうと悩んでいたのですが、これらが出る場所が一定していまして、給排水管が通っているところから出てきている。なぜ管が通っているところから出てくるのでしょうか? 給排水管というのは4メートルのものを継いで使います。継ぐ時に、セキスイのエスロンという接着剤を使います。ほんのわずかこのエスロンという接着剤を使うことによって、トルエンが出て来るんですね。トルエンは人間の中枢神経を冒します。欝病にしたり、凶暴にしたりします。

今、子供たちはいろんな問題を抱えていますが、子供たちの問題は、子供たちの環境の問題ではないかと、私は家を調査していて、そんな感じがしております。
トルエンをなくすためには、接着剤を使わない家の作り方をしなくてはなりません。今は、建材そのものに接着剤が入っております。例えば合板とか集成材というのものです。健康住宅で、ムク材を使っていますと言っても、ムクの後にカッコ付きで(集成材)と書いてあるものがあります。確かにムクの板を使っているのだけれども、ムクとムクを接着剤で貼り合わせているのです。このように、接着剤の問題を棚に上げていることが多いのです。
私がびっくりしたのは、子供のために子供部屋だけはエコ建材で作りたい、というおかあさんがいて、コルクタイルが健康によいということでそれに替えたわけなんですが、替えている時からおかあさんが異常に気づいたのです。コルクタイルの接着剤が非常におかしいということで、検査をしましたら、トルエンが通常の1000倍くらいの濃度で出てきました。

★木の温もり
木には、熱を自分の体の中、つまりその建材の中にため込む、保温する能力がどの建材よりもあります。私は今、山梨の山の中にログハウスを建てて住んでいるのですが、冬は、暖かい日で、外は氷点下5度、寒い時ではマイナス15度とか20度になります。外はそんなに寒くても、ログハウスの中は0度以下にはならないのです。ああ、これが木の温もりなんだなと感じております。
自然住宅は炭化コルク断熱材を使い、そして地熱も利用しますので、外が氷点下15度でも、家の中では、1年目で7度から8度、2年目になると、基礎のコンクリートが乾き始めますので、8度から10度。これは、朝の1番寒い時の暖房をつける前の温度です。
木の効用と、家の作り方と、後は自然エネルギーをどのように利用するか、というような工法の成果で、このような家が出来るわけです。
地球温暖化の問題で、冷暖房を使わないで住むということがこれからますます重要になってきます。そこで、高断熱、高気密化が進むと思います。高断熱、高気密の家は、密閉度が高くなりますので、家の中に使われている建材から有毒なガスが出ないということが条件になります。ところが、合板作りの家が増えていますので、こうなってくると、人間が弱るか、家がダメになるかの競争です。人間が化学汚染に耐えられるように、強くならなくてはいけないという時代が来るのではないかと思います。

★阪神大震災で木造建築が倒壊
さて、木造と非木造の建築の割合ですが、だんだん木造の割合が減っております(図1)。この木造の中でも、昔ながらの日本の作り方は明治維新以降ほとんど皆無です。日本のもともとの工法というのは、足固めと桁固めがありまして、そこにヌキを通すというやり方なんですが、このヌキを使うと、瞬時の大地震には耐えられないのですが、家が倒壊するという状態になった場合に、このヌキがすごく粘るのです。ですから、日本人は、何度も何度も襲う地震に耐えられるような家作りをしてきたわけです。
明治維新以降、日本の住宅がヨーロッパの住宅に較べて非常に弱いということで、ヨーロッパ建築が日本に導入されました。筋交いを使う工法です。そして、この筋交いを入れるヨーロッパ在来の軸組工法が主流となってきたのです。ところが、これも今では、アメリカやカナダの2x4というパネル合板の工法に取って代わられてきております。2x4は年々増えておりまして、業界トップはセキスイハウス、次が三井ホームです。

阪神大震災が起こった時に、瓦が載った日本の木造住宅が倒壊して、6000人以上の方が亡くなりました。50年前の建物です。50年前というと戦後すぐですよね。その時代というのは、とにかく男はいない、物はない、金はないという時代でした。そういう中で建てられた建物なわけです。私は大工の娘なものですから、小さい時から父にくっついてよく建築現場を見ていたのですが、当時の建物は材料がありませんから、柱が焼けた材木だったり、土台に柱がちゃんとついてなかったり、そういう家がいっぱいあったんですよ。そういう古い家が倒壊したのです。
残った家はだいたい建てて10年くらいの2x4などのパネル合板の家です。それらは倒壊しなかった。ところが、日本のもともとの工法の家は修復が可能だったのです。直そうと思えば、作り直せるのです。釘も使っていませんし、ヌキをくさびで留めてあるだけの作りですから。しかし、2x4の家は、修復ができない作りなのです。だから、確かに倒壊はしないで残ったのだけれども、ちょっと傾いただけでも修復ができなくて、たぶんほとんどの家が建て替えていると思います。
報道では、「日本の木造建築はダメでした」「パネル合板が強いですよ」という言い方をしましたので、阪神大震災後には三井ホームがすごく儲かったのです。しかし、ここに使われている合板は耐久性に問題があり、早くて3年で腐り始め、20年もてばいいほうと言われています。20年経つとパネル自体がダメになり、日本は湿気が多いですから、ぶかぶかの状態になってしまう。この状態で大地震が来たら、今度は潰れるよ、ということです。そこで、ぶかぶかにならないためにまた薬剤を使う、薬剤を強化するという問題が起きてくるわけです。

★国産材から輸入材へ
国産材と外材の問題は、日本の山が守られるかどうか、日本の山が生きているかどうかという問題で、それによって日本の国土に酸素が供給されているかどうかとか、水害が起こるか起こらないかという問題にもつながってきます。だんだんと国産材のシェアが減っています(図2)。その理由はというと、木造建築が減っているということもありますが、意識的な問題もあって、私たち日本人が洋風化を好むということです。暖炉がある、煉瓦が綺麗、というところで家を決める。そこで、ますます輸入材、輸入住宅に傾いていくわけです。これが、どういう問題を起こすのかということを、お話してゆきます。

輸入材の中で、主なものでは、アメリカ産、これはほとんど製材用として入ってきます。西海岸のポートランドが玄関口となってアメリカ・カナダ産の材木が続々と日本に入ってきます。日本の工務店さんはツアーを組んで、コンテナ買いをしてきます。南洋材は、身近にあるラワンだとかホワイトテラピーなどで、窓枠、ドア枠、ちょっと高級な玄関のムクのドアというと、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア産の南洋スギ材です。あとは、ニュージーランド産です。これらの輸入材の増加によって、国産材の占める割合は現在では20%程度です。そして、年々減っていって、農業と同じような状態になってきています。輸入の割合で一番多いのは、やはりアメリカ産で、丸太買いをしています。米(ベイ)ツガというものを日本の家でほとんど使っています。
米ツガの柱1本の値段はだいたい700円から800円です。それに較べて日本の木材の、例えばヒノキ、その中でも並材とよばれる安い物で、1本8000円くらいです。当然、安いほうが使われるのに決まっています。
ところが、米ツガは耐久力で3年ほどしか持ちません。アメリカでは、アメリカ産ツガは構造材には使わないのです。しかし、日本では安いから、構造材として使っています。3年しか持たない材料を使って家を建てて、不思議なことに10年保証をする。そこで、10年持つようにするために何をするか。薬を使う、接着剤を使う、ということになります。その結果、10年の保証が付くのですが、人間が病気になって死ぬか、家が持ちこたえるかのぎりぎりの闘いになるわけで、私たちは家の中で闘わなければならないのです。
また、これから問題になってくるのは、南洋材です。大半は日本とアメリカが伐採しているという状態です。この問題はまた後で話します。

★世界一の材木輸入国は日本
世界の材木のおもな輸入国を見ていますと、産業用材の輸入国のトップは日本です(図3、FAOが取りまとめた1996年のデータによる)。日本は世界の用材の3分の1以上を輸入しています。製材の輸入では、アメリカがトップ、日本がその次です。製材の主な輸出国は、カナダ、スウェーデン、フィンランドといった森と湖の国です。合板はこれからもどんどん増えていきますが、合板の輸入国ではアメリカと日本がほぼ同じでトップです。木材パルプの輸入ではアメリカ、ドイツ、日本という順です。このように、アメリカと日本が世界の材木をかなり輸入しているのですが、ただ、アメリカと日本の決定的な違いは、アメリカは輸出している国でもあるということです。ところが、日本は輸入ばっかりなのです。
次に熱帯林の問題に入ります。マレーシアからの合板輸入量がものすごいのです。これは、丸太の輸出禁止を始めたからなんです。というのも、日本はどんどん伐採して、それを日本に運んで日本で製材していたのですが、向こうは原木を取られるだけで産業にならないものですから、現地の住民を使って産業を興すために、合板を作って輸出するというように変わってきたのです。そこで、日本は合板を買うようになったのです。こういう経済の流れがあります。

さて、世界の森林面積は34億5000万ヘクタールで、このうち開発途上地域の年間の伐採量が1259万ヘクタールです。日本の森林面積は約2500万ヘクタールですから、発展途上国では日本の森林面積が2年間でなくなる速さで、熱帯林を伐採していることになります。これがどんどん続いていきますと、全世界の森林面積は274年で無くなってしまいます。3世紀以内で地球は丸坊主になってしまうのです。森が酸素を出して、地球温暖化のもとになっている炭素を固定してくれるわけですから、木がなくなったらいったい地球はどうなるんでしょう。
このように、森と建物は密接に絡んでいます。日本経済の約20%が建築土木です。ですから、行政の人達が、この問題をどうするかによって、市場が変わってくるし、経済の動向が変わってくるのです。

私たちが家というものを考える時には、山のこと、健康のことを考えてこれからどうしてゆくか、どういう風に対応していくかを真剣に考えていただきたいと思っています。
熱帯地方の木の伐採は、森に棲息する生命体をすべてだめにしてしまいます。また、大久保から新宿にかけて、夜になるとフィリピンやマニラから来た女性が街角に立ちます。あの女性たちは、森に住めなくなって、日本に来ているという話があります。木を切るなと言って立ちはだかった森の住民たちが、現地の政府の力と日本の商社マンの力によって逮捕されたり、殺されたりということが起こっているそうです。
このようにして作られた家が、私たちに幸せをもたらしているかどうかと言うことを、ぜひ考えてもらいたいと思っています。

★東京の建築廃材の行方
今、ゴミの問題が深刻な社会問題になってきていますが、一般の家庭ゴミと較べて、建築廃材の量は大変な量になります。住宅を一軒を解体すると、廃材は家庭ごみの34年分にあたります。国民一人あたりになおしますと、家庭の一般ゴミに較べて、建築廃材の量は年間で118倍の量になります。この建築廃材が、いま、大変な問題を引き起こしているのです。
最も多くゴミを出しているのが東京ですが、東京のゴミはほとんど埼玉に持っていきます。東京で処理するゴミは22万トンで、埼玉に持って行くゴミが390万トン、約400万トンです。東京都の知事は東京にはゴミがないと言っていますが、こうしてお隣りの埼玉に持って行っているのです。
埼玉は唯一、流入規制と総量規制を設けていないエリアです。東京から関越自動車道で450円で、15分で行けます。それで、ゴミを無条件で受け入れているのが所沢です。ここには無法地帯があります。所沢のくぬぎ山のゴミ処理場では、煙突の先から煙が出ているというより、処理場全体から煙が出ているという状態です。現実にこういう処理場が山ほどあります。

★所沢のダイオキシン問題の実態
所沢インターのそばに小学校があって、その横に中間処理業者があるのですが、小学校の4階建ての校舎の高さより、ゴミの山のほうが高いのです。ダイオキシンの問題が浮上するまでは、こういう業者が所沢のほんの狭い区域に100個所くらいありました。今、やっと広域化計画になりまして、税金が4兆円ほど出されて、お金を1億くらい貰って外に出ていく業者が出てきましたので、70個所くらいには減っております。
良心的な(?)産廃業者は、日曜日には焼かないということになります。でも逆に日曜日に焼かないと、土曜日の晩と月曜日の朝がものすごいダイオキシンの濃度だろうと思います。どんよりと曇った時には、空気がオレンジ色になります。
所沢インターを降りたところに青果市場がありまして、その隣りにゴミ処理場があります。そこでは青果市場から出た発泡スチロールを焼いています。その下流に小学校があるのですが、子どもたちの半数は何らかの形で病気になっています。ダイオキシンは生殖異常などで問題になっている環境ホルモンの1つでもあります。
所沢の場合は、現実に見に行けば分かりますが、一般ゴミではなく、ほとんど建築廃材です。建築家は建築士の資格を取るためにこれからは「ゴミ処理場を見て廻れ」と、私は言いたいですね。ゴミ処理場の写真を撮るために数時間歩くだけで、おう吐します。頭痛がします。それだけ有害なわけですが、私などは前に所沢に住んでいたことがあって、もう慣れちゃったのですが、慣れていないカメラマンとか取材班は2日か3日微熱が続き、具合が悪かったそうです。ダイオキシンの有毒性というのは、まず風邪のような症状が出て、なんとなくだるくて、粘膜がやられ、鼻水が出てくるんです。それが半年か1年近く続くと、鼻水が止まるのです。そうしたらもう中毒です。匂いが分からなくなります。1年くらい経つと、朝起きる時にものすごくだるくなります。こういうことが起こってきます。

★どちらが危険?
所沢に住んでいるあるお母さんから相談を受けました。ダイオキシンで子どもが喘息になった。ひどいアトピーもあるので、所沢を出てご主人の実家に行くことになった。実家では増築してくれることになったのですが、実はお母さんの心配というのは、それだったのです。地元の知り合いの工務店さんで、知識のない方がビニールクロスを貼っちゃうというのです。お母さんのご相談というのは、どっちが危険かということでした。どっちも危険だと思うので、とにかくお母さんには自分のお金を足してでも、ご両親を説得して、なんとか安全な建材を使うようにしたらどうかと言ったのですが、その後お父さんから電話がきて「知恵をつけるな」と言われ、そのまま引っ越して行かれました。
その子が今どうなっているか分かりませんが、その結果はたぶんこうではないか、という話を次にします。

★まるで避難民のよう
1998年9月に新聞に載った話ですが、住まいと化学物質過敏症という問題です。田口美英子さん(61歳)は、横浜市の綱島駅から歩いて5分のマンションをリフォームしました。築27年のマンションで、入居してから15年ですから、結構古いです。一人住まいで、学校の先生をしていたのですが、リタイアして好きな絵を描きながら余生を送っていたのです。ユニットバスとシステムキッチンを新しく替えるだけの、ほんのわずかなリフォームで、たった8日間の工事でした。N社のシステムキッチンに、壁はS社の合板を使いました。お風呂はS社のユニットバスを入れました。S社は日本でトップの接着剤メーカーで、吸水管や排水管の接着に有害な接着剤を使っています。また、キッチンの壁、ユニットバスの壁に使われたボンドには、トルエン、ヘキサン、メチルエチルケトンという有機溶剤が入っています。これは人間の中枢神経をダメにしてしまうという性質を持ったものです。田口さんはトルエン中毒、つまり接着剤中毒で化学物質過敏症になってしまったのです。
化学物質過敏症というのは、家ばかりではなく、例えば汚染された空気とか、汚染された水、農薬を使った食べ物を取り続けていても起こります。健康な人なら危ないと感じて体が警告を出す状態でも、それがあまりにもいっぱいありすぎて、もうわからなくなってしまうのです。そのような状態の時に、有害なものを浴びせかけられる、などの条件が重なると、限界を超えてしまって病気になるのです。それが化学物質過敏症です。最近は電磁波過敏症というのもあります。症状はとても似ています。共通点は脳が冒されてしまうことです。

★改造の実態
田口さんの改造したユニットバスには塩ビ系のものが入っていまして、壁はセキスイアスベールという接着剤で貼った合板です。化学塗料も使っていますので、トルエン、キシレンも入っています。配水管は塩ビです。都会ではほとんどが塩ビ、東京も塩ビです。ところが、環境を考えるエリアでは、ステンレス管に替わっております。私の作る自然住宅でも、給水管はステンレス管に替えています。コストを安くするならエチレン管がありますが、エチレンもやはり化学物質ですから、私はステンレス管にしています。
私が住んでいる山梨という所は、環境にうるさい町村がありまして、甲府などではステンレス管が当たり前になってきています。ステンレス管でしたら、接着剤も使いませんので安心です。
「廊下にはムクの木を使ったのよ」と田口さんは言いました。工務店さんがそのように言ったのでしょう。たしかに見た目はムクの木に見えます。ところが、合板の上にムクの木を貼り付けているだけなのです。こういうのを付き板合板と言います。
こういった建材で田口さんは改造をしました。500万から600万円くらいの改造です。ところが、改造工事が始まった時から田口さんは具合が悪くなり、それからまもなく、ご飯を食べていて嘔吐をして、とにかく着の身着のまま逃げたのです。服と身の回りのものだけ持って、日吉のボロボロのアパートに引っ越されました。

★再び改装する
田口さんから、私になんとかならないだろうかと相談がありまして、改装することになりました。
改装する前に、空気の調査をしましたら、やはりトルエンが出てきました。ウッドフロアは表面に化学塗料が塗ってあるので、トルエンが必ず出ます。ホルムアルデヒドは最近ではフェノールや酢酸ビニルなどもっと強いものに替わっていますので、気をつけてください。つなぎ材にはキシレンが入っています。
化学物質過敏症の方の相談では、改造したり新築したりして病気になるから、その何百万円、何千万円かけたものが全く使われないまま、全部壊すことになるのです。これが一番心が痛むことです。

さて、どのように改装したかと言いますと、お風呂はS社のユニットバスを、タイルとモルタルの昔のようなお風呂にしました。今はタイルというとシートになったのを接着剤で貼るのですが、昔のタイルの貼り方はタイルにモルタルを載せて一枚一枚貼っていく貼り方なんですよ。それをやったものですから、タイル屋さんは大変でした。浴槽は、いわゆるポリバスのようなプラスティック系はもちろんダメ。最近、マーブライトという大理石の粉を接着剤で固めたものが出ていますが、これもダメ。それから鋳物ホウロウバスも、化学物質過敏症の方には、ホウロウに吹き付けている化学塗料がダメ。というと、昔ながらのヒノキのお風呂になるのです。でも、それではお掃除がたいへんなので、ヒノキに漆を塗っています。漆は殺菌性が高く、見た目もきれい、そして防水剤にもなる。その上、薬効があり、下痢、喘息、精神安定に効くのです。
マンションですから防水をかけますが、今の主流はウレタン防水になっています。ウレタンというのは、ぼやがあったり、火事があったり、野焼きをするとシアンガスという猛毒を出しますので、ウレタン防水はやらない。アスファルト防水には、タール分に発がん性がありますので、やらない。残されたものは、金属の防水、ステンレスの防水です。
このように自然住宅というのは、ただ昔に帰るというだけではないのですが、昔から使われてきて、それを使っても死なない、病気にならないというものを使います。手間がかかっても、ひとつひとつ家を作っていこうよ、というのが自然住宅の家作りです。

田口さんの家の場合は、台所はナスのシステムキッチンですが、金物や天板、ガス器具、水栓金具は取って、それらは利用させてもらいます。有害なものを発しているところだけを処分させてもらいます。処分はしかるべき所で処分をします。それには有害なガスを出さないものの解体費用の3倍から5倍かかります。そういうふうにして、何に変えるかというと、木に変えるわけです。ごく普通の木に変えます。木曽の山奥のおじさんが、私たちの自然住宅のメンバーで、ヒノキとかナラとか地元で採れる木で、システムキッチンと同じ値段で作ってくれます。解体したものから金物を全部取って、持って行って作ってもらうのですが、とってもきれいに作ってくださいます。しかも安い。漆を塗ると高くつくので、カキ渋を自分で塗りました。
その結果は、さきほどはトルエンとキシレンが出ていたわけですが、給排水管はいじらなかったので、若干は出ていますが、トルエンは5分の1以下になり、キシレンはほとんど出なくなりました。
床は無農薬の畳、そしてナラ材やヒノキ材に替えたのですが、なぜか押入の前にいくと落ちつかない。調べてみると、押入の洋服がガスを吸いこんでいたのです。それで服を干し、水洗いしました。こうして、活性炭入りのマスクをつけていたのが、3ヶ月でやっとマスクを取ることができました。
化学物質過敏症の人は免疫が低下していますから、1時間動くと1時間横になるというような生活なのですが、それも3ヶ月かかって昼間は外に出られるようになりました。化学物質過敏症になってから、田口さんは食べ物も自然食に替えてますし、洋服もオーガニックのもの、髪染めもヘナという美容院で自然の染料で染めるようにするとか、日常生活そのものも、かなり変えています。

★新築マンションの中は「作らないでほしい」
もう1つ、新築マンションの例をお話します。ある女性がお母さんと妹さんとの女性の3人暮らしで、三人とも体が弱いし、通勤するのにどうしても駅から近い所に家が欲しくて、調布の駅から2分という場所に、R社が建てるマンションを5500万円で購入することにしました。
私が相談を受けたのは、これからマンションの建築や内装に入るという段階で、体が弱いからガスが充満するような家に住みたくないので、交渉をしてほしいということでした。私はR社の本社に行きまして、「とにかく5500万円をびた一文まけなくていいから、全部は作らないで欲しい」とお願いしたのです。R社では営業マンの方から「私たちは法律に則って仕事をしているのだから、完成引き渡しが条件です」と言われました。ところが、その隣りの若い設計者の方がポツンと言ってくれたのです。「私も結婚して子供が生まれて、自分で家を建てる時に、子供の健康のためにはどうしたらいいかを考え始めた。せめて、一番面積の大きいクロスだけでも要求をのんであげたらいいじゃないか」と。それで、営業マンも折れてくれました。
次は工事を請け負っていた間組に行きました。そして、その話をしたら、間組の監督さんはもうびっくりしました。作らなくていい、びた一文まけなくていい、という条件です。間組としては、作れば当然お金がかかるわけですから、作らなくていいなんて、そんな嬉しいことはないのです。だけど、そこに入った不動産屋はダメと言うんですね。それで、とりあえずは作ることになって、私は監督さんに「とにかく壊れやすいように作ってください」と頼みました。

★マンション完成後の改装
マンション完成後、畳は無農薬のものに替え、床はヒノキに替えました。ユニットバスは大変高級なものでしたので、残しました。キッチンも高級なヤマハのキッチンで、壊すのがもったいないので、はじめは残すことにしました。ところが、流しから臭いが出ているのが分かるのです。体の弱い人にはそれが耐えられないので、とうとう壊すことにしました。
ただ、お金の問題もありますので、ユニットバスだけは、換気扇があるものですから、それを常時回すということにして、残しました。押入の中には支那合板と言う合板が貼られていて、やはり押入の前を通るとガスが出ているのが分かりました。検査をしましたら、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、ホルムアルデヒドなどの有害なものが検出されました。
これらは、先ほど言った内容に作り直しましたら、ほとんど出なくなりまして、厚生省の基準(ppm)の1000分の1(ppb)の値で家を作ることができました。ただ、1つだけ何だか分からない化学物質が検出されました。クロスを直接コンクリートに貼っていたのを剥したのですが、たぶんその接着剤の溶剤がまだ乾いていないコンクリートに染み込んだのが出ていたのだろうと思います。これはどうしようもないとあきらめたのです。
この方のお隣には若い一人暮らしの女性が入居したのですが、管理人さんから「あの人、会社に行かなくなっちゃった。どうも風邪らしいのだけど、寝ている」と聞きました。3月に入居して、だんだん気候が暖かくなるにつれ、どんどんガスは出ているはずだし、病気だと締めきっちゃっているので、たぶん何かが起こっているのだろうと思います。死んでいなければいいのですが、1994年に私が知るかぎりで、住宅を改装や新築して4人が死んでいます。

★日本の規制基準値の決め方
厚生省が市民の声によってホルムアルデヒトを使わないようにしようと作ったのが、0.08ppmという基準値です。世界では0.01ppm以下が普通です。では、この日本の数字がどういうところから出てきたかと言いますと、合板にランクをつけているのです。F1、F2、F3合板というランクがありまして、0.08ppmというのは、F1合板ならかろうじてクリアしているという数字なのです。メーカーへの影響を考慮してのことなのでしょう。とりあえずF1合板は生き残らせるというわけです。
F3はコンパネといって、基礎工事の仮止めなどに使うパネルですが、これは濃度も何もありゃしない、こんなところに住んでいたら死ぬというくらいのすごい濃度が出るものです。これは熱帯雨林から持ってきます。さきほど言いましたように日本の森林の2分の1を1年間で伐採しているのです。このコンパネは1度か2度使ったら捨てるのです。それで、所沢行きとなるのです。ところが、もし、とにかく安く家を作ってくださいと言うと、コンパネが使われます。
木の値段は毎日変わりますが、コンパネだと950円から1200円くらい、F1合板だと1200円から2500円くらいです。ですから、安く安くというとコンパネを使われてしまいます。私が相談を受けた人の中にも、こうして家を建てたけれども、化学物質過敏症になり、住めないので、半値で売って出た人がいます。
このように、基準の数値というのは、どこかを生かすために作られるということが多いですから、日本人はもっと世界に目を向けるべきです。世界の流れはどうなのかという話になった時には、日本の安全基準はおかしいということになります。

★建築に使われる危険な化学物質
やっとトルエン中毒が問題になってきました。トルエンは人間の脳をダメにしてしまう。昔、シンナー中毒で若者たちが凶暴になったりする事件があって、それでシンナーが規制されたのですが、トルエンはシンナーよりもっともっと強いものです。それが簡単に手に入ります。塗装屋さんで売っています。
家を新築する時、ヒノキ、ヒバ、クリ以外の材料を使った時には、銅、クロム、ヒ素化合物のものを塗らなくてはならないと規制されています。そうでなければ、建築許可がおりません。今の主流はヒ素です。和歌山県のカレー事件では、奥さんがヒ素をカレーにちょっと入れると手が後ろにまわって、だんなが床下にびちょびちょに撒いても、これは安全となるわけです。法律がそれを決めています。

気をつけてもらいたいのは、枕木です。枕木をただで払い提げてもらって、自分の家の庭を囲んで、そこで有機農法をやっている人がいます。枕木からいろんな化学物質が滲み出ていますので、農薬を使わなくても、使っているのと同じです。建築家で、枕木で家を作って建築雑誌に載っていらっしゃる方がいらっしゃいます。でも、これは人を殺すようなものですから、絶対にやめて頂きたいです。

クロルデンは、1970年から使い始められて、1986年に製造禁止となっています。今、日本の建築は、20年から25年で解体されていて、東京の場合は所沢に持っていかれて、野焼き同然に燃やされるのです。ダイオキシンが出るのは当たり前です。こういうところのメカニズムをしっかりと捉えて頂きたいと思います。
スチレンは私も断熱材に使っていますが、ポリウレタン、グラスウールなどは使いません。グラスウールは細かいガラス繊維から出来ていて、大工さんが口から吸い込むと肺にささります。
ウレタンは、燃やすとシアンガスが出ます。建築の申請をすると、必ず仕様書が消防署に回って、そこで、どういう家の作りなのか、どこが避難場所なのか、どういう材料で作っているのかなどをチェックします。もし、ウレタンの断熱材や仕上げ材を使っていたら、火事になった時、消防署は救援活動をしません。というのは、中にいる人は煙が出た時点でガスで死んでいることは明らかです。ガラスが割れると新鮮な空気が入って火が燃え上がりますが、その時にウレタンを使っていると爆発します。ウレタンを使った家に関しては、消防署は爆発覚悟でまずレスキュー隊が行き、その後方で消火活動の人が行きます。
スチレンとエチレンでは、エチレンのほうが安全なのですが、火に弱く溶けてしまうので、隣が火事になったら大変なので、なかなか使われなかったのです。それで、妥協点としてスチレンを使ってきたのですが、ポリスチレンは白血病を引き起こすとの疑いがもたれていますし、最近ではスチレンの中のフタル酸エステル類は環境ホルモンであることがわかってきているので、なるべく使わないようにしたいのです。ところが、私の自然住宅では使っているんです。どうしてかというと、自然住宅は地熱を利用しますので、凍結しないように断熱をするのです。家の中に関してはコルクボードを使っていますが、床下は白アリが好むのでコルクは使えないのです。出来ればエチレンがいいので、今メーカーにエチレンを開発してくれないかと言っているのですが、まだ出来ていないので、スチレンを使っています。

ホルムアルデヒドは低濃度で目、鼻に刺激があります。よく新築の家に行くと、なんか臭いなということがありますが、あれはホルムアルデヒドの臭いです。高濃度では発がん性があると言われています。最近ではホルムアルデヒドに替わって、アルキルフェノールという有害化学物質が入っています。
市民が健康を求める時、何かひとつの物質の名前を挙げて「やめてほしい」と言っても、化学物質の替わりはいくらでもありますので、「健康を害するすべてのものを使わないでください」と言うふうに運動しないとダメなんです。
最近ではだんだん規制が厳しいものですから、いろんな化学物質を少量ずつ混ぜ、ブレンドして使用するということもあります。個々の物質は規制の基準値より低く押さえられます。でも、これが安全かと言ったら、そんなことは絶対にないわけです。
トルエンは、皮膚、目に刺激があり、高濃度では意識喪失して死にます。怖いのは最近紫外線対策でよく使われるUVカットです。紫外線で皮膚ガンが起こります。それが怖くてUVカットの化粧品をいっぱい使っている。車にUVカットガラスを使っている。これらにはトルエンがいっぱい入っています。紫外線でやられる前に、トルエンでやられて、お肌はめちゃくちゃになるでしょう。

このように、化学物質の問題というのは、医者、建築家、科学者、メーカーが一体になってやっていかないと、こういう流れはわからないのです。
塩素系の農薬は1986年に禁止になりましたが、それに替わって有機リン酸系の農薬が使われるようになりました。例えば、畳の中の虫退治にはスミチオンという強い殺虫剤を使います。有機リン系農薬の中毒の症状は、目が上下方向に動かせなくなったり、肩こりや生理痛をひどくします。
農薬、有害化学物質は脂肪にたまるんです。だから、男性より女性のほうに被害が出やすいのです。それらの女性がお医者さんにかかると、「更年期障害」の治療を受けさせられることが多いのです。でも、ここでホルモン投与されると病気は悪化します。記憶力がなくなる。注意力がなくなる。眠くなる。よく考えてみるとこれは子供たちに起きている現象に非常によく似てますね。
有機リン系というのは要するに農薬ですから、食べ物にもたくさん使われています。そして建物にも使われています。住んでいるところにも、食べているものにも使われているのです。子供たちに起きている現象が、はたしてどういう意味を持っているのかということを少し考えていただけたらと思います。
私たちは自然住宅の研究をする中で、この活動は子供たちの未来のためにやっているのだと考え、「子供たちの未来を守る住まい方教室」というのをやっております。
まだまだ話したいことはありますが、時間がきましたので、これで終わりにしたいと思います。

質疑応答

★自然住宅のコスト
(質問)子供がアレルギーなので、健康を考えた家作りをしたくて、今土地を探しているところです。ただ、健康に良い住宅はコストが高いというところが1番のネックになってしまうと思っています。手の届く範囲で自然住宅は実現できるでしょうか?

田久保:自然住宅にかかるコストは、東京では坪単価85万円から90万円です。地方だと75万円から80万円です。これは人件費の問題です。自然住宅を建てるのには、ものすごい手間がかかります。普通の筋交い入り住宅ですと、1坪建てるのに大工さんが何人要るかというと、だいたい4人です。地方だと大工さん1人の日当は18000円が相場です。東京だと25000円です。ところが、健康を考えた家作りとなりますと、これが4人じゃない。8人かかるんです。
もう1つ、市民の方に考えてほしいのは、住宅のコストに関わってくる行政の問題です。例えば、住宅廃材の問題です。1999年に政府はゴミ処理場の広域化計画のために4兆円以上のお金を出しました。税金です。そして、今回、建築リサイクル法の中で、廃材処理費用が高いから援助金を出すことを決めようとしているのです。ところが、自然住宅は有害な建材は使っていませんので、廃材処理費用はそんなにかからないのです。廃材処理に高い費用がかかるのは、有害な合板を使っている家で、それらを建てているのは大手ハウスメーカーがほとんどです。その人たちの廃材処理費用のために、政府は税金をつぎ込もうとしているのです。
所沢のゴミ問題処理場の問題にしても、広域化計画で分散させて分からなくしようとしています。もうゴミ処理場を止めようと思っていた人たちも、5000万円の援助金が出ますので、また始めてしまうのです。他の場所へ移動する人たちには1億円近く出ます。これも全部税金ですよね。

★ローンのシステムを変える
私たちが健康を守る、地球を守る、地球にやさしい住宅を建てるには、法律を変えなくてはなりません。ほとんどの人はローンで家を建てます。木造建築ではだいたい20年から25年のローンをかけます。日本の場合は、ローンは人にかけます。ですから、住む人が変われば、またローンをかけなおして、金融業界が儲かるようになっています。ところが、日本以外の先進国では、ローンは家にかけます。住む人が変わってもローンはそのまま引き継ぎます。この違いってすごいですよ。なぜ日本人はこれに気がつかないのでしょう。
20年のローンも変えないとダメですね。金融業界が儲かるような仕組みを改めないといけません。例えば、性能保証の制度が出来て、これだと35年になります。ローンの支払いは、買った時の値段が問題ではないのです。月々の返済がどれくらいかということです。
1つの例をあげます。大田区で家を建てようとしていた人が、2500万円でハウスメーカーさんと1週間後に契約する予定だったのですが、私の自然住宅の話も聞きたいとのことで、私は1億5000万円の建築プランを作って行きました。それで、1週間後に私の1億5000万円のほうに決まったのです。どうしてかというと、その方は、2500万円のローンだと月々自分の給料から返済していかなければならなかったのですが、1億5000万円のほうだと、そのマンションに入る人たちの家賃でローンを返済してゆけるので、自分の給料は丸々残るのです。

★100年持つ家を建てる
合板の家で20年しか持たないものを建てるのではなく、100年くらい持つ家を建てることです。そうでなければ、山ははげ山になってしまいます。行政がそういうところをしっかりと見極めて、金融のシステムを変えることが必要です。100年のローンだったら、3世帯の人達が返済してゆけばいいのですから、庶民がそういう自然住宅を建てることは可能なのです。
こういうことを市民の皆様が声を大にして、政府に呼びかけ、運動してゆくことが大切だと思います。家の本質を見極めて金融のシステムを変えることがとっても大事。ローンが人にかかるのではなく家にかかるシステムだったらゆっくり返していけるのです。
さっきも言いましたが、ホルムアルデヒドが悪いといってホルムアルデヒドだけを避けてもダメなんです。体に悪いいっさいのものを使わないでというふうにしていかないと、化学物質のかわりはいくらでもありますから、健康にいい家なんて永遠にできないんです。廃材の処理を税金で援助するなんていうことは絶対に許してはいけません。「製造した責任」があるはずなんですよ。使用者の責任と同時に。

★日本から大工さんがいなくなる?!
たとえば環境先進国のごみ行政では、ごみ袋の値段が可燃ごみや不燃ごみなどで決められていますが、有害ごみの袋の値段はとても高く設定されています。ごみ袋ひとつ買うにもお値段が違うのだから、当然買わないようにしようという発想になります。そういう税金のシステムを日本でも作らなければいけないんです。今回、「住宅品質確保促進法」(住宅性能保証制度の大幅改正に伴う法律)がこの4月から施行されるようになりますが、「指定住宅性能評価機関」(建設大臣が指示する第三者機関)に多額のお金を払って加入した場合は、この機関に保証してもらえるです。ところが、実験もできない、多額のお金も払えない、開発もできないという昔ながらの大工さんは、自己保証をしなくてはならない。すると、阪神大震災のようなことが起こると、この評価機関に加入すれば自己保証の責任がありませんが、そうでない場合は全部自分で保証しなければならないのです。つまり大工さんを続けられなくなるということ。これでは良心的な大工さんがいなくなってしまいます。こういう大工さんを残すためには市民の側から応援しなくてはいけないんです。家にかかるお金を計算するとき、完璧な住宅を造ろうという発想を捨ててはどうでしょうか。壁にクロスを貼ったり土壁を塗らなくても住めるんです。どういうふうに住んでいくか、自分で家の中を作り込んでいったりしてもいいじゃないですか。子供の部屋を最初から人数分作らなくてもいいじゃありませんか。2、3歳ならひとつの部屋にいっしょに寝かせたっていいんですよ。時間をかけて家を完成させていくという発想なら、たとえば30%程度まで作って自分で完成させて引き渡しをしてもいいじゃありませんか。でもそういうことを教えてくれる建築士がいないのよ、この日本には。
だけれども、とにかくやって欲しいのは、今のシステムを変えると。そうでなければ大工さんはいなくなっちゃうんです。この日本から。市民の運動しかないんです。いいものを守ること、自分や子どもたちの健康を守るには。
もうひとつ「健康住宅に引っかかるな」ということを言っておきたい。
1500万円で家を改装した人がいるんです。この方は、工事にかかる前に厚生省や北里大学に電話をして、こういう建材なら安全ですよとアドバイスされて使った建材を使って病気になっています。

(質問) 先ほどの分析結果ですが示された数値は、分析を依頼して出されたものですか。分析の価格はどのくらいですか?

田久保:そうです。民間の分析施設に頼んでいます。5検体で20数万円。北里大学では、その3種類程度で50万くらいかかると聞いています。ホルムアルデヒドに関しては、各都道府県が無料で分析機器を貸し出していますが、それ以外のトルエン、キシレンもありますから、それらを調べたい方には分析をする会社をご紹介しますので、問い合わせてください。

(質問) 日本の伝統工法できちんとした家を建てられるといことがよくわかり、それも3世代でいい家を建てるということは現実的で、地震を考えても、健康を考えてもいいということであれば、21世紀の住宅住空間を作ることにつながると思います。地震の研究が進んでいて、どういう地点が揺れやすい、危ないということもわかり危険に対する認識が高まってきていますが、それと同時に伝統工法を使った新しい住宅が広まっていくのはいいなと思います。

田久保:そうですね。本当にいいことを言ってくれました。ヨーロッパ在来工法の「筋交い工法」は地震があったときに家全体が持ち上がります。だから足を固定しなくてはいけない。ところが日本の伝統工法は、横板(ヌキ)をいくつも渡す「箱」のような形で、地震の力が流れるようになっています。本当はこれが一番強い構造なのだということが最近の研究で明らかになりつつあります。

 

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