非常勤講師からみた「大学論」

投稿者: | 2000年3月26日

非常勤講師からみた「大学論」

中野亜里

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はじめに
「大学論」の各論点を見て、非常勤講師をかけ持ちしている自分は、大学を運営する側でもなく、利用する側でもなく、正直言って何の関係もない問題だと感じざるを得ない。しかし、非常勤だけで生活している教員は全国で2万人いるそうで、その存在なくしては大学の運営は不可能なのが現実である。大学について論ずる際に、以下のような非常勤講師からの視点もぜひ考慮してほしいと思う。

1. 勤務・生活条件
非常勤講師は、周智の通り1年契約のアルバイトで、それを毎年更新する形で10年も20年も続ける例もある。正式な契約書はなく、正確な時給も前もって提示されないこともあり、実際に働き出して給与が振り込まれるまで金額がわからない場合もある。年度末に、「来年度はもう来なくてよい」と大学側から一方的に通知されてもどうすることもできない。
時給は授業1コマ分の1ケ月の手取りが2万~2万5000円弱。月給制になっている大学はまだよいが、実出講手当制だと、春休み・夏休み中の収入はない。交通費は立替で、早い所で翌月、遅い所で半年後に支払われるのが一般的。交通費が支給されない大学さえある。
従って、週10コマは持たないと生活できない。ボーナス・社会保険・失業保険・退職金・年金など社会保障は一切ない。大学内や通勤途上で事故があっても何の保障もない(大学によっては、学内の事故の保険に非常勤講師も対象になっているところもある)。傷病や高齢で働けなくなった時の保障は全くない。

2. 研究・教育上の障害
上のような賃金の中から、資料の購読料・調査渡航費・学会参加費・奨学金の返済(日本育英会は非常勤の場合は返済しなければならない)など、すべて自費で賄わなければならない。公的な助成金などは、専任教員のみを対象とし、非常勤講師には受給資格がないものが多い。
持ちコマ数が多いため、一つ一つの講義について十分なエネルギーが使えない。一日に複数の大学を回ることもあり、学生の相談にのる時間もない。
大学の紀要に投稿できるのも専任教員に限られているところが多く、非常勤教員は業績を積む機会も制限されていることになる。

3. 決定からの疎外
大学側に対して非常勤講師が意見を表明する機会は極めて少ない。年に1度開かれる教員懇談会に招待されることもあるが、単なるパーティーまたは一方的な通知の場でしかない。学生に対しては「授業に関するアンケート」などを実施している大学もあるが、非常勤講師の声を取り入れるシステムは殆どない。

4. 人事の問題(公正な競争からの疎外)
専任教員の公募は、それが公表される段階で既に内定者がいるという場合が殆どである。純粋な公募の場合もたまにあるようだが、純粋か形式的かは外部の者にはわからな
い。
応募しても、「ご希望に沿えません」という簡単な通知が来るだけで、何人応募があったと付記されていればましな方で、どのような審査が行なわれ、どういう理由で採用・不採用が決定されたのかという過程は一切不透明である。

5. 将来の展望
これまでは、非常勤講師とは、本務校がある上で他校の非常勤も少し兼務するとか、専任教員になるまでの一時的な仕事であったため、上記のような問題が社会化していなかったといえよう。しかし、今後は大学の生き残りのため、専任教員が定年退職しても新たに専任を採用せず、非常勤で間に合わせるというケースが増えるのではないだろうか。恒常的に非常勤待遇を強いられる研究者が減るとは思えない。

おわりに
学生や市民は非常勤講師も大学側の人間として見るだろうが、自分の生活も保障されず、来年の仕事がどうなるかさえわからないのが恒常的な状態で、綿密な教育・研究活動が望めるだろうか。ましてや、大学の機構_改革の主体としての意識を持つことができるだろうか。

 

ジェンダーの観点からのアンケート案 中野亜里
1. 女性が大学で研究・教育にあたることについて、社会的(自分の家族も含む)な軋轢を感じたことがあるか。
2. 論文作成・調査・研究発表など研究活動上で男性から差別された、または差別されていると感じたことがあるか。(差し支えなければその内容)。
3. 就職・昇進・昇給など職務上の待遇で女性ゆえに不利益を被った、または被っていると感じたことがあるか(カッコ内同上)。
4. 逆に女性ゆえに有利であったと思われることがあるか。その内容。
5. 配偶者・子供のいる女性教員の場合、そのことによる利益・不利益は。
6. 配偶者・子供のいない女性教員の場合、同上。
7. 女性教員に習うことに対する男子学生の対応で、男性教員へのそれと異なると感じたことがあるか(カッコ内同上)。
9.女性教員ゆえに女子学生に対して何からの影響力があったと思うか。その内容。
10. 大学内または関連した場所で身体的・精神的にセクハラを受けたことがあるか。男性間のセクハラ的会話などで苦痛を感じたことがあるか。それにどのように対処したか。
11. 女子大学の存在についてどう考えるか。
12.その他の意見。

 

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