オール電化は本当にエコか?

投稿者: | 2006年1月18日

真下俊樹(市民エネルギー研究所・日本消費者連盟運営委員)
 「オール電化はエコ」──クリーンで未来的なイメージとともに、こんな CMが毎日繰り返し聞こえてきます。
「CO2を 50%削減」としている機器メーカーの広告も見られます。オール電化は、本当に環境にいいのでしょうか?
 まず家庭のエネルギー需要を概観してみると、「暖房用」「給湯用」「厨房用」という熱の供給が約3分の2を占めています。これまで、その9割がガスと灯油で賄われてきました。電気は「動力他」(電灯、各種電気製品)がほとんどで、家庭用エネルギーの約3分の1を占めています。パソコンや温水洗浄便座、大画面テレビなど、電気製品の増加に伴って最も伸びが早い用途になっています。
 これまで熱の供給に電気が使われてこなかったのは、電気が高かったからです。その理由は、燃料(石炭、石油、天然ガス)を燃やした熱で発電するさいに電気に変換されるのは元の燃料エネルギーの3分の1だけで、残りは廃熱になってしまうからです。公害や放射能の問題のため、大型発電所は過疎地に建設されますから、この廃熱は有効利用できず、温排水の形で海に捨てられているのが現状です。電気は上質なエネルギーで、様ざまな用途に使えますが、これを家庭でまた元の熱に変換するくらいなら、燃料を直接燃やして熱を得た方がはるかに効率的で経済的です。
電力会社の事情
 戦後の高度成長期にはエネルギー供給の確保が最重要課題とされ、発電所の建設を促進するために「総括原価方式」という電気料金制度がつくられました。これは、電力会社の設備投資額の一定比率を電力会社の「適正利潤」として認め、それを確保できる電気料金の設定を認めるというものです。発電所や送配電設備など設備投資をすればするほど利潤が増えるのですから、電力会社はこぞって原子力などの高価な設備を建設しました。その結果、電力供給量は急増しましたが、同時にそれを支える電気料金も割高になり、日本の電気料金は世界一高くなったのでした(米国の約2倍)。
 
 バブル崩壊に続く急速なグローバル化の中で、日本経済は世界相手の競争に生き残るために、極限までの効率化を余儀なくされました。製造業の企業が1円、1銭でもコストを下げるために血の出るような努力をしているときに、ムダな投資のせいで高止まりしている日本の電気料金が「内外価格差」の最たるものとしてやり玉に挙げられたのは当然でした。地域独占と総括原価方式に保護されてきた電力市場の自由化が、大口契約から順次始まりました。独立系発電業者や自家発業者が安い電気で次々と供給契約を勝ち取り、電力会社は急速に市場を失いつつあります。家庭用電力も含めた全面自由化も2007年から検討されることになっています。
 こうした急激な変化の中で、電力会社は生き残りのための対応を迫られています。そのひとつは、新規参入業者の進出を阻止し、電気の売り込み、つまり電気の消費拡大に本腰を入れることです。とくに、最近燃料電池の実用化が進んで、ガスで自家発電しながら廃熱で熱供給することが家庭でも可能になってきたため、ガス会社が近い将来、家庭用電力市場に大々的に進出してくることが予想されます。これを阻止するには、新築の建物に最初からガス管を引かせないようにするのがいちばんです。建ってしまった建物にあとからガス管を引くのは至難の業ですから。そのためには、ガスの独壇場である給湯と厨房(調理)を電気で賄えるようにする必要がありました。
 もうひとつは、総括原価方式の下で膨れ上がった発電設備の稼動率を上げてコストダウンをはかることです。電力需要には、昼が高くて夜低い、夏(と冬)が高くて春と秋が低いなど、かなり大きな変動があります。エアコンの普及や電気機器の増加などで、この変動幅(波)はますます大きくなってきています。電気は溜めておくことができないので、需要のピークを賄えるだけの発電所を作っておいて、需要が減るとその分発電所を止めたり、出力を落として供給を調整をしなければなりません。需要の波が大きくなればなるほど、使わない設備の割合が多くなり、稼働率は下がります。稼働率が下がると、発電コストが上がり、競争に負けてしまいます。そこで、需要が「谷」になる夜に、季節を問わず電気をたくさん消費してもらって、谷を押し上げることが急務となったのです(これを「負荷平準化」といいます)。
1の電気で3の熱?
 このような必要を満たすために、電力会社が生き残り戦略のひとつとして打ち出しているのがオール電化です。その中心になっているのは、給湯用の「エコキュート」(CO2冷媒ヒートポンプ)と IHクッキングヒータ(電磁誘導加熱器)です。
 まず、エコキュートから見ていきましょう。発電の段階で電気になるのは燃料エネルギーの 1/3だけということはすでに見ましたが、電気のこの効率の悪さを補う起死回生の技術がヒートポンプです。ヒートポンプとは、気化しやすい媒体を低温低圧にし、熱を吸収させて蒸発させたあと、別の場所でこれを圧縮して高温高圧にして熱を放出させつつ凝縮させることによって熱を移動させる(汲み上げる)装置です。すでに冷蔵庫やエアコンで広く使われてきました。
 電気を熱に転換するのではなく、屋外の大気中の熱を家やお湯の中へ移動させるだけなので、使った電力以上の熱を得ることが可能です。ヒートポンプの性能は、使った電力の何倍の熱を移動できるか(移動したエネルギー/投入エネルギー)で計られ、(COP=coefficient
「成績係数of performance)」と呼ばれています。たとえば外気温と目標温度との温度差が比較的小さいエアコンの場合、理論的には COPを 11以上にすることも可能で、最近発売されているエアコンには COP=5といった高効率のものも見られます。実験室レベルでは COP=8も達成されています。
 給湯の場合は温度差が大きいので、エアコンのような高い COP値は望めませんが、CO 2を冷媒に使うという新技術によって、エコキュートは「1の電気エネルギーで3以上の熱エネルギーが得られる」(COP=3以上)と宣伝されています。電気になるのが3分の1でも、その3倍の熱を利用できれば、全体の効率は 1/3 ×3=1、つまり燃料を直接燃やしたのと同じになります。ガス瞬間湯沸し器の1次エネルギー効率は 0.73ですから、エコキュートの方が省エネということになります。
 開発した電力中央研究所は「約 5割の CO 2削減が可能」としています。その根拠を、一般的に用いられている電気とガスの CO 2排出係数(単位エネルギーを消費することで排出される CO 2の量)をもとに推測してみると、エコキュートの COP値を 3.5として計算しているらしいことが分かります(図1)。
実際のエネルギー効率は高くない
 けれども、この COP値は、実験室で特定の条件の下で測定した値で、実際にはこれほど高くないことが実地調査で分かっています。家庭のエネルギー調査で有名な「住環境計画研究所」が、エコキュートを使っている東京の5世帯(A,B,C, D, E)で実測したところ、総合的な効率では、ガスの 0.76に対して、エコキュートは平均で 0.61と、低いことが分かりました(注)(表1,2)。 その理由は、まずエコキュートのヒートポンプ本体のCOP値が、実際には平均 2.3と、実験室の名目値よりも低いためです(表2)。ちょうど深い井戸ほど水を汲み上げるのが大変なのと同じで、ヒートポンプも外気温と目標温度の落差が大きいほど、同じ量の熱を得るのにより多くのエネルギーが必要になり、効率が落ちます(図
2)。寒波で凍えているときに限ってエアコン暖房が効かないという経験をした人も少なくないのではないでしょうか。夏は COP値が高いけれども熱需要が少なく、熱需要が多い寒い時期には COP値が低いのが、ヒートポンプの原理的な泣き所なのです。
 もうひとつの理由は、沸かしたお湯が、使うまでに貯湯タンクの中でかなり冷めてしまうことです(平均25%の熱損失:表2)。
 電気給湯器は貯湯タンクが嵩張るため、とくに都会の戸建てやマンションなどで設置場所に困ることが、従来から売れ行きのネックになってきました。コンパクトなガス瞬間湯沸かし器と競争するには、貯湯タンクをできるだけ小さくすることが不可欠になります。同じ熱量を小さい体積の中に押し込めるためには、溜めるお湯の温度を高くする必要があります。エコキュートは「お湯が高温」というのを売りのひとつにしていますが、お湯と外気温の差が大きいほど熱損失は大きくなります。 また、すでに見たように、電力需要の谷を押し上げる(負荷平準化)のがもうひとつの目的ですから、お湯は深夜電力で沸かす必要があります。ところが、深夜に涌かしたお湯をお風呂などで主に使うのは次の夜ですから、どうしても 12~ 16時間程度の間溜めておくことになります。「きょうはもうお風呂はいいや」ということになれば、沸かしたお湯はムダになってしまいます。
 このように、熱いお湯を長時間溜めておく間に「空気の熱で沸かしたお湯」の熱が、また空気へ逃げてしまうのです。断熱材を分厚くすれば熱損失を減らせますが、そうすると貯湯タンクがその分嵩張ってしまい、高温で貯湯する意味が少なくなってしまいます。 いずれも、家庭の熱需要を電気で満たそうとした無理が、ヒートポンプの効率を減殺していると言えます。こうした現実の効率で CO 2排出量を再計算すると、エコキュートの方が 10%多いことになります(図4)。
CO2排出係数のトリック
 「地球にやさしい」の根拠である CO 2排出量でも、宣伝と現実は違います。
 電力1kWh当りの CO 2排出量(CO 2排出係数)は、ふつう発電に使った化石燃料から CO 2排出量を推計し、それを総発電量で割って求めますが、これは CO 2を出さない(とされる)原発や水力を含めた値です。宣伝されている CO 2削減率も、電力全体の CO 2排出係数
(0.407kg-CO2/kWh)を使っていますが、ガス湯沸し器をエコキュートに替えることで増える電力需要をまかなうのはどの発電所でしょうか? 図5を見ると、深夜の電力需要は、現状でも原子力と自流式水力・地熱の発電容量を上回っていますから、この需要増を賄う主体は石油とガスの火力発電なのが分かります。ですから、この純増する石油とガスの部分のみの CO 2排出係数(0.509kg-CO2/kWh、0.1415kg-CO2/MJ)を用いるべきでしょう。
 これと実際の COP値を総合すると、エコキュートの CO2排出量は、従来のガス瞬間湯沸し器よりも 4割近く多いという結果になります(図6)。もちろん、電気には原発からの放射能という別の問題もあります。
 最近売られているガス瞬間湯沸かし器は、廃熱を回収して水を予熱する「潜熱回収型」という新技術によって、熱効率が約 95%に向上しています。これと比較すると、エコキュートの CO 2排出量は 6割以上多いことになります。
 IHも総合効率は低い
 オール電化のもうひとつの新兵器、IHクッキングヒータの方はどうでしょうか?
 IHクッキングヒータのエネルギー効率は、機器そのものは 0.83と確かに高いのですが、すでに見たように、電気をつくる段階で3分の2が失われるため、1次エネルギー効率では 0.27と、従来型のガスコンロ(0.38)よりも低いのが実態です。最近売り出されている、炎がナベの外にはみ出さない内炎式バーナーのガスコンロ(0.48)との差はさらに開いています(表4)。
その結果、同じ調理をするときの CO 2排出量は、IHクッキングヒータの方がガスコンロよりも 20~ 50%多いことになります。
 2006年 5月 10日に国民生活センターが発表した「IHクッキングヒーターの安全性と加熱性能」によると、やけどや発火、電磁波など安全上の問題の他に、新型の IHクッキングヒータである「オールメタル対応のものは、アルミや銅の鍋も加熱できたが、ステンレス鍋に比べて火力や熱効率が劣り、湯沸かし時間が2倍以上かかった」といいます。CO 2排出量もさらに多いことが予想されます。
ソーラーがあるじゃない
 「エコ度」の点では、ガス湯瞬間沸かし器やガスコンロよりも、オール電化の方が劣っていることを見てきましたが、「だからみんなガスにしましょう」とガス屋さんの回し者のようなことを言うつもりは毛頭ありません。オール電化の実態を浮き彫りにするために、これまで広く使われてきたガスを比較の対象に使っただけです。自由化の中で市場を奪い合う「電力・ガス戦争」に巻き込まれて、高い買い物をさせられないように、私たちはもっと視野を広くもって、賢い選択をしなければなりません。
 いちばんエコなのは、電気でもガスでもなく、エネルギーを使わなくても快適に生活できるようにすることです。そして、その次にエコなのは、自然エネルギーを使うこと。たとえば、ソーラー温水器を付けてそのお湯をガス湯沸し器に給水すれば、充分なお湯をはるかに安く、しかも環境への悪影響を最小限にして得ることができます。家の断熱を良くし、隙間風を塞げば、冷暖房エネルギーを3分の1に減らせます。パッシブ・ソーラーにすれば、これも限りなくゼロに近づけ、しかもより快適な家になります。
エコロジーでエコノミーな暮らしは、オール電化住宅以外の場所にあるのです。
(注)住環境計画研究所「実使用状況下における CO 2冷媒ヒートポンプ給湯器と従来型給湯器の性能評価(その2)」、第 20 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集、247~ 250ページ、04・1・29~30)
(市民科学第14号 2006年9月)
「オール電化はエコ」──クリーンで未来的なイメージとともに、こんな CMが毎日繰り返し聞こえてきます。「CO2を 50%削減」としている機器メーカーの広告も見られます。オール電化は、本当に環境にいいのでしょうか?

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