自然流育児のすすめ

投稿者: | 2005年12月5日

小児科医・真弓定夫氏講演録
reported by 上田昌文、河野弘毅
pdf版はrisk_007.pdf
●真弓小児科医院を訪れて (上田昌文)
 吉祥寺の商店街の一角にあるこじんまりとしたビルの2階に真弓小児科医院はある。私と河野さんがインタビューに訪れたとき、患者さんである親子連れが3組、診察を待っていた。待合室はおよそ4畳ほどの細長い部屋。ご自身がチェロを奏でられるのだろう、患者さんの両親など演奏家たちのコンサートのポスターが何枚も壁に貼られている。手をのばせばすぐに取れるように、先生が薦めておられると思われる種々の雑誌や書籍が所狭しと並べられている。待っている者どうしひざを突き合わすように坐ることになるので、自ずと他の親子のやり取りが目に入る。そればかりか、仕切りのほとんどない診察部屋(これも4畳ほどのスペース)からは、患者さんと先生が語り合う声が聞こえてくる。診察が一渡り終わるのを待ちながら、思わず聞き耳を立ててしまった私だが、実に丁寧にじっくりと親御さんの話を聞かれるのに驚いた。話の折々に「今私が言ったことは、この本ではこんな風に述べているのですよ……」と、それこそ壁一面にびっしり並んでいる書物から該当する一冊をパッと抜き出し、該当する部分をサッと開いて見せながら、患者さんに説明を加えていく。以下に掲げる講演録で、真弓さんは「小児科医はアドバイザー」と言い切っているが、まさにその姿を目のあたりにした。
 今年1年を振り返ると、市民科学研究室の「食の総合科学プロジェクト」において”ピース・アース・フード”を実践する大谷ゆみこさんらの「いるふぁ」(『市民科学』第5号インタビュー参照)と、そして「生命操作プロジェクト」において妊娠・出産・子育て支援の「ベビーコム」(『市民科学』第3号インタビュー参照)と連携して調査研究をすすめる中で、「食」と「子ども」を視座にすえて今の科学技術のあり方を問い直していくことがいかに重要かがみえてきた、という気がする。健康や環境を守る上で私たちに本来不可欠なものは何であり、よけいなものは何なのか̶̶その基本に立ち返って考えるなら、今の科学の知見を実践的な課題に照らしてどう編成して生かしてゆくか、あるいは経験的・直感的に得心できる”よりよい指針”をどう科学的に検証していくか、といった市民科学的なアプローチが強く求められていることがわかるだろう。
 真弓さんの「日本の医療は進歩したと言うのなら、なぜこんなに医療費が増え続けるのか」という問いは、医療システムの構造的歪みを衝く端的な問いであり、「病気=医者や薬に治してもらうもの」という意識を自身に染み込ませてしまった一般の生活者への批判でもある。年間約1500種24kgにもなるという食品添加物を摂取するのが常態化した食生活(とそれを支える加工技術などの開発)を「日本人本来の食の姿」と比較すれば、100%に近い科学的な実証を待たずとも(個々の添加物の是非についてはしばしば意見が分かれる)、アレルギーや肥満や糖尿病など生活習慣病の増加の背景に何があるかが見えてくる。牛乳一つとっても、それが本当に子どもの身体にとってよいことを示す科学的データはないといってよいが(真弓さんの話からうかがえるように、むしろ身体に負担をかける”不自然な飲み物”とみなすべき点が多い)、それにもかかわらず子どもたちは学校給食でそれを飲まされる。そこには、科学技術(畜産や加工や流通など)と企業利益と政治(米国の食糧戦略など)が絡む中で「〇〇は身体によい」という刷り込みが一旦社会に浸透すると、その認識や行動は容易には変わらない、という今の社会の姿が見えるだろう。
 このような硬直した”思い込み”を解きほぐしていくのが、市民科学的アプローチであり、それは次のように言い表すこともできるだろう̶̶経験と直感に依拠する実践的な知恵を、科学的検証が尽くされていないからという理由で拒否するのではなく、問題の総合性をとらえきれないでいる今の科学の限界を見極めつつ、その知恵の中身に科学的照明をあてて実証性を高めていくことで、より普遍的で信頼のおける(=実践の確かな指針となり得る)「知」を編み上げていくこと。
 真弓さんの講演から、市民科学的アプローチの可能性を読者自ら感知していただければと思う。
◎講演録の前に◎
 真弓定夫さんと麦っ子畑保育園のこと (河野弘毅)

 講演録にさきだって、真弓定夫さんと講演の主催者である麦っ子畑保育園について簡単にご紹介します。
 麦っ子畑保育園は神奈川県座間市にある1977年開設した県の認定保育園(未認可保育園)です。1987年に『自然流育児のすすめ̶̶小児科医からのアドバイス』を発刊したばかりの真弓定夫さんを講師に招いのをきっかけに、食事の中から牛乳、肉、卵などの高蛋白質のものを抜き、その代わり日本人が伝統的に食べてきた青菜、根菜、海藻、小魚を多種取り入れたメニューを考え、調味料は大手メーカーのものをやめて昔ながらの製法で造られたお醤油などを使った調理を行うように変わっていきました。薄着、風通しの良い住宅環境などを重視し、薬に頼らないで病気にならないからだを普段から作っていこうと考えながら保育するという理念は、真弓さんの賛同を得てさらに確固としたものになりました。真弓さんは現在、麦っ子畑保育園の嘱託医ならびに理事として何度も同園に足を運び、講演、健康相談、健康診断を行っています。この記事では、2005年9月4日に麦っ子畑保育園で真弓さんが保護者と職員を対象に行った講演を採録しました。麦っ子畑保育園のご協力に感謝します。
真弓定夫さんのプロフィール:1931年生まれ。東京医科歯科大学卒。1974年東京吉祥寺に小児科医院を開業。食べものと生活環境を見直し、薬や注射に頼らないで病気と向き合う自然な子育ちを提唱し実践的なアドバイスを行っている。
■小児科医・真弓定夫さん講演録

 
こんにちは、真弓です。略歴を申しますと1955年に東京医科歯科大学を卒業して医者になりました。それから六年間出身校の医科歯科大学小児科学教室、そのあと十三年間当時住んでいた場所の近くの佐々病院というところの小児科医長を務めました。
 1955年に医者になって今2005年ですからちょうど五十年なんですね。そのうち二十年間を組織の中で働いて、その間にいろんな疑問を感じてくる……1945年といえばお分かりですね、終戦の年、このときを転機として日本のいろいろな面、食にしても衣類にしても住居にしても、特に心の持ち方にしても大きく変わってしまった、というよりもアメリカに変えられてしまった。いい面もありますけれども、悪い面がたくさんでてきてしまったんですね。
●日本の医療は進歩したか

 大学病院で働き始めた頃には、自分で言ったらおかしいけれども割合勉強したほうなんですよ。皆さんが知らないような病気がたくさんたくさんあるのを覚えこんで、そしてそのころの新薬なんかもどんどん使って……というよりも大学病院じゃ使わざるをえないわけです。それがすばらしいと私も思ってた、自分の子どものころの医療とくらべて日本の医療は進歩した、と。
 そのうちに疑問がでてくるわけですよ。医療が進歩すれば、かんたんなことですね、病気が減らなくちゃいけない。患者さんが減らなくてはいけない。当然医療費も減らなかったら進歩したとはいえないわけでしょう?ところがこのあいだ医療費はどんどん増えていく。現在も増え続けていく。半端でない増え方なんだ。それはおかしいんではないかということをこの二十年間の勤務医生活で感ずるわけですね。じゃなぜそうなるのか。今の医療というのがマッチポンプになっているんではないかと。
 たとえば消防署というのがありますね。火事が起きれば消防署の方が来て消してくださる。やっているのはそれだけじゃないですよね。火事にならないためにはどうしたらいいのか、火災予防ということを常日頃皆さん方にPRしているはずです。それから消防署員というのは公務員ですからね、政府の人たちだ、それから民間の立派な職業を持っていてボランティア活動として協力する消防団の人たち、それと民間と協力して消火にあたってる。そういうことが医療関係でなされているかどうかということなんです。
●医者でなく子ども自身が治す

 つまり大事なことは病気を治すことではない。医者とか薬がね病気を治せるはずはないんです。治すのはお子さんで、それも(治すのではなく)治るもの。病気が治るにはどうしたらいいのか、それ以前に病気にならないにはどうしたらいいのか、そのための生活環境を整えるのがお父さんとかお母さんとか地域の方々の務めなんですね。我々(小児科医)は多少なりとも医療体験を積んでいるわけですから、そういう方々にアドバイスをするのが仕事なんです。小児科医というのは病気を治すところではなく、アドバイスをするアドバイザーなんです。
 だから、もちろん治療も大事ですけど、それ以上に大事なのは、六ヶ月検診、九ヶ月検診、一歳半検診、三歳検診、六歳検診……そういうときに対話をしっかりできるような環境作りをしておかなくてはいけない。しかもそのときに、医者とお父さんお母さんとの目の高さ、医者と子どもたちの目の高さ、子どもたちとお父さんお母さんの目の高さがいつも同じ高さになくてはいけない。
 そういう意味で病気を増やしてる大きな原因になっていることに「医者にかかる」という言葉がある、これを死語にしていただきたい。「医者にかかる」というと医者によりかかっていく、医療に関してみな医者まかせにして一方通行になってしまう。医者の言うなりになる傾向が大きな病院ではどうしてもでてきてしまう。また、これからお話するようなことを組織の中で話したら確実にクビになってしまう、公立の病院なんかの場合だったら特に。だから組織から離れて1974年に真弓小児科医院を開設したわけですね。
 私の診療所には薬は一切置いてありません。医師会に入ってますから市と契約している予防接種に関してお父さんお母さん方から希望があった場合、これは打たざるをえませんからそういう注射はしますけど、対症的な注射は三十年間一本も打ってません。もっぱらこれからお話するようなことを根気よく子どもたちに話していく。そうすると、私の予想を超えて病気が減っていく、患者さんが減っていくわけですね。患者さんが減るって受診の回数が減ってくるわけ、患者さんの数はどんどん増えてますけど。
 そのへんのところの、病気にならないための日本の食べ物とか衣類とか住居とかを終戦時にアメリカによって崩されてしまったんですが、お若い方がそれをほとんどご存じない。我々が伝えていかなくちゃならないんですけども、このままの状態でいくとあと二十年もすれば終戦以前の日本の本来のよさを知っている人たちが死に絶えてしまい、ますますひどい状態になる。だから皆さん方はそれをしっかり自覚して、歯止めをかけてそのうえで子どもたちをしっかり育てていただきたい。
 これからお話するようなことは昔の日本人だったら誰でも知ってたこと、昭和二十年以前だったら誰でも知っていたことで、それがマスコミ操作によって皆さん方に伝わっていない。それをお子さんに伝えて、二十年後のお孫さんをしっかり育て、命がつながっているということをしっかり頭のなかにいれてください。
●親が子の葬式をだす時代
 
 現実がどういうものか、それをまず本題に入る前にお話しておくと、私が医者になった1955年の日本の年間総医療費は2388億円でした。1970年が2兆4962億円、1990年が20兆6074億円、2004年が31兆500億円。たった50年間で医療費が130倍にも増えてるという異常事態を皆さんしっかりと把握していかなくちゃいけない。もっと怖いことがある。名前をご存知の方もあるかもしれませんけども西丸震哉さんという方、ちょうど私が開業した1975年ころに「41歳寿命説」という意見を出された方なんですけども、その人が言っているのは、確かにいま日本人の寿命は延びてます、ただし延びているのは昭和二十年以前に生まれている私ども、日本人に合った生活をしていた私どもが戦後のいろんな恩恵ももちろんあるわけだからそういうのを受けて六十歳以上の人々の寿命がどんどん延びていてこれ以降の人たちの寿命が年とともに短縮しているという事実に目が向けられていないと。西丸さんは昭和三十四年を経済発展元年、短命化元年と名づけた。昭和二十年以降の人の寿命がだんだん短くなってる、特に昭和三十四年以降の皆さん方が寿命が短くなっているということ、それが現実化したのが去年の人口動態なんですね。去年(平成十六年)の日本の人口は一億二千七百万人で男性の人口が終戦後はじめて減ってるんです。平成十五年に比べて平成十六年の男性の人口が減っている。それを総体的にみた場合に、これ以前の、六十歳以上の(私が七十四歳ですね)七十、八十、九十の人々の人口はかなり増えてる、十五年に比べて十六年はおじいちゃんが増えてる。減ってる要因がありますね、これはこれでまた今日お話できないかもしれないけど別な意味で大問題なんですが少子化という問題なんですね。いま生涯平均出産率という結婚するとかしないとかにかかわらず一人の女性が一生の間に産める子どもが1.29、最近は1.23となってる。これは2.08から2.10無かったら人口が維持できない。これはこれで大変な問題になってくるんですけれども、0歳児の人口が少し減っている。六十歳以上の男性は大幅に増えていて0歳児が少し減って全体として人口が減っているということは真剣に考えないと大変なことになる。結論的に言ってしまえば、一歳から六十歳までの人の亡くなる数のほうが六十歳以上の我々の増えていく数を上回っているということ。現実には七十、八十、九十の人たちが六十歳五十歳の人の葬式を出す時代になってる。これは女性にも遠からず及んでくるということです。厚生労働省は2009年くらいから女性の人口も減るであろうということを予測してたんですが、去年それを二年早めてます。2007年くらいになると、男性の場合は2004年に減り始めたが、女性も2007年くらいからは人口が減ってくるであろうと。はっきり言ってしまうと親が子どもの葬式をだす時代になっているし、それがこれからどんどんエスカレートしてくる。私は小児科医ですから、子どもを亡くしたお父さんお母さんの悲しみをたくさん見ているわけです、それに歯止めをかけていただきたい。皆さん方がお父さんお母さんに先立つくらい親不孝なことはないんですから。それがどんどんこれから増えてくる。歯止めをかけてください。
●日本のすぐれた文化をくずした生活の欧米化

 それじゃなぜそういうふうになってきてしまったのかというのは、さっき申したようにアメリカがね、アメリカというのは戦争を通じて日本人がいかに優秀な民族なのかということを知るわけですよ。そして二度と再びアメリカに逆らえないようにするためにはどうしたらいいのか、そこで日本の非常に優れた伝統の文化、食文化、衣文化、住文化、そういうものを欧米化していけばいいんだということでさまざまなことをたくらむわけですね。
 昭和二十年から二十七年というのは占領期間ですからアメリカの言いなりにならざるを得ない。問題はその後です。占領が解けたとき、昭和二十七年の段階で、元の日本文化に戻すべきだという正しい提案をした政治家とか医者とか教育者とかたくさんいたわけです。そういう人たちはおしなべて「経済発展を妨げる」という理由で左遷させられたり、辞めさせられたり。後はお金、お金、お金の時代になる。心の面とか健康の面がガタガタになってしまった。それになんとしても歯止めをかけていただきたい。
 情報というのはひとつしかないんですよ。健康を中心とした発信をする情報、私どもはそれが当たり前の発信だと思いますけどね、片や、スポンサーをつけて経済性に結びつくような報道をしている情報。どちらを選ぶかは皆さん方の選択ですが、大多数の方がお金儲けのための報道に踊らされてます。現実に朝日、毎日、読売、NHK、みんなそちらに走ってるわけですからね。だから保育園なんかにしても、麦っ子畑保育園のような保育園が当たり前の保育園なんだということを皆さん方は知っておかなくちゃならない。
 ところが、莫大なお金をかけて鉄筋を作る、給食に恒例化したものをいれていく、そういうところからとくに子どもの健康、心の健康がそこなわれているんだということですね。そのへんのところを私の五十年の小児科の経歴経験を通じて皆様方にお話していきたい。
●年間24kgの食品添加物を摂取している

 まず食の面からいくと入りやすいと思うので、食べ物とは本来どういうものなのかということをまず知っていただきたい。夕べ、おかずはどんなものを食べましたか?生鮮食品というものがある。私どものころ、昭和20年以前は生鮮食品が当たり前の食べ物だったんですよ。八百屋さんに行って野菜を買ってくる、魚屋さんに行って魚を買ってくる、それを自分で料理してだすのが当たり前だった。六十年たった現在、去年の日本の食費のうちで生鮮食品、八百屋さんとか魚屋さんで買ってくる食べ物が占めている割合は何%くらいだと思いますか?ここ(麦っ子畑保育園)はもっと高いと思うんだけど、日本全体になると生鮮食品の占めている割合は8%なんです。信じられないでしょう? 外食、マクドナルドとかケンタッキーフライドチキンとかの占める割合が30%。我々が子どものときには食べたこともない瓶詰め、缶詰め、袋詰め、スーパーに行ったりコンビニエンスストアに行くといっぱいありますよ、カゴにどんどん投げ入れているお母さんたちもいます。加工食品の占める割合が62%なんですよ。これで健康が守れるかどうかよくよく考えていただきたい。
 加工食品にはさまざまな薬が使われています。1989年の段階で立正大学の福岡克也教授がごく平均的な日本人の食卓で子どもたちは一日に100種類以上の薬を口にしていると黙しているのはもう限界だ(青春出版社)と書いています。年間を通じると5.4kgの食品添加物を体の中に摂りいれていると。十六年前の話です。それから十六年たちました。現在何種類くらいの薬を日本人全体では子どもたちに食べ物を通じてあげていると思われますか?150種類じゃないですよ、年間に1,500種類くらいの食品添加物を口にしているという。重量にして24kg、十六年間で五倍もの薬を体の中に摂りいれている。十年食べたらね、小錦くらいの薬を口にいれてる。それで心の面が健全に保たれるはずがない。そういう恐ろしい現状から一日も早く脱していただきたい。
●まずヒトという動物であることを忘れない

 それでは食べ物というのはどういうものなのか。我々は人間である前にヒトという哺乳動物なんですね。人間づくりはもちろん大事ですけども、人間づくりの前に幹とか根になる部分、ヒトづくりをしっかりとしていただきたい。ヒトという動物ですね。昔、六十年以上前はそれがしっかりできていたんですが、今はそれができていません、はっきり言って。だから、我々に一番近い仲間のサルに学ばなくちゃいけない。サルというのは地球上に二百種類くらいいますけれどもその前に四千種類を超える哺乳動物という動物の中の一員なわけですから、そういう動物に学んでしっかりしたヒトを作ってから、これが幹とか根になる、ヒトづくりをしっかりしてから、他の動物ではできないような体育とか徳育とか知育とか、そういうものを施して人間づくりをしていけばいいんですけど、ここ(ヒトづくり)ができてないから、幹とか根がしっかりできてないから、人間づくりでいくら知識の枝葉を茂らせても枯れてってしまう。それが今の現状なんだ。
 それじゃ哺乳動物というのはどういうものなのか?温血胎生、血が暖かい、卵でなくて子どもを産むことができる。動物ですからメスという言葉を使いますが、メスは乳を分泌して子を保育する。同種の乳で子どもを保育するというのが哺乳動物の本来のかたちなんですね。牛が馬のおっぱいで育ったり犬が猫の乳で育つということはありえないことなんだ。それを終戦後に崩されていくわけですね。
 哺乳動物が4,000種類いるということはおっぱいも4,000種類のおっぱいがあるということなんですよ。ねずみの赤ちゃんにはねずみの赤ちゃんにもっともあうようなねずみのお母さんのおっぱいが出る。ライオンの赤ちゃんにはライオンの赤ちゃんにもっとも合うようなライオンのお母さんのおっぱいが出てくるわけです。みんなそれぞれ全部違うんです、おっぱいというのは。
 たとえば牛乳。牛乳というのは非常にいい飲み物なんです、牛の赤ちゃんにとっては。牛の赤ちゃんというのは人に比べて発育がずっと早い。生まれてからすぐに歩き出す、身体もどんどん大きくなってくる、だから身体を大きくするうえにおいては牛乳というのは非常にいい飲み物であるということが言えると思いますね。ところが、牛に限りませんけど四足の動物というのは重力が脳に直角にかかってくる、だから体のほうは大きくなっていくけれども頭のほうは発達しない。
 ヒトは森からサバンナに降り立って二足直立歩行をしてきますね、直立歩行をしたら脳に対して重力が垂直にかかる。だからヒトのおっぱいだけが頭とか心を育てるうえで非常にいいものである。これをアメリカが崩していったわけですね。
●「牛乳はよい飲みもの」アメリカによる洗脳

 占領期間中の七年間でアメリカが抑えたところはどこなのか?保健所と教育委員会と大学病院です。大学病院にはモラルが低くて肩書きの高い人たちを配置した。日本の戦後の食料の誤りは牛乳とパンに尽きるわけですが、ご飯をパンに替えさせる、味噌汁を牛乳に替えさせる、そのためには、これ(終戦時)以前はほとんどが自宅分娩ですから牛乳が普及するはずがない、だから産婆さんを辞めさせて病院分娩に切り替えていった。病院に栄養士を入れていってミルクの指導をしていく。全国の保健所にアメリカの乳業が作った母子手帳をそのまま翻訳した母子手帳をいれさせる。いま皆さん方が手にしている母子手帳というのは日本人はまったくタッチしてない、アメリカの乳業が作った。アメリカでも医者とか栄養学者はタッチしてない、アメリカの乳業が百年以上前に作った母子手帳をそのまま昭和二十三年に翻訳して全国の保健所で使った。二十年から二十七年の間は母子手帳にカバーをかけさせたんですね、でカバーのところに森永乳業とか明治乳業とか雪印乳業とか書くように厚生省とアメリカがしたわけです。保健所というのは断乳をどんどん早めてフォローアップミルクを飲ませるのが主な目的なんです。教育委員会というのはなんだかんだ理由をつけて子どもたちに給食で牛乳を飲ませるのが主な目的なんです。
 哺乳動物は4000種類ある。発育の早い動物ほどおっぱいの中のたんぱく質が多いわけね。たんぱく質が多ければ早く大きくなる。今のお母さん方の中には子どもを大きくさせたいという理由でせっかく母乳がでるのにそれを牛乳に替えたりする方もいる。他の動物は断乳がすんだら二度と再びお母さんのおっぱいは飲まないわけですよ。ヒトのおっぱいだって同じ。母乳で育って断乳をして、自分のおっぱいすらあげていないのに、他の動物のおっぱいをあげて脳をガタガタにしている。
 体が大きくなるという理由であげてるわけですね、牛乳を。実際にヒトのおっぱいに比べて牛乳にはたんぱく質が三倍多く含まれていますが他にもたんぱく質を牛乳の三倍多く含むおっぱいがあるんです。ねずみのおっぱいです。ねずみは牛よりももっと早く大きくなります。もしも自分のお子さんを大きくしたいと思うならば、牛乳をあげるよりもねずみのおっぱいをあげたほうがずっと早く大きくなるんですよ。今の若いかたで大きくするためにねずみのおっぱいを飲ませようと思う方はまずいないと思うが、それと同じことを終戦後にやって見事に成功している。
●日本人本来の体型をくずしたことの影響

 その結果、体は明らかに大きくなりました、どのくらい大きくなったかというと、戦前の小学校六年生に比べて今の小学校六年生は身長が17.6cm延びてる。これは少し古い統計ですからもっと大きくなってると思う。体重が14.5kg増えてます。これが何百年とか何千年とかいうスパンで大きくなったんならば内臓がついていけるわけだけど、日本の場合はたった六十年。内臓がついていけない。
 たとえば肝臓はこれだけ余分の部分を解毒して外に出していかなくちゃならない、肝臓の負担はどうなるのか。肝炎、肝硬変、肝臓ガンなんかが増えてくるのは当たり前の話ですね。腎臓はこれだけ余分なものをおしっことして体の外に出していかなくてはならない。私が開業したころの三十年前、医者になったころでもいい、五十年前くらいだったら人工透析をしている人などというのはもうまれもまれ、ごくまれだったんです。急激に大型化したことによって腎臓の負担が大きくなる。今おそらくこの周辺に透析の病院があるんじゃないでしょうかね。私が開業している武蔵野市は人口十三万六千人、そんな大きな都市じゃない。その吉祥寺の周辺に三軒も透析病院がある。昔はまれだった透析病院が予約で順番待ちの状態。それくらい急激に大きくなったことによって腎臓が痛めつけられてしまう。
 もっと大きなのは心臓ですね。心臓はこれだけ余分な部分に血液を送り出していかなくちゃならない。毛細血管までいれると膨大な長さの血管が要りますけれども主要血管だけでもだいたい(体重)1kgについて30m血管が要るんです。14.5kg増ですから今の小学校六年生は戦前と比べて心臓がひとつ脈打つごとに500m余分に血液を送り出し続けていかなくちゃならない。眠っているときでもそうです。小学校で授業を聞いているときもそうです。そうしたら心臓の負担がどうなるのか。昔なかったような突然死とかスポーツ中の急死が増えてくるのは当たり前のことなんです。私どもも終戦後ずいぶん働いたと思います。だからこそ経済発展もしていったわけですけれども、我々が働き盛りのころには見られなかった過労死という問題が急激に大きくなってきた。栄養の摂りすぎということに十分気をつけなくてはいけない。
●食で治せない病気は医もこれを治せない

 ヒポクラテスという名前はご存知ですよね。二千年以上前のギリシャのお医者さんです。すばらしい言葉をいろいろ残してますが、二千年前にヒポクラテスは「食で治せない病気は医もこれを治せない」と言っている。お医者さんなんですが、食べ物で治せない病気は医者や薬もこれを治せないということを二千年前にはっきりと言っている。もっと今の日本にぴったりとあてはまる言葉を二千年前に言ってるんですよ。「人(二千年前のギリシャ人)は食べ物を四分の一は自分のために食べ、四分の三は医者と薬屋のために食べている」と言っている。まず第一に食べ過ぎている。飽衣飽食は病のもとということですね。健康を保つには空腹時に必要最低限の食事を摂るということが一番大事。哺乳動物が健康を保つためにはうっすらと飢えた状態が一番いいんです。もっと大きな原因として、今の1500種類の食品添加物でも分かるでしょうけども病気を作り出すような加工食品とか頻繁な外食とかによって医者と薬屋に儲けさせてる。だから50年間で医療費が130倍にも伸びてる。
 そのへんをヒポクラテスの言うように自分たちのためだけに地場のもの季節のもの腐るものを食べているならば医療費が横ばいにいきますから消費税なんかを納める必要はまったくなくなってくるわけですね。
 私が医者になったころ、消費税なんかまったく問題にならなかった。年金の問題とか介護保険の問題とか起きてこなかった。
●サルに学ぶ食品摂取のバランス

 そのためには皆さん方が子どもたちにどんなものを食べさせていったらいいのか。それはすべての動物に(とってその動物に)合った食べ物を摂るということが大条件になりますが、ヒトの場合はその身体にあった食べ物を摂ることです。他の動物たちは地球上に動物たちが発生した場所で先祖代々摂りつづけた食べ物だけしか摂ってない。百パーセント先祖の食べ物を摂り続けて現在に至っている。たとえばパンダは中国の山の中で笹の葉を食べている、コアラはオーストラリアの草原でユーカリの葉を食べている。唯一ヒトだけは食に関して、衣類とか住居もそうなんですが、二種類の人種に分けなくてはいけないということなんです。
 そのために問題になるのがヒトはさっき言ったようなサルの仲間であるということ。サルが住んでいる場所で生活をしているのは我々本州の人とか四国、九州、沖縄の人。サルがすめる生息圏というのが人が住める生活圏に入ってくる。北海道にはサルはいません。フランスにもサルはいません。ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、ロシア、カナダにはサルはいない、野生のサルはね。韓国にもいない。そうすると本来サルが住めない場所というのはヒトは住めない場所なんです。だからヒト本来の食べ物はこういうところ(サルの生息圏でない地域)では食べられないということ。ではなぜこういうところに住めるようになったのか?火を使い出した。住居に入りだした。農耕牧畜を始めた。すべてこれらは自然に反することですね。自然に反することをしているんだけれどもそのために非常な恩恵を受け、こういうところに住みだしていく。ただし、我々のようにそのまま地場の食べ物、季節の食べ物だけ摂ってたんじゃ生きていかれないわけですよ。
●地場のもの、旬のもの、生きものを食べる

 食べ物の本来というのは自分で食べ物を集めるということ。人間以外の動物みんな自分で食べ物を集めてる。そのためにはそれぞれの動物の行動半径というのがありますから、たとえばヒトの場合を言うならば、皆さん方が座間周辺に住んでいらっしゃる、神奈川県と拡げてもいいです、このへんの土地がそうでしたけれどコンクリートが土で覆われている、木が生い茂っている、川が流れている、そういう中で自動車とか自転車は使わないで自分の足でどのくらいの範囲の食べ物を集めることができるかということなんです。本来なら自分の生まれた土地なんですが、現在自分の住んでいる土地と自分のからだというのを切り離して考えることはできないんだ。つまりこのごろ地産地消ということが言われてますね、この周辺で取れたものをこの土地で食べる、言い換えれば自給自足ということになります、それが本来のかたちです。だから昔の人は「三里四方のものを食せば病せず」と言った。その範囲の食べ物しか摂れないはずなのだということ。我々はそういう食事しか摂ってませんでしたから、子どものころ。だから元気だということですね、寿命も延びている。もうひとつ、今(九月初旬)は長月ですよね。トマトやきゅうりもいいでしょう、とうもろこしもいいです。冬のさなかにトマトやきゅうりを食べない。もっと大事なこと。さきほど言ったように薬漬けの食べ物を極力口にしないということ。野性の動物の場合は肉食獣にせよ草食獣にせよ生きもの以外のものは一切口にはしていないということですね。生きものというのは必ず死にます。死ねば腐る。腐るものを腐る前に食べるということが一番大事なことなんだ。この三つのことが守られていれば健康は保たれる。今晩何かつくったとする。明日の朝くらいが許容範囲だと思います。明後日の朝になっても今晩作った料理の色も変わらない形も崩れないにおいもついてこないとするならば、それはもう生きものではないということ。そこにはいろんな薬が混ぜこめられているということ。防腐剤とか保存料とか。そうでなくても色とりどりのジュースだとかアイスクリームだとか。そういうところから今の子どもたちは年間で1500種類もの薬を口にすることになる。
注:この原稿は講演冒頭の約40分間を文章化したものです。160分間に及ぶ講演全体の内容にご興味のある方は、多数ある真弓定夫さんの著書から講演全体の内容と関連性が高い比較的最近の著作を二点紹介しますのでご覧ください。
●真弓定夫さんの著作から

『自然にかえる子育て̶医者から学ぶ「医者いらず」』 芽ばえ社(2002/01)
『つながるいのち (パート3)』 (堀越由美子さんとの共著)人間家族編集室(2005/06)
(市民科学第8号 2005年12月)

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