電磁場の人体影響についての総務省の調査研究事業

投稿者: | 2011年4月24日

以下は、3月25日~28日に新潟大学にて開催が予定されていましたが、東日本大震災の影響を考慮して中止になった、日本物理学会第66回年次大会で、市民科学研究室の上田が担当していた講演の予稿です。発表の場は、28日の「科学と社会」領域「物理と社会シンポジウム」「主題:科学の事業仕分け-大型研究開発計画の評価のありかた」でした。
この予稿に示された趣旨を敷衍した原稿を、7月に発刊される雑誌『科学・社会・人間』117号に掲載する予定です。あわせてご覧いただければ幸いです。
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電磁場の人体影響についての総務省の調査研究事業
発表担当:上田昌文(NPO法人市民科学研究室・代表)
[要旨]
総務省が進める「電波の安全性に関する調査」事業が、事業仕分け対象となった。この事業は、総務省総合通信基盤局が管理する「電波利用料」という特定財源の一部を使い、電波ならびに電磁波の安全性に関する調査を行う事業であり(電波法第103条の2第4項)、1999年から12年間で、毎年十数億円の予算が充てられてきており(2009年度の総事業費は11億3000万円)、総額は138億3000万円に達している。近年、携帯電話の爆発的な普及をはじめとして電波の利用が格段に進むなかで、電磁波の人体影響について国民の間に関心や不安が高まっていることを思えば、そのことの科学研究に国費を投じることは本来決して”無駄遣い”ではない。しかし、総務省のこの事業に対して、事業仕分けの外部評価委員(6名)からは「研究費のばら撒きではないか」「事業の必要性について担当部局の真剣さが伝わらない」などの意見が出され、「廃止」が2名、目標設定があいまいなどの理由での「さらなる見直し、改善が必要」が3名、「今後も国が行うべきかなど、事業の継続について再検討が必要」が1名となり、結論は「廃止を含めた全面的見直し」とされた。
事業仕分けで端的に示されたのは、そもそもこの事業が国民の信頼を得られる調査研究事業となっていないことであろう。それは次のような点に起因すると考えられる。
(1)同事業は1997年から2006年までの10年間、総合通信基盤局電波部電波環境課の元に設置された「生体電磁環境研究推進委員会」が担ってきたが、この委員会の委員の20名中5名が電波利用を推進する企業や業界団体に所属する者であり、利益相反の観点から、研究の中立性に対して疑念を抱かざるをえない。
(2)2007年からは同委員会は「生体電磁環境に関する検討会」に衣替えし、消費者団体の代表なども委員に加わるようになったが、検討会の動議や議論を先導するのはもっぱら医学・工学・公衆衛生の専門家たちであり、国民の意見や意向を十分にくみ取り検討に付す体制になっていない。
(3)上記「委員会」も「検討会」も、構成員である研究者たちが、ほとんど全部の研究を請け負ってきたし、現在も請け負っているという実態がある(2008年度の場合、研究費のじつに87%が、検討会の構成員である研究者に受託されている)。
(4)「委員会」や「検討会」の研究者たちが、「電波の安全性に関する調査」事業の受託をするのみならず、同時に電波関連の企業・業界団体から個別に研究費や寄付金を受けてきた事実がある(例えば、現在の「検討会」の20名の委員のうち少なくとも10名が、過去に社団法人電波産業会の研究に関与していることが分かっている)。
(5)「生体電磁環境研究推進委員会」が10年間で実施し公表した10件の研究に関して、その課題設定ならびにその研究の結論の政策的含意を改めて検討すると、海外の研究や政策の動向を適切にふまえてきたとは考えがたい点がある。
上記「委員会」の最終報告書で言及された提言の中に、電磁波問題への対策として「正確な情報提供が必ずしも十分でないことが、国民の漠然とした不安を招く要因となっている」との指摘があるが、まさにこの観点に立脚して設立された「電磁界情報センター」は、中立なリスクコミュニケーションの推進を謳いつつ、実際は電気事業関連企業からの財政支援で運営されている機関である(財団法人電気安全環境研究所の中に設置)。こちらは経済産業省が2007年4月に設立した「電力設備電磁界対策ワーキンググループ」の政策提言を受け設立されたのだが、「高周波(電波):総務省」「低周波:経産省」の棲み分けができつつあるのか、電波に関する情報提供は驚くほど希薄である。しかし、総務省の「生体電磁環境に関する検討会」の委員長も、この「電磁界情報センター」の所長も同一人物が務めている。
電磁波の人体影響の研究をどう中立公正にかつ適切に進めることができるか。そのために国費をどう投じていくべきなのか。事業仕分けで浮き彫りになった構造的な問題を検証する。■
<関連文書>
事業番号0118 行政事業レビューシート 電波の安全性に関する調査等
平成19年度事後事業評価書 総合通信基盤局電波環境課 電波の安全性に関する調査及び評価技術
2009年12月3日 質問主意書 電磁波対策に関する質問主意書 参議院議員紙智子
参議院議員紙智子君提出電磁波対策に関する質問に対する答弁書
【情報開示コーナー】(「携帯電話中継基地局の安全性を求めて」のサイトより)

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