12月19日(月)に「科学・技術と社会の会」で市民研の上田が「研究開発資金の透明化の意義と方法~原子力分野を例に」と題した研究発表を行いますが、以下に趣旨を掲げます。
IEA(国際エネルギー機関)の最新の統計によれば、2008 年の各国のエネルギー関連予算の総額での第 1 位と第 2 位は、それぞれ米国(約 44.4 億ドル)と日本(約 42.3 億ドル)で、第 3 位フランス(12.9 億ドル)以下を大きく引き離している。それぞれの額のうち原子力が占める割合をみると、米国が 22%(9.78億ドル)、日本が 65%(28.0 億ドル)、フランスが 52%(6.70 億ドル)と、日本の突出ぶりが目立つ。東日本大震災後の 3 月 29 日に国会で承認された総予算案では、原子力関係は昨年度比0.2%増の4330億円となっている(一般会計1169億(文科省へ 1092 億円)、特別会計 3161 億(文科省へ 1349 億円、経産省へ1812 億円))。
現在、福島第一原子力発電所の事故をうけて、長期エネルギー計画の見直し、原子力損額賠償法の成立、1 次~3 次補正予算における新たな見積もりなどがあって、原子力に関連する予算全体の動向は複雑な様相を呈しているが、少なくとも現時点において、政府の側から既存の研究開発体制の抜本的な見直し案や、研究者コミュニティからの自発的な改革案は、打ち出されていない。
しかし、原子力依存からの脱却を望む世論がかつてないほど大きくなった状況で、例えば、高速増殖炉をはじめとする核燃料サイクル関連に計上された約 900 億円は、その妥当性が強く疑問視されることになるだろう。
福島原発事故を契機に、原子力産業・電力会社と原子力研究者とのつながり、数多くある特殊法人や財団法人と文科省や経産省とのつながりが、資金供与や天下りなど不明朗な”利権”を温存させてきた、との批判が高まっている。その全貌を明らかにするのは困難だとしても、少なくとも国家予算として投入された金の行方を、国民の誰もが知り得るようにして、個別の研究開発の妥当性を検討するための基礎データとして公開していくことは、必須であろう。また、こうした「研究資金の調達とその使途、そしてそのことの公開の度合い」は、研究者の社会性を端的に示す指標ととらえることもでき、2009 年来実施されている事業仕分けのような、社会の側からの研究の意義や研究費用の問い直しに対しても、実効性のある議論をなしていくための前提条件となるだろう。■
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