科学技術社会論学会による2011年度「柿内賢信記念賞研究助成金」の実践部門での助成を市民研が受けることが決まりました(期間は1年で助成は50万円)。テーマは「食品放射能汚染の計測の合理化・適正化に関する社会実験的研究」です。以下にその概要を記します。
現在、消費者の間には、そもそも暫定基準値が緩やかすぎて安全を保証しないのではないかという疑義に加えて、サンプリングの問題(検体の抜き取り数や抜き取り方が十分でなく、手にした商品が基準値以下かどうかを必ずしも保証しないという不安)や測定体制の問題(検査すべき品目の多さに対して測定器が足りないことや測定に時間がかかることなど)もあって、市場に出た産品に対して不安をぬぐいきれず、中には例えば「福島県産の農産物は一切買わない」者も出てきている。一方、検査を担う側にしてみれば、しらみつぶしに可能な限り多くの品目を測定したとしても消費者は納得してくれないのではないか、という不安を感じつつ、膨大な時間とコストかけて測定器をフル稼働させることになる。
農畜産物・水産物の産直・共同購入をすすめてきたいくつかの団体では、検査機器を新たに導入し、政府・自治体に比べてより細やかな測定とそのデータの公表を始めているが、会員(消費者)の声や動向が直接に伝わってくるだけに、検査体制が抱えている諸問題がより鮮明に現れてきてもいる。すなわち、例えば、①放射能測定時期の妥当性(出荷前のどれくらいの時期に測定するのが適切か)、②測定品目選択コンセプトの妥当性(1品目につき規模も様々な複数産地が存在する場合にどう統一はかるか、など)、③測定値の有効期限(次回の測定までの間隔をどうどればよいか)、④再測定した場合の「不検出」の判断(この品目に対して測定はもうやめてよいとの判断はどこで下せるのか)といった問題に直面している。
ここでの課題は、(1)消費者の納得を得ると同時に生産者や計測部署の負担を軽減する、放射能計測の合理化が求められているが、それを実現するには、放射性物質の挙動が関わる、土壌、生物体の構造、生態、生育・生理にかかわる必要な知見を整理し、それらの知見を実際の検査体制の合理化にどうつなげることができるかを探ること、(2)その合理化をふまえた、消費者への情報提供をどう適切になしていくかを検討すること、であろう。
本研究は国や県から公表されたデータに加えて、自主検査をすすめてきた諸団体の協力のもと、この2つの課題に取り組むことになる。■
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