企業が取り組む自然体験型環境教育 ~NEC田んぼ物語~

投稿者: | 2007年9月3日

写図表あり
csij-journal 008-009 shiraishi.pdf
企業が取り組む自然体験型環境教育
~NEC田んぼ物語~
NEC田んぼ作りプロジェクト事務局 白石 靖
1.NECの達人たち
 「今日も暑そうだな。」「台風すごかったね、田んぼは大丈夫?」国内最高気温を更新した猛暑のこの夏も、休日になると、茨城県石岡市の谷あいの田んぼに十数名の「達人」たちが集まってきます。田んぼ作りの達人たちは、みなNECの社員とその家族です。よちよち歩きの子供も愛犬もいます。高尾山の麓から片道4時間(!)かけて通ってくる方や、仕事で徹夜明けでも楽しそうな顔の猛者もいます。
そして、NPO法人アサザ基金の「師匠」の指導の下、もくもくと田んぼの草取りに励みます。育てているのは、酒米の「日本晴れ」です。もうすぐ穂が出て秋には田んぼは黄金色に変わります。皆で収穫したお米は、冬にはNECオリジナルの日本酒へと生まれ変わるのです。
 無農薬での米作りは、雑草、特にコナギとの戦いです。年配の人には「腰にくる」きつい作業ですが、延々と腰をかがめてコナギを引き抜きます。この一角だけでも終わらせてしまおう、そう思うとやめられません。雑草の生えていない慣行農法の隣の田んぼを見ながら戦いは続きます。「その根性を仕事に生かせよ」と言われそうですが、やはり仕事とは違います。自分たちが食べる(飲む?)ものを守るためというのはもちろんのこと、草取りには計り知れない魅力?があるのかもしれません。
 作業の達成感と同時に、田んぼは疲れた体への「癒し」を提供してくれます。「田んぼってこんなにトンボが多いところだったかしら。」カエルやイナゴ、トンボ、ゲンゴロウなど、子供のころに捕まえた記憶がよみがえってきます。虫の名前を思い出し、またいろいろと新しく覚えました。この田んぼは森に囲まれていて、自分たちが建てた小屋以外の何も建物も見えません。というと人里離れた山の中のようですが、その森の先には石岡の市街地が広がっており、夜にはパチンコ屋のネオンが夜空を染めているのがわかります。
しかし、金曜日まで会社で仕事に汗を流していた社員には、土曜日の朝に見る田んぼは別世界です。「田んぼが近づいてくるとお母さんの顔が優しくなるね。」都内からやってくる参加者は娘からそう言われるそうです。ちなみに、この田んぼ大好き少女のHanaちゃんの夢は、NEC社員になって田んぼ作りをすることだそうです。
 生き物にとってもここは楽園であり、ひとつの小宇宙です。猛禽類を頂点とする生態系がこの小さな空間の中でも見事に保たれており、田んぼの中でも、稲を食べる害虫もいればその害虫を餌とするトンボや蜘蛛もたくさんいます。そのような中で無農薬でもお米がそれなりに育っていくのです。
また、ここはいわゆる里山であり、地元の人々の生活の場でもあります。地元と一体になった活動を行っているアサザ基金を通して、地元の農家や自治会の方々、酒造会社、味噌屋、酒屋などと交流し、地元の伝統や文化に触れ、時には地元の野菜や果物をお土産に頂き、地域に密着した活動となっています。
 「でも、なぜ電機メーカーが田んぼを作り、お酒を造るの?」みなさん不思議に思われるかと思いますが、これがNECの自然体験型環境教育の現場です。
NECは、社員および家族を含めた環境意識啓発の実践の場として、2004年度よりNPO法人アサザ基金が推進している「谷津田再生事業」との協業を行っています。現在までの3年半で累計約3000名のNECグループ社員及びその家族、スタッフが参加し、田植えから収穫米を使った日本酒造りまでを体験しました。先に述べた達人たちの活動も、その一環です。
 私は、もともと半導体関係の研究者でしたが、現在は環境管理部門に所属し、4年ほど前から「仕事(の一部)で農作業をやる」という稀な体験をすることになりました。そして、本活動スタッフの一員としてプロジェクトの立ち上げからかかわり、また参加者と同じように年間を通しての活動を体験しました。ここでは、本活動の意義や、農作業素人の私が自然に触れて感じたことや考えたことなどをお伝えしたいと思います。
2.環境教育としての田んぼ作り
 NECグループは「NEC環境経営ビジョン2010」の中で、環境と調和した持続可能な事業体への変革を目指して、「全社員がエコ・エクセレンス(環境に関する知識も有し、日常的に環境に配慮した行動が取れる意識の高い人材)になる」ことを掲げています。
その一環として、NEC社員および家族を含めた環境意識啓発実践の場を提供するために、NPO法人アサザ基金が霞ヶ浦流域で展開している「水源地保全・谷津田再生事業」との協業を開始しました。これは、一年を通した自然体験プログラムを提供するとともに、NECの製品や技術を活用した「ネットワークセンサー」をキー・コンポーネントとする環境モニタリングシステムの開発も意図したプロジェクトです。
 活動の舞台となる谷津田は、人と自然が共存する「循環型社会」を学ぶ絶好の場です。家族の方々を含めた参加者は、自然と触れ合ってそのたくましさやすばらしさを実感し、そして収穫の喜びを分かち合うことができます。レクリエーション的な要素もありますが、それを超えて参加者が何かを「学び」そして「気づく」ことを期待しています。また、そのような体験を通して「モノ作り」の原点に触れることが、持続可能な社会創りに向けたNECグループ環境経営の推進力強化につながるものと確信しています。
 さらには、アサザ基金の「100年後にトキが舞う霞ヶ浦」を目指した活動の一翼を担いたいという思いを持ってプロジェクトを推進しています。かつて豊かな自然と人々の生活が共存する場所であった谷津田や里山を保全し、また地域の方々との交流を通して、地元で育まれてきた自然と共存する文化や伝統にも親しむことによって、地域の活性化と一体化した活動のモデルとなり、その輪を全国に広げていくことを目指しています。実際に、茨城県内をはじめとして各地で同様な活動がスタートしており、それらの活動と連携をとりながら推進していきたいと考えています。
3.活動の概要-谷津田とお酒とネットワークセンサー
 活動の舞台は、茨城県石岡市東田中北の入りの谷津田です。ここは、江戸時代(1681年)の地図にも載っているような古い田んぼで、谷の奥にあるため湧水が豊富で日照りにも強い貴重な田んぼでした。
しかし、農業用水が引かれ、大型機械が使われるようになり、また減反政策が取られるようになると、不便な谷津田ではだんだんと稲作が行われなくなりました。30年以上前から耕作放棄されていた北の入りの谷津田は荒れ果ててアズマネザサが生い茂り、人が入り込むのも困難な状況でした。小動物を捕食する猛禽類も少なく、また湧き水はよどんで浄化作用がなくなり、霞ヶ浦への水源の役割を果たしていませんでした。
 そのような荒れた谷津田をアサザ基金の理事で建設業を本業とする方を中心に復田作業を行い、2004年春には水をたたえた5枚の田んぼがよみがえりました。翌年にはその周辺も復田し、現在は10枚の田んぼ(約4反4畝=4,400m2)と隣接する畑が活動の舞台です。そこで、田植え、草取り、稲刈り、脱穀の4回のイベントを行い、米作り体験に加えて、サツマイモや大豆、落花生などの苗植えや収穫、旬の味覚体験、生き物観察、案山子作りやわら・竹細工、カブトムシ育成、さらには育てた大豆を使ったお味噌作りなどを楽しんでいます。
 お酒造りは、地元老舗の白菊酒造(株)にお願いしています。そして、冬に酒仕込み神事(洗米体験や酒造り工程の見学など)と蔵出し(ラベル貼りなど)の2回のイベントを行っています。また、すべてをお任せするのではなく、達人たちが一日蔵人としても参加して酒作りの一部を体験し、お酒への思いをよりいっそう強くするきっかけとなっています。
お酒には「愛酊で笑呼(あいてぃでえこ)」という銘をつけました。これは、NEC環境経営の基本方針である”IT、で、エコ”と、「お酒を楽しみ(酊を愛し)、福(笑)を呼び込む」との意を重ねて、本活動の本質を表そうと意図したものです。
「愛酊で笑呼」は、イベントの参加者への配布のほか、社内の各種イベントや懇親会、幹部からお客様への贈呈、NEC主催の社外イベントでも活用されています。最近では、NECの営業マンの得意先へのお土産として人気があり、社内外での多くの人に知られる存在となっています。「『愛酊で笑呼』のおかげで契約が取れた!」の声がいつか届くかもしれません。
 また、NECの本業とのつながりを重視し、IT企業らしい田んぼ作りということも考えて、2005年にネットワークセンサーを田んぼの中に設置しています。この装置は、温度、水温、湿度、雨量、日射量、風向・風速、気圧を10分ごとに測定できる自立一体型のシステムです。
さらに測定したデータは、特定小電力無線を利用して、パソコンで自動収集ができます。また、装置同士でもデータ中継できるので、複数台を農地に設置して、面で気象データを把握することができます。無線が届かない場所では、約3ヶ月分の測定データが蓄積保持されます。電源は太陽電池を実装しており、全く日照がない状態でも約3週間稼動することができます。
 NEC田んぼでは、この気象データを蓄積・分析して、稲の生育状況と天候の関係を正確に把握しています。そして、田植えや草取り、稲刈りなどの作業時期の決定や日常の水管理に役立てていこうとしています。また、戻ってきた貴重な生き物たちの生息環境を知るためのデータとして、荒地を水田に戻したことによるクールアイランド効果の測定など、様々な分野で活用していくことに自ら取り組んでいます。また、同じ石岡市内と秋田県潟上市の小学校のビオトープにも同じセンサーを設置し、様子が全く異なる場所を比較する自然観察学習として活用いただいています。
 「もっと米作りや酒作りを学びたい!」イベントに参加するだけでは物足りなくなった常連の方々のために、2006年度から「達人コース」をスタートさせました。冒頭で述べた達人たちはそのメンバーです。年間約20回の活動(および数回の臨時作業)で、苗作りや田起こし、畦塗りに始まり、草取りイベント前の一の草と二の草、稲刈り用のリッツオウ(稲を結わえるわら縄)作りやオダ(稲を干す竿)用の竹の切り出し、そして冬の田んぼの整備や堆肥作りまでの一連の米作り作業のほか、大豆の種まき、除草、収穫と選別、 炭焼き、キノコの原木作り、一日蔵人まで、体を使って学ぶことができるコースです。また、昨年秋から、丸太小屋風の小屋作りに少しずつ取り組んでおり、今年の秋には完成する予定です。
すべての作業を習得すると「師範」に任命されます。最初は少なかった達人仲間も、どんどん増えていきました。イベントと違って作業が中心なので、「疲れるなあ」と思いながらも、毎回みんな笑顔で集まってきます。一度のめり込むともう抜け出せません。もうすぐ、達人コースを卒業したたくさんの「師範」達が、活動の中心になってくれることでしょう。また、農業による「第二の人生」も夢ではありません。
4.NPO法人との協働
  始まりは2003年4月のことでした。NECでは、環境経営推進には全社員の環境意識向上が必須とする方針を打ち出していた折り、ある外部人脈を通じてNPO法人アサザ基金を紹介いただきました。ホームページなどでしっかりとしたアサザ基金の活動状況を知り、さっそく情報交換の場をもち、6月には活動現場を視察し、活動レベルの高さを実感しました。
活動に際して最も強く意識したのは「イーブンパートナーとしての協働」ということでした。NECがアサザ基金の活動に単に寄附をするとか、逆にNECの意識啓発活動をアサザ基金に委託するといった一方的な活動形態ではなく、独自のスキルやノウハウをお互いに活かし合って新しい活動を創り出していきたいということです。このような基本方針を明確にするために、2003年9月に活動全般に関する両者間の合意書を締結しました。
 協働の最初の成果として、NECが独自に開発中であった「ネットワークセンサー」を用いた環境モニタリングシステムのプロトタイプ構築とその試行が実施できました。併せて、各種展示会などにその成果を出展し、お客様の高い関心のもとに、現在ビジネス展開を図っております。主課題である「全社員の環境意識啓発」については、アサザ基金が独自に計画されていた「谷津田の再生による水質浄化」事業を支援しながら「自然体験参加型の意識啓発プログラム」を実行することになったことは、先に述べたとおりです。
11月に初めて現地に脚を踏み入れた際には「こんなところがほんとうに田んぼにもどるのか?」という印象でしたが、翌年4月には水をたたえた立派な田んぼが姿を現しました。10月には、当初、想像もできなかった黄金の田んぼに目をみはりました。その後、2年目、3年目を経てより活動の枠も広がり、大きな成果を生むプロジェクトとなりました。明確な目標と良い出逢いとの巡り合わせの賜です。NECグループに同様の活動が展開され浸透していく一つの事例として、本活動をさらに活性化していきます。
5.自然体験プログラム-田植えから新酒蔵出しまで
 昨年度の田植えからお酒が出来上がるまでの活動の中で、大勢の社員と家族が集まって行われた6回のイベントの様子を紹介します。3年目を迎えてさらに充実した年間プログラムを通して、参加者の環境への意識も一層高まったようです。なお、イベント当日の平均気温と平均風速は、ネットワークセンサーで測定したものです。
■田植え  ◇5月27日(土) 曇り ◇参加者 : 約130名 (平均気温17.9℃、平均風速1.0m/s)
 2006年度最初のイベントもたくさんの人が集まり、大人も子供も足を取られながらの楽しい田植えとなりました。3年目ともなると達人なみの方も増えて、約30,000株の「日本晴」の苗を予定よりもかなり早く植え終わりました。二つの田んぼでは、昨年に引き続いて不耕起栽培を行い、土に穴を空けて苗を植え込むという、少し労力の要る田植えも順調に終えることができました。田んぼの片隅では、子供たちが水遊びならぬ泥んこ遊びに夢中になり、楽しく元気に遊ぶ子供達の笑い声が谷津田に響いていました。
 地元の食材を使ったお昼ごはんはおいしいだけでなく、130人分の炊き出しは迫力も満点です。昼食後には、恒例行事となった津軽三味線による田楽奉納にみんな聞きほれました。午後は、畑でサツマイモ、落花生、大豆などの苗植えと谷津田の散策も行いました。
また、今年も田んぼの名前を募集し、参加者からの投票により楽しい名前が決まりました。
A田んぼ:A田の東(エデンの東田中)
B田んぼ:ドジョウくん田んぼ
C田んぼ:稲(イナ)バウワ
D田んぼ:やればでき田
E田んぼ:エコ田
F田んぼ:蛍の舞
G田んぼ:ヨシノボリくん田んぼ
H田んぼ:東田中ほまれ
I田んぼ:愛酊田(あいてぃ田)
J田んぼ:田つ人(たつじん))
■草取りとホタル鑑賞会  ◇7月29日(土) 曇り ◇参加者 : 約140名 (平均気温24.8℃、平均風速2.7m/s)
 大人も子供も泥んこになっての草取りです。茂ったコナギをみるとうんざりですが、雑草がなくなって水面が現れた田んぼを見ると、またやる気が出てきます。お昼は、冷えたトマト、キュウリをまるかじりです。作業の後に野外で食べる食事は格別です。食後は地元の方の奏でるオカリナを聞きながらうたた寝、心地よい風が通りすぎていきました。
 午後は、生物調査、案山子作りなどの思い思いのイベントに参加。午後の勉強会の後はお待ちかねの蛍鑑賞です。田んぼ周辺の散策後、真っ暗なあぜ道を伝って順番に一番奥の田んぼのそのまた奥へ。いました!ゆらゆらと舞う蛍たちとの感激のご対面です。蛍たちがオカリナの伴奏で踊っているようにも見えました。夜まで田んぼで過ごした長~い一日でしたが、夏休みのいい思い出になりました。
■稲刈り  ◇10月28日(土) 晴れ後うす曇 ◇参加者 : 約140名 (平均気温14.9℃、平均風速0.4m/s)
 今年は日照不足の影響で、成長が1週間ほど遅れていましたが、そんな心配をよそに稲穂は重そうに頭を垂れています。みんなで10枚の田んぼに分かれて、一斉に稲刈りを行いました。刈り進めていくと、バッタや蛙がたくさん逃げ出し、田んぼにはいろいろな生き物が住んでいることを実感します。
今年は稲穂が重いのか、あちこちの田んぼで稲束をかけたオダが倒れましたが、時間どおり稲刈りを終えることができました。また昨年と同様に、畑でもサツマイモや落花生の収穫を行いました。お昼は、地元産のレンコンや味噌、野草のテンプラなどが出され、さらに、地元の無形文化財のお囃子が収穫祭を盛り上げてくれました。
■脱穀  ◇11月11日(土)曇りのち雨 ◇参加者 : 70名 (平均気温14.2℃、平均風速0.4m/s、降水量9.9mm)
 朝から雲の多い天気でしたが、早く籾取りをしたいと脱穀行事を敢行です。子ども約20人を含む70人ほどの有志で脱穀に取りかかりました。だが、なんと無情にも開始すぐに、雨脚が急に強まり、雷も・・・。残念ながら、脱穀はやむなく中止です。
テーマを「雨の日の農作業」に切り替え、リッツオウ(稲を束ねるわらひも)作り、わらない(わら縄作り)、畑で収穫した味噌作り用の大豆選別などなど。「雨の日の農作業」もこれはこれで参加者には農家の生活の知恵を実感するまたとない体験になりました。
翌々日にはお天気にも恵まれ、雨に濡れた稲も乾き、アサザ基金の皆さんにより無事脱穀を終えて約1,700kgの籾を収穫できました。
■酒仕込み神事とお味噌作り  ◇1月13日(土)晴れのちうす曇 ◇参加者 : 70名 (平均気温2.6℃、平均風速0.4m/s)
 白菊酒造にて地元の香取神社の宮司さんによる酒仕込み神事が行われました。「荒れた田んぼを耕して、水を育み、生き物たちがよみがえる・・・」ひんやりとした酒蔵に、宮司さんが読み上げる祝詞(のりと)が響き渡ります。一年間の田んぼでのいろいろな出来事に思いを馳せながら、玉串をささげて仕込みの安全と醸造の成功を祈願しました。その後、「洗米」、「麹作り」、「仕込み」、「酒絞り」などの酒作り工程を見学し、新酒の試飲もさせていただきました。
 お味噌作りコースでは、達人たちが畑に種をまき、みんなで草取りをして、ひとつひとつ選別した大豆がいよいよお味噌になります。指導してくださる小倉味噌店の小倉さんも太鼓判の立派な大豆です。丸1日大なべで煮込んだ大豆を、みんなの手でつぶしていきます。
でも、子供たちにとっては楽しい粘土遊び。お団子を作ったり、トンネルを掘ったり。塩と、NEC米で作った麹を混ぜ合わせて、みんなで分けて持ち帰りました。時々まぜて夏まで気長に待ちます。秋には美味しい味噌汁が味わえることでしょう。
 昼食には、田んぼの近くで採ったせり、ナズナ、ハコベラなどの春の七草の入った七草粥と小豆粥という地元の正月の伝統的な食事を楽しみました。午後からは、冬の谷津田散策や竹細工・わら細工などのほか、小さく丸めた紅白の餅を楢の木の枝に飾る「ならせ餅」など地元の正月行事に触れることもできました。
■新酒蔵出し  ◇3月10日(土)晴れのちうす曇 ◇参加者 : 130名 (平均気温8.4℃、平均風速0.8m/s)
 早朝からとても良い天気となり、午前中は酒蔵コース(酒蔵見学・試飲会・ラベル貼り)と谷津田コース(竹細工・リッツオウ作り・谷津田散策)と盛り沢山の内容でした。新酒「愛酊で笑呼」の瓶にケナフ紙のラベルを貼ったり、小冊子とカバーのひもを通したり、まさしく手作りのお酒となりました。
谷津田での昼食後、谷津田周辺の生物調査、リッツオウ作り、落ち葉掻き、ラベル貼りを行いました。イベントに3回以上参加した方々には新酒「愛酊で笑呼」やルーペをお土産に持ち帰って頂きました。
 その他にも、特別イベントとして、11月に上総堀りによる井戸掘りに挑戦しました。井戸掘りは本活動が始まった当初からの悲願であり、地元の井戸掘り職人さんのご指導で、環境にも優しいといわれている「上総堀り」で行いました。準備期間を含め8日間にかけて行われた井戸掘りには、延べ130名の方々が参加し、人力のみで18メートルを掘りました。
掘削7日目にして到達した砂の層は水量が豊富で、ポンプを回すとたくさんの冷たい水がふき出します。最初は少し鉄分の多い水でしたが、今では十分に飲むことができます。現代では珍しいこの井戸掘りの様子は、いろいろと注目を浴び、掘削現場からのラジオ生放送も行われました。昔の人々の智恵と工夫による「上総堀り」の体験を通じて、自然や資源の大切さ、そしてその恵みに感謝する気持ちを学ぶことのできた、貴重なイベントでした。
※上総堀り:千葉県上総地方で考案され江戸時代後期より伝わる、井戸掘りの掘削技法。1995年に国指定重要有形民俗文化財に指定。又、2006年には技術そのものが国指定無形民俗文化財に指定されています。NECのホームページ(http://www.nec.co.jp/eco/ja/2006_3/h01.html)で、井戸掘りの様子が動画でご覧頂けます。
 今年度は、これらのイベントとは別に、一泊二日の「NEC田んぼ自然学校」を7月に開催し、約20組の親子が参加しました。朝・昼・夜の生き物観察や観察日記作り、カレー作り、テント泊、霞ヶ浦の生物観察とマコモの植え付けなど、いつもとは違った谷津田での2日間を楽しみました。
6.人気のヒミツと課題
 「本当にみんな田植えに来てくれるの?」と心配しながらスタートした本活動も、もう4回目の収穫を迎えようとしています。最初の心配もどこかへ吹き飛び、社内での認知度も高まって申し込み開始2、3日で満員御礼になるほどの人気イベントとなりました。人気の秘密は、やはり環境への意識の高まりでしょうか。参加者へのアンケートからは、自分たちが昔経験したような自然体験を自分の子供たちに経験させたい、という思いが伝わってきます。そして、会社がやっているという安心感と垣根の低さも手伝って人気イベントになったのでしょう。
また、最近では運動会や社員旅行などの会社主催のイベントが少なくなり、手軽なレクリエーションとして参加した人も多かったと思います。しかし、本社(港区)や川崎、相模原、府中などの事業場所属で、2,3時間かけて毎回のように参加してくれる人も多く、最初は遊び感覚で参加した人も、田んぼできっと何かを学んでくれたに違いありません。さらには、「お酒」という目に見える成果があったことも大きな要因でしょう。
 しかし、本活動には課題も山積みです。今まで順調に活動が発展してきたとはいえ、一企業の活動にはやはり限界があります。このような活動は継続していくことに価値がありますが、会社の方針が変われば立ち行かなくなる可能性もあります。そのためにも、NECの本業との関わりを確固たるものにしていく必要があります。現在の本業とのかかわりは、ネットワークセンサーと営業活動でのお酒の活用のみです。幸いなことに、活動には社内の様々な部署からいろいろなスキルやアイディアをもった人たちが集まっています。その人たちの知恵を結集すれば新しい道が開けてくるかもしれません。
 また、本活動はあくまでも社員環境教育の一環として行われています。そのため、やはり「教育の成果」が問われます。NECでは毎年11月に社員の環境意識調査を行っており、その中で「エコ・エクセレンス」である優秀な社員の割合を調査していますが、2010年にはその割合を100%にするという目標を掲げています。田んぼ作りへの参加者は、NEC社員全体からみればごくわずかですが、本活動が「エコ・エクセレンス」社員の増加に一役買っているということを胸を張って言えるようにしていかなければならない、と強く感じています。
7.最後に-田んぼで感じたこと、考えたこと
 活動を始めてからあっという間に4年近い月日がたってしまいました。4年間は、自然の営みの中ではほんの短い時間ですが、自然は、私たちの活動に答えるかのように見事な変化を見せてくれました。荒れた谷津田がよみがえるとともに、カエルやトンボなど多くの生き物たちが当たり前のように姿を見せてくれるようになりました。土の中で眠っていたさまざまな植物の種子も芽を出し、専門家も驚くほどの生き物の宝庫となりました。(おかげでやりがいのある草取りになりました。)
 同時に自然は参加者にいろいろなことを教えてくれました。市街地に近い場所でも、自然は驚くほど豊かで、生き物たちがたくましく生きていること、そこに人が少し手を加えることで生き物たちがさらに暮らしやすくなること、多くの生き物が複雑な生態系を形作り、それに守られて稲が育っているということ、などなど。また、春になると新しい命が息吹き、谷津田をめぐる営みが毎年繰り返されることを改めて意識し、この活動をこれからもずっと当たり前のように続けていかなければならないとの思いを強くしました。
 田んぼに集まった人たちは、自然を満喫し収穫の喜びを分かち合いました。そして意識も変わりました。「近所の田んぼや自然を意識して見るようになった」、「日々食べているお米や野菜が、多くの人の苦労のおかげだということを改めて認識した」、「他のボランティア活動にも参加するようになった」など、たくさんのうれしい声が届きました。きっと、毎日の仕事や日常生活にも少しずつ変化が現れてくることでしょう。
 「泥にまみれて一生懸命、虫やカエルを追いかけている子どもの姿がとても生き生きとしていた。」「何もできないと思っていた子どもがたくましく働いている姿に感動した。」活動に参加した多くの子どもたちも、この3年半でみんな大きく成長しました。最初は見ているだけだった子どもたちも、泥の中に入れなかった子どもたちも、今では自分にできる仕事を見つけ出し、大人に交じって誇らしげに働いています。3年半の活動記録は、そのまま子どもたちの成長記録となりました。
 仲間も増えました。真夏の草取りにともに汗を流した仲間たち、イベント終了後も稲刈りを最後までやり終えた仲間たち、達人コースに毎回笑顔で集まって作業に精を出す仲間たち。仕事の垣根を越えて、たくさんの仲間たちに出会うことができました。そして最後はやはりお酒です。単なる「お酒が好き」を超えた熱い思いのこもったお酒です。これからも多くの人とともに汗を流し、お酒を酌み交わし、感動を伝えていきたいと思います。
●参考資料
・鷲谷いづみ編著 2006 「水田再生」(家の光協会)
・NEC田んぼ作りプロジェクト ホームページ
  http://www.nec.co.jp/eco/ja/tanbo/
・NPO法人アサザ基金 ホームページ
  http://www.kasumigaura.net/asaza/

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