博物館プロジェクトについて

投稿者: | 2000年4月15日

博物館プロジェクトについて

古田ゆかり

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5月20日、雨の降る土曜日。中島しのぶさんと、山梨県甲府にある高橋真理子さんの勤務する山梨県立科学博物館を訪問しました。
高橋さんの解説によるプラネタリウムの投影や館内を見学するほか、館長との40分ほどの会談が実現し、また3人で、博物館プロジェクトに関する会議を2時間ほど持てたことは大きな収穫でした。
私自身は、特に科学博物館が好きでいくつかの館を見て回るうちに、「もっとわくわくする企画はないか」「もう一度来たくなるような科学館になかなか出会わない」「行って帰ってくる場所ではなくて、児童館のように、あるいはサロンのように、あそこに行くとなんかいつも楽しいような場所にできないものか」などと考えるようになりました。さらに、「自分は科学館を見て回って何を持って帰っているのだろうか」「ただ行って、遊んで帰ってきているだけではないのか」と考えるようになり、おもしろい博物館づくりに関心が向いていたところ、実際に博物館の業務にたずさわる高橋さん、中島さんの両氏に出会ったのでした。両氏とは問題意識の重なる部分もあり、会議では、展示だけではなく、展示がどのように決定されていくか、運営はどのようになされているか、人材の確保は、など、現実的なお話を高橋さん、中島さんの両氏から聞くことができました。
以下、会議の報告です。

【理念に関して】
1.いったいサイエンスの何を教えるべきなのか、という根本的な問題のところが議論されていない、というのがあると思います。運営の側もサイエンスを何だと思っているのか、ほとんど考えをもたない人間が多いという現状も。
2.展示その他に関して、実際に現場・運営を担う人材が継続的に決定権のある場に居続けることがむずかしい。実際には、建設や、科学、科学史、理科教育、施設運営、PRなどを知らない人が決定権をもってしまうため、結局、業者のもってきた案を鵜呑みにするか、それに変更を加えただけのものになる。業者は、行政の体質を知っているので、案を図面に起こして持ってきて、アイデアをまくし立てそれが通ってしまうことも少なくない。

【人材に関して】
1.館長を含めて人が2年ごとに変わっていくことによる、情報、経験、理念がぶつぶつ切れ、むらができているという状態が発生している。理念と関連で言うと、関係をだれと築くか、その人がいつまでそのポジションにいるのかなどを考えながら科学館のプロジェクトを進めて行くことが重要ではないか。
2.科学館の職員には専門性が求められるのに、ポジションの確保がない。
3.館長の人材をどこに求めるか(現在は退職校長や教育委員会職員等の「あるステップ」として数年ごとに交代するなど行政の論理で人事が行われる。理念が踏襲されないことが問題。現在学校の教員が職員として働いているが、「早く現場(学校)に帰りたい」という言葉が漏れる。科学館の仕事に魅力を感じられない現実があるのか?
4.山梨県立科学館では高橋さんを「学芸員」というポジションで正式に雇っているということではないけれども、学芸員研修生が送られてくるときには、「科学館が雇っている学芸員の下に研修に来る」という名目になるという、役職すりかわり現象が起こっているということも。

【プログラムに関して】
1.テーマの関連性、ストーリー性が乏しく、夏休みなどの企画展は、「さあ、もうすぐ夏休みだ、どうしようか」といった状況で、理念や「子どもに理科の楽しさを」といった根本的な問の回答を積み上げていく形になっていない。

【来館者に関して】
1.来館者が、科学館に来てどう感じているか、なにを持って帰っているかは、はっきりとした調査がない。

◆館長との面接
1.当該館では、展示はすべてハンズ・オンで遊びながら疑問や不思議を持つように工夫し、科学教育の導入部をになう。「~の部屋」といった展示方法はとらず、広い空間で自由に遊びながら理科にふれていくという基本姿勢をとる。
2.展示は学習指導要領に基づいてはいないが、これからは山梨大学との連携のもとにプログラム作りを行ったり、文部省の委託事業で学校の理科教育との連携を真剣に考えていく意向である。社会教育施設、学校、先生方の研究会にも利用を広げていく。
3.学習指導要領の改訂で、総合学習が導入されるが、指導要領との関連はノーアイデア。しかし、新指導要領では、授業時間が減る分「博物館などの社会教育施設を利用する」という文言が入ったそうで(未確認)、その点に関しては「科学館にとってはチャンスとも言える」と前向きな発言。
4.リピーターを多く作ることには苦心している。実験室のプログラム、プラネタリウムに関しても、リピーターを意識している。「科学館を『商売』のつもりで考えていかないといけないと思っている」との言葉。たのもしい。
5.地域との共生による運営も目指したいが……。
〈所感〉「多くの科学館の館長は、科学館自体に情熱を持たない退職校長が学校時代の方法論で仕事をしている」といった内容の情報を聞いていたので、会う前はかまえていたが、彼なりの理念をともなって仕事をしているという感じがして好感が持てる。
土曜講座の紹介をし、私たちの訪問の趣旨や今後の展望などを簡単に述べると、好意的であり、「こちらも勉強したい」という由のことばを聞き、見学なども受け入れてくれると言う。アプローチ次第で協力関係が築けるかも。

◆展示室
広い展示室で、色彩も楽しい「遊び場」として成功している。「10人の科学者」がテーマでそれぞれの研究分野で展開されているコンセプトはおもしろいし、統一感とバランスがとれているが、「10人の科学者」は説明されなければなかなかわからない。テーマ性と科学者の仕事を結びつけながら展示全体のバランスをとるのはむずかしい作業だったろう。10人の科学者の人選の過程は高橋さんがくわしい。ここでも意志決定に関する人材、システムの問題があったものと思われる。
「ボタンを押してなにかが動く」というものまで「ハンズ・オン」と呼ぶのはいかがなものか。ハンズ・オンを標榜するなら、「仕事量」に関する「達成感」と「結果」の関連のもう少し強い結びつきがほしい。「ハンズ・オンの定義、見解に関する新定義を開発するのもいいかも」という課題が想定できる。

◆実験ショーについて
この日は「空気の力」というテーマ。参加者の興味を引き出しながら実験を組み立てて行く過程でのコミュニケーションの力量はみごと。ほかの実験プログラムも見てみたい。

◆プラネタリウム
地域、1人の子が主人公のシナリオ展開、天体、夜空といったストーリーはおもしろい。ただ今回のものは対象年齢がやや狭いような気がする。科学館を回っていつも思うのは、地域の子どもたちと共生したいという気持と、地域外の来館者とのギャップを埋める方法はないものか、ということ。

【土曜講座での今後の予定】
これをもとにして、6月末、高橋さん、中島さん、上田さん、古田でミーティングを行った。
まずは、科学館の現状、問題点を分析、さまざまな事例の検証を、運営・展示の角度から検証し、あるべき姿、あってほしい姿を実現するための議論。
そのうえで、10月28、29日に山梨県立博物館で開かれる「科学の祭典」を希望者をつのり訪問する。ここには、各地で理科教育などに取り組んでいるグループ・団体が出展しておりいろいろな実践が紹介されるので、その内容を参考にしたり、人的ネットワークの形成もできるものと思われる。
時期は前後するが、7/28~8/1まで、科学技術館において、「青少年のための科学の祭典」が開催されるので、これも、有志をつのって見学したい。
その後、1回目の講座、科学の祭典、取材活動、議論を通して、自分たちが求める科学館、理科教育、さらには社会との連携を含めた、科学館の姿、運用の仕方、市民参加での運用のヒント、プログラム開発などの道筋を探っていきたい。
近い将来、「サイエンス夢工房」(理科大学有志の理科普及活動)との連携も視野に入れることも可能と思われる。
個人的には「ハンズ・オン」のつぎにはなにが柱になるのかを模索・提案したい。「体験型」として「ハンズ・オン」が注目されたが、「体験する博物館から使いこなす博物館へ」などという考え方にも肉付けをしてみたい。
こうしたことを話し始めると、さまざまな「材料」と投入することは手中にある情報の量からも取材力からも比較的むずかしいことではないと思われるが、土曜講座として博物館にかかわるとしたら、「なぜ博物館プロジェクトか」という出発点の問題意識を共有化し軸足を固めるところからていねいにすすめていくことが必要であろう。

 

 

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