和白干潟保護運動の現状

投稿者: | 2001年4月16日

和白干潟保護運動の現状

田中浩朗

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●はじめに
九州・福岡の博多湾には、和白干潟という比較的小さな干潟があります。私は1997年からその干潟の保護運動に関わるようになり、現在も活動を続けています。
和白干潟やその保護運動については、本誌18号(1999年1月)に書かせていただいたことがありますので、ここでは1999年以降の展開と現在の課題を中心に書いていきたいと思います。(なお、本誌18号の記事は土曜講座のホームページにも掲載されていますので、できましたらそちらも参照していただければ幸いです。)

●和白干潟
和白干潟は、博多湾の東の奥にある面積80haの干潟です。貝・カニ・ゴカイなどの底生動物が豊富で、それを餌にするたくさんの渡り鳥(カモ類やシギ・チドリ類など)が毎年秋から春にかけてやってきます。最近のある調査では、和白干潟はシギ・チドリ類の総羽数が日本で第二位だったということです。国内でも重要な干潟だということができますが、渡り鳥はロシア・中国からオーストラリアまで広範囲に移動して生活しているわけですから、国際的にも重要な自然環境だということができます。
干潟というと、そこに来る鳥ばかりが注目されがちですが、鳥は分かりやすいシンボルに過ぎません。本当は、そのように多数の野鳥が生息できる生態系そのものが重要なのです。鳥は干潟生態系の頂点に位置する大型動物で、その下には多数のより小さな生物が複雑な食物連鎖を構成しています。特に干潟には、懸濁物や堆積物(有機物の汚れ)を食べる底生動物が多数存在することが重要です。そのお陰で、人間が川や海に流した汚水が浄化されているのです。

●博多湾人工島
和白干潟の目の前の海をちょうど締め切るような形で、和白干潟よりはるかに大きい面積401haの人工島を建設する埋立工事が現在進行中です。事業主体は、国(国土交通省)・福岡市・博多港開発株式会社(福岡市51%出資)です。総事業費約4600億円のうち3500億円余りは、福岡市や博多港開発が借金をし、埋立地の売却益等で返済する計画です。1994年7月から10年計画で始まったこの工事は、多少遅れてはいるものの、ほぼ予定通り進んでいます。この人工島には、港湾施設・工場・研究施設・住宅などを作る予定になっています。
博多湾はその中央部から東西に向かって埋立が進められ、港湾施設や商工業施設、住宅や文教施設、レジャー施設などが作られてきました。和白干潟は東の終点に当たり、当初はここも大規模に埋め立てる計画がありました。しかし、住民からの強い反対があり、干潟は残して沖に埋立地を作る人工島方式に変更されたのです。

福岡市は環境に配慮して干潟を残したと言っていますが、それでは人工島には問題がないのでしょうか。博多湾は入口を能古島と志賀島という二つの島にさえぎられ、閉鎖性の強い海域になっています。もともと海水の循環により汚れを外海に流す機能が弱いのです。そのような自然条件のもとで、福岡市や周辺自治体の人口増加により、また浄化機能を持つ干潟の消滅により、大量の生活排水が流れ込む博多湾の水質はかなり悪くなってきています。人工島はそれに加えて、和白干潟と博多湾中央部との海水の流れを大幅にさえぎることになりました。それで環境に影響が出ないと考える方がおかしいように私は思います。
そして、実際に影響は出ています。渡り鳥の減少やアナアオサ(海藻)の異常発生などは目に見える影響です。その他にも、科学的に調査していろいろ影響があることは福岡市の調査結果からも窺えます(水質・底質の有機物量増加を示す各種指標など)。

それでも、人工島がないと私たちは生きていけないというのなら、仕方ないと諦めることもできるかも知れません。しかし、先ほど見た港湾施設その他、どれをとっても貴重な自然を破壊してまで作ることが絶対に必要だというものはありません。それどころか、この不況のなかで埋立地が売れず、投資した巨額の資金が回収できない恐れが強くなっています。来年度から用地売却が始まりますが、いまだに土地利用の具体的な計画はないのです。現在福岡市が描く人工島の予想図は、着工前の予想図と同じです。あと数年で実際の土地利用が始まるというのなら、7年以上も前の「予想」とは異なるもう少し現実味のある「予定」図があってもいいのではないでしょうか。

人工島の目的として唯一正当化できそうなものは港湾です。確かに、博多港の取扱貨物量は増えています。しかし、博多湾はもともと非常に水深の浅い海なのです。大型コンテナ船を入れるため、水深15mの埠頭を作ると言っていますが、そのためには幅数百メートルの航路に沿って海底を10m以上も掘らないといけないのです。掘って出た土砂は、現在人工島の埋め立てに使われています。人工島は浚渫土砂の捨て場でもあるのです。しかし、掘った航路はいずれ埋まって、また浚渫する必要が出てくるでしょう。そのとき土砂はどこに捨てるのでしょうか。また新たな埋立地を作るのでしょうか。これはどう考えても持続可能な利用法ではありません。博多湾の港湾機能には自然条件による限界があり、もうすでにその限界に達しているのではないでしょうか。現在、北九州港でも港湾整備が進んでいます。機能分担すれば問題ないのではないでしょうか。

●福岡市の動き
本誌18号では、1998年12月の山崎広太郎・新福岡市長誕生までをご紹介しました。山崎市長は大型公共事業の見直しを選挙公約にしていました。人工島は福岡市最大の公共事業であり、見直しへの期待が市民の間に高まりました。しかし、その期待はすぐに失望へと変わっていきました。
新市長の公約に基づき、福岡市は1999年の1年間をかけて福岡市が進める10大公共事業の点検を行ないました。市民から意見を募集したとはいうものの、点検作業は福岡市の職員が非公開で進めました。人工島については、市民から見直しを求める多数の声が上がっていたにもかかわらず、点検結果は「継続」、すなわち予定通り進めるというものでした。理由は、福岡市の発展のために必要な事業であり、埋立地売却期間を延長すれば採算もとれるというものです。環境の観点からの点検はありませんでした。

2000年には、人工島着工前に行なった環境アセスメントのレビューが行なわれ、今年4月に報告書が発表されました。レビューとは、事前の予測と着工後の状況を比較し、予測が妥当であったか、今後計画変更の必要はないかについて評価検討することです。これは、事業認可の際、環境庁長官の意見に基づき運輸省から指導されていました。レビュー自体は事業者である福岡市などが行ないましたが、各分野の専門家や地元自治会の代表者などからなるレビュー検討委員会が設置され、そこでの検討を経た上で報告書は作成されています。しかし、検討委員会は非公開で、どのような議論がなされたのかはよく分かりません。

報告書では、野鳥の減少をはじめ様々な環境変化が示されているものの、どれも予測の範囲内で環境保全上は問題にならないと評価されていました。結論は「当初アセスで設定していた環境保全対策を確実に実施していくことで、今後とも埋立地周辺の環境保全は図られるものと考えられる」というものでした。
様々に批判されている人工島を形だけの点検・レビューで正当化した上で、今年から福岡市は人工島のPRに力を入れています。来年から埋立地の分譲が始まるからです。新聞の数ページにわたる全面広告や市のホームページには夢のようなイメージ図が描かれています。それが実現すると信じている福岡市民は、現在、事業者を含めてどれくらいいるのでしょうか。

●和白干潟保護運動
和白干潟の保護運動を進める諸団体は、新市長に期待して様々な働きかけをしました。例えば、私の属する「和白干潟を守る会」では、市長が和白干潟に来て、市民と一緒に観察会をするよう、市長当選から約1年間にわたり要請し続けました。しかし、時間の都合がつかないことを理由にずっと実現せず、結局私たちが諦めてしまいました。その他の様々な市民からの要望や質問に対して、福岡市は誠実に応えずに今日まで来ています。

それでも市民団体は粘り強く運動を続けています。市が事業点検を進めていた1999年には「人工島の見直し・縮小を実現する市民会議」が発足し、同年7月に「市民提案」をまとめ、市に提出しました。また、市の点検結果に疑問を持った市民が2000年初めに「人工島点検を点検する会」を作り、市民による点検結果をまとめた冊子を同年9月に発行しました。
和白干潟を守る会では、1997年から「環境教育プログラム」による和白干潟の自然観察会を指導し、毎年千人単位の小学生に干潟の自然案内をしています。2000年には環境教育プログラムに対して福岡市教育委員会からの名義後援を得ることができました。また、2000年の1年間、環境庁からの委託を受けた世界自然保護基金日本委員会(WWFJ)の委託により、博多湾全域の鳥類全種調査を実施しました。その後も、会では鳥類調査チームを作って定期的に調査を進めています。今年人工島レビュー報告書が出てからは、みんなで分厚い報告書を精読し、疑問を出し合っているところです。それらをまとめ、近いうちにレビューを担当した福岡市港湾局に説明を求めに行きたいと思っています。

現在、和白干潟の保護運動団体が取り組んでいる大きなテーマは二つあります。どちらも、市民と行政が協力して自然保護を進める方向を目指している点では共通しています。
一つは、今年になって発足した「人工島ウエットランドフォーラム」という団体によるもので、工事途中の人工島内にできた擬似湿地を野鳥の生息地として残し、すでに出来つつある人工島をできるだけ環境に良いものにしていこうというものです。人工島に反対しているだけでは全く展望が見いだせないという現状のなかで出てきた運動です。

もう一つは、和白干潟を守る会と日本野鳥の会福岡支部が中心に進めているもので、博多湾を国設鳥獣保護区に設定してもらおうというものです。博多湾は現在、県設鳥獣保護区に設定されていますが、単に銃猟を禁止されているだけで、開発行為に対しては全く規制がありません。そこで、国設にして環境省の管理のもとに置き、より強い規制をかけてもらうとともに、より充実した環境保全対策をとってもらおうとしています。守る会が協力した2000年の鳥類調査は、この国設保護区設定のための基礎データになるものです。来年が鳥獣保護区設定の切り替えの年で、何とか博多湾を国設保護区にしてもらおうと努力しています。

今年の9月30日(日)には福岡市の福岡市民会館で、和白干潟を守る会と日本野鳥の会福岡支部の共催によるシンポジウム「命あふれる博多湾をめざして~国設鳥獣保護区を考える~」を開催する予定です。このシンポジウムには、ナチュラリストのケビン・ショートさんをお招きして、干潟のおもしろさ・大切さを市民に訴えてもらうほか、環境省担当者に国設鳥獣保護区の説明をしていただきます。そしてさらに、WWFJ・日本野鳥の会・日本自然保護基金・日本湿地ネットワークといった全国的自然保護団体の方々を交えてのパネル・ディスカッションを行ないます。行政(国・県・市)と市民が協力して自然保護を進める第一歩になることを期待しています。

●おわりに
私たちの自然保護運動が抱えている課題に関しては本誌18号にも書きました。慢性的な人手不足や専門家の支援の必要など、そこに書いたことは今も変わっていません。
先に新しく発足した様々な団体の名前を挙げました。外からは運動が盛り上がってきているように見えるかもしれませんが、それら新しい団体を担っているのはこれまで長年運動を続けてきた人々で、新しい担い手はほとんど増えていません。
また、福岡にはたくさんの国公私立大学がありますが、そこの研究者が運動団体に協力するということはほとんどありません。先に言及したレビュー検討委員会委員をはじめ、行政からの委嘱等は受けているようですが、委員会など非公開の場合が多く、私たちには情報が伝わってきません。
なかなか苦しい状況は続いていますが、それでもすでに述べたように運動は着実に進んでいると思います。不況や財政悪化による公共事業の見直しなど、社会状況も私たちにとって有利な方向に動いているように思われます。今後の展開にご注目いただければ幸いです。

参考ホームページ: http://www.bekkoame.ne.jp/~miyakodori/

 

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