非電化は愉しい

投稿者: | 2007年1月17日

非電化は愉しい
“新しい豊かさ”を創るために
2005年9月29日(木) 環境パートナーシップオフィス(EPO) 会議室
講師:藤村靖之さん
  私たちがエネルギーの問題を取り上げるにあたって、自分の生活に即してエネルギー問題をとらえ、実際に自ら生活を変えていくような提案ができないかと考える中で、藤村さんのお仕事に出会いました。藤村さんの「非電化」とはまさに対照的な「オール電化」が現在急速に普及していますが、そういう時代の流れを私たちはどう考えたらいいのかということも念頭におきながら、藤村さんのお話を伺いました。
※なお本記事は、当日の録音記録をもとに再構成しておりますので、当日の発言が忠実に再現されているわけではありません。ご了承ください。
修道院に非電化野菜貯蔵室を作るプロジェクト
 まず初めに、福岡のある女子修道院に非電化野菜貯蔵庫を作ったプロジェクトを紹介します。去年の9月から今年の6月までの9ヶ月間ほどで完成させました。修道院には20人シスターがいて、ほとんど自給自足の生活をしています。水も井戸水をくみ上げ、循環利用し、かつ無害にして排水しています。パーマカルチャーを地でいっているような人たちで、優しく勤勉で、明るくて、いい人たちです。ある時、修道院長から手紙が届きました。「夏のあまりの暑さに、人間は我慢できても野菜がしおれてしまいます。今は電気冷蔵庫を使っているが、それにとても訝しさを感じているので、非電化で野菜貯蔵庫ができませんか」との相談でした。私は即座に引き受け、非電化野菜貯蔵庫を作ることにしました。修道院は人里から少し離れた山の中腹に建っています。こんなに素敵なところに建てるなら「素敵の極み」と言える野菜貯蔵庫を作ってみよう、そして折角だから、みんなでワークショップ形式で作ってみようということになりました。
 具体的には、ストローベイルハウスで作りました。ストローベイルハウスとは、藁で作った厚さ30~40cmのブロック(ストローベイル)を壁の芯にして、内と外に厚さ60~70cmの土を塗ってできる家で、日本の土蔵よりも内部の温度を一定に保つ力があります。地元の土と藁を使うので自然ですし、しかも分厚いため曲面を活かせるので、デザインも「素敵」になります。これに修道院の人たちも大喜びしてくれました。
 まず、厚さ30cmのストローベイルを作り、その外側に約10cm、内側に約5cm土を塗って合計45cmの壁ができます。屋根には厚さ4~5cmの板、1.5cmの板、トタンをひき、トタンの上には太陽熱を跳ね返す断熱塗料を塗ります。昼間は太陽がガンガン照っているため屋根も断熱しなければなりませんから、屋根の中にも30cmの藁を引きます。これだけで室内を昼と夜の中間の温度くらいに保つことができますが、福岡ですとその平均でも30℃にはなってしまうので、まだ野菜がまいってしまいます。どうしても20℃以下に保ちたい。そのためには熱をどこかに奪わないといけません。普通はこの仕事を巨大な電気冷蔵庫にやらせているわけです。農業をやっている人は少なからず「変だな」と思いながら電気冷蔵庫を使っています。では、電気を使わずにどうやって熱を外に移動させるか。これには「放射冷却」という原理を利用します。
 あらゆる物質からは、絶対温度(摂氏に273足したものが絶対温度)の4乗に比例して赤外線が出ていきますが、これを輻射あるいは放射と言います。もし空が澄んでいれば、宇宙は絶対温度が0K(=-273.15℃)なので、宇宙からは赤外線が来ないわけです。残念ながら雲があると雲から赤外線が出てきますが、空が澄んでいれば空からはあまり赤外線が来ません。一方、野菜貯蔵庫からは絶対温度の4乗に比例して赤外線が出ていきますから、基本的には貯蔵庫側が冷えていくわけです。こうした状況を作るために、まず屋根に赤外線を通しやすい特殊なガラス窓を作り、熱が出るようにします。もちろん昼間はこの窓から太陽熱が入らないよう、扉で遮断します(この扉も電動ではなく手動にします)。中の熱が夜間に逃げていき、空気は冷えます。が、それだけでは室温を維持できないので、冷気を蓄える保冷剤として500mlペットボトルに水を入れたものを約500本、壁に並べます。これが夜の間に冷えて、昼間も冷たさを維持してくれるのです。このようにして夏は涼しさを保ち、冬は冷えすぎたら太陽熱を入れればいいのであって、何の問題もありません。
 ただ、野菜にとっては湿度も重要で、こちらもコントロールしなければなりません。そこで外が湿ったら閉じ、乾燥すると開くという非電化換気装置を作り、床に設置してあります。この際、空気を外に追い出すことが必要ですが、普通は電気の換気扇を使うところを、昔からあるエジェクター煙突(通路が途中で狭くなっている煙突)を使おうと考えました。パッシブソーラーハウスで使われる手法です。原理は霧吹きと同じで、霧吹きは握ると水が吸い上げられ霧を吹きますが、あれも通路を狭くしてマイナスの圧力を使うメカニズムです。同じ原理で、風が吹くと煙突から空気が床から吸い上げられます、するとおのずと外の空気が庫内に引き込まれますが、外が湿っているときは換気装置が閉じているので空気は入りません。外気が乾燥している時はその乾いた空気が入ってきて、煙突から出ていきます。こういう形で中の湿度も一定にしてみようと頭で考えてみました。私は発明家だから、考えるのは「瞬間芸」で、すぐ考え付くんです。
 貯蔵庫内の広さはちょうど8畳くらいで、標準的な大きさです。普通、農家が電気冷蔵式貯蔵庫を建てると約400万円かかり、建物が約260万円、電気冷蔵庫の部分が約140万円です。400万円もかけて、かつ暑い時は電気冷蔵庫を動かし続けて電力を消費します。ここでは建築は本業の大工さんに頼むので同様に約200万円かかっていますが、電気冷蔵庫が要らないのでそれで終わりです。400万円かかるものが、この貯蔵庫は200万円しかかかっていません。農業をやっている人は、もしかしたらみんな野菜貯蔵に電気を使うことに訝しさを感じているかもしれません。農業家にも案外エコロジー派の人が多いように思いますが、皆「電気を使わなければ野菜は貯蔵できない」と思い込んでいるんです。でも100年前まで電気はなく、50年前もほとんど普及していなかったのに、野菜は貯蔵できていた。多少地球が温暖化したとはいえ、野菜は電気を使わずに貯蔵できるはずなんです。この非電化野菜貯蔵庫を一つ作ってみたら、多くの農業家が気がついてくれたり、勇気を持ってくれるのではないかと、そんなことを考えながら取り組みました。
 実際の作業の話をしましょう。このプロジェクトには延べ360人あまりが関わり、子どもも参加しました。北は仙台から南は鹿児島まで、手弁当で集まってくれました。最近はこういうワークショップをやると本当に人が集まり、愉しく進められます。昔は考えられませんでした。いい時代になったと思います。
 まずはストローベイルを作ります。藁は稲、麦、ススキなどでいいのですが、修道院のそばに生えているススキを刈り取って作ることにしました。ススキが一番堅くしっかりします。ブロック作りには一般に500万円もする電気機械(ベイラー)を使いますが、今回は手づくりの手動非電化ベイラーを作ってみました。縛ってはずすという本当に簡単な仕掛けですが、てこの原理を使って圧力をかけてベイルを作ると、がっちりしたすごいベイルができるんです。結果的には電動ベイラーよりしっかりしたものができました。私は長年、外国で日本でもストローベイル作りに加わったことがありますが、これまでで抜群にしっかりしたベイルができました。やってみたらできるもんですし、電気を使わない方が電気を使うよりうまくいく、ということが世の中にはあるんですね。
骨組みは大工さんが、修道院の人たちが伐って大切に保管していた地元の杉材をたっぷり使い、しっかりした家を作ってくれました。そして、ベイルを下から上へ、柱と柱の間にびっしり積み上げます。積み終えたら外から竹で、建築用語で「こまい」と呼ぶやぐらを建てます。これでベイルが崩れないようにし、上に土を塗る時に土をつかみやすくさせます。この土塗りもみんなでやりました。土は修道院のそばの赤土だけです。一度に塗ると割れてしまうので8回に分け、土塗りだけで3ヶ月をかけました。下塗りだけだと美しくないので中塗りをし、表面をきれいにします。上塗りでは初めに白い漆喰を塗り、その後、色付き漆喰を塗ります。最後の屋根には、土も藁も杉も地元の自然のものを使っているのにケミカルなニスを塗ってはもったいないので、普通は蜜蝋を塗るんですが、今回はアマニュウで仕上げました。これで出来上がりです。 いい雰囲気の色になりました。
 自分で言うのもおかしいですが、今までに見た世界中のストローベイルの中で一番美しい。みんなに見てもらいたい、見に来てくださいと誘いたいのですが、修道院なのでそうはいきません。電気を使わないで野菜貯蔵庫ができることも知ってほしいのですが…。修道院の人とも「(見てもらえないのは)残念すぎる」と話しています。
 でも本当に美しいものができました。南側には、冬寒すぎる時に太陽の光を取り込むための窓があります。床は常に乾燥状態を維持するために高くし、床下に換気の穴があり、床の上には非電化換気装置がついています。入口には、「真実の窓true window」があり、中を覗くと藁が見えるようにしています。もう一つの窓にはマリア像が置かれることになっています。屋根にはエジェクター煙突。風が吹いている高さに合わせ、見た目にもバランスがよくなりました。屋根の上の窓は、ひもを引っ張ると断熱扉が両側に開くようになっています。重さをそろえてバランスをとっているので、手動でも無理なく開閉できます。そこに入っているガラス板は、ここでは赤外線透過ガラスという特殊なガラスを使っています。普通のガラス板は、目に見える光は通過しやすく赤外線は非常に通しにくいからです。断熱のため空気層が必要になるので、2層構造です。星が見えるまで扉を開けて、熱を逃がしてあげます。そうそう、赤外線を出すために壁に並べたペットボトルですが、黒い方が性能が良くなるので、中の水に墨汁を1滴たらします。墨汁は沈殿しませんし、ここは紫外線に当たりにくいので墨汁が分解されず、ちょうどよかったんです。非電化換気装置は、幅20数センチ、長さ52cmと大きなものです。ルーバーが3枚あり、ナイロンのテープとバネで引っ張り合っています。ナイロンテープは湿気ると伸び、乾くと縮むので、乾いた時だけナイロンテープがルーバーを引っ張って開きます。湿気るとナイロンテープが緩み、バネで閉じるという仕組みです。普通はこういうものにはセンサーとマイコンとアクチュエーターを使いますが、そのどれ一つ使わずに、自動で家の中の乾燥状態を維持できるのです。調整は必要ですが50年くらい使えます。
さて、この野菜貯蔵庫は今年の6月18日に完成しましたが、当初は温度が下がりきらず、やっと20℃くらいにまで下がるようになって、微調整の最中です。それでも何とか使えるものになりました。
モンゴル非電化プロジェクト
 テレビでも紹介されたこのプロジェクトは2003年から始まり、あと2年くらいのロングランになりそうです。今年は4つの取り組みを抱えてモンゴルに行きました。
その1 非電化冷蔵庫
  1番目は、もう実用段階に入っている非電化冷蔵庫です。遊牧民の人たちは主に羊、馬、ヤギなどの家畜を育て、ゲルで生活しています。羊を飼い、羊の肉を食べ、羊のミルクを飲んで、あるいはチーズを作って、それで羊の毛や皮で着るものを作る、自然と一体になって生活しています。今では物質文明が押し寄せ、電化製品への憧れが高まり、遊牧生活は不幸だという気持ちになってきていて、遊牧民はもう150万人しかいません。一方で遊牧生活を捨てて、首都のウランバートルに移住する人が多くいますが、雇用がないため周辺でゲルを作り、浮浪者同然の生活に陥っている人が50~60万人もいます。みんな遊牧を捨てなければ良かったと、後悔しています。
実は多くの人が、テレビと冷蔵庫さえあれば遊牧生活を続けていたと言います。しかもテレビといっても、冬の孤立感を和らげるため、小さな白黒テレビでニュースが見られればいいんだそうです。それにはたった20ワット、A3の4倍の大きさの太陽電池があればすむので、実はテレビは大きな問題ではなく、問題は冷蔵庫です。冷蔵庫がないと、2週間食べ続けられるはずの羊の肉が4日で腐ってしまいます。そうなると捨てざるをえませんが、遊牧民の人たちにとって羊は「家族」なので、それを有効に食べずに捨てるのはとてもつらい話なんです。しかも普段よりも2倍以上羊を殺す必要が出てきて、財産が減ることにもなるわけです。このように切実なのですが、冷蔵庫は太陽電池というわけにはいきません。そこで非電化の冷蔵庫はどうかという話が私のところに来たわけです。
 まず一昨年にモンゴル行き、遊牧民の人たちの話を聞いて回りました。確かに需要はありましたが、買えないものを作っても仕方がないので、いくらなら購入できるかと聞くと、大体羊2頭分と言います。一番貧しい人でも羊を100頭、平均では400~500頭羊を飼っています。羊を街で売ると1頭あたり3,500円程、2頭で7,000円程になります。一家の現金収入が年間20,000円程度の人たちですから、羊2頭分で買える非電化冷蔵庫を作ろうと考えました。
 そこで、ウランバートルでモンゴルの起業家50人くらいに集まってもらいました。羊1頭分で作れる非電化冷蔵庫を発明するから、遊牧民の人に2頭分の値段で売り、1頭分の利益を出す。電気も化学製品も重金属も使わない、環境に全くといっていいほど負荷を与えず、遊牧民の人が喜んでしかも利益が出る。ビジネスとしてやってみる人はいないか、と。すると20人くらい手を上げてくれました。金儲けだけでは長続きしないでしょうから、遊牧民の人のためになりたいという心の篤い人、一番まじめそうな、本気でやりそうな人を一人だけ選びました。
 実際の発明ですが、これも「瞬間芸」でできるんですね。羊1頭分で作るため現地で手に入る材料だけで構成します。断熱材はタダで使える土、吹き飛ばないように石を置き、基本構造には何とか手に入る木を使います。冷やすのは修道院の非電化貯蔵庫と同じ原理です。ペットボトルに黒い水を入れ、夜間に水を冷やして昼間も保冷します。水はあらゆる物質の中で最も比熱が大きく、しかもタダですしね。熱は上から下へは降りていきにくいので、下に穴を掘って入れておくと、熱は逃げにくくなります。そして板から空に向かって放射冷却し、板は夜の間空気が逃げて、どんどん冷たくなります。断熱にもペットボトルを使いました。モンゴルにはガラス工場がなく、ガラスは中国の高価な輸入品になるため使えません。そこでペットボトルを空洞にして空気層を作りました。良いことか悪いことか、ペットボトルはウランバートルではたくさん捨てられて、タダで手に入ります。
 去年の夏の実験では、外気温が30℃以上になっても中は4℃以下を維持できました。10℃以下を保って肉を腐らせなければいいので十分です。そこで遊牧民の人たちに集まってもらい、まずこの中で冷やした水を飲んでもらったら、みな驚いていました。電気のためには遊牧生活を捨てねばと思い込み、でもウランバートルに行っても不幸になる、そんな状況を変えられるかもしれません。電気を使わずに肉を腐らせない、ミルクを腐らせないことができれば、遊牧生活を続けることができます。しかも自分たちの手の届く羊2頭分で手に入るとわかり、皆さん喜んでくれました。今年は実際にモンゴルの起業家に動いてもらい、5箇所で5台設置しました。たった5台ですが、モンゴルにこの産業が生まれたのは確かです。
 日本からも今年の夏、22人がみな自費で見に行きました。JICAなどいろんな機関がお金を出すと言ってくれましたが、本当に困っている人が実際に購入するまでは自分たちでやってみようと考え、支援の話は断りました。お金出してもらうといろいろねじれてしまい、いつも本物の感動が生まれない、そんな経験がこれまでにもあったのです。モンゴルには年に1回、競馬やモンゴル相撲で有名なナーダムという夏祭りがありますが、滞在していた村のナーダムに参加させてもらい、非電化冷蔵庫の説明会も開いたら、皆さん興奮して集まってくれまして、サンプルも「せり」の状態になり、ある女性が手に入れました。
その2 暖房用の薪・石炭を4分の1に!
 あと3つの試みは今年から始まったばかりですから、2~4年がかりのプロジェクトになると思います。
 2つ目は、暖房用の薪・石炭の使用量を、できれば4分の1に減らすといチャレンジです。ゲルの外に、暖房のような装置を作ります。一番外に、日光を通して赤外線を出さないプラスチックのポリプロピレンフィルムを2枚を使い、その内側に、太陽の熱を取り込み赤外線を逃がさない特殊な薄いアルミの板をはさみます。するとアルミの板は、太陽が当たれば瞬間に暑くなるような状態になります。アルミの板の裏側からは赤外線が出やすいようにし、内側にペットボトルを並べます。このペットボトルの水を昼間のうちに60~70℃くらいに暖めておき、夜になるとこの裏側の暖かくなった空気がゲルの中に入ります。ゲルに2ヶ所穴を開けて、下から冷たい空気が入り、それが暖められて上に上がり、自然対流が起こるようにします。つまり、自然の循環がペットボトルの裏とゲルの中で起こるようにすると、計算上は夜間もストーブをときどき焚けばすむはずです。夜にはフェルトの入った断熱フタを2重に閉め、外に熱を逃がさないようにします。零下40℃というとんでもない世界ですから。
 夏に冬の実験をするのは無理がありましたが、計算通りにいくかどうかはチェックできます。今年の夏も夜に0℃以下になった日がありましたが、このゲルだけはストーブなしで快適に過ごせました。ほぼ計算どおり。ときどき太陽の向きに合わせて動かしてもらう必要がありますが、遊牧民の奥さんは一日中家事にいそしんでいるので、わけもないと言っています。
その3 非電化での野菜づくり
 3つ目は、非電化で野菜を作る試みです。冬は-40℃、夏でさえ夜は零下になり、雨が年間200数十ミリしか降らないモンゴルでは、野菜の栽培は絶望的に不可能だと思われています。遊牧民は羊だけで生活しますが、他の人は野菜が必要です。でも中国から高い野菜を輸入しているため、貧しい人は野菜を食べられません。皆、自分たちは野菜を食べられず、腎臓病や肝臓病になり長生きできないとあきらめているんです。
 私は必ずしもそうではないと思っています。日本より太陽の熱が強いので、熱をきちんと閉じ込めて夜も零度以下にならないようにさえすれば、野菜はできるはずです。ここでも基本的にはパッシブソーラーハウスと同じ原理を使います。家の内側に、モンゴルでも作れる日干し煉瓦を積み、太陽の熱を徹底的に日干し煉瓦に吸熱させ、蓄え、夜に熱を吐き出す。日干し煉瓦はこの性能に優れています。一家4~5人が暮らせる状況を想定し、居住空間と野菜を作るスペースを分け、一家の必要分以上の野菜ができる設計をしました。土の温度を夜でも零度以下にしないため、地面を花壇のように高くします。そのパッシブソーラーハウスの中に温室を入れてしまい、水も蒸発しないようにします。年間180ミリの降水量でも全部集めれば、野菜づくりに足りる水を確保できます。この環境では熱力学の知恵の限りを尽くさないとできませんが、頭の中での計算上はできることになっています。3~4年かかりそうですが、本当に貧しい人でも野菜がふんだんに食べられる状況ができ、みんなが勇気を得てくれれば、とイメージしながらチャレンジしていくわけです。
その4 自家発電ランタン
 遊牧民の人たちは夜真っ暗の中、細いロウソク1本で生きています。でもそこに、日本製の発電機や日本製のニッケルカドミウム蓄電池を組み合わせれば、自家発電ランタンが簡単にできます。でもすぐ劣化し、劣化すれば捨ててしまう。まだ汚染されていない国にこれを持ち込みたくはありません。そこで私たちは、ほとんど劣化せず、捨てても環境に悪くない蓄電方式を考えています。10年~20年と使えて、捨てても害にはならないものを伝えたいということでやっています。これらが今モンゴルで進めているプロジェクトです。
 こうしたプロジェクトについて、ウランバートルで一度シンポジウムを開きました。前大統領、前首相が来てくれましたが、日本政府の支援を受けていないことに彼らが驚き、理由を聞いてきたので、「政府から金をもらってやろうとすると、一歩進むのに厚さ10cmのレポートが必要になる。私たちは思想家ではなく発明家だから、実際にモノを作って困っている人たちが本当に感動する、喜ぶことを実証してから進めたほうが、回り道しないで済む」と説明しました。政治家を介さないと自分たちを否定されたような気になるんでしょうね。なぜ先に僕のところへ来なかったか、と言うので、「先にあなたのところへ行ったら協力してくれたか?」と返しました、何も言わずに考え込んでしまいましたが…。たった一人でも感動が生まれれば説得力があるので、私はそのほうが早いと思っているんですね。冷蔵庫はまだたった5台ですが、電気を使わずに羊の肉が腐らないようにでき、遊牧民の人たちが本当に喜ぶ。しかも自分たちのお金で買ったわけです。こういうことは決して悪くはないな、と思います。
ナイジェリアでのプロジェクト
 今年11月にはナイジェリアに行きます。ナイジェリアは人口1億3500万人、夏は40℃以上の酷暑、冬でさえ30℃度以上の国です。石油などの資源もありますが貧しいです。毎年、単に水が悪いという理由で20万人の子どもが命を落としています。水で人が死ぬ場合は、化学物質か重金属か微生物が原因ですが、途上国は化学物質や重金属の汚染はないので、原因はほとんど微生物です。牛が飲む泥水と同じ、微生物が繁殖水した水を子どもたちは飲まざるを得ないのです。たかが水で毎年20万人も子どもが命を落としてたまるか、という気持ちになりますよね。私は子どもたちが死なないようにできないかと考えています。
 命を落としているのは例外なく貧しい人ですから、その人たちが買えるモノを作らなければ意味がありません。一家で1日1ドルくらいで生活している人たちのことを考えなくてはいけないんです。ナイジェリアの人たちに話をしたらものすごく喜んでくれて.できるかどうかわからないので先に喜ばれすぎて困るんですが?今まで寄付の話はあっても産業を興すという発想をしてくれた人はいない、それがとてもありがたい、と言ってくれました。田舎の小さな町に行くんですが、失業率が60%だそうですから産業を興さないといけません。私はお土産にいくつかアイデアを準備していて、それをきっかけに現地の起業家と話そうと思っています。環境に悪くない産業が生まれ、困っているいい人たちが少しでも助かれば、おもしろいなと。
 一つのアイデアは「非電化オレンジファクトリー」です。ナイジェリアではオレンジが豊富にとれるのですが、8割は腐らせてしまっていて、オフシーズンはヨーロッパから輸入しているそうです。それはオレンジをジュースにしてパッキングする技術がない、産業がないからです。そこで私は、オレンジジュースを非電化で作ることを提案しようとしています。電気が不安定な地域に電気を使う工場を建てるのは、スマートじゃありません。具体的には、簡単な太陽熱温水器を作り、それのお湯でオレンジジュースを熱して70℃以上にし、殺菌する。その後、熱交換器で熱を回収し、電気を使わずにパッキングします。電気と化学を使えばなんでもできるのでその技術に頼りがちですが、それがナイジェリアでできるわけではありません。そして結局は、アメリカや日本やヨーロッパ、中国の企業が出ていって、地元の産業をつぶしてしまいます。ハイテクを持ち込むことは問題の解決につながらない場合が多いんです。だから全てローテクで、現地に産業を興す。この町でオレンジジュースを作り、輸入しなくて済むようになり、さらに国内で製造が広がればいいですね。このように「非電化」という視点を加えてものを見ると、電化でできなかったことが非電化ではできる、ということが実はあるかもしれません。
 そこでもう一つ考えていることがあります。ナイジェリアでは電気が来ていない家が50%ですが、皆テレビが見たいし、照明くらい使いたい。太陽電池という方法もありますが、もうひとつ別のアイデアを持ち込みたいと思っています。日本では自動車のバッテリーが大量に捨てられ、大変な産業廃棄物になっていますが、その中には特殊な処理をすれば再生可能なバッテリーも含まれています。その再生可能なバッテリーを集め、ナイジェリアに持って行き、ナイジェリアの起業家が再生する。そのバッテリーを充電し、電気が来ていない人たちに貸すというビジネスです。普通の自動車用バッテリーで1週間は使え、これでテレビと照明が得られます。電池がなくなったらまた充電してもらいに行けばいいわけです。このビジネスは必ず再生可能バッテリーを使う、つまり使い捨て文化を持ち込まず、そうではない文化を最初から作るのです。再生可能な循環可能な文化から出発する、それが可能な産業を興してあげればいいのではないか。失業者が多く困っているので、国も州政府も投資は惜しまないと言っていますが、何をやっていいのかわからないのです。だから今度、ナイジェリアにいろんなテーマを持っていって、実際にやってみようと考えています。
質疑応答
Q.モンゴルで今になって冷蔵庫が欲しいというのは、理由があるのでしょうか?
 昔よりも気候が暖くなったのは確かで、その影響が少しあります。干し肉にして夏をしのぐという習慣はありましたが、夏の干し肉は難しくて失敗したり、干し肉でも腐ったりすることがありました。昔は仕方ないと思えていたのですが、都会のように冷蔵庫を使えば腐らないのに、と、冷蔵庫が存在するために冷蔵庫なしではおさまらなくなったという事情があるように思います。テレビも同じです。物質文明に憧れている要素があることはあります。でも実際の遊牧生活はいいことばかりではなく、非常に孤立しています。快楽や贅沢ではなく、夜ほどほどに明るく、テレビでニュースを見たいという欲求は必然であったと、私はそう思います。悪しき物質文明に染まってきたと捉えるのではなく、ならば環境に悪くないものを普及するよう応援しようという気持ちになったのです。
Q.モンゴルで紹介された非電化冷蔵庫と、葉山で作ってある非電化冷蔵庫のタイプの違いの理由は?
 日本は空があまりに曇っているので、放射冷却どころではなく、モンゴルと同じタイプでは全く冷えないんです。モンゴルでは地平線まで星が見えるので、よく冷えますから簡単なメカニズムでいいのです。でも葉山で真夏に10℃以下にしようとしたら、ステンレスやガラスや発泡スチロールを使い、中に水をたっぷり入れて構成し、苦心惨憺しないと実現しないんです。
Q.発明は瞬間芸とおっしゃっていましたが、どうやったらそんなことができるのでしょう。
 発明が「瞬間芸」だと言うのは、発見と違い、すでに存在する技術を組み合わせることだからです。組み合わせ方が新しければ発明。新しくなければ何でもない。例えば非電化冷蔵庫の放射冷却。水の自然対流や、水の比熱の大きさは知られています。すでに存在する技術をただ組み合わせただけでも、非電化冷蔵庫ができれば私の特許です。発明家は実現したいテーマがあると、すでに存在する素材=材料、原理、技術を頭の中で組み合わせます。そのインスピレーションが起こりやすいように、私は発明家だと自認してから30年間、常に素材をインプットし続けているわけです。だからテーマさえ与えられれば、組み合わせがほとんど瞬時に起こります。
 私は子供たちによくこう言います。「みんな発明家になってみないか、発明家はおもしろいぞ。発明家は、左手に『魔法の杖』、右手に『打ち出の小槌』を持っているんだ。魔法の杖は、かぼちゃを馬車にできる、打ち出の小槌は、お金欲しい時に振れば大判、小判が出てくる。発明家というのはこの二つを持っている立場だから、みんなが発明家になれば、〈困っているいい人〉を助けることができる。だから発明家を目指してみないか」と。
 私は2週間に1つは発明していますが、なぜ2週間に1つしかできないかというと、こういうものを生み出せば人が喜ぶだろうというテーマはそうそう出てこないからです。
もっとも、発明は瞬間芸でもその後の試作実験は失敗の連続で、すごく時間がかかります。私の失敗の回数は15回が基準値です。それぞれが自分の基準を持ったほうがいいと思います。自分の基準を持たないと、自分には才能ないとか、このテーマは無理だったと、3、4回でやめちゃうものです。
Q.非電化製品の普及に関して、電気製品を作って売っている主流の人たちからの横槍が入る、ということはないでしょうか。
 横槍が入るほど売れていないですね。発明家や起業家というのはいつもいい意味で反体制です。革命家ではないから体制にあえて逆らいはしませんが、目立ち始めると弾圧されるわけですよね。私自身1000以上発明し、150くらいは商品化し、その中で一番売れたものは250万台売れました。すると、ここまでやるかというくらいの攻勢にさらされます。非電化もそうなれば社会的に力を得たということだから、めでたいこと。でもまだそこまでいっていません。
 おもしろい話があります。非電化掃除機を作るにあたり、電気掃除機を調べました。吹くことに比べ、吸うというのは効率が悪いわけです。世界中でろうそくを吸って消す人は絶対にいませんね。
電気掃除機は1892年に、土足で家に上がるアメリカでカーペットの毛足の底に溜まった土ぼこりを取るために発明されたものですが、110年前に発明されて以来、全く進歩していません。効率を計算すると、ゴミが動かされるためにゴミが受ける力を分子に、消費電力を分母にして割り算すると、効率は2000万分の1でした。
電気掃除機だけで家庭の電気の2.1%、日本全体で原発1.2機分も使っているわけです。一方では電気が足りない、原発反対、地球温暖化だと言いながら、一方では効率2000万分の1の電気掃除機が日本中に普及しているのです。
朝日新聞に初めて「非電化」の記事を大きく出す時に、電気掃除機の効率は2000万分の1と載せようと考えました。営業妨害で訴えられて世間に注目されるいいチャンスになるだろうと期待して記事にしたのですが、残念ながら訴えられませんでした。でも某大手電機メーカーから5人くらいのエンジニアが、なぜ2000万分の1なのか教えて下さいって来ましたけどね。
 私は過激に対立しようとも、電化製品を否定しようとも思っていません。電化が悪くて非電化がいいとも絶対に言わない。ただ、ある人にとっては電気を使わないほうが愉しいのかもしれないのに、それを知らないで電気を使って、結果環境問題が生じているなら、残念な話です。
電化も非電化も愉しい方を選べばいい、だから一貫して、電化よりも愉しい非電化製品を発明したい、というのが私のテーマです。
Q.若い技術者の中に、困っている人たちを助けていく方向での技術開発を志すという気持ちは育ってきているのでしょうか。藤村さんがお付き合いされている中で、若い世代の人にそういう機運は見られますか?
 皆さん自身がそうであるように、そういう雰囲気はどんどん出てきていますよね。特に女性の間では強くなってきましたが、まだ技術者、理工系の人たちの間では今一つで、そこがもうちょっと変わって欲しいと思っています。
去年書いた『愉しい非電化』という本で私は、消費者に向けては「作れるものはたくさんあるから、なるべく作ってみましょう。ノウハウは100%提供します。本に書ききれないことは尋ねていただければ必ずお教えします」というメッセージを、技術者には「電気とケミカルを使えばなんでもできるけど、使わないで何ができるかを考える人が増えてもいいじゃないか」という呼びかけをしたつもりです。
20世紀の終わりに、私たちは経済成長が全てじゃなかったと反省したと思うんです。
 そんな中、ある工業高校の電気科の先生が、生徒と一緒に課外授業で非電化の実験をやってくれました。了見の狭い先生は電気を否定されたと捉えがちですが、その先生は、電気は不必要なものではないが環境を悪くしない電気こそ技術者は目指すべきで、非電化を真剣に学んだら面白い、と取り上げてくれました。
Q.電気冷蔵庫や電子レンジで素材を調理した場合、本来の生き物のもっている力が削がれるようにも感じますが、例えば非電化冷蔵庫であれば何か違った効果や作用がありますか。
 それはないですね。モノを冷やすのは同じ。冷蔵庫はただ温度を変えるだけです。でも、電磁調理器や電子レンジはちょっと違う気がします。どちらも素晴らしいものだけど、自然界にないものを生み出しています。そうすると必ず何か問題がありますよね。
 私は科学者・技術者として生きてきて、基本的に人間の遺伝子は20万年間、何も変わっていないと、つくづく感じています。そして、私たちの祖先が慣れ親しんできた状況は遺伝子が歓迎してくれるが、そうでないものは遺伝子が否定します。
そう考えたきっかけは息子の喘息です。発明家になって一番に試みたのは、喘息の発作が起こらないようにすることでした。その結果喘息の子どもの4人に3人は発作が起こらなくなり、商品はヒットしました。でもそこで恐れたのは、自然界にないものを作り、刺激的なことをして、一瞬は喘息の子どもが発作を起こさないものができても、私たちの祖先が慣れ親しんでないことをやると必ずなにか起こるということです。だから私たちは絶対にそういうことをしないと、自分に制約を設けました。
 すると、途端に発明が難しくなりました。科学とは、何が悪いかがわかってない場合は無力です。例えば浄水器は悪いものを取るために作るわけですが、逆に悪いものを加えていないかどうか検証するために、私は自分の作った浄水器を通した水で弱いメダカを飼い、死ぬまでどんどん水を濃縮しました。普通の水道水では5倍濃縮で全滅、ミネラルウォーター(エビアン)では50倍で全滅でした。私の浄水器は60倍濃縮で全滅しましたが、あらゆる水の中で一番成績が良かったので、そこで折り合いをつけました。ある有名企業の浄水器の水は、3倍濃縮でメダカが全滅してしまいましたが、これを作った技術者に悪意はなかったと思います。だから悪いとわかってやるより、知らないでやってしまうことのほうがよっぽど恐いのです。自然界にないことは本当に慎重にならないといけないですね。
講師紹介
藤村靖之さん
ふじむら・やすゆき、1944年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻博士課程卒業(工学博士)。コマツ熱工学研究室長、カンキョー代表取締役などを経て、現在、発明工房を主宰。科学技術庁長官賞、発明功労者賞などを受賞。
著者に『さあ、発明家の出番です!』(風媒社)、『企業家は未来に「点」を打つ』(H&I)、『これでアレルギーが克服できる』(共著、かんき出版)などがある。
エコライフ&スローライフを実現する愉しい非電化
藤村靖之著(洋泉社)
藤村さんが発明した非電化製品が満載です!

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