巻頭言 プラスチック微粒子による海洋汚染のこと

投稿者: | 2013年11月10日

プラスチック微粒子による海洋汚染のこと
上田昌文(市民研・代表)

今後、深刻な環境汚染として焦点となるだろう問題の一つに、プラスチック微粒子による海洋汚染が挙げられるだろう。漁業関連で海に廃棄されている物品(捕獲に使う網や器具類)、私たちが何気なく路上に使い捨てているプラスチック容器といった類―それらの一部は各地の海岸へたどり着く「漂着ゴミ」として膨大な量になっていることが知られている―そして廃棄物処分場からの漏洩分などが海を漂流している間に摩擦や紫外線などの影響で微粒子化することがわかっているが、それだけでなく、例えば工業的ないしは日常的に用いる研磨剤の中に含まれているプラスチック微粒子が排水を通じて直接海に流れ出ているケースもある(例えば練り歯磨きの中にもこの種の微粒子を使っている製品があるという)。

世界全体でいったいどれくらいの量のプラスチックが微粒子化して海に漂っているのか検討もつかないが、恐ろしいのは、目に見えないほど小さくなるとプランクトンや魚介類の身体を作る様々な細胞に取り込まれるものが出てくること、そしてそうした微粒子は周りの有毒物(例えばPCBやDDT)を吸着して運び屋となることだ(東京農工大の高田秀重教授の調べ)。漂い続けて行き着く先は、一つは海岸であり、そしてもう一つは「太平洋(あるいは大西洋)ごみベルト地帯」と命名される特定海域で、そこではプラスチック微粒子が表面を薄く覆う広大な”絨毯”が形成されているという(NHKBSで放送されたドイツ制作のドキュメンタリー『海の怪物 プラスチック』に詳しい)。

プラスチックそれ自体は毒性はほとんどないといわれるが、例えば添加剤のノニルフェノールなど環境ホルモンの影響は、多種の魚介類の生殖異変を引き起こすおそれがあり、それが最終的に生態系にどうダメージをもたらすのか、予測が難しい。それに加えて、毒性と残留性の高い「過去の遺産」であるPCBなどの有機塩素系の化学物質が、これまた残留性の高いプラスチック微粒子に吸着し、「濃縮」が起こる(先のごみベルト地帯の”絨毯”は毒性の高い”スープ”になっている可能性がある)。それらが食物連鎖によってヒトにどう跳ね返ってくるのか、今のところ誰もわからない。海が、何百年も消えないといわれるプラスチックの巨大な墓場となってしまうことだけは、なんとしても回避しなくてはならないだろう。

参考資料:『プラスチックの海―おびやかされる海の生きものたち』(海洋工学研究所出版部1995)『海ゴミ 拡大する地球環境汚染』(中公新書2007)『プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する』(NHK出版2012)

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